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『鏡と葛藤 』
梅・成功3507

 梅・成功(めい・ちぇんごん)は、片想いをしている。思春期によくあることだ。
 相手は結構親しい同級生。友達と言えば友達だが、その先一歩進めない。よくある状況だ。グループで纏まっていれば其れも隠し通せるが、気が付いたら2人になってしまうと、少し緊張する。青春とはそう言うもので、ドラマがあって良い。
 さらに、彼女に別に好きな人がいるかという噂があればなおさらだ。

「まいったなぁ」
 成功はベッドに仰向けになりぼやく。
「兄貴達に相談……いや笑われる」
 色々考えてみるが、否定的なことばかり、占いをしても殆どが失敗になると示唆されている(これは彼自身の失敗する不安の影響がでている証だ)。単に頼みの綱といえば、自分の特殊な能力[鏡]だ。
 多次元屈折物質で出来ている特殊な鏡。其れは様々な能力をもっている。これを使うことで占いも出来るし、意思伝達、幻術も可能なのだ。ただ、其れに頼りすぎて失敗をやらかしたこともよくある。彼の能力は未知なるもの。其れをまだ精神的に幼い彼が完全に使いこなせるわけではない。
「さてどうしたものか……」
 結局、あれこれ考えても無駄なので今思いついた3つの事柄だけを心に留めておき、夕飯まで眠ることにした。

 人を好きなることは、心が乱れるとも言う。そうした事は人であれば必ずといえないが体験するだろう。憧れ、恋慕、憎悪、信頼、様々な感情。傷ついて、癒されて、そうして大人になっていく。成功はその一過程に立った。
 細いロープに立っている少年。
 彼はおおざっぱではあるが心は繊細だ。それは“鏡を出す”という能力が示している。鏡は脆いものだ。ガラスの鏡は割れるし、鉄を磨いた古代の鏡でも、強い衝撃で歪み、手入れをしないと錆びるのだ。

 夢のなかで、成功は自分の「能力」と対峙していた。そこには自分が映っている。
 ――で、どうするんだ?
 鏡が聞いてきた。
「どうもこうも、3つしかない」
 ――それは?
「お前を使うこと。使わずに玉砕覚悟で告白すること。そのまま何もしないこと、だ」
 ――お前にしては上出来かもな。
 鏡は笑った。
 少しむかついた成功。まさか“自分”に笑われるとは。
 ――なんにせよ……俺はお前の一部であり、お前だ。殆ど助言は出来ないね。それだけ考えたら1つだけ選べば良いだけさ。誰か言ったっけな? “鏡を見てみろ”とか“胸に手を当ててみろ”って。
「大事なときに役に立ちやしないな」
 ――まだ、お前が未熟なだけさ。姉貴達に相談した方が話としては盛り上がっていたかもな。
「……其れはゴメンだ! ……ふん、お前を使わない。話していたら、罪悪感が増えた」
 ――さて、“俺”を使う方法は無し……と。1つ消えたな。残るは2つ。友達のままでいたいかどうかだ。
 鏡の成功は笑っている。しかし、成功を馬鹿にした笑いではない。よかったという良心からだ。
 人の心を盗み見るというのは危ないことだと言うこと。乱用すれば、人を信用できなくなるし、この先まともに生きていけないだろう。未来視や思考看破などは危険極まりない能力だ。
「……」
 なやむ成功。
 確かに気になるが、さて告白した後もいつもの通りでいられるか?
 普通は無理だろう。疎遠になる場合が多い。
「うーん」
 唸る。
 ――うーん
 鏡の成功も唸る。
 夢の中で1日中考えた。
「あーもう! やっぱ玉砕覚悟だ!」
 成功は叫んだ。
 考えたって始まらない。ヤッパリ自分の性に合うやり方を貫いた方が良い。
 その叫びは、家族に届いたのか、
「成功! 寝てるんだったらご飯の手伝いぐらいしなさい!」
 と、怒られてしまった。
「あ、そんな時間か……」
 頭をかきながら、起きあがった。

 実行は明日がいいかな?
 と、成功は漠然とそして具体的にどうするか考えていった。

 で、作戦実行日、二人っきりになったときに、成功は女友達に向かって
「君が好きなんだ! 付き合ってくれないか?」
 告白した。
 いきなりだから相手は驚いている。
 暫く彼女はおどおどしているし、成功は心臓をばくばくしている。
 答えは、
「ごめん、梅くん。私、好きな人がいるから」
 ――玉砕だった。
 

 でも、其れは其れで良かったのだ。成功は自ら道を開こうとしたのだ。心は傷ついたが、その分大人になった。
 その後暫くはそのクラスメイトと会話は出来なかったが、いつの間にかいつもの友達に戻っていた。流石に好きな人って誰かを訊けるわけでもなかったが。其れは野暮と言うものだろう。

 ――鏡はその事により硬くなった。心が強くなる度に。
 其れは成功本人は気が付いていない。


End 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
滝照直樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年07月12日

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