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『仁義なき戦い〜朝食編〜 』
神宮寺・夕日3586)&神宮寺・旭(3383)


 神宮寺・旭のいる朝食風景はのどかで平和そうだった。
 彼の前に座っているのは神宮寺・夕日。妹である。
 
 夕日は毎週の当番制にした自分の案を呪っているところである。朝は、パンとコーヒーさえあればなにもいらない。……というぐらい、夕日の生活はなんでもないことで幸せを得るというのに、兄の旭ときたらわかっていないのか、確信犯的にやっているのか。
 リビングは広い。四人掛けのテーブルを置き、隣には一応カウンターがついている。ランチョンマットは夕日が買ってきていたので、少し愛らしい桃色をしていた。テレビがなにかのドラマの宣伝をやっていた。
 あたためた味噌汁とコンガリ焼けたパンの出てきたテーブルで、夕日ははぁと大きく溜め息をついた。
「溜め息は残り少ない幸せを逃しますよ」
 旭は自分のペンにべっとりとマヨネーズをつけたものを千切っている。
「うっさいわね、残り少ないってなによ」
「多いと思ってるとは幸せな方ですね」
 パンを一口口の中へ入れてから、旭は味噌汁を口に注いだ。
 夕日が呆気に取られていることなど気にしもせず、「サンマでダシをとったのがよかったんですね」などと意味不明なことを口走っている。
 夕日はともかく自分を落ち着かせようと新聞を手に取った。一面記事の交通事故の痛ましい事件にはじまり、汚職問題……それと。
「夕日さん」
 呼ばれて顔を上げる。
 旭はいつもの黒装束の神父姿だった。温厚そうな顔をしている。
「そういうお父さんみたいなことをやるから嫁の貰い手がないんですよ」
 言った旭はマーガリンとマヨネーズがついた食パンを味噌汁に突っ込んだ。味噌汁を吸ったパンをおいしそうに口に運ぶ。夕日はガタンと立ち上がって抗議した。
「なにやってのよ、味噌汁に油浮いちゃったじゃないのよ」
「そうやって論点をずらそうとしても無駄です」
 旭は動じることなく同じことを楽しみ、口にパンを含んだまま牛乳で飲み下した。
 いっそ気持ち悪いを通り越して、バカの一言しか浮かばない。
「嫁の貰いてぐらい、いくらでもあるわよ」
「テレクラですか」
「どうして、結婚相談所じゃいけないのよ!」
 旭はパンを平らげて、手を皿の上で叩いている。それから眼鏡を上げて、心底呆れ果てた顔で言った。
「ともかく。私はね、当分お嫁に行く気はないの。行けないんじゃないわよ」
 あまり得意な話題ではないのか、夕日はそれだけ言ってパンをもしゃもしゃと食べ始めた。相変わらず、色気のない黒スーツにシャツを着ている。そろそろ出勤の時間だった。
「脈がないわけですか」
 旭は夕日が完全停止するのを楽しそうに見ていた。
 外は暑い。蝉がジリジリと鳴っていた。食卓にはエアコンがついていたが、それでも窓から見える夏空はひどく近く雲が立体的である。
「あるわよ、誰にだって脈ぐらい。バッカじゃないの」
 もぐもぐ、と四口でパンを平らげた夕日は、むるい味噌汁に口をつけていっきに飲み干した。
「言っとくけどね、嫁に行ったら絶対相手に会わせないからね」
 夕日は立ち上がる。「ごちそうさま」と言って隣の席に置いてあったハンドバックを肩にかけた。
 ふん、と鼻を鳴らす夕日に気付いているのかいないのか、旭は悠長に笑った。
「マヨラーがいいです」
「却下。金輪際マヨネーズが好きな男を見ると蕁麻疹が起こる病なのよ」
「ああ、大魔神」
「……ってなんで、誰が大魔神になんなきゃなんないのよ!」
 蕁麻疹を大魔神に聞き間違えただけなのだが。
「お似合いです、大魔神」
 旭はニッコリと笑って、夕日に言ってらっしゃいと手を振った。
 夕日は腕時計を見て慌てて玄関に向かう。旭はそれについていって、夕日に告げた。
「今日、あなたの正座の運勢は恋愛最低金運最低健康運最低でしたから、気をつけて」
 夕日が遠くから叫ぶ。
「なにを気をつけろって言うのよ!」
 旭は教会の玄関口で、答えた。
「意中の人に近付かないことですね。嫁捨て場がなくなるのは困りますし」
「あんた、ちょっといっぺん死んできなさい」
 夕日はパンプスを鳴らし、きびすを返して出て行った。
 旭はその後姿を見送りながら、そうそう明日はマヨネーズご飯にオニオンスープを作ろうと決めた。
 その後神宮寺・夕日が財布を忘れて家まで取りに帰る羽目になったのは、やはり占いのせいなのだろうか。それとも兄の呪いか。
 どちらかというと、兄の呪いの方が近い気がする。
 疲れ切って教会まで辿り着くと、旭はウォーターベットに安全ピンで穴を空け、何分で全ての水がなくなるのかという、まったくもって実質性のない実験に没頭しているところだった。
 

  ――end
 
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3586/神宮寺・夕日(じんぐうじ・ゆうひ)/女性/23/警視庁所属・警部補(キャリア)】
【3386/神宮寺・旭(じんぐうじ・あさひ)/男性/27/悪魔祓い師】

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■         ライター通信          ■
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シチュエーションノベルご依頼ありがとうございます。
文ふやかです。
少し短いできになってしまいましたが、旭さんの相変わらずさと夕日の諦めが出ていれば成功かしらと思います。
お気に召せば幸いです。
ご意見、ご感想等お気軽にお寄せ下さい。
また、お会いできることを願っております。

 文ふやか
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2004年08月11日

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