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『Samael・2〜砂漠の花〜 』
セフィラス・ユレーン2017)&アレックス(2031)

 翼は、滅びゆく種族の証。今は月影に晒されたそれは、身の丈を越える大きさながら、淡く儚い幻にも思える美しさ。
 小さく笑みを掃く口元は、悪戯の成功した子供のような無邪気さを秘めて。その感情の片鱗は、彼にしては珍しいものだったかもしれない。自身がそのことに気付いたように、ふと瞳を閉じて感情を消し去ると、セフィラスは身の内に翼を隠した……。
 月夜に映えるのは、彼の白皙の面と青い髪だけ。


 砂漠の中のオアシス。水さえあれば、人々は黄砂の中にも城を築く。
 この街もそうだ。すぐ近くには、戦乱で廃墟と化した場所があったが、石造りの壁に周囲を護られた内側には、人々の絶え間ない暮らしがある。
 水は地下から湧き出で、縦横に張り巡らされた水路が家々を巡る。家も、水路も石造りで、通りも石畳だ。街中は窮屈に見えるが、道は家々の屋上にもあり、人の行き来はスムーズに見えた。
 ――夜の静けさが、朝の活気に変わり始める時刻。
 放心したように窓辺に座り、地平線から昇る朝陽を浴びたアレックスは、眩しさに目を瞬いた。まるで、たった今、目覚めたかのように。
(「本当に、そうかもしれない……」)
 アレックスは、自分は夢を見たのだと思おうとした。掻き乱された心、戸惑い、渇望……、自分の頬を滑る指先の感触すらハッキリと覚えていたけれど。ひと処に落ち着かぬ心を、彼女は持て余した。
 瞳を閉じれば、『彼』の姿が浮かぶ。こんなにも渇望しているのに、彼女はあの翼持つ者を呼び止める術もないのだ。セフィラス・ユレーン……その名を知らぬが故に。
 溜息を落とした手のひらに、アレックスは、フワリとした肌触りがあるのを思い出す。――羽根だ。『あれ』が夢ではない証。『彼』が、この街、この部屋にいたことを信じさせる一片。
 なぜだろう……。アレックスはその羽根を大事そうに懐にしまい込む。
(「探さなくては……」)
 この手が届く場所に『彼』がいるうちに。
 渇望する心のあまり、自身が壊れてしまわないうちに……。
 返せば、ただ『会いたい』のだということに、アレックスは気づいていなかった。取るものもとりあえず、彼女は街中へ走り出す。

 死を挟んでしか、2人は向き合えない。死を与えてくれるのなら、それでも良い。『彼』の命を奪えるのなら、それでも……。

 青い瞳に、青い髪。
 翼を隠していても、『彼』の容姿は目立つ。旅人であれば尚更、人々の印象に残る存在だろう。砂漠に囲まれた閉塞空間の街で、行方を追い求めるのは容易かった。疲労でいつもより重い自分の足の方が、アレックスを苛立たせるほど。
 街の外へ出たという話に、彼女は焦燥感を覚えながら急いだ。


 街の外、石の廃墟の中で、セフィラスは追っ手を待つ。
 長い生の、座興で始めたようなもの。賭けたのが命であっても、彼の中では同じ。ただ、いつしか、追われるのが何とも言えない悦楽に思えてきたのは、自身でも意外だった。
 錆び付いた心が、ギシギシと軋み、やがて歯車が回るように滑らかになっていた。起伏を忘れた感情が、少しずつ変化してゆくような……予感。
 やがて、数刻の後に表れた気配に振り向くと、あの『女』がいた。
「遅かったじゃないか?」
 青い瞳に映る彼女は、疲労をしのばせながら、それでも……砂漠の花のように生気を漲らせていた。自然と、セフィラスは口元に薄く笑みを掃く。
 死を望んだ彼女は、自分の前でこそ『生きている』。その劇的な変化に、彼は酔っていたかもしれない。向き合う時の『女』は、誰よりも美しく見えた。
「殺すわ」
 薙いだ手には、緋色の剣が現れる。
「でなければ、私を……」
 『殺せ』と続くだろう言葉を、セフィラスは炎の壁で塞いだ。踏み込んでいた『女』が、煽りを受けて呻く。
「う……っ」
 回避もままならぬほど、『女』の反応が鈍い。気概だけはあっても、身体が付いてきていないのだ。――翼を出すまでもない。
「話にならないな。それでは賊1人も殺せないだろう」
 憫笑するでもなく、セフィラスは『女』を見つめる。冷ややかな面に、その心は隠して。
 それでも、『女』はセフィラスに迫ろうとする。再びぐっと踏ん張った足元が、1度しかないだろう機会を窺って、僅かに体重移動をかけ、黒髪が風に揺れる。
 その姿に、セフィラスは心を揺さぶられる気がした。
 そう。
 『女』――アレックスにとってはセフィラスが、セフィラス自身にとっては彼女こそが、同じ存在。その髪の先、指先の動きまで、見つめずにはいられない。
 なぜ。
 問うて応えの返るものではない。
 いびつな想いを抱え、絡み合う2人の生。運命かと問い、宿命かと問うた日を忘れない。答えを得られるのがどちらかの死ぬ時なら、答えのない時を彷徨うのでも良い……。
「……まだ、来るか」
「……っ!」
 返答は、セフィラスの攻撃に合わせたカウンター。それしか『女』に残された手は無かったのだ。読むまでもなく、セフィラスは空を切り裂く衝撃で彼女を捉え、瓦礫に叩き付けた。
「ぐ、う……っ」
「……」
「……殺せ」
 歩み寄ったセフィラスに、強い視線を投げかけて『女』は言う。
「言ったはずだ。俺は、お前の告死天使になってやるつもりはない。約束は、覚えているだろう」
「……」
 『お前が、俺を殺すことが出来たなら……一緒に、冥府へ連れて行く』。それが、セフィラスが過去に『女』に与えた言葉だ。
「鬼ごっこは、すぐに捕まえられたら面白くないだろう?」
 どのような形でも終わらせたい『女』と、向き合う刹那に酔い、それが永遠にでも続けば良いと片隅に思うセフィラス。螺旋に絡み合う糸のように、彼らの想いは引き合いながらすれ違う。
 だが、踵を返そうとして、セフィラスは気付く。
 衝撃で『女』の懐から落ちた羽根。それは、彼の翼の……風切り羽根だ。
 今は滅びたと言われる翅輝人、その数少ない生き残りのセフィラスも、6枚の翼に1本ずつしか持たない……希少な羽根。
 視線の行方に『女』が気付き、いま1度セフィラスを見上げた。そして……奪い返すこともなく歩み去るセフィラスに、青い瞳を見開く。
「……どうして」
 背を打つ問いには、セフィラス自身、答えを持っていなかった。


 やがて中天に昇る陽が、陽炎の中に『彼』の姿を飲み込んで。
 アレックスの手のひらには、再び羽根が残されたのだった……。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
北原みなみ クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2004年07月06日

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