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『ツムギ氏の妖怪育成日記 』
石神・月弥2269)&御風音・ツムギ(2287)

 人の思いが篭ったものには、長く使われてきたものには魂が宿ることがある…一般的に付喪神と呼ばれているのがそれだ。
 時にそれらは自我を持ち、力を持ち…人の形を取り、人の中で、人として生きていることもある。

 御風音ツムギ氏が石神月弥と出会ったのは、偶然。
 うらびれた骨董品屋で偶然、青味がかった乳白色の石…ブルームーンストーンのついたピンブローチを目にして、何気なくそれを購入した。たったそれだけのこと。
 まさがそれが、慌しくも充実した日々の始まりになるとは、その時は全く予想もしなかったのだ。

 …これを買ったのが自分でよかった。
 超常現象に全く免疫のない人間であったならば大変なことになっていただろうと言うのが表向き。本音を言えばこんな可愛いものを他の人間に譲ってなるかとか、他人に任せられるかとか…とどのつまり、彼は立派な親バカとかしていたわけである。
 彼の目の前には、今…透き通るような白い肌と、ぬばたまの黒髪、そうして何よりも人を惹きつける淡く柔らかい輝きを放つ青い瞳の幼児が居た。
 人とは思えぬ美しさのそれは、宝石そのままの美しさのくるくるした大きな瞳で真直ぐに自分を見上げて、不思議そうに首を傾げていて…そりゃあもう鼻血ものの愛らしさである。
「あぁ…!」
 可愛い、ほんっとーに可愛い。もうどうしてくれようってなもんでうっとりと目を閉じて…目を開けた時、そこに幼児の姿はなかった。
「…月弥!?」
 返事は、ない。何故なら彼はまだ満足に言葉を話せないからで…今は遠い日の、話である。

「月弥ー!!」
「…あー?」
 ようやく見つけたと思ったら彼は診療所の方に入り込んでいて、聴診器を首にかけ、メスを振り回していた。
 生まれたばかりの付喪神、月弥はまだ自我を持ったばかりで。
 見た目も、精神も全て生まれたての子供と変わりがない。
 孵化を見届けたからには自分が一人前に育てなくてはと思うのだ。
 彼…実はまだ不定形で性別がないのだが、便宜上彼ということにしてある…の足元には注射器が…薬剤は入っていない、いやむしろ薬剤が入っていないほうが危ないか!?
 空気が混入どころか注射器の中身はALL空気状態。
 空気を注射されたところで妖怪たる彼がどうこうなるとは思えないが、だがしかしもしもと言うこともあるし、何より心臓に悪い。
 慌てて駆け寄ってそれを奪い取ると抗議の声が上がって…ツムギ氏はぐったりと肩を落とした。
 ここ数日…彼が孵化してから、ずっとこんな毎日なのである。
 そろそろ疲れ気味で本業が疎かになっていたりもするが…だが、それでも彼を手放そうとか、誰か育児が出来る人を雇おうとか、そんなことは考え付かぬ程、彼は愛らしく、魅力的だった。
 …とどのつまり他の人間にこの特権を渡したくないと思うぐらいには。

○月×日
 最近色々なことがあるので日記をつけることにする。
 先日孵化した幼児は、順調に成長している。
 髪は黒、目はあの石と同じ色、肌は陶器の様に白い大変可愛らしい幼児である。
 何にでも興味を持つのか、目を離すと直ぐにいなくなるのが困る。
 今日は仕事道具で遊んでいたので慌てて取り上げた。
 聴診器はまだいいが誤って注射針を射してしまったり、メスで怪我でもしたら大変である。
 診療所には立ち入り禁止を言い渡して…理解できたかどうかはわからないが…道具は月弥の手の届かない高いところにしまい込むことにした。

          *          *          *

「…奥さんに逃げられたのかしら?」
「あらでも医者だしいい男じゃない。逃げられるって感じじゃないし、やっぱり亡くなったんじゃないかしら?」
「あら!」
 片腕にまだ小さな月弥を、片手に買い込んだ大荷物を抱いて家路を急いでいたツムギは、家の前で買い物篭を持った主婦が何やら井戸端会議に花を咲かせているのにぶつかった。
 一応と軽く会釈すると主婦は顔を輝かせて駆け寄ってきて潤んだ瞳で見上げてきて。
「お子さんまだ小さいのに大変ねぇ、困ったことが会ったらなんでも言って頂戴ね」
「はぁ…」
 何の事やらと首を傾げるツムギに反論の隙を許さず言い募る…おばちゃんパワー恐るまじ。
「可愛い坊ちゃんね、それともお嬢ちゃんかしら?将来美人さんになるわねー。」
「幾つになるの?何歳か言える?」
 月弥は少し考えてまだ舌ったらずの甘い声で答えた。
「…ひゃくしゃいぐらい」
「あらやだ、冗談上手いわねー」
「あ、よかったらこれ食べてくださいな、奥様居ないと大変でしょう」
 そういって、主婦はツムギの手が塞がっているのを見て取ると月弥に大きなタッパを持たせたのだった。

○月△日
 医師として最低限の知識は持っているが、専門が違うのであまり役に立たない。
 よって子供の育て方について記述された本と彼のための日用品を購入するため、本日は診療所を閉めて、月弥と一緒に買い物に行った。
 熊と兔の着ぐるみパジャマ他、服を何着か購入する。
 子供服売り場では明らかに浮いていて女性店員の視線が痛かった。
 本屋でも女性店員にじろじろ見られて、男が育児をするのは中々に重労働だ…精神的に…と思った。
 育児書に簡単に目を通す。知らないことが多くて驚く。果たして、彼に普通の子供育て方が当てはまるか否かはわからないが少なくとも参考にはなるだろう。
 月弥の父親だと思われたのか、男寡に間違われて近所の主婦に励ましの言葉と差し入れを頂いた。

          *          *          *

「食べ好きちゃダメだよ、鼻血がでるからね」
 月弥の大好きなおやつの時間…今日はチョコレートである。にぱあと笑って子供特有の体温で溶けるチョコレートでべたべたになりながら一生懸命の様子は非常に可愛く…こっちが鼻血を拭きそうである。
 慌てて背けた背中にぽんと小さな手が触れて…見ると月弥がチョコレートを差し出していた。
「せんせいもたべう?」
 可愛い…!!しかも大好きなチョコレートをわけてくれようとするのが感激もので…と、その手が茶色くなっているのに気がついた。
「………」
 恐る恐る、視線を落とす…白い白衣にはっきりと、月弥の小さな手の形のチョコレートの染みが出来ていた。

△月△日
 お菓子の類は食べさせすぎてはいけないわかってはるがと、喜ぶので小さいうちはいいかとおやつの時間を決める。
 午後三時、今日のおやつはチョコレート。
 ふっくらした頬をべたべたにして一生懸命な様子が可愛い。
 その後白衣にチョコレートで小さな紅葉をつけられて慌てて洗濯…注意をすると涙目になって、怒れなかった。今度からは気をつけるように言い含めておく。
 どこで教わったものか教えていない言葉まで覚えてきているようだ。

          *          *          *

「大丈夫ですか?」
「はぁーい」
 風呂場で反響して高く甘く聞こえる声。
 熱気に白い肌はほんのり上気して…凹凸のない子供の、しかも無性の体だというのに非常に色っぽい…頭には青いシャンプーハットが被されていたが。
 泡が落ちないようになっているのだが、それでも僅かに伝ってくるのが怖いのか一生懸命ぎゅっと目を閉じて居る様は非常に可愛い。
 風呂から上がれば一人で身体を拭いて兔のパジャマを着て、その後は当然のように膝に乗ってきて。ツムギはそりゃあもう喜色満面、濡れた髪を丁寧に乾かしてやった。

△月×日
 どうやら鉱物と話せる模様、そこから色々な知識を仕入れてくるようだ。
 たくさん言葉を教え、本を読み聞かせたかいもあって言葉も大分覚え、簡単な会話なら違和感なくできるようになった。
 そろそろ一人でお使いに行かせて見ようかと思う。
 それから今日は溺れない様に監視付きではあるが一人で風呂に入らせた。
 明日からは一人で入ることになったがこれは少し残念。

          *          *          *

「先生、どうしたの?」
 先生は用事がある、だからお砂糖を買ってきて欲しいと頼まれて一人でスーパーに向かった月弥は、帰り道見知った姿を見かけて首を傾げた。
 白衣は道端を歩いていると非常に目立つ。
「!」
 声をかけたら先生はびくっと大袈裟に跳ね上がって、また首を傾げた。
「え、あ、あの…ほ、他にも買わなきゃいけないものを思い出しましてっ!」
 上擦った声でそう言って、先生はスーパーの方に走っていった。
 俺に頼んでくれたらちゃんと買ってきたのに…。

×月○日
 初めて一人で買い物に出す。
 砂糖を一袋買ってくるように頼む。残ったお金で好きなお菓子を一つかっていいと言うと本当に嬉しそうに笑うのが可愛い。
 だが一人で出かけさせるのが心配で、結局後をつけていってしまった。
 お使いが無事すんだのを見届けて気を抜いてしまったのか、帰りに見つかってしまった。
 買い物の追加を思い出したのだと誤魔化した。

          *          *          *

「せんせー、俺出かけてくるねー」
 友達のところにでも行くのか、元気よく声を上げて月弥は家を出て行った。
 …昔は可愛かった。
 古い日記帳を閉じて、ツムギ氏は深く溜息を吐いた。
 いや、今も充分に可愛いし、中性的な外見は艶を増してその魅力は全く劣ることがない。
 それどころかツムギがいらぬ心配を抱く程に人目を引く。
 …だが、自分に全てを委ねていたあの頃とは違い、どこか一人立ちしてしまった感が強いのが少し寂しく思うのだ。
 一人で出かけられるようになったし、交流関係も広くなって男も女も年上も年下も、たくさん友達が出来たようだ。
 それ本来…もし自分が本当に父親なら喜ばしいことなのだけど、だが血の繋がっている父親ではない自分には難しい。
 …だが、ツムギは知っている。
 彼にとって、自分はかけがえのない存在だと。
 例えどこに行ったとしても、最後には必ず自分のところに帰ってくる、自分を思ってくれる。
 そのことに、彼は満足げな笑みを浮かべた。

 …しかし、彼は知らない。
 ツムギにとって月弥はかけがえのない唯一の『伴侶』であるが、月弥に取ってツムギはかけがえのない唯一の、『父親』であることを。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
結城 翔 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月07日

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