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『偽りへの慟哭 』
幻・―3362

「今、このカメラの前で真実を語って下さい!」
 目深に被ったフードと、首にマフラーを巻いた少年が、『ベレッタM92FS』の銃口を押し付け涙を流し叫んでいた。銃口を押し付けられた人物は、白衣を着た初老の男性、その顔には恐怖が滲み出ていた。
「きっ君!馬鹿な事は止したまえ!」
 直ぐ脇に居た中年の男性が、幻に向かって言うが幻はキッと睨み付け、更に銃口を押し当てる。
「貴方達が一体何をしたのか分かっているのですか!?こんな詭弁の会見をして何になるんですか!?人々が知りたいのは、真実だけだと言うのに!!」
 そう、今幻が居るのは大病院の記者会見の席の真っ只中。医療ミスにより少年を死亡させた事実を、組織絡みで隠蔽していた事に対する記者会見を執り行っていた最中であった。周囲には大勢の記者の姿が当然ある中、幻は不意に現れると、院長である初老の男に銃口を押し付けたのだ。場は混乱したが、これぞスクープと思い直した者達は固唾を呑んで成り行きを見詰めていた。
「さあ!!話して下さい!全てを!!」
 幻の声が響き渡った……


 優雅には程遠いが、それでも平和な午後だった。
 此処は草間興信所。室内に居るのは、当然と言えば当然の草間 武彦その人……現在、カップ麺を啜っている。
 丁度昼時のワイドショーで、発覚した大病院の医療ミス隠蔽の会見をやるとかで、テレビは付けっ放しにして、スポーツ新聞を読みながらの昼食である。
『今、このカメラの前で真実を語って下さい!』
「ブッ!?」
 いきなり聞こえて来た声に、草間は啜っていた麺を思わず噴き出し、視線をテレビへと向ける。そこに映っていたのは、紛れも無い幻の姿……
「あいつ、何やってるんだ!?」
 涙を流し叫ぶ幻を見ながら、草間はカップ麺を机に置くと急ぎ飛び出して行った……


「だから、何度も言っているじゃないか、悪かったと……」
 恐怖に顔を歪めながらそんな科白を吐く院長に幻は激昂する。
「ふざけるな!!誰がそんな事を聞きたいと言ったんだ!!僕は真実を聞きたいと言っているんだ!!耳がおかしいのかお前は!!」
 激しい怒りの為か、普段の口調は為りを潜め最早喧嘩腰で更に続ける。
「お前は人として裏切った!!あの子の何もかもをお前が奪ったんだ!!何故‥‥何故こんな事をした!!答えろ!!!」
 更に強く、幻は銃口を押し付ける。ヒッと恐怖に息を呑む院長は、震える声で語る。
「しっ仕方ないだろう!?我々だって、死なせたくてやった訳じゃない!これは事故だったんだ!」
「だったら何でそれを隠すんだ!!認めれば良いだけじゃないか、自分達のミスで失わせてしまったって!!自分達の体面を取り繕う為に隠すのか!?」
「お前に何が分かるというのだ!!お前の様な子供に、我々の考え等判るものか!!」
 幻の言葉に恐怖を通り越し憤りを感じたのか、院長が吼える。だが、幻は涙を湛え言い放つ。
「じゃあ、言ってみろ!言えるものなら!さあ、言えよ!早く!!」
 歯軋りをし悔しげに幻を見詰める院長が、口を開くより早く――
 バン!!
「幻!もうそこまでにしろ!」
 扉を開けて現れたのは、草間 武彦であった。
「草間さん……でも、まだ理由を聞いてないんです!」
 ちらりと困惑した風に草間を見た幻だが、再び銃口を院長の頭に押しやり瞳に怒りを灯す。
「聞いてどうする!?無くなった命が帰ってくるのか?それとも、遺族がそれを聞きたいと望んだのか?余計悲しみを煽るだけだぞ!」
「そんなんじゃない!ただ、こいつらが許せないだけです!」
 怒りを湛えた瞳を草間に向ける。だが、草間は寂しそうな表情を浮かべていた。
「なぁ、幻……そいつ等がした事は、確かに酷い……だが、それは俺達が裁く問題じゃないだろ?お前の気持ちも良く分かる……だけどな、お前がしてる事はただの自己満足に過ぎないんだぞ?それでお前は満足か?真実を聞いて、真実を曝け出して、その後に何が残る?お前が聞く様な事じゃない……」
 淡々と諭す様な草間の言葉に、幻は耳を傾ける。
「止めろ、幻……真実を聞きたいのはお前だけじゃない。それに、何時か真実は語られる……そいつ等の口からな」
 室内を静寂が支配する中、幻は銃口を院長の頭から離す。
「分かりました……」
 短くそれだけ告げると、幻は銃を下ろそうとする。
「君!良くやってくれた!さあ!こいつを捕まえろ!」
 その行為を見やってか、院長が周りの職員に声を掛けた時、幻が引き金を引いた!
 ガゥン!!!
 室内に銃声が木霊すると同時、草間を除くその場に居た全員が悲鳴をあげ頭を下げていた。銃弾は院長の鼻先を掠め、机へと弾痕を残していた。
「お前は殺す価値も無い!お前が犯した過ちを一生背負ってもがいて生きろ!!」
 恐怖にへたり込んだ院長にそれだけ言うと、幻は周囲に溶け込む様に消えて行く。完全に姿が消えた後、辺りは静寂と畏怖に塗れていた。そんな中、草間は呟く……
「真実か……」
 消えた幻を思いながら、草間は煙草に火を点けた……




PCシチュエーションノベル(シングル) -
凪蒼真 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月14日

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