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『夢の続きと千一夜の先に 』
真柴・尚道2158



 何処にも無い遠き日々は峰の向こうに眠る。
 その先にあるのは滅亡と言う名の安穏とした面影だけ。

 部屋のポスターを指でなぞり、数えるのも止めてしまった時を思い出して冷笑を浮かべる。そんな思いを振り切れば、真柴・尚道はいつものバイトに出かけていった。


●Blue Moon
「真柴ァ! 真柴じゃねーの?」
「あ?」
 ごった返す店の中を掻き分けて、一人の男が尚道に声をかけてきた。
 金曜日のBarの中は連日の気温のせいもあって蒸し暑い。ざわつく店の中をこちらに向かってやって来た男は、楽しげな声で尚道に近付いてくる。
 尚道はトレーに注文品を乗せたまま振り返った。
 ビールを飲んで少し赤くなった相手の顔は見覚えがあった。いや、見覚えがあるどころではない。同級生だった。
「えーっと…」
「何だよ、俺だって。お前の後の席だったじゃんかよ、高校で」
 言い淀んだ尚道の態度を、この男は尚道が忘れていると思い込んでいるようだった。一生懸命に話し掛けてくる。
 高校時代に住んでいた家とは離れていたために、昔の友人に会う事は無いと思い込んでいた尚道は、少々面食らったように相手を見つめていた。このまま誤魔化してしまおうか、いや、肌が浅黒い上に滅多にいない長身の自分を人が間違えるはずもないのだ。
 懐かしいのもあって、尚道は否定する事が出来ないでいた。
「あ…ぁ、思い出した」
「だろだろっ? あー良かった…。しっかし、お前って全然変わらないのなー…」
「変わらない?」
「変わんねーよ」
 男は何処か嬉しそうにいった。
「元々、真柴はデカかったけどさ。それでも、ちょっち伸びたんじゃねーの? 雰囲気は大人になったからなァ…変わるけどよ。顔は変わんないな。顔の中身がまるっきり変わってない」
 外観や雰囲気が力に覚醒してから変わってしまったと自覚していたのに、力を一切持たない友人にそう言われて尚道は戸惑った。
 このままバイト中だからと振り切ってしまおうか…。
 チラッと辺りを見る。
 尚道が周囲を気にしていると取ったのか、男は気を遣わせまいと苦笑して頭を掻いた。
「悪ぃな〜…バイト中なのにさ。サボってるように見られたら損だしな」
 尚道はそんな男の言葉を聞いて、ふと笑みを浮かべる。
 おどけた言い方をしても、何処か素直な彼の姿が眩しい。常に自嘲から己に苦い笑いを浮かべている自分よりはずっと…ずっといい。
「いや…そんなことない…」
 慈しみに似た、何処か困ったような笑みで、尚道は返す。
 元同級生は嬉しそうに何度も頷いた。

 明日も猛暑が続くだろう空に、青みを帯びた月が窓辺に浮かんで見えている。その同じ姿をした青い置物と共に、月が自分たちをそっと見守っていた。


●悩み〜May I be here?

 バイト先で高校時代の同級生にたまたま出会ってしまったあの日から二ヶ月後、同窓会の通知が家に届いた。
 調査依頼を完了し、レポートを草間武彦の元に届けた尚道は、ハガキを持って興信所に訪れた。手にはハガキと写真。そんな不似合いな取り合わせに、武彦は苦笑した。
「どう思う?」
「何だよ、やぶからぼうに」
 笑いながら武彦は言った。
 昔の写真と見比べてみて、外観年齢が18で止まっている事に気がつき愕然としていただけに、どうしたらいいかと悩んだ末にやって来たのだ。
 そんな尚道の様子に武彦は黙って見つめていた。
 何処からか聞いた情報によると、HOTな悩みを何処の誰だか…いや、誰だか知ってはいるのだが…その人物に話したとかしないとか。
 色々と悩み多き年頃。
 二十代を過ぎても青春は続くもの。やはり素直な部分を持ち合わせている尚道を好ましく見ていた。
「やめたほうが良いか?」
「馬鹿言うな、行って来いよ…友達だろう?」
「だってさ…それほど話した事は…」
「アホか。…同じクラスだけでも友達って言えるのが、学生時代の同級生だろう? あまり話さなかったからって関係ないさ。それが子供の頃の友達ってもんだ」
 心霊探偵と呼ばれてしまっている草間の事務所は悩み多き人々が集まるところ。それは調査員さえも同じ。
 難色を示したが草間に後押しされて、結局行く事になった。


●別れは柳の下で

 尚道が行った先で待っていたのは、懐かしい顔との再会だった。
 卒業間際の謝恩会に出られなかった理由を小一時間問い詰められ、四苦八苦しているところを元委員長が助けてくれたりした。
 たくさんの手が尚道の頭をぐしゃぐしゃにした。悪戯を仕掛けられ、仕返し、撫でくり回すうざったい手には笑ってぺちぺちと叩いて回る。バックドロップを掛けようとした愚か者には、190センチの長身が繰り出すナイスな踵落しをプレゼントしてやった。
 呼ばれて講堂に入れば垂れ幕が下ろされていて、そこにデカデカとした字で「真柴尚道 Only卒業式 夜露死苦!」と書かれていた。
 前世がどうあれ、自分は『真柴尚道』でしかないのだ。同じ時代に巡り逢って生きていく、同じ場所に居なくても存在しあえる仲間。
 こっそり準備された尚道の卒業式だった。
 馬鹿みたいにたくさん作った桜色の紙吹雪と画用紙に書いた卒業証書。昔、尚道に渡そうと作った寄せ書きと今日のために作った新しい寄せ書きは幹事の手から渡された。
 前世の自分と今の自分に与えられた二つの卒業証書を持って、尚道は朝礼台でふざける同級生を見る。
 このために二ヶ月も開いたらしく、これからの宴会も豪華だと幹事は言っていた。知らない間に人は変わっていくものだと、もう手に入らないんだと思ったのも、遠い日のことのようだ。
 もう少し信じていいのかもしれない。
 尚道は皆の方に向かって歩いていった。


 Let's meet once again.
 Probably, your life also had many sad things.
 May I be here?
 Yes.Yes.I want you to be here.
 Also forget all thoughts that are not cured today.
 Let's separate under a willow after enjoying momentary reunion.
 At least such time should believe a children's story.

 Let's meet once again.
 Even if born again repeatedly, we need to meet.
 At a continuation of a dream and the point of what 1000 night…
 Let's meet once again.
 It is you so…

 もう一度逢いましょう
 あなたの人生に悲しい事は多かったでしょう?
 ここにいていいかって?
 えぇ、もちろんよ ここにいてね
 癒されない思いも全て
 今日は忘れて
 つかの間の再会を楽しんだ後は
 柳の下で別れましょう
 こんな時ぐらい お伽噺を信じて

 もう一度逢いましょう
 何度も生まれ変わっても 私たちは出逢いましょう
 夢の続きと幾千夜の先で
 もう一度逢いましょう
 そう、あなたと…

 ■END■
PCシチュエーションノベル(シングル) -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年07月15日

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