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『伝説のぺんぎん☆マジック 』
ぺんぎん・文太2769

1.
それを知る者は数多い。
だが、それを見た者はたった一握りの人々であった。
そして、見た者は語る。

あれは、まさに奇跡だったと・・・。


2.
彼は、いつの間にかそこにいた。
ボロく、今にも壊れそうでありながらその小屋は活気に満ち溢れていた。
彼は自分がなぜそこにいたのか分からない・・・いや、覚えていないという方が正確なのだが。
とにかく、彼はその小屋・下町演芸場裏にマイお風呂セットと共に佇んでいたのだ。

「あぁ! ポッポ! こんなところにいたのか!」

突然上がった声に、彼は振り向いた。
そこには同族かと見紛う様なちんちくりんの燕尾服に、金のメッシュの入った髪をツンツンに立たせた小柄な男が立っていた。
彼は『ポッポ』という名ではなかった。
だから、まさかその言葉が自分にかけられたものだとは思わなかった。
そして、その男がまさか自分を抱きしめるとは思わなかった。

「すまなかった! ポッポ!! 僕が悪かったんだ。だから戻ってきてくれ! あぁ、少し見ない間にこんなに大きくなって!」

訳が分からないまま彼は抱きしめられ、危うくマイお風呂セットを落としそうになった。
ジタバタともがくうちに、男は彼をようやく冷静に見つめた。

「・・キミは、ハトじゃなくてペンギン? じゃあ、僕のポッポは・・・?」

どうやら彼の探しているのはハトの様だ。・・・どこをどう見たらハトとペンギンを間違えるのかは謎だ。
「時間はない・・ポッポはいない・・・しょうがない!」
彼は男に手を掴まれた。・・・いや、羽?
とにかく彼は、小屋の中へと引きずり込まれたのだった・・・。


3.
シルクハット、トランプ、白黒の杖に色とりどりのハンカチが乱雑にテーブルの上においてある。
「もうすぐ本番だ。深呼吸・・スーハー・・」
男はどうやら手品師のようだ。
先ほど探していたハトもきっとマジックの一環で使うのなのだろう。

・・・とすると、彼も?

そう気が付いた彼は身振り手振りで何とか手品師を説得しようと試みた。
彼がいかにペンギンの姿をした『もののけ』とはいえ、手品の種にされるのは迷惑以外の何者でもないのだ。
だが・・・

「あぁ、大丈夫。ちょっとハトの代わりをしてくれるだけでいいんだよ」

身振り手振りが通じるわけもなく、彼は無理やり箱に押し込められた。

そう。
その箱とはハト用の仕掛け箱であり、彼が入るには少々狭い。

彼は逃げ出そうとしたが無理やりに箱の蓋を閉められ、彼の入った箱はゴロゴロと押されていった。
「皆様〜! 本日は・・・」
手品師がそう舞台上から挨拶しようとした時、野次が飛んだ。

「ペンギンが見えてんぞーー!」

彼は、箱の窮屈さに耐えられずに出てきてしまっていた。
引きつった手品師の顔と、舞台を見守る観客・・・。
そして彼はマイお風呂セットと共に、この狭い演芸場の舞台から逃げださねばならなくなったのだった。


4.
彼は「・・・く」と小さく一声あげた。
が、すぐにマイお風呂セットの中からキセルを取り出し、タバコに火をつけた。
ポワン・・と大きな円形の煙が彼の口から2つ立ち上った。
と。

「おぉ! ペンギンがキセルふかすたぁ、よく仕付けられてんじゃねぇか!」

ドヨドヨとしたざわめきと共に拍手があがる。
彼は少し気をよくしたのか、また1つ、煙を吐いた。
またまた上がる拍手とどよめき。
そんな彼を見て、放心していた手品師は笑顔を取り戻した。
「えー・・皆様。この世にも不思議なペンギンは・・・」
ポンポンッと彼が手品師の肩を叩いた。
「え?」
振り向いた手品師に、彼はキセルを指代わりにテーブルに置かれていたハンカチを一枚指し示した。
そしてそう指し示した後、そのキセルを上へと示した。

「これを・・上に??」

こくんと頷く彼に、手品師は観客に向かって喋りだした。
「えー、今からこのハンカチを投げますとぉ〜・・」
ちらりと彼を見た手品師に、彼はこくりとまた頷いた。
手品師は意を決したようにハンカチを上へと投げた。
それにあわせ彼はキセルをふかし、大きな大きな煙の輪を作り上げた。
ぽわわわ〜ん・・・と煙はハンカチへと向かいゆっくりと浮かび上がっていく。

ハンカチは、見事にその煙の輪をくぐり抜けた!!

ゆっくりヒラヒラと落ちたハンカチに、観客はハッと我に返った。
そして力の限りに惜しみない拍手を送ったのだ。
だが、そこに彼の姿は既になかった・・・。

彼は煙の輪を作った後、観客や手品師が落ち行くハンカチに目を奪われている間に演芸場を駆け抜けたのだ。
マイお風呂セットと共に。
そして彼が立ち止まった時、彼はなぜ走っていたかを忘れていた。
彼は歩き出した。

再び、湯煙を求めマイお風呂セットと共に・・・。


5.
今もその下町の演芸場では、その伝説の『ハンカチの煙輪くぐり』を習得するべくキセルを手に持つ者が多いという。
だが伝説を見た者も知る者も、誰一人知る者はいない。

彼の名が『ぺんぎん・文太(ぶんた)』であると・・・。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月09日

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