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『夢現 』
海原・みなも1252


 意味不明の話です。


◇◆◇


 ざぶりと、雨が降る。
 嘘吐く暇などありゃしなく、みなもは今、雨を行く夜。世界が滝壺になったようで。そなたは人魚、だけど女子中学生は人間だ。それを益とは中々にし難く、雨粒は銃弾、彼女はそれを避ける兵士のように戦場という道路を駆け抜ける。
 ――部活で遅くなり急いでました
 演劇の、部活。幽霊気味の彼女に対して、指導は厳しく。この雨雲の上で煌々と月が輝いていようとも、戒めは解かれず。こんな時間で、ああ、夕食が遅れる。
 夕食が、遅れると、
 学校から再三思い浮かべてる言葉を、再四、浮かべた時、


◇◆◇

 呼ばれる声に振り向くと

◇◆◇


 百八十度、回転した身。呼ばれたから。どんな言葉だったのか、おいでと言ったか言わないか、どちらにしても呼ばれたやうな気がして。
 そこには、屋敷が、ありました。
 大振りの屋根がやたらと目につく癖に、佇まいは陽炎のように。なのに、妙に心を誘われて、呼ぶ声は貴方なのでしょうか? そう、無機物であるはずの物に、なのになにやら風を纏う物に、足が、向く。通過、する。戸を、開ける。玄関を、登る。
 しとど雨に濡れた足では、床にぴしゃりと足跡をつけて。
 ――月の明かりが窓から落ちていました。
 あれ程この世に鳴っていた雨があがったというのか。さながらに、仄暗い底を這う虫が火で身を焦がすように、雨に塗れた海原みなもは、その光の溜まりへと。
 音も無く、
 、
 服が、蛍となって霧散した。
 こう、こう、と、彼らの命が、屋内をちらほら、飛んでいく。突然から間も無くに、海原みなもはその場に屈む。己の影も丸く固まって。
 途端にその己の影が、くるり、本体を足元から包む。呆然としていれば、影は黒いタイツ状になって、膜のようにぴたりとこの身に。
 それに幾つかの蛍が舞い戻り、蜜を吸うようにみなもの身へ。彼女の黒を夜にしたか、星々のように散らばる蛍。そしてすうぅっと染み込みて、布になる、飾りになる、麻か木綿、和の香り。
 給士。
 えぷろんや、かちゅーしゃです。ひらがななのはにほんのかおりがするから。
 それを呼ぶなら和装メイドか、とても奇妙な私の姿と、海原みなもは暫し、立ち止まるのだが、まるでそれを許さないように。
 ガス灯が、そんなものが廊下にある事が吃驚なのだけど、ガス灯が、海底のように暗い通り道を、ぽつりぽつりと照らしていく。まるで道しるべで、そしてその例えは、多分、真実で。だってほら、彼女は歩く。
 足が前に、床が鳴る。窓からの月明かりは精白で。だけどそれに立ち止まらず、ガスの灯火に誘われるのは、そこに温もりという幻想を見るからか。
 片側に、障子が並木林のように続く、片側に、襖が鯨幕の如く続く、非対称の道筋を、――ガス灯が点きあたしを誘うように通路を照らします。――ガス灯が点きあたしを誘うように通路を照らします。
 ガス灯が点きあたしを誘うように通路を――
 虫の音が、聞こえない。
 しんとしたる、静寂。厳かが、香のよう。
 廊下には手毬が転がらず、蜘蛛が糸を紡がずに、延々と続く通路。心は何処か? 此処にあるか。どうでもいいか。通路は続いて、それからそして、
 ―――、
 ガス灯、途切れ。
 そこには襖がありました。さすればみなもは開きます。無為自然なるその所業、畳が敷かれた部屋があり、小さな小さな部屋があり。
 ……みなもが其処へ足を踏み入れたのは、あったから。
 あったものへと近づくのは、にこりと微笑んでいるからだらうか。和装のメイドは暗がりで、ぼんやりと、手をのばして、
 それに。


◇◆◇

 畳に
 、
 座ったお人形


◇◆◇


 気が付けば、ああ気が付けば。
 屋敷はもう消えていました。その証拠、見上げても、あの大振りな屋根が無く、夏を奏でる満天の星空。
 海原みなもに残されたのは、奇妙な衣装と、奇妙な人形。にこりと笑っているのです、小柄な女の子みたいです、着ている物も可愛らしい。
 ……、雨の時に、傘代わりにしていた学校の鞄は、足元に転がっていて。
 何時までもそうしてる訳にはいかないから、地蔵じゃないから、海原みなもは結局――そのまま――帰宅した。
 遅く。姉妹にこのキテレツな姿を、特に姉に説明する事は難しいのだけど、幸いか、姉妹は例の探偵さん所へ行くと、書置きを残していて。
 部活とその出来事で、ひどく疲れていた海原みなもは、風呂も食事もそして着替えも、彼方へ送り、日が変わるより早く床に眠った。
 夢一つ無く目覚めれば、奇妙な衣装は消えていた。
 否、あの出来事が夢であったのか。再び晒された自分の肌色を、夏のみの薄い布団に沈ませながらそう考えたのだが、
 人形が、枕元でにこりと笑っていた。
 夢か、現か、……それよりも彼女は今日の制服をどうすべきか考えねばならないのだけど。
 それは奇妙な人形だった、にこりと笑っている人形だった。私を呼んだのは貴方ですか? そう、みなもは聞いたのだけど、人形は、人の形だから、人じゃないから、
 答えない。
 海原みなもは思わず抱えた。人形が笑っていたからか、それとも呼んだ気がしたから。だが所詮、それも、
 意味不明の、話。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年07月12日

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