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『モデルの仕事と流行作り 』
海原・みなも1252


「元気、みなもちゃん!」
 実に楽しそうな表情で手を振ったのはあの先輩、水泳部のOGで水面にとっても先輩である女性だ。
 彼女は居たく水面の事が気に入ったらしく、何かあると声をかけに来るようになっている訳で……。
「こんにちは、先輩」
「さあ、今日も張り切っていきましょうか。バイト大はたっぷり弾むから」
「先輩、説明がかなり削られてるんですけど」
「気にしない気にしない、それとも断っちゃうのかな?」
 選択権は無いも同然だったが。
 なにげに用事のないタイミングを狙っているような気がする辺りかなり謎である。
「せめて話だけでも聞かせてくださいね」
 苦笑したみなもに、先輩はうんうんと実に満足げに笑うのだった。


 今回案内されたのはデザイン事務所の一室。
「同じ学年だった友達でね、演劇部なんだけど今はデザイン事務所に勤めてるの」
 ドアを開き、中で仕事をしている社員の方に挨拶をしてからみなもについてくるように促す。
「どんな人かは、とにかく会えば解ると思うんだけどね。あ、机気を付けて、私が前来た時そばを通っただけで書類が崩れちゃったから、バランス悪いみたい」
「は、はい」
 確かにまるでアートのようにバランスでファイルが積み重なり、その隙間からパズルのように紙の書類がはみ出している見た目はサンドイッチを連想させた。
 そこはかとなく重力を無視しているか辺り、確かに何の表紙で崩れるかが解らない。
 その隣を慎重に通りながら、先輩の後をついて歩く。
「はいるよー」
 ノックをすると、後ろから書類の崩れる音がした。
 やはり、駄目だったらしい。
「……はやくっ、もうあれを手伝うのはいやよ」
「いいんですか?」
「いいのよ!」
 何か嫌な思い出でもあるらしい先輩は、急かすようにみなもの腕を取って部屋の中へと押し込め扉を閉めた。
 中は作業をするるの部屋のようで、広いスペースが取ってあり床やテーブルの上に色々な布やカラー見本が置いてある。
 それから先輩が言っていた友人は何処にいるのだろうと見渡すと……。
「こんにちは〜〜〜」
「――――っきゃーーー!?」
 軽い口調と同時にツウッと背中を走る感触に全身を総毛立たせて悲鳴を上げる。
「な、なんなんですかーー!」
 床にへたり込んだみなもの上で、いたって平然と交わされる会話。
「おはよー」
「おはよう、この子があのみなもちゃんかー」
「そうそう、あのみなもちゃんよ」
 水泳部の先輩と演劇部の先輩の間に一体どんな話をされたのか不明だったが、説明を聞くと悲しくなるだけのような気もしてきた。
 これから何が待っているのかを考えるとそれだけでテンションが下がりそうだが、さっきの出来事でまだ挨拶すらしていなかったのを思い出す。
 彼女もまた先輩である事には違いないのだ。
「あのっ、初めまして。海原みなもです。よろしくお願いします。先輩」
 頭を下げたみなもに。
「ねっ、いい子でしょう?」
「本当、私好みだわー」
 楽しそうにニッと笑い演劇部の先輩がギュウとみなもを抱き寄せる。
「あ、あの……」
「かわいー、よしよし、いい子いい子」
 どう反応したらいいのか。
 困っているみなもに、水泳部の先輩が溜め息を付きつつ。
「またあんたの悪い癖が始まった、とりあえず今は仕事でしょう。後にして」
「そうね〜、じゃあ打ち合わせ始めましょうかー」
 渋々みなもを離してから、ホワイトボードに図面付きで今回の仕事を説明する。
 今回は二人の先輩が揃って新しい流行を作りたいそうだ。
「北海道のほうで流行ってる着ぐるみ族をモチーフにしててね」
 マグネットで貼り付けられたイラストに描かれているのは今回みなもが着る服らしい。
 見た目は可愛らしい物だった。
 少し変わったように見える事は除いて……みなもの目が正しければ全身タイツに見えるのだが。
 一瞬浮かんだ疑問。
「あの、これ……」
「とりあえず着て見ましょうか」
「そうね、さっそく!」
 極上の笑顔。
 質問は、無しらしい。


 さっそく用意されたのはストレッチファー素材の全身タイツ、アニマルプリント柄で首の下から指先や足までをピッタリと包み込む様になっている。
「下着みたいなものと言えばわかりやすいかな」
「……と言う事は」
「サクサク脱いでね」
「……はい」
 なんだかんだ言って結局脱がされるのはいつもの事なのだ。
 ショーツやブラも形が出るから資料として置く場合身につけない方が良いだろう、と言う事で全部脱いでから肌の上に直接タイツを身につける。
「後ろは自分であげられる?」
 背中についたジッパーは体が固い人には難しいかも知れないが、ギリギリまで下から押し上げ、上から引っ張る場合は僅かに服を持ち上げれば意外に簡単だった。
「はい、着るのは大丈夫だと思います」
「よしよし、上出来」
「ちょっと動いてみて」
 メモを取る先輩の横で、言われた通りに歩いたりくるりと一回転してみる。
 試作品だが、細部までしっかりと作り込まれて居た。
 指先には柔らかい付け爪。
 歩くたびにユラユラと揺れるシッポ。
 着心地は柔らかくてなかなかいい。
 全身タイツなのだから、動きが邪魔されるような事もなかった。
 肌の上に直接身につけているという事実は少し赤面しそうな事実だったが、これだけしっかりと覆われていれば大丈夫……だろう。
「今着てるのがタイガー柄よ、ジラフ柄とジャガー柄もあるからこれも後で着てみてね」
「そうそう、これも」
 みなもの頭に耳の着いたカチューシャを装着させ、馴染むように髪をとかす。
「その上から服を着れば完成よ」
 シンプルなノースリープのワンピース。
 タイツの見える部分が多いほうがいいだろうと思ったのだが、上から着た服が薄着である理由にすぐに気がついた。
「どう、着心地は?」
「あ……」
「あ?」
「熱いです、先輩〜」
 今は夏だ。
 その上毛皮素材で通気性の悪い全身タイツなのだから当然の事である、ほんの僅かな時間なのに全身がじわりと汗ばんできていた。
「それはまあ改良の余地ありね」
「じゃあ他の服も何着か試して、それからジラフとジャーがに移りましょうかー」
「ええっ!」
「今回は写真のイメージ合わせでもあるから、もうちょっと我慢しててねー」
 パシャパシャと写真を取りながら次々にみなもの服を着替えさせていく。
 薄いワンピースに続いて出された服は、何故かパーカーの上だけだったり、セーラー服だったりする。
「いいねー、その表情いいよ」
「スカートちょっと持ち上げてみようかー?」
「何か間違ってますっ」
「うふふふふ、恥ずかしがらないでー」
「どうよ、アニマル系だしいっそ上だけってのは」
「あー、シッポがよく見えていいかも」
 どんどん脱線していくのは気のせいだろうか。
「迷うね、私としてはロングのメイド服でシッポがちょっと見えるってのもツボなんだけど」
「両方やったらいいんじゃない?」
「それもそうね〜」
 間違いようもなく脱線している。
 この辺りで……ハタと気づく。
 この服、トイレの時とかどうするのだろう。
 大変な気がするのだが……。
「せんぱーい!」
「何、みなもちゃゃん」
「あの…トイレ行きたいすんですけど」
「あー、それもそうねー」
「そんじゃ五分休憩、その後再開って事で」
 服の試着はこの後も延々2時間ほど続く訳だが……。
 果たしてこの服が流行を作れるかどうかは、今はまだ誰にも解らない事だ。


  
PCシチュエーションノベル(シングル) -
九十九 一 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月22日

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