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『 アー・ユー・レディ? 』
上月・美笑3001)&月見里・千里(0165)

●教室
 TVの天気図を見れば高気圧のマークがいっぱいで、梅雨どころか台風までやってきていた今年の6月は暑い日々が続いていた。紫外線も半端なく強く、野外作業に追われる農家のおじさんたちの心臓に悪そうだ。
 学生達は西日がガンガン当たる放課後の校舎の中で、融けた冷凍マグロのようにだらだらしていた。
 どうも最近、同人誌活動が忙しすぎる月見里・千里もその一人で、クーラーのお世話になりっぱなしだった。夏物の制服をパタパタさせながら日陰の机に倒れ込んでいる。
「暑ぅ〜〜〜〜い…」
 千里は呟く。
 あぁ、夏が恨めしい。暑いわ、忙しいわ、テストはあるわで大会のデッキを思いつく暇が無い。
「暑ぅ〜〜い」
 今度はうめくように言った。
「アンタねー…こっちだって暑いんだからさ、そう言わないでくれる? ダラけるなら、ここのトーン張ってよ」
 幾つかの机をくっ付けて原稿を描いていたお腐れ友達が、千里の方に向かって言った。
 首だけそっちを向いて千里が答える。
「暑いから…家でやる〜〜〜」
「何言ってるのよ。今日はデッキ改良のために従妹とデュエルでしょうが…」
「あ〜〜…そうそう、帰らなくっちゃなぁ。……でも、デッキねたが無いのよ」
「早く帰んなさいってば! 帰らないんだったら、あのTV番組のマスターとレンジャーが『いたしてる』所を描かすわよ」
「そんなの描いてるの〜? …うぅ…トーン張りは辛いから帰る…う?」
 言い終わるか終わらないかで、千里の携帯が鳴る。
「ほら、電話かかってきちゃったじゃない。帰んなさいよ」
「んー」
 携帯をバックから取り出せば、相手は思った通り親戚の上月・美笑からだった。でも、電話じゃなくてメールだ。内容を確認すると千里は携帯を閉じ、学生鞄に突っ込んだ。
「じゃあ、帰るねー」
 立ち上がって振り返り、原稿を描き続ける友達に言った。
「はーい、はいはい。出るからには勝ってきなさいよね、試合」
「その為の調整だって。…ばいばーい」
「はいはい、じゃぁねぇ〜♪」
 こっちも見ないで返事をした友達を置いて、千里は教室の扉に向かって歩き始めた。


●HeyHey,Girl! 頑張りましょう♪
 待たせちゃいけないと急ぎ、家の近所までたどり着くやいなや、千里はマンションに向かって走り始めた。エントランスを抜けて、EVホールにたどり着く。ボタンを押して、EVが来れば乗り込んで自分の部屋の階を押す。
 ドアが開いたらダッシュで家の方まで走り、角を曲がったところで歩調を弱めた。コツコツと鳴る自分の足音が届いたのか、玄関前で立ち尽くす人影が振り返る。
「ちーちゃん?」
 長い黒髪の大人しそうなというか、一見、気弱そうな女の子が千里に向かって言った。
「悪ーい、美笑ちゃん。お待たせ」
「いいえ…コンビニに寄ってたから、大丈夫です」
 手に持ったビニール袋を上げて美笑が言った。その中には、お菓子や缶ジュースが入っていた。
「なんだあ、お菓子ぐらいあったのに…」
「いえ…悪いですから…」
 ごくごく小さな声で答える人の隣に歩いていって、鞄から鍵を取り出した。鍵穴に突っ込んでくるりと回すとドアを開けて、仕草で美笑に先に入るようにと勧める。ぺこっと頭を下げた美笑は部屋に入り、自分も中に入った。
「どぉ、デッキはどんな感じ?」
「んー…どんな感じかって言うと…まあまあでしょうか?」
「まあまあね…難しいな。私も出来てないんだけどね…レシピ。とりあえずやってみよっか」
「そうですね」
 ドキドキしているのか、頬をやや紅潮させながらデッキを出す美笑はASTCGと動物の世話が好きな女の子だ。陰陽師の家系の1人娘で、自分の従妹。そして、良き対戦相手でもあった。
「うーん…今回はどうしようかなあ」
 そんなことを言いながら、千里は自分のカードを出しに立ち上がる。リビングにあるサイドボードの上に置かれた大きなファイルとクリアボックスの中にASTCGのカードをしまっておいてあった。それを持ってくるとリビングのテーブルの上に置いた。美笑も鞄から黒いボール紙でできた箱を取り出す。最初から幾つかのカードを選んできたみたいだった。
「今日はテンプルムまでのカードにしてみたんです」
「へぇ…また、何でよ?」
「アクスのカードに慣れてみるのも良いんですけど…折角、長く使ったカードがあるし、それの方が上手くできないかと思って」
「そういうんでも良いんじゃないの。使いやすいのが一番だしね…って、そんなことより自分の選ばなきゃ」
「そうですね」
 おっといけないと言った風におどけて笑い、カードを選び始めた千里に美笑が笑って頷いた。
 二人してカードを広げ、ずっと悩んだ後にカードの枚数を調べてスリーブを取り替える。テーブルの上にASTCG用のシートを広げてキャラクターカードを置いた。
「ふうん…今日は『天空の戦姫カタリナ』かぁ…」
 格闘1の魔法2、スタミナが最大45のカタリナと来れば、一騎打ちのカードで飛んでくるか、魔法で来るかのどちらかかと千里は考え始める。多分、いつもの通りにゴーレムでこっちの出足を止めるかなんかして来るんだろうと千里は思った。ついでに言えば、美笑にカタリナは似ている。大人しく清楚で可愛らしい美笑にぴったりなカードだと思った。
 千里のカードは漆黒の聖職者ディアナだ。
「千里さんは…漆黒の聖職者ディアナ?」
「そうそう…さぁて、行くわよう」
「はいっ」
 明るく笑っている美笑に千里も笑って返す。
 千里のデッキはクルーガーx3、クルースニクx4、覚醒x2、鰯雲x4、気まぐれな風x2、吹き飛ばしx3、疾風の指輪x2、強風x1、風の歌x1、ショットオブイルミネートx1、風に舞うパピヨンx4、イーグルx4、チーターx3、ウィバーンx2、意思繋がる時x4、バシリスクの瞳x4、守護の盾x3、ウッドゴーレムx3。属性が風で魔法がメイン。「反感が怖いけど、まあこんなもの」と千里は思っていた。
 白羽陣衝<サークルスプラッシュ>も良いかなと考えたが、準備は終わっているし、このまま始めることにした。
「じゃあはじめよっか?」
「えぇ」
 美笑の声に頷いた千里は他のカードを仕舞い、缶ジュースを横に置く。自分のカードをシャッフルし、相手に渡す。二人で繰り返してからジャンケンをして先攻後攻を決めれば、手札を取ってキャラクターカードを真ん中に置いた。
「じゃぁ、あたしから…ドロー、エクスとラドローで…バジ瞳かなあ…」
 カードを取り、選んだカードを見ながら手を考える。こうして千里たちの戦いは始まった。
 アイテムを破壊して、飛んで、エヴォって、突撃して。それを狙い、作ったデッキも相手が同じ風の魔法を使えるなら難しい。飛んでいれば攻撃は二倍で、その状態で格闘カードを使えば大ダメージを与える事ができる。ゴーレムと召喚獣で削られるスタミナを押さえて攻撃と言う手を使うつもりでいたのに、美笑も多分同じ事を考えていたのだろう。接戦の末、あっという間にダメージ貰ってスタミナが無くなる。こっちもし返すけれど、少ないターンでカードが減っていく。
「えぇい、吹き飛ばしッ! 飛んでけ飛んでけでけでけ!!」
「あぁっ! 私は『返しの太刀』でいきます」
「負けないわよ…クルースニクにエヴォってやるう…」
「銀髪の神父様ですか?」
「デュエル中にボケないでよー」
 そんな調子で続いたデュエルも僅かな差で千里の勝利となった。
 真剣だったけど、誰かとデュエルするって言うのは愉しいと感じていた。勝っても負けても、誰かといる事ができる。
 勝負は真剣だけど、意見を交換して、語り合って、デッキのチェックを一緒にする。
 デュエル中の美笑はカタリナらしく、風と剣を操って舞うように戦った。千里は冷静に攻撃して漆黒の聖職者ディアナのように戦った。ティエラの大地で戦う二人はカッコよかったんじゃないかと思う。
 次なる本番の大会には、勿論、真剣に望むけれど、どんな風にキャラが戦うのかを想像するのは愉しい。
 千里は今度、TCGの同人誌を作ってみようかなと思うのだった。
 結局、TCGで戦うと言う目的が自分の周りに交流をもたらしてくれていた。美笑に会って、お菓子を食べて、夕飯を作ってデュエルして。もしかしたら、親戚にだって全く会わない人生があるかもしれないし、そう考えれば美笑といられると言う楽しみもある。
 もしかしたら、忙しいけれど自分は幸せなのかもしれない。
 千里はそう思うのだった。

 ■END■
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年07月01日

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