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『ツムギ氏の妖怪育成日記 Ver.2 』
御風音・ツムギ2287)&石神・月弥(2269)

 さて、本日は公園デビューです。
 公園デビューといいますと子供とその親にとっては一大イベント。
 気負わず自然体のままが一番とは言うけれど、やっぱり最初は肝心。
 たくさんの掟に奥様達のグループがあなたの前に立ち塞がる。

 …当然、普通公園デビューをするのは奥様達であって、旦那様ではない。
 だが御風音ツムギ27歳(男)はその中に今まさに飛び込もうとしていた。
 連れているのは外見年齢にして5歳近くまで成長した彼の愛し子、石神月弥。
 頬は円やかに丸く柔らかく、黒髪はしっとりと艶やかに。
 肌は白皙、それに栄える瞳はブルームーンストーンの輝ける青。
 くりくりと大きな目で不安そうに見上げてくる彼は非常に愛らしい子供であった。
 勿論公園デビューに関しての不安はある…しかしそれはどちらかというと受け入れられないのではないかという不安ではなく、あまりに可愛い月弥がクソガキ(失礼)に何かされないかとか、あまりに可愛いらしいから女の子に嫉妬から苛められるのではないかとか…そんな本来余り必要ではない心配である。
 だが超の付く親バカ、ツムギにとってはあまりにも真剣な悩み事である。
「最近面白い事無いかしらねェー…」
「そうそう、聞いてよ、うちの旦那ったら…」
「ねえ、ちょっと…」
 他愛無い噂話に花を咲かせていた奥様達は、ツムギの姿を認めて言葉を切った。
「…、……」
「……、…」
 ひそひそと声を顰めて会話する奥様達、会話の内容はおそらく当然彼らに関すること。
 不躾とも言える奥様達の視線が痛い。
 当然月弥に向けられたものではないのだけど、他の人間と接する機会の少なかった月弥はもじもじとツムギの足に隠れる仕草をする。
 足にしっかりしがみついて、その端から顔をのぞかせる仕草は非常に可愛い。
 辺りを見回してドロだらけになって遊んでいる子供立ちをみてやはり月弥ほど可愛い子供はいないと確信する。
「…お母様…じゃないわよねえ」
「…やっぱりお父様?珍しいわよね、男の人が来るの」
 ひそひそと話す声が聞こえて、ツムギははっと我に帰った。
 …マズイ、このままでは不審の目で見られてしまう。
「こんにちわ」
 人好きする笑顔を浮かべて一礼、それだけで奥様達が安心したのか緊張の弛む気配がする。
 そうなってしまえばあっという間だった。
「お子さんのお名前は?」
「可愛い子ね、男の子?女の子?お年は?」
「旦那様が遊びに連れてきてくださるなんで羨ましいわねえ」
「奥様は今日はどちらに?」
「佐藤さん、駄目よそんなこと聞いちゃ、事情があるかもしれないじゃないの」
「ああ、ごめんなさいあんまり素敵な方なんで私ったらつい…」
「やあね、あなた愛しの旦那様がいるじゃないの」
「それとこれとは話は別よ、旦那がいても素敵な人は素敵なの」
 …きゃあきゃあわぁわぁ姦しい。
 人垣に包み込まれて質問攻めである。
 奥様とは言っても小さな子供を持つ奥様達はしっとりマダムではなく、まだ三十前の都市若い人達が多くて、だからかノリが…何というか激しい。
「この子は月弥です。…男の子で、年は5歳」
 性別と年齢で少々迷って…何故なら実際のところ石の化身であって性別がないし、年齢は百歳近い。
「残念ながら親は俺だけですので…」
「まあ、たいへんですわねえ」
「何はともあれよろしくお願いしますわね」
「私でよかったら出来ることがあったらおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます」
 そう言って微笑んで…はっと月弥の姿がないことに気付いた。
 しまった、どこにと辺りを見回すと月弥は既に子供達につれられて公園の中に。
 慌ててそれを追おうとしたら奥様に阻まれた。
「子供は子供同士で遊んだ方がいいんですのよ」
「そうそう、邪魔はいけませんわ」
「…は、はあ…そ、そうですね」
 奥様達は見守る体制。
 確かに当初の目的はそれで、だから目的達成ではあるのだけど、だが…だが寂しい。
 今までは自分だけのものだった月弥に友達が出来て、離れていく…想像するだけで…お父さんは寂しい!
 そんなことを考えながらも顔に浮かぶのはサービススマイル。
 奥様達に浴びせられる取り止めのない、そして途切れることのない質問に答えつつ、目は月弥を追いつつ、公園デビューの大変さを痛感していた。

 一方の月弥といえば…始めこそ初めて見る自分と同じ年頃の子供達に戸惑っていたのだが、一緒に遊ぼうと誘ってくる子供達に表情を綻ばせた。
 当然、可愛い。
 例え子供といえど、やっぱり色気はあるもので。
「ね、ね、ぼくとあそぼう!」
「ダメだよぼくとだよ、ぼくと!」
「あたしとあそぶの!」
 たちまち子供達の間で取り合いが始まって。
「…みんなで、あそぼ?」
 ごくごく控えめな月弥の声にぱあっと顔を輝かせた。
「あそぼ、あそぼー!」
 きゃあきゃあ騒ぎながら走って行く子供達。
 砂場にブランコ、滑り台にシーソー、ジャングルジム。
 公園の中には数々の遊具があって、それは月弥にとっては全て初めてのもの。
 だから目を輝かせて楽しそうにする様子に箸が転がってもおかしいお年頃の子供達、一緒になってきゃあきゃあ騒いで走っていった。
 だがやっぱり…。
 やっぱり子供達の中で月弥が一番可愛い!
 心の中でぐっと握り拳を握ってツムギは大声では言えない力説をする。
 何故なら言えば他の母親達に角が立つからだ。
 ひっしでそれを我慢するうちに…月弥は今までになく楽しく遊ぶうちにあっというまに時間は過ぎて。
「そろそろ帰りますよー!」
 何時の間にか夕暮れ時、笑顔はそのままされど精神的な疲れを感じつつ帰途へつくために月弥を呼べば。
「はぁーい!」
 彼は一人のクソガキと手を繋いで楽しそうに走ってきて。
「………。」
「つきやくん、またあそぼうね?」
「うんっ!」
 低い位置で楽しそうに…心なしか頬を染めてそんなことを言うガキにこっそりぴきっと顔が引き攣った。
「キミ、名前は…?」
 …うちの月弥に手を出すなど百年早い。
 名前を把握しておこうとなるべく穏やかに尋ねれば、だがなにやら不穏な空気を感じ取ったのか、彼はびくっと身体を竦めて。
「………うわあああんっ!」
 泣きながら走って逃走していった。
「…かずくん?」
「……帰りましょうか?」
 よくわからないといった様子で首を傾げる月弥ににっこり微笑んで、大人気ないツムギ先生、彼と手を繋いで帰途についたのだった。

○月×日
 本日は公園デビュー。
 月弥に手を出そうとする不届きな子供もいたが、それなりに上手くいったように思う。
 今日もやっぱり月弥は可愛かった。

 …本日も、親バカなり。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
結城 翔 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月15日

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