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『病んだ花弁。 』
新久・義博2516

 
 華麗なる悪夢の拷問官――。
 新久 義博の肩書きは、このように、記されている。
 依頼人が指定する人物に悪夢を観せ、精神的にも肉体的にも追い詰め疲弊させ、最後には廃人にさせてしまう…。つまりは、『殺し屋』であるのだが。根本から、サディストであるためか、自分の趣味嗜好を満たす依頼でなければ、受けることは無い。
 その義博が、今日はただの『遊び』で、彼の手にかかり、やがては滅んでいくだろうと思われる人間を三人ほど、標的にしているようだ。

 

 幸せそうな笑顔が、私の心を掴み捕らえた。それだけの、事です。どこまでも、幸せな笑顔…それがたまたま私の目に留まり、私の心を浮き立たせた…。それは、彼らの落ち度であり、私には何の罪もないのですよ…。
 笑う二人。その幸せの中、狂気に陥れたら、本人も周りも、どんなに不幸になるのだろう?そう考えるだけで、私の心の中の感情は、言い知れる快感を憶えるのです。

「…さぁ、堕ちなさい。そのまま、ゆっくりと…」

 ――そして、おやすみなさい。
 私はそう言い残して、その場を立ち去る。
 気がついたときには、救いの手など、貴方がたには必要ないでしょう。現実を、見ることが出来なくなっているのですから。
 人の堕ちていく様。その瞬間ほど、美しいものは無い。それはまるで、朽ち落ちていく薔薇のようだ…。

 …さて、もう一人、残っていましたね。

 私にとっては、つまらないだけの人間なのですが。美しくも無く、何処にでもいる、平凡な…。それでもその者を手に掛けるのは、私の家に不利益になる。そんな存在だからです。
 家の財産など、既に刻を止めている私にとっては何にも関係ないこと。ただ、残してきた者。唯一に幸せになる価値のある、『彼』の為だけに、私は動くのです。

「貴方の夢は…そう。美しいといいですね…」

 ゆっくりと手を離すと、その人間はまるで空気のように崩れ落ちていく。彼はそのまま目覚めぬか、運良く目覚めたとしても、狂気の夢からは逃げられずに、苦しんで最後には完全に堕ちていくのだろう。
 
「それもまた、一興ですけれどね」

 私には恐れるものは何一つとして、無い。既に生を失った私には、生物的な死は訪れることも無く、そして…法も私を裁くことは出来ないのだから。
 そう誰も。私を止めることが出来ないのだ…。
 …唯一つ。
 そうですね、一つだけあげるとするならば。私のこの姿を、狂気に彩られた本来の私の姿を。『彼』に知られてしまうのだけは、恐ろしいと感じてしまいます。『彼』は私にとって何より大切な存在であり、そして唯一の驚異的な存在。
 簡単だ。
 その恐れを取り除く方法は、実に簡単なことなのです。
 このような行為を…私が快楽だと思えてしまうこの行為を、止めてしまえばいいのだ。それだけで、恐怖感からは解放される…。

「だが…それすらも…」

 私は恐れを感じながらも。それから逃れるすべすらも知り尽くしていながら、この行為を止めることが出来ない。
 『恐怖』と言う名の快楽を、知ってしまっているから。
 『彼』を思うたび、思い出すたびに、心の奥底から湧き上がってくる、どうしようもない感情。

 ――恐怖。

 ――恐怖。

 ――恐怖…。 

 感じるたびに、湧き上がるもの。胸を突き、喉を突き…。
 私は恐怖の裏にすぐ、快感を憶えているのだ。私の中で『恐怖と快感は紙一重』と言ってもいいでしょう。
 ぞくぞくと、させてくれるもの。
 足りなくなれば、『彼』を思い起こせばいい。
 
 ――もし、今の私のこの姿を『彼』が見たら、その瞬間、どんな表情をするのだろう…。

 ああ、胸を抉る様な、激しいもの。この激情は、どうしても止める事は出来ない。だから、私はこの行為を止められない。押し留めることなど、出来ないのです…。
 それとも、止めて見せますか? …私を止めることが、貴方には出来るのでしょうか…?

「ふふ…それも、楽しい事なのかもしれませんね…」



 静かに、何処に向かうことも無く、そう呟く義博。
 金の髪が、夜風に揺れた。ゆっくりと、美しく。それはまるで、薔薇の花びらが舞っている様でもある。
 夜の闇の中、義博は浅く、そして壮絶なまでの美しい微笑を作り上げながら、静かに立ち去っていく。黒のロングコートに身を包みながら…。
 彼はこの先も、同じように快楽を求めながら、人に夢を与えていくのだろう。美しく、そして誰よりも何よりも恐ろしい夢を、人々に植え付けていくのだ。それを誰も、止めることが出来ないまま…。



-了-


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新久・義博さま

再びのご依頼ありがとうございます。ライターの桐岬です。
義博さんは、非常に私の好みだったりします。
なので、私の勝手な妄想が多々見受けられるかと…。すみません(汗)。
…ご期待にきちんと応えられているでしょうか?
また、ご感想などを、お聞かせくださると嬉しいです。

※誤字脱字はチェックしておりますが、見落としがありました場合、申し訳ありません。

桐岬 美沖。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
朱園ハルヒ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月11日

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