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『高校生日記!? 』
北波・大吾1048)&天波・慎霰(1928)


 テストも無事終わり―――結果が無事か無事でないかはこの場合置いておく―――夏休み直前ともなれば教室全体の雰囲気がどこか浮ついたものであるのは仕方ないだろう。
 しかし、そんな時期にエアコンが故障したその教室は窓を全開にするくらいしか涼の取り様がない状態だった。
 中でも1番運が悪いのは実は窓側の席で採光を考えて西側が窓際になっているのだから、洒落にならないほど陽が差し込んでくる。
 終業式が終われば夏休み中には直るだろうし、もしも故障が長引いたとしても新学期にさえなってしまえば当然席替えがある。そこに一縷の望みを託すしかないことは重々承知していたからだ。
 数日後の終業式までの辛抱だと運の悪い窓側に座席のある生徒はひたすら「忍耐」の二文字で耐え忍んでいた。
 だが、中に一人「忍耐」という言葉が自分の辞書に載っていない生徒がいた。
 ずっと下敷きでばさばさと自分に風を送り続けていた北波大吾(きたらみ・だいご)である。
 とある異界と敵対する山伏の家系の末裔として生まれずっと修験山に篭っていた大吾だが、その言葉が辞書に載っていなかったために現在は「見聞を広める為」と自称して家出中であるにもかかわらず堂々と高校に通っている少し(?)特異な少年である。
 長年修験山に篭らされていたので初めて通う学校というところは大吾にとっては非常に楽しいところだった。
 なぜなら、当然修験山には自分と同じ年頃の者どころか人自体そう多くいるわけではない。一応修験山で最低限度の教育はされたがそれはやはり世間一般とは微妙にずれていることも多いため、英語どころか外来語すら少々怪しかったりもする。
 それでも、この同じ年頃の物ばかり集めた「学校」という場所での日々は大吾にとっては今まで経験したことのない楽しいものであった。
 そう、最初の頃は。
 数ヶ月たった今となっては、最初の頃の新鮮な気持ちはどこへいったのか、大吾に言わせると「偉そうな大人」である教師の下で授業を受けねばならないという事がだんだんと面倒臭くなってきていた。
 その上この暑さだ、忍耐不足の大吾がだれて来たのも無理はないだろう。
「……サボるか」
 脱走山伏(?)らしく大吾が教師が来る前に教室を抜け出そうとしたその時だった。
 微妙にマンネリ化していた大吾の学生生活の風向きを変える人物が現れた。
「おぉい、ほらお前ら席に座れ。待望の転校生を連れてきたぞ」
 30代後半のざっくばらんな担任教師がそういって1人の少年を連れて教室に入って来た。
 教師の台詞と教室のざわめき方を見ればしばらく前からこのクラスに新しく転校生が来るのは周知の事実であったようだが、いかんせん噂にうとい大吾は全く知らなかった。
 数ヶ月前は自分が連れて来られた立場だったなぁと、大吾は脱走を中断して件の少年を見た。
 相変わらず下敷きで風を送りながら見つめる大吾とクラスを目を軽く動かして見回す転校生の視線がかち合った。
 カツカツと音をたてながら担任が黒板に名前を書く。
「天波慎霰(あまは・しんざん)くんだ」
 そういわれてもまだ大吾と慎霰はにらみ合ったままお互い目を逸らさずにいた。


■■■■■


「気にくわねぇ!」
 苛々しながら大吾は箸を丼の上のカツにざくっと刺す。
 まるでカツどんが親の敵のようににらみつけるその視線は口にするまでもなく大吾の機嫌の悪さを物語っている。
 例の転校生慎霰とは初日初対面からあのガチンコ睨み合いを始め何度も何度も目が合う。しかも、睨んでも睨み返されるし、睨まれればそれは大吾の性格上睨み返すに決まっている。
 しかも何の因果か偶然か―――
「ここ空いてるか?」
「あぁ」
 ぞんざいに返事をしてからその声に気付き顔を上げれば、噂の当人が自分の向かいの席に腰掛けたところだった。
「―――何でわざわざおれの前に座りやがるんだ!?」
「別に……ここしか空いてなかっただけだろう」
 飄々と言い返されて辺りを確認すれば確かに空いている席は見当たらない。
 それではこれ以上攻められるはずもなく、引っ込みのつかない拳を握り締めたまま大吾はそのまま腰掛けるしかなかった。
 なんだか陰険な雰囲気に同席していた級友達はなんとか間を持たせようと、
「でもあれだよな、大吾と天波ってなんか似てるよな?」
と切り出した。
「どこがだよ!?」
 無愛想な自分と妙に馴れ馴れしい慎霰―――もちろん大吾に対してはそうではないが―――のどこが似ているというのかわからずに当然大吾はその台詞に噛み付く。
 そんな台詞が出るほどに、慎霰は数日ですっかり周囲に溶け込んでいた。
「どこっていわれたら困るんだけど……。雰囲気とか?」
「そうそう、なんとなく考えとかも似てるよなぁ」
 多勢に無勢というのか、次々と現れる賛同に大吾は結局黙り込んで丼の中身をものすごい速度で胃袋に収める。
―――やっぱり気に食わない!!
 周囲が別の話に夢中になっている人ことを確認して、大吾は小声で、
「おい、放課後ちょっと顔かせよ」
と慎霰にこっそり耳打ちした。


■■■■■


「お前一体なんなんだよ!」
 人気の無い体育館倉庫裏で大吾はいきなり慎霰に食って掛かった。
「何なんだっていわけれもなぁ」
 その空とぼけた反応がまた大吾の神経を逆撫でる。
「……お前、“違う”だろ?」
 その台詞に大吾の方がぴくっと反応した。
「な……なんだよ、違うって」
 そう、大吾はあくまでこの学校内では術者であることを隠して普通の学生として通している。
 それをなんで慎霰が見抜いたのか……大吾が目に見えてうろたえてしまったのも無理は無いだろう。
 その大吾の様子に慎霰が小さく吹き出した。
「お前、なんて顔してんだ」
 小さな笑いはだんだん爆笑に変わっていく。
「ってめぇ」
 拳を振わせる大吾に、慎霰は無理やり笑いこ殺して、声を震わせながら、
「わかるんだよ、俺には」
と言った。
「なんでだよ」
「だって、俺天狗だし」
「……」
 あまりにもあっさりと自分の正体をばらす慎霰に大吾は呆然としてしまった。
「その様子じゃ、全然俺の正体には気付いてなかったみたいだなぁ。やたら突っかかってくるからてっきり気付いてるんだと思ったけど―――ってことはたいしだ術者じゃないってことか」
 見下すような慎霰の台詞に、
「な……。お前の方が大して力の無い天狗だから俺が気付かなかっただけじゃないのかよ」
「なんだって!」
 一触即発。険悪な雰囲気が2人の間に流れたその時だった。
「おい、お前ら」
 突然現れた第3者の声に2人は同時に振り向いた。
 そこには6人ほどの上級生がにやつきながら立っている。
「ここは俺たちの場所なんだよ。使いたいんなら使用料払うか……それとも尻尾巻いて出て行くか?」
 ただでさえ一触即発だった2人の頭の中でカチっとスイッチが入る音がした。
 一瞬互いに目を合わせると、大吾と慎霰はそう言いながら近づいてきた上級生に同時に見事なストレートを見舞った。


 数分後、その場に残っていたのは2人によってすっかり伸されてズタボロ状態の上級生をよそめに、2人はけろっとしたままだ。
「なんだよ、言いがかりつけてくるからよっぽど手ごたえあるのかと思ったのに」
「ホント、口ほどにもねえな」
 半ば呆れたように二人はその死屍類類を見下していた。
 ぐぅぅぅぅぅぅぅ――――
 ものすごい音量でお腹の虫が叫び声をあげる。
 しかもその絶叫は2重演奏になっていた。
「もう学食閉まっちゃってるよなぁ」
 すきっ腹を抱え込んで慎霰は心底悲しげな声でそう蹲る。
「―――この近くに60分で食べきったらただの上賞金が出るラーメン屋があるだぜ」
 にやりと、大吾は慎霰を見てそう言った。
「行っとくか?」
「おう」
 そこで白黒はっきりつけてやるぜ―――などと言いながら2人は上級生をそのままに肩を並べでその場を離れた。


 もちろん、その後そろってそのラーメンを完食したのは言うまでも無い。
 友情ではないが少なくとも2人の暴れん坊たちの間に妙な連帯感が生まれたことだけは確かだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
遠野藍子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月10日

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