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『情念眼球  』
魏・幇禍3342)&鬼丸・鵺(2414)





「ていうかね? ていうかね?」
鵺は、ピンと指を立てながら、愉しげに言った。
「高枝切り鋏は……住み込みの家庭教師は活用しどころないよね?」
「…そうですね」
「あとね、あとね、ぶら下がり健康器も……、既に、むしろ鬱陶しい位背が高いのに、どうして買っちゃったのかな?」 
「……その時は、気付かなかったんですよ」
「個人的にはーー、すんごいね、すんっごい面白かったんだけど……スタイリーって、何処で見付けたの?」
鵺がそう言いながら、昔懐かしの健康器具スタイリー(って分かる人いんのか?)を指差しつつ首を傾げれば、魏・幇禍は、「や、あの有名なCMで流れてた電話番号が今でも通じるのかな?って思って試してみたら、通じたもので…」と言い、それから、ふと考え込むような表情を見せ、鵺に言った。
「…通じたから……えーと、買うのって変ですかね?」
鵺は頷いた。
「うん。 だって、通じたからって……買う必要性なくなくない? 欲しかったの? それ」
「いえ、全然」
そして、二人は顔を見合わせる。
幇禍は、眉尻を下げると、「で、どうしてだと思います? こんなに、倉庫がなっちゃったのは」と問い掛ける幇禍に、鵺は笑って、「結論は、もう、幇禍が馬鹿だからとしか答えられない鵺がいるんだけど、きっと、誰も異論を差し挟まないと思うよ」と、きっぱり答えた。
「こんなに、倉庫がなっちゃった」状態というのは、幇禍が管理している武器庫の事を指している。
日本で手に入るとは信じたくない、マシンガンや、ピストル、刀剣、何に使うのかよく分からないような武器と入り混じって、平和そのものの姿をした、幇禍が趣味の通販で買い漁ったガラクタ達が転がっていた。
正直、鵺から見れば、どこからが武器で、どこからが通販商品化分からない状態。
通販樹海ともいうべき姿をした武器庫内に、「これ、うっかり迷い込んだら、通販と武器に埋もれて死ぬね」なんて、恐ろしい確信を抱く。
「あーーぅう。 やっぱ、いっつも、衝動買いしちゃうのがいけないんですかねぇ」
そう、呻くように言いながら幇禍は、鵺のシャギーの入った銀色の髪に縁取られた小さな顔を見下ろした。
相変わらず、どこか作り物めいている程に整っている顔立ちだ。
13才という幼い年齢がもたらしているあどけなさも相まって、ガラスケースに入れて飾ってしまいたくなるような気分になる。
幇禍自体も、女性なら例外なく見惚れてしまうような端正な顔立ちをしてはいるが、如何せん右目に眼帯をつけ、スーツをきっちり着込んでいる姿は、高い身長もあいまって妙な迫力があり、黙っていれば人を威圧させるばかりであった。
黒い髪の所々に銀色のメッシュを入れているのだが、鵺に負けない程の白い肌とスーツ姿との妙なアンバランスさが幇禍にはよく似合っていて、銀色、赤目の美少女鵺と並んであるけば、どうしても視線をひいてしまう。
しかし、幇禍は、その奇麗な顔立ちを台無しなくらい、ヘナっと崩れさせ、「有りとあらゆる通販に挑戦したんですが、どれもこれも失敗だったんですよ。 もう、最早何を信じて良いのかっていうか、どうしてこんなに通販が止められないのかという、そっから悩んでみようかな?って考えてるんですけど、どう思います?」と相談を持ち掛けてくる。
鵺は「ていうか、此処まで極めたんだし、もうちょっと頑張ろうよ!」と、自分が楽しむために訳の分からないアドバイスを施し、それから、「んーー、しかし、よく、まぁ、ここまで集めたよねぇ」と倉庫内を見回してみた。
お嬢さんは、初通販で良品をゲットできて良かったですねーだ」
そう、ふてくされたように言う幇禍に、鵺は手近にあった布団圧縮袋を広げて見ながら、「うん。 簡易能面作成キット良かったよー? 鵺以外に需要があるとはまっっったく思えないんだけどね!」と嬉しげに言う。
そして、クルンと幇禍を振り返り「ではでは、幇禍に通販新規開拓でもお薦めしましょうか!」と明るく宣言した。 
 


「パソコン…ですか?」
「うん! 確か、ネット通販も結構利用してたよね?」
「あー、でも、駄目です。 全然駄目。 普通の通販より、信用ならないです」
そう言い合いながら、鵺の自室に置いてあるパソの前に顔を並べる二人。
「でもね、ココ良いんだよー? 鵺も、前利用させて貰ったもん」
そう言い、カチカチと軽くクリック音を響かせながら、目的のサイトを開く。
そこは、暗色系の壁紙を使った、如何にもアングラっぽい雰囲気のするサイトだった。
「ほら、これこれぇー!」
そう言いながら、展示されている商品の内の一つをクリックし、拡大して表示させる。
それは、不思議な色をした目薬の画像だった。
「これをね、差すと、目の色が変わるんだよねー」
そう言いながら、机の引き出しから目薬を取り出して、幇禍に渡す。
日の光によって色を変える目薬を不思議そうに眺め、それから、幇禍はおもむろに自分の左目に、その目薬を差した。
通常人は、得体の知れない物を、口や目の中に入れる事というのは、よっぽど肝を据えないと出来はしないものなのだが、鵺の言葉を信用して……というより、ただの怖い物知らずなだけだろう。
好奇心に耐えきれず、試してみたくなったのだ。
「あーー! ちょっと、ちょっとー! 鵺の目薬勝手に使わないでよぅ!」と喚く鵺を無視し、手近にあった鏡を覗き込む。
そこには、元の金色の目から、透けるような紫色の目の色に変化した幇禍の顔が映っていた。
「すっっっっげぇ! すっごいじゃないですか、これ!」
そう興奮して言う幇禍に、「むぅ」と膨れた表情を見せ、「結構高かったのにー」と文句を言う鵺。
幇禍の、骨張った大きな手の中にある目薬を取り上げて、「今回は、紫か」と幇禍の目を覗き込んだ。
「毎回、色違うんですか?」
という、幇禍の問い掛けに頷き、「この前は、オレンジ色になったんだよ? 効き目は、30分位だけどね」と答えた。
「しかし、どういう仕組みなんでしょうねぇ?」
なんて、不思議そうに呟きつつ、それでも物事を深く追求することに興味のない幇禍は、パソコンの画面をしげしげと覗き込む。
「結構面白そうですねぇ」
ワクワクを抑え切れてない声音で言えば、鵺も嬉しげに「URL教えてあげるから、また、じっくり眺めて、欲しい物探してみれば?」と笑った。





「発狂運輸です」
顔中に包帯を巻き目だけ覗かせ、昔の郵便配達人が着ていたような、真っ黒な制服と制帽を被った男が、無表情な声で「判子お願いします」というのを、幇禍は珍しそうに眺めながら、それでもチョコンと判をついた。
平淡に「ありがとうございます」と呟き、くるりと背を向け、真っ黒に塗りたくられた自転車に跨り立ち去っていくのを、呆然と眺めてみる。
「自転車って……、よっぽど近い場所に会社があるのか?」なんて、明らかに問題点はそこではない疑問を感じつつ、幇禍は届いた小包を抱えて、鵺の部屋へと向かった。
コンコンとノックを二回。
「なぁにー?」と、いつもの何処かふわふわと浮いている返事を聞いてから、部屋に入る。
「届いたもんで、一緒に見ようかと思って」と、小包を見せれば、鵺はパッと顔を輝かせて、ペタペタと寄ってきた。
「見よう! 見よう! っていうか、何注文したの?」
そう言いながら勝手にペリペリと包みをはがし始める鵺。
「はぁ。 なんか、色々面白そうだったんですけど…」
そう言いながら一緒に、包装を剥き、出て来た箱を開けた幇禍は、にっこり笑って「とりあえず、お試しからやってみようかなっぁと思って」と、小さな陶器で出来た壺を取り出した。
「何、それ?」
「…えーと、福壺だそうです」
「福…壺?」
「あ、はい。 えーと、向こうが任意で壺の中に放り込んである商品を、通常の五割から八割引きのお手頃統一価格でご奉仕って事で、この福壺竹仕様は5000円でした」
そういって、壺を恭しく取り出す幇禍。
「んじゃ、中に何が入ってるかは、壺を開けるまでのお楽しみって事ね!」と、言い、鵺は幇禍をせっつく。
「とにかく! ちゃっちゃと開けて、何が入ってるか見ようよ」
「そうですね。 エイ」
と、小さく掛け声をあげて、意味ありげに封をしてある札を取り、ポコっと蓋を開けた。
「んーー?」
と、言いながら、中を覗き込むも、壺の口が小さい為に内部を見渡す事の出来なかった幇禍は焦れて、壺をひっくり返す。
すると、床に、コロンといった風情で、恐ろしい程の輝きを放つ、丸い宝石のようなものが転がり落ちた。
「なんだこりゃ?」
そうがっかりしたような声をあげる幇禍とは対照的に、キラキラと目を輝かせる鵺。
エメラルドグリーンと言うべきなのだろうか?
南の澄んだ海の光を全て閉じ込めたような美しい球体を、鵺は歓声を上げながら持ち上げて、眺め、それから、「あら?」と首を傾げた。
「あらあらら?」
そう言いながら、球体をポンと幇禍に渡すと、「よく見てみなよ」と言う。
宝石なんかには興味を持っておらず、他に何かないのか、と壺をひっくり返したまま振っていた幇禍は、渡された球体をつまらなさげに眺め、それから眉を上げた。
「うあ、気持ち悪!」
そう叫ぶ幇禍の掌に載っている球体は、宝石ではなく、宝石のような輝きを持った「目玉」だった。



「なんか説明書とか、ないの?」
「説明書……って、目玉のですか?」
そう言いながら、壺の周りを調べ、その後箱に視線を向けた幇禍は、箱の中に一枚の紙が入っている事に気付いた。
カサリと音をたてながら持ち上げ、目を通してみる。




「Yar! 君はなんてラッキー! 壺の中に入っているのは、世界で一番美しい女の目ン玉さ! 愛しい男を手に入れる為に、悪魔との契約によって差し出された、美しき目ん玉を、我が社が独自のルートで入手し、硬化させたって訳だね。 世界で最も美しい奇跡の一品が、今君の手元に!って、事で飾るなり、舐めるなり、もっとイケナイ事をするなり、好きに使ってくれたまえ。 またのご利用をお待ちしてるよ」



そう書かれた紙を、二度ほど繰り返し読み、目玉に視線を向け、そして、カクリとまた、幇禍は落ち込む。
「ううう、まぁた、失敗しちゃったみたいです」
そう小さく呟く幇禍に、鵺は、「残念賞〜!」と言いながら、自分も解説書に目を通して、感嘆の溜息を漏らす。
羨ましそうに目玉を眺めながら、
「何が、失敗よぉ、幇禍。 これ、5000円だったら、かなりお得だよ?」
と、告げた鵺に、幇禍は「じゃあ、ハイ」と、目玉を差し出した。
「え? いいの?」
「ええ。 俺には、無用のものですから。 お嬢さんが、好きにお使いになって下さい」
そう言えば、花のような笑みを満面に浮かべ、幇禍の首元に飛びつくと、
「幇禍、だーーーーいすき!」
と、叫んだ。
鵺のそんな様子を見て、こんなにお嬢さんに喜んで貰えるのなら、5000円は安かったなと、幇禍は嬉しく感じた。





それから、三日ほど後の事である。






夜中、ぐっすり眠り込んでいた幇禍は、慌ただしい気配を察してぱちりと目を覚ました。
職業柄か、気配には動物的なまでに聡いのだが、この気配は、身近な人間の気配で、それ程緊張する事なく、数秒待つ。
すると、コンコンコンコン!と、控えめながらも連続したノック音が室内に響き、幇禍は素早く身を起こすと扉を開けた。
そこには、いつもの着ぐるみ怪獣タイプのパジャマを着、目尻を吊り上げた幇禍の姿があった。
そして、ビシっと、幇禍を指差すと「もーーーう、ムカツク!」と、小声で喚く。
何があったのか、まるで分からない幇禍が、ポカンとした表情を見せると、グイと、幇禍の腕を引き「来て!」と一言言い放った。



夜中に、幾らまだ13才とはいえ、雇い主のお嬢さんの部屋に入るというのは如何なものなのだろう?と、少し悩みつつ鵺の部屋に邪魔をして、そこに広がっている光景に目を見開く。
「っ…これって?」
鵺の部屋は、この家の主人である義理の両親の寝室がある部屋からかなり離れた場所にある為、声の音量を気にすることなく、鵺に問い掛けた。
「ど、どういう事です?」
すると、鵺も、頬をぷうと膨らませて「それは、鵺が聞きたいよ!」と喚いた。


目玉が泣いていた。


鵺の机の上に飾られていた目玉から、ボロボロと涙が止め処もなく零れ落ちている。
その涙は、机の上を浸食し、床にまで流れ落ちて水たまりを作っていた。
「な…んで?」
目玉から涙なんか?
そう驚く幇禍を後目に、鵺が「もう、折角、幇禍に出された宿題、ちゃんとやったのに、ノートが水浸しになちゃった!」と不機嫌そうに言った。
「いっとくけどね! ちゃんとやったんだからね!」
そう言い募る、鵺に、思わずいつもの厳しい家庭教師の顔をして、「残念ですが、もう一回やって頂かないといけないみたいですね」と告げる。
すると、鵺は益々不機嫌そうな顔をして喚いた。
「なんでよぅ! そもそも、幇禍が、あんな変なもん買うのが悪いんじゃないの! ていうか、目玉って! 目玉、女の子にプレゼントするなんて信じらんない!」
興奮しているからなのか、余りといえば余りの台詞に幇禍は目を剥いて、喚き返す。
「えぇ!? だ、だって、欲しいっつったの、お嬢さんじゃないですか!」
当然の反論をすれば、鵺は怯む様子すら見せず、もっと苛烈な調子で、言葉を紡いだ、
「見越しなさいよ! そういうのは! 鵺が、ああいうのを欲しがる性格だって、幇禍は長年付き合ってるから分かってるでしょー? 『そんな危なそうなサイトで買った、危なそうな目玉、可愛いお嬢さんに渡してもしもの事があったら、俺、俺…、切腹しないといけなくなります!』って事位、護衛やってんなら考えなさいよね!」
「ええ?! せ、切腹ですか?」
「もしくは、素っ裸で樹海へGOとか」
「えーと……」
「それが嫌なら、清水の舞台から紐無しでバンジーでも良いわよ」
「わぁ」
「でも、なんか、樹海でだと野生化して生きていきそうだし、清水の舞台程度の高さから落ちた所で、幇禍は余裕で生きてそうだから、やっぱり切腹で一つよろしくね!」
「あ! ハイ、分かりました…って、それは何の注文ですか!」
明るくそう告げる鵺に、思わずノリで明るく返答してしまった幇禍が、慌てて突っ込めば、
「やーん! 今から幇禍が行ってくれる、鵺への償い方法のお願いよ」
と、サラリと返され、がっくりと項垂れる。
「うわぁ。 今、自分に直面する危機!って、感じですね」
と、疲れた声音で答え、いやいや、今は、そんな場合じゃないだろうと漸く思い直し、目玉に向き直る。
すると、涙の海に浸かっていた目玉は次第に浮き上がり、そして机の上や床に零れ落ちている液体がゆっくりと人体の形を形成し始め、目はその顔の右目部分に、グズリと埋まった。
涙で出来た体がゆらゆら揺れているのを、二人は固唾を呑んで眺める。
すると、液体の上部、顔の部分にぱっくりと三日月型の穴が空き、そこから震える女の声音が聞こえてきた。
「憎い」
「は?」
「憎い、憎い」
鵺が戸惑ったように首を傾げ、幇禍はポリポリと頬を掻きながら傍観する。
「私の前で、仲良くしないでっ!」
そう、液体の女が叫び、ギョロリと右目が此方を見据えた瞬間、女の体がバッと広がりそして、触手のように伸び、飛びかかってきた。
咄嗟に、幇禍は鵺の前に立ち、庇うと、女は最初から幇禍を狙っていたというように、その四肢を絡め取り、そして液体とは思えない物理的圧力をもって幇禍を雁字搦めにして、本体と思われる自分の身体の位置まで引き寄せる。
喉元を締め上げられる感覚に、幇禍はのけぞり上擦った声をあげた。
「お…お嬢さーん」
「はいな」
「お、俺、どんな状態ですか?」
「んーー。 ださい!」
「や、もっと具体的に」
「なんかね、涙の女の人に、ぐるぐる巻きにされちゃってるよ?」
そう、他人事のように言った鵺は、液体の女に声を掛けた。
「ねぇ? キミだーれ?」
液体の女は幇禍を絡め取ったまま、呻いた。
「悪魔に、この瞳まで捧げたというのに、あの男は、私のものにならなかった。 憎い、憎い、憎い。 ………寂しい」
女の体が、どんどん赤く染まり始め、涙が血へと変化する。
鵺は、その光景にワクワクと心を弾ませ、血で出来た体に捕らわれる事になった幇禍は、気味悪げに身じろぎした。
赤い血液の体に浮く目玉が、ギョロリギョロリと動き、捕らえた幇禍を見据えた。
「寂しい。 貰う。 この男貰う。 私の前で、女と仲良くしないで。 私が、手に入れられなかった幸福を突き付けないで。 悔しい、憎い、憎い、憎い」
血で出来た女が、鵺に言った。
「ねぇ、頂戴?」
鵺は、「んーー? どうしよっかなぁ?」
と、明るい声で悩む素振りを見せた。
「ちょっ! ちょ、ちょっと! お嬢さん、お嬢さーん? そんな、悩むトコやないでしょ?」
思わず、幇禍がそう喚けば、ポンと手を打って、鵺は、軽い調子で言う。
「あ? そう? じゃ、あげる」
「いや! 俺が欲しいのはそっちの答えじゃなくて!」
「だぁって、今回は、かなり自業自得っぽいしー」
「じ、自業自得って…」
「それに、宿題、もう一回やり直せとか、かなり理不尽大王だし…」
「えー?」
「すんごい、頑張って完璧仕上げた宿題だったのになぁ…」
そう遠い目をする鵺に、幇禍はとうとう観念して答えた。
「分かりました! 良いです、信じてあげますから!」
すると鵺は、幇禍の言葉尻を捕らえて、眉を顰める。
「しーんーーじーーてー、あげるぅ?」
幇禍は、慌てて言い直した。
「し、信じます!」
「んーー?」
「信じさせて頂きたい!」
「あー、眠くなってきちゃった」
「わ、わぁ! 見える、見えるぞーー? お嬢さんが、誠心誠意仕上げた宿題の出来が、何故だか瞼の裏に浮かんできたよ! 凄い! 完璧だぁ! これは、旦那様にもご報告差し上げて、誉めていただかないといけないなぁ!」
変な棒読み口調で、そこまで言った幇禍に、漸くニッコリ笑顔を見せた鵺は「絶対、パパに伝えてよ?」と念を押すと、どこからか一枚の面を取り出し、装着した。


安珍清姫


僧侶に恋をし、蛇と変じた女の面。
突如、鵺は、地を這うくらいの低い体勢を取りながら、素早く女に近付くと、その両手が有り得ないほどの長さに伸び、液体で出来た女の体を締め上げた。
当然、女に捕らわれている幇禍も、液体越しに鵺に締め上げられる事になる。
二股に分かれたチロチロと細く長い、蛇の舌が面に掘られた口の穴から伸び、女の頬を炙る。
鵺の声とは違う、淀んだ女の声が面から漏れた。
「女の情念ならば、わらわも負けぬ。 恋いに焦がれて、燃え逝く体の熱を、お主もその身で感じるがよいわ」
そして、オホホホホホと笑い声をあげる、鵺の体がどんどん熱くなっていく。
面の唇のあいだからも、小さな炎がふきあがり女の頬を焦がして、血が燃える、なんとも言えない匂いがしはじめた。
鵺の体は、最早、燃えたぎるように熱く、どんどん女の体を蒸発させていく。
女は、液体の身を捩らせ、沸騰する体に捕らえられている幇禍は、「熱い! 熱いですっ!」と喚きながらも、縄抜けの要領で何とか女の体から(そして、鵺の束縛からも)脱出し、そして、いつも懐に偲ばせているナイフを振りかざすと、女の目玉に振り下ろした。


カキン


と、硬質な音をたてて、目玉は割れ、血で出来た体が崩れ落ち、そして、一瞬後には消え失せた。



翌日。
「んで? まぁだ、懲りないの?」
チュッパチャプスを銜え、そう言いながら、喜々として自室のパソを弄くっている幇禍に声を掛ける鵺。
幇禍は、頷き、満面の笑みを浮かべて言う。
「だって、少なくとも、商品は本物だったって事じゃないですか? という事は、他のアイテムも使い方によっては、凄く便利な物があるって、考えられません?」
そして、「うあ! これ、愉しそう」とか「これも、良いなぁ」なんて、独り言を呟き続ける。
カチカチと激しくクリックを繰り返す幇禍に、呆れたような溜息を吐き出すと鵺は「もう、今度は知らないからね?」と、結構本気で呟いた。




 終
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
momizi クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月07日

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