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『『時と風の彼方…』 』
ソノ・ハ2175

世界は…何故こんなに熱いのだろうか?

銀色の髪が風に踊る。
朱金の瞳が太陽を、街を、人を一人、見つめる。

私は…全てを見つめるもの…。
ただ、風のように寄り添い、すり抜けるだけ。
なのに何故…こう思うのだろうか…。


場所はソーンの町 エルザード。 場所は…いつか。
「父さんなんか、嫌いだ〜〜!」
店から駆け出していく少年が一人。

「そこの別嬪なお嬢さん、お一つどうだい?」
性別女性ならば誰にでもかける店主の呼び声が聞こえたのか、目の前にいた少女は足を止めた。
「…これは、なんですか?」
「うちの店特製!木の実の甘菓子だ…美味いぜ!頬っぺたが落ちるほど!」
「甘い…、なら…ごめんなさい。」
ふわり下げた頭から銀色の髪が、ふわり靡いて風が店主の頬に触れる。黄金色の瞳の美少女に見つめられ、店主は頭を掻く。
「まあ、しょうがねえか…またのお越しを!!」
手を振って微笑…などはせず、彼女は風のように歩いていく。
周囲の出店を見ながら天使の広場からアルマ通りへと階段を上がっていっ…。
DONN!!
「痛いなあ、ぼーっとしてないでくれよ!」
状況も解らず地に腰を落とす彼女。
いつの間にか目の前に現れた少年が毒づく、というほどではない言葉で不満を口にした。
(ああ、そうか、私は彼とぶつかったのだ。)
彼女はそう思う。気付く。そして立ち上がろうとする。
「えっ?」
その時、彼女は気付く。自分の服の中でもぞもぞと動くものを、暖かい体温を。
さて、少年は彼女より一足早く立ち上がる。服の埃を払い…
「あっ!」
何かに気付き、辺りを見回す。何かを探すように…。
「おい!どこに行った!!出て来い!!」
「クゥ〜〜ン」
彼女が返事をした、ように見えた。周囲の人には…。
だが、あまりにも少女にはそぐわない返事。
「あっ!おまえ!!」
少年は少女の腕を掴み立ち上がらせる。胸元に手を伸ばそうとする…
「こら!何をしているんだ!お前は!!」
人ごみの中を走ってくるのは髭を蓄えた男性。まるで泳ぐように二人に近づいてくる。
「ヤバっ!逃げろ!」
二人は逃げ出す。少年は少女の手を引いて、少女は、自分の胸元にそっと手を当てて…。

しばし走った二人、川辺の小さな広場で息をつく。
呼吸を整え、そして少年は少女に向かって顔を向ける。
「返せよ!それは俺のだ!」
「クゥ〜ン」
彼女はまたさっきと同じ返事をした。いや、違う。彼女の胸元にいる何かが動いている。
ぷはっ!
「まったく!心配したんだぞ。」
「ワン!」
少年は少女の胸元から顔を出したそれの首元を掴んだ。
それ、とは子犬。まだ本当に小さな子犬は少女の胸に、服に、爪を立てることなく少年の手の中に素直に納まった。
「もう、勝手に他の奴のところに行くなよ…。何だよ。何で俺達の方を見ているんだよ!」
「それは…犬ですか?」
「当たり前だろ!犬以外の何に見えるんだよ。これは、犬だ。俺の…。」
俯いた少年は何故か言いよどみ下を向く。そして、また顔を上げた時、改めて目の前の少女の顔を見る。
純白を通り越した銀の髪。透明なほど…白い肌。まるで空気の精か、風の精。
全てが存在感の無い中、たった一つ眩しいまでに輝く瞳が、彼を真っ直ぐに…見つめていた。
「あなたは、何故逃げるのですか?」
「親が、こいつを家において置けないって言ったから…。こいつは行くところが無いのに…俺の友達なのに…。」
「あなたは、どうしたいのですか?ずっと逃げ続けるのですか?」
「そんなことしない!…でも、解ってもらえるまで…。」
「逃げて…それで解決するのですか?」
「うるさい!何が…何が解るんだ。お前なんかに…、お前なんかに…お前なんかに…。」
いつの間にか、少年は泣き出していた。
彼女の一言一言が、少年の心を抉る。
どうすればいいか、誰よりも自分が良く解っている。
でも、それが出来ない自分の弱さが、彼女の瞳と言う鏡に映され見せ付けられているようで…。
少年は泣いた。腕に子犬を抱いたまま。
少女は彼を抱きしめはしなかった。彼を慰めもしなかった。
ただ…見つめていた。彼の事を、彼の思いを。全てを知るような深い瞳で…。

ふと、少年は顔を上げる。目の前の少女を見る。その瞳を見る。瞳に映るものを見る。自分の背後に立つ…。
少年は振り返った。
「父さん…。」
少年を追ってきたであろう父は、少年に近づき、手の中の子犬と少年を交互に見つめ、少年にだけ…
ゴツン!!
拳骨を見舞った。
「イテッ!何すんだよ!!」
「このバカもん!話は最後まで聞け。誰が子犬を捨てろとか、一緒に出ていけと言った?」
「えっ…?飼っても…いいの?」
父は頷く。少年の顔が破顔の笑みを浮かべる。
「一緒にいられるんだって!良かったな。」
少年の喜びが解ったのか、子犬は腕の中で尻尾を振り、顔を舐める。
「こら…止めろってば?ん?父さん…どうしたの?」
顔を上げ、犬を押さえた少年は、父が首を動かしているのを見る。まるで何かを探しているように…。
「さっきまで、ここに女の子がいなかったか?銀色の…お前と同じくらいの少女…。」
「いたよ、さっきまで…あれ?何時の間に?」
「あの子…昔…俺も…。いや、どうでもいい。」
父は首を振り、少年の方を見る。そして少年に背を向ける。
「帰るぞ。約束できるな?店じゃなく家で飼う。そしてお前が面倒をみること…。それから…」
「解っているよ、ちゃんと…。」
少年は父に追いつき、並んで歩く。二人の姿が黄昏に霞む。声も遠ざかり、消えていく。
二人の背中の向こうに…少女は立っていた。
夕暮れの風に銀の髪が靡く。瞳の色と同じ太陽が、彼女の白い肌を朱に染める。
「人は…命あるものは…何故、あんなに熱いの?身体も…心も…。」
胸元にはまだ残る。自分に擦り寄ってきた子犬のぬくもりが。
腕にはまだほのかに残る。少年に掴まれた手首に熱い思いが…。
かつて出会った少年のように、今まで出会ってきた人々のように。
太陽が地平に沈む。二人の姿はもう見えない。
だが、少女の肌はまだかすかに色を残していた。

ある時、ある場所。
そこは二人が永遠の愛を誓う結婚式。
周囲には家族、足元には愛犬。その横には愛しき妻。
祝福する友や人が集まる幸せな新郎。
ふと、彼は目を瞬かせる。
「あれ?」
目を擦った次の瞬間には、彼が見たものはもうそこには見えなかった。
「どうしたの?」
妻となったばかりの女性が彼に聞く。
「昔出合った女の子が、いた気がしたんだ?」
「女の子?」
頬を膨らませる妻に彼は、キスをする。
「いや、気のせいだよ。」
そう、夢を見たのだ。彼女は自分の記憶そのままの姿でそこに立っていたのだから。
「僕には君が一番大事だから。」

賑やかな祝福の時、それを見つめる少女がいる。太陽と同じ色の金の瞳で。
銀の髪が風に靡く時、彼女の姿はもう、どこにも…見えない。

彼は天使の広場からアルマ通りへと階段を歩く。
後ろにはトテトテと歩く息子。横にはもう年老いた、でも大事な愛犬。
歩きつかれた息子は駄々をこねる。せがまれるままに彼は木の実の甘菓子を買ってやった。
前方からやってくる冒険者達。旅支度。どこかに出かけるのだろうか。
「ほら、よそ見していると危ないぞ。」
菓子を食べながら歩いていた息子。冒険者の一人の生んだ風とすれ違い、ころり転げ、しりもちをつく。
「うわ〜〜〜っ…」
「言わんこっちゃない…。こら泣く…」
「泣かないで…。」
息子に駆け寄ろうとするより早く少女が息子の前にしゃがみこむ。
靡く銀の髪。静かな声は遠い記憶を思い出させる。
彼には見えない彼女の顔を見た息子は差し出された手に引かれ、立ち上がる。
「ありがと、あげる。」
手に握っていた甘菓子を息子は少女に差し出した。
「私は…甘いものは…。いえ、ありがとう。」
いつの間にか横にいた愛犬は彼女の足元に。立ち上がった少女にまるで甘えるかのように身体を摺り寄せて。
「ソノ・ハさん、行きましょう!」
先を歩いていた冒険者達が少女を呼ぶ。
菓子を受取った少女は、はい、と返事をして彼らに向かって歩き出す。

ふわり風が舞う。
揺れる髪を任せたまま、少女は振り返る。
遠い日の思い出と同じ空気を纏って。同じ瞳、同じ姿で。
彼は、声をかけることも忘れ、ただ立ち尽くし、それを見送っていた。

世の中の大きなもめごと小さなもめごと、
大きな幸せ小さな幸せ。
そんな出来事をみつめる彼女。
だが、空気も温もりを抱き、風も熱き思いを運ぶ。

遠い昔と同じで違う少女は、その金の瞳で何かを見つめている。
永遠に変わらぬ姿で。
でも…変わる何かを感じながら。

彼女は…見つめている。



PCシチュエーションノベル(シングル) -
夢村まどか クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2004年06月29日

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