▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『夏の涼 』
アイン・ダーウン2525)&ヨハネ・ミケーレ(1286)


 日本が四季を尊ぶ国柄ゆえなのか、この夏、森羅万象を差し置いて熱のように暑いのは。
 それは紛う事無き戯言であるのはよく解っているのだけど。身を保つ、体温調節機能であるはずの発汗が、着心地がいたく悪い服として逆に肉を不快にしてる事実は、全神経の夏に対するシュプレコールな切欠だ。貴方とはけして再会しない、永遠の別離をしたためたく、……それが人間の我侭なのもようく解っているのだけど。
 室内に居ればこのようなセリフ、汗と一緒に溢れないのだ、クーラーの効く部屋は桃源郷、なのにどうして、熱中症というリスクを追って、我、陽の下に立つ?
 仕事というか、打ち水というか。いや、打ち水なのだけど。だが少年にそれを命じたお菓子狂が一つ間違っていたのは、水撒きは午後にやっても効果無し。地面が熱されてない朝に行うべきであり、昼になるとホットプレートに水、高温多湿が更に倍になってしまう。
 まさに、芽の出ぬ砂漠に水をやる作業を延々と続けて十五分、ようやく彼はその事に気付いた。すると今までの報われぬ労働は、疲れとして全身に重く。もう駄目だ、避難しよう。喉も枯れた井戸となった彼は、よろくらと屋内へと、
「いやー暑いですねヨハネさん!」
 ――そうは思わせない、貫くような声は、その名で呼ばれる者の耳まで走り切り、
「……本当に、参ってしまいそうです」
 力ない笑いを作らせた、「だけど」
 アインさんは元気そうですね、と。
 そう言えば、太陽の光とも張り合えるくらい輝かしい笑顔を浮かべるのは、アイン・ダーウン。「やっぱり、暑さには慣れてるんですか?」
 手の甲でじんわりと溜まった額の汗をぬぐいながらそう聞く理由は、彼が東南アジアの出身と聞いているから。証明するとおり、アインの肌の色は健康的な小麦だ。
 二人とも異国からの来訪者であるが、気候に対する慣れはアインの方に分があるようで。ともかく、この蒸し焼きに立ち続けるのは賢くないからと、ヨハネ、中に移ろうと、
「日本の涼をとりましょう!」
 ……いきなり何言ってるんですかこのサイボーグは。「日本の、涼?」一体どこで覚えた日本語なのか。
「そうですッ! ほら、ヨハネさんも暑そうじゃないですか? 俺の暇つぶしにぴったりですよ」
 暇つぶしに付き合わせる気なんかあんた。「と、とりあえず中に入ってからその話ってわッ!?」
 有無を言わさず腕を掴まれて、サンタの袋のように、腕一本を軸に担がれるヨハネ。童顔の癖に長身なので、かかとが地に付く。
「それじゃ行きますよ、しっかり掴まってくださいね」
「え!? ちょ、ちょっと待ってくださいッ!」
 ここで突っ込むべきなのは、掴まるにもこの担がれ方じゃ掴めない事でなく、「僕、燃えちゃうじゃないですか!」
 ヨハネの発現は、夏の暑さで頭がバテてる訳でなく、正真正銘アイン・ダーウンはサイボーグであり、マッハ5まで加速できる。
 だがもしこの速さを生身に体験させるとなれば、摩擦で炎上、狼煙と供に天へ召されるのだ。
 だが、流石にそこまで考えてない訳では無いらしい。
「大丈夫です、ただ普通に走るだけですから。肉が溶けるまではいきませんよ。ちょっと髪が燃え上がってアフロになるくらいの速さで」
「歩きます! 普通に歩きますから降ろしてくださいッ!」
 あの悲劇を繰り返してはならない、必死の願いはどうにか通じたのだが、アインの背中から降ろされた時は、ヨハネは別の意味で真っ白に燃え尽きていた。


◇◆◇


 草間興信所には屋上がある。正確にはビルの屋上であるが、実質、興信所の愉快な仲間達のスペースである。そして今日も二人の青年。
「それじゃ、日本の涼いきますね」
「はぁ……」
 既にここまでの移動で、暑さを死神と認定したヨハネは気の無い返事だ。だがそれでも少し気力が生まれてるのは、アインが用意した日本の涼第一弾は、
 うだる暑さの中でもさっぱり頂ける、夏の定番メニューそうめん。それを竹を割ったのとホースで引っ張ってきた水源、あとは受け止める桶の代わりのビニールプールにより組まれた装置によって流す、曰く、《流しそうめん》であった。なお、水源の使用許可はとっているのだが、なんでいちいち外で食う必要があるんだと、お礼である素麺は室内で食べられている。
 そもそも東京の水で作る事ですら味が落ちる素麺なのに、流すとなれば更にであり、根本的な問題として、水道水は氷水では無い。だが、それでも、流しそうめんという異文化は童心に返れば喜んでしまうもので、ヨハネはらしいのからしくないか解らないが、心が弾む。だが、気にかかる事。
「あの、本当にずっと、アインさんに流し役やってもらっていいんですか? 後で交代しなくても」
 聞くと、さっきと同じ返答である。つまり、「OKです、ヨハネさんは気にせず食べてください」
 悪い気、が、する。でも、ヨハネ、
「それじゃ、お願いします」
 にっこり笑って、箸を持ち、つゆの入った器を構えた。さて第一陣、アインはざるに盛られたそうめんの山から一掴み、透き通らんばかりに白い束が、ヨハネへと流れてきて、さぁ、すくおう。
 空振る。「……あれ?」
 箸はまだうまく使えないのだろうか、棒二本で挟まれてないそうめん、しかし、その割には桶であるビニールプールに、逃した獲物は見当たらない。
 はてなと首をかしげる暇もなくまた素麺だ。今度こそ掴もうと箸を伸ばすが、今度は、消えた。
 まさか、である。三度目のそうめんが流れてきたが、ヨハネ、予想を確信に変える作業、視線をアインに向けて。
 案の定、消えた。正確には動いた。
 それも音速の五倍で、である。そして再び現れた時には、箸と器をもって口をもぐもぐと。つまりは自分で流して自分で食うというリリースアンドキャッチなるブラバス釣りの逆っておーい。
「あのアインさん、僕食べられないんですけど」
「ははは、だって流しそうめんって、生き残りをかけたルール無用のサバイバルじゃないですか」
 どこか歪に仕入れた知識によって、アインは罪悪感を覚える事なく、絶対音感という人の範疇である能力を持つヨハネ君に完勝。最後あたりはざるから直接食っていた。(ルール無用


◇◆◇


 お昼は抜かされたのである。空きっ腹に夏である。つまりヨハネは死に体である。
 だが、満腹のアインは鏡よろしく対照的に、元気いっぱい盛り上がっていた。夏男の登場によって、コンクリートジャングル東京は、夏のビーチと早変わりだ。錯覚だが。
 とにかく日本の涼第二段として用意したのは、風鈴だった。風鈴、それは軽やかな音色を運ぶ日本の器具。風という人の手の外で奏でられる旋律は、心を、騒がしい夏から切り離し、とても静かな境地へと誘って、けど、
「アインさん、これは鐘じゃ」
 言うた時にはアイン、お堂のそれを中から叩きまくった。大晦日の記録を一分も満たぬ内に越えた時には、怒り心頭の坊主が出現、さすれば、さっさと消えるマッハ5サイボーグ。取り残された、誤解ですよと言いながら逃げるヨハネは、異教徒の迫害を体験した事になる。錯覚だが。


◇◆◇


 日本の涼をとるという趣向で、繰り広げられてきたこの企画、締めとなるのはこれまた夏の伝統行事、
「肝試しです! という訳でヨハネさん、俺達はこの怪しい洋館に来た訳ですね」
「何時もどおりの草間さん経由の依頼じゃないですか」
 今までの仕打ちにちょっと怒ってるのだけど、気付かないのか振りなのか、変わらぬ調子のアイン・ダーウン。そもそも肝試しと言ったって、怪奇の類はお腹いっぱいの二人なのだが。
 さて皆様、今回の依頼でございますが、洋館に取り付いた物の浄霊。建物事態が古くて危ないので撤去しようとしたら、その女の子の幽霊の所為ではかどらぬなるお決まりパターンである。
 そして、蜘蛛の巣が張った廊下を歩いていると、やにわ女の子の幽霊は現れた。これもまたお決まりパターンで、とても肝を冷やすには至らない訳で。だが、ヨハネが話を聞こうとした瞬間、

 エクソシストは、身体を乗っ取られた。

 とんでもない予想外、聖水を纏ってたというのに、自分が未熟なのか幽霊が強力だったのか、ともかく、身体を乗っ取られる。
 霊は、凶暴である。「うあ、がぁッ!」身体の中で暴れまわられ、苦しみ悶えるヨハネ、意思が一瞬でも弱まれば、その刹那、ヨハネはヨハネでなくなるのだ。それは恐怖――、
 、
 だけど、
 本当の恐怖は。
 突然、ヨハネは頭を掴まれた。
 壁に押し付けられる。後頭部にあたる。
 声が聞こえた。「もし、身体を乗っ取ったら、その瞬間」

 五体を燃やし尽くしますよ、と。
 死んでも苦しむ程の熱を。

 一瞬の静寂、の後。
 ヨハネの身体から幽霊は抜けた、いや、尻尾を巻いて逃げた。その場で尻餅を付くヨハネに、何時もどおりの調子で声をかけるアイン・ダーウン。脅しが効いて良かったですねと、彼は言ったのだけど、ヨハネ・ミケーレ。
 一番怖いのは、目の前の人じゃないかと、
 、初めて日本の涼をとった。
 真夏に背筋がぞくりとした、とある日である。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年08月09日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.