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『G撲滅大作戦! 』
如月・縁樹1431


『ホントにここで合ってるの? 地図、読み間違えたんじゃない?』
「いや、ここで合ってるんだけど……」
 そう呟いて、如月縁樹(きさらぎ・えんじゅ)と、その肩に乗った人語を話して動く不思議な人形が見上げたのは、何とも豪華な洋風の屋敷だった。真っ白な壁にはヒビ一つなく、二階の窓には美しいステンドグラスが嵌められている。
「ホーンテッドマンションみたいなのを想像してたんだけどなぁ……」
『こんなところに化け物なんて、ホントにいるの?』
「まぁ……入ってみれば判るでしょ」
 首を傾げつつ、縁樹はポケットから預かった鍵を取り出して、屋敷の扉の鍵穴に差し込んだ。



「化け物退治……ですか」
「そう。やってくれるか?」
『はぁ……やっぱり嫌な予感がしてたんだよ、ボクは……ここに来るといつも事件に巻き込まれる』
 やれやれといった感じで肩をすくめて首を横に振った人形に、縁樹は苦笑して草間武彦(くさま・たけひこ)を振り返った。
「化け物というと?」
「依頼者は不動産屋の店長なんだがな。ある物件に、いつの頃からか化け物が出るっていう噂が立ち始めて、買い手が付かなくなっちまったらしいんだ。で、困った店長が直接確かめに行ったところ……」
『いたの?』
「体長三メートルの巨大な化け物だそうだ」
「体長三メートルですか……」
 そう呟いて、縁樹は依頼者が手土産に持ってきたという高級チョコレートを口に入れる。
 確かに二人はここ、草間興信所によく訪ねて来ては、その度に何らかの事件、というより依頼を任されていた。が、縁樹はそれを嫌だと思ったことはない。まあ、たまに危険な仕事を任されることもあるが、その分報酬は貰えるし、切実な話、放浪する身としてはお金を頂けることは大変有難い。
(ちょっとお財布も薄くなってきたし……)
 そんなことを考えながら、縁樹は少し苦いお茶で、口の中の甘みを溶かした。



「さて、何が出るかな?」
 そろりそろりと扉を開ける。まだ昼間であるお陰か、家の中は比較的明るかった。真っ白な廊下と壁が自然光を反射している。屋敷の外見に反してシンプルな感じがするのは装飾が何もないからだろう。正に白、入居者の色に染めて貰うのを待っている状態である。
「案外普通だね。化け物が出るっていうから、もうちょっとオドロオドロしい雰囲気かと思ってたのに」
『妙な気配も特には感じないね。もしかして店長さんの見間違いだったのかな』
「まあ、見間違いだったら、それはそれでよしってことで。とりあえず一通り見て回ろう」
 縁樹はお邪魔しまーすと言って、家の中に足を踏み入れた。きょろきょろと辺りを見回しながら奥へと進んでいく。一見、単に物件を見学しているような歩き方だが、感覚は妙な気配を感じたらすぐに対応出来るよう、鋭く周りを探っている。
『ここは、キッチンだね』
「わー、凄い。綺麗なシステムキッチン」
 ひょいと入った先は、キッチンだった。流行の大収納システムキッチンに縁樹が目を輝かせ、水場へと近づいていく。瞬間、背後で何かがカサリと動いた。
『いるね……』
 人形が呟くと、縁樹は頷いて愛銃のコルトを構えた。引き金に指をかけ、いつでも撃てるように集中する。
『そこっ!』
 声と同時に、縁樹が人形の指し示した壁に銃口を向けた。その壁から、ずるりと大きな黒い固まりが出て来る。それを目にして、縁樹の身体が固まった。
 壁から這い出てきた黒い物体。それは緩やかな曲線を描いた楕円形の艶々とした身体を持ち、頭の部分から長い二本の触覚を伸ばした……
『これは……もしやゴ』
「きゃあああ! その名前を言わないでっ!」
 思いついた名前を言おうとした人形の口を、縁樹は半泣きで塞ぐ。二人の目の前で黒い物体は身体から生えている六本の細い足のうち、二本の後ろ足ですっくと立ち上がると、残りの四本の足を、まるで仮面ライダーのポーズの如く、右の二本の足を胸に寄せ、左の二本を高々と掲げて叫んだ。
「侵入者発見! てめぇら、ここは俺の屋敷だ! 不法侵入者は排除する!」
「きゃ、きゃあああっ!」
 叫んで、バッと足を広げた黒い物体に、縁樹が悲鳴を上げて発砲する。だが、コルトから発射された弾丸は黒い物体の身体を突き抜け、その後ろ壁にめり込んだ。
「うそっ!?」
「ふはははは! 俺にそんなものは効かーん!」
「きゃああああ!」
 ザカザカと近づいてくる黒い物体に、縁樹は慌ててキッチンを飛び出す。体長三メートルもあろうかという大きさの上、武器も効かないとあって、縁樹の頭はパニックを起こしていた。
「やだああっ!」
『縁樹! 落ち着け! 闇雲に逃げてても駄目だ!』
「わあああんっ!」
 人形が何とか落ち着かせようとするが、縁樹は追いかけて来る黒い物体から逃げることに必死で、聞く耳を持たない。何とかしないと、と人形は縁樹の肩にしがみつきながら頭をフル回転させた。
『そ、そうだ! こんなときのためのアイテムが! 縁樹!』
「何? 何なの!?」
 人形が縁樹の名前を叫び、自分の背中を指さす。そこにあったチャックを見て、縁樹は無我夢中でチャックを下ろし、人形の中からアイテムを取りだした。
「こ、これは!」
『そう! ゴ……ホイホイだ!』
「って、普通サイズじゃ無理だよ!」
『いや、これには奴の好む特殊誘引成分がある!』
「なるほど! それで気を惹きつけている間に逃げようって寸法ね!」
『察しのいい相棒を持って、ボクは幸せだ!』
「そういうことなら……えいっ!」
 縁樹は振り返って、来た道に向けてアイテムを投げる。四つん這いになって壁を走っていた黒い物体は、そのアイテムの誘引成分に惹かれたのか、ザカザカと壁から降りると廊下を逆戻りし始めた。
「やった! 今のうちに逃げよう!」
「うっ!」
 アイテムで気を惹くことに成功した縁樹が逃げようとしたとき、アイテムを投げた方向から黒い物体の苦しげな声が聞こえて来て、縁樹は人形と顔を見合わせる。恐る恐る黒い物体を見ると、廊下で立ち止まった黒い物体の身体が、しゅるしゅると縮んでいくのが見えた。
「え!? どういうこと?」
「し、しまったー……」
 黒い物体の身体はどんどん縮んで、ついには消えてしまった。そこに残ったのは縁樹が投げたアイテムのみ。だが、人形が縁樹の肩から降りてアイテムをのぞき込むと、そこで一匹の、普通サイズの黒い物体がもがき苦しんでいた。
『これは……』
「く、くそう……せっかく、死んじまった仲間たちの協力を得て巨大化出来たというのに……俺が捕まっちまっちゃあ、しょうがねぇ……すまねぇ、お袋、兄貴……仇を打つことが出来なかった……がくっ」
「あ、息絶えた」
 突然しんとする廊下。縁樹は人形と顔を見合わせると、アイテムの端を摘んで屋敷を出た。



「それで、その黒い物体はどうしたんだ?」
「アイテムの中に張り付かせたまま、袋に入れて、燃えるゴミに出しました」
『これで一件落着だね』
 屋敷からの帰り、依頼完了を告げるために草間興信所にやって来た縁樹は、残っていた高級チョコレートの甘さを楽しみながら、ほっと一息ついていた。どんな危険な仕事が来てもいいから、もう二度とこんな仕事はしたくないと、縁樹は心の底からそう思う。
「しかし、ゴ……虫が巨大化するなんてな……」
『大量の魂が固まって、巨大なように見せかけていただけだったんだ』
「実際には小さかったんですけど、大きくても小さくてもアレは嫌ですね」
「同感だ」
 縁樹の言葉に、草間が同意を示して頷く。と、部屋の隅で何かがカサリと動き、壁を這い上ってきた。
『あ!』
「おわっ!」
「きゃあっ!」
 それを見つけた瞬間、縁樹と草間が叫んでソファに飛び乗る。壁を数センチ上ったところでぴたりと止まったその黒い物体はまるでこちらの動きを観察するかのように、細い触覚をふらふらと揺らしている。
「く、くく草間さん、男でしょう? アレ、ちょっと退治して来て下さいよ」
「き、如月こそ、今回の依頼みたいに見事解決してくれよ」
『二人とも情けないよ!』
「じゃあお前が行け!」
『嫌だよ! ボクだってゴキブリ嫌いなんだから!』
「いやあ! その名前を言わないで!」
 思わず耳を塞いだ縁樹の前で、その物体はカサリと動き始めた。
『ああ、動いた!』
「やだああっ!」
 縁樹の恐怖が絶頂に達しようとしたとき、部屋に一人の少女が入って来た。草間の妹だ。買い物帰りなのか、腕には白い袋を下げている。少女は怯える三人に目もくれず、袋から何やら缶を取り出すと、それを黒い物体に向けて噴射させた。黒い物体が、見る間に白い泡に包まれていく。
『あ』
 そして、三人が唖然と見ている前で、少女はその泡を掴むと、ゴミ箱に投げ捨てた。一仕事終えたとばかりに、ぱんぱんと手を打ち鳴らす。
「もう。こんなに散らかしてるから、ゴキさんたちが出ちゃうんですよ。……あれ? 皆さん、何してらっしゃるんですか?」
「ゴキさんって……」
『草間より強いね』
「……うるさい……」
 鮮やかなお手並みを見て顔を引きつらせる三人に、少女はいつもと変わらない笑みを浮かべて首を傾げた。










★★★

ども、ハジメマシテコンニチワ。今回はシチュエーションノベルの発注、有難う御座いましたv 受注は開けてはいたけど、まさか本当に来るとは思わなかったので、正直物凄く嬉しいです(笑)。

縁樹さんは『虫が大嫌い』ってことだったので、多分Gも嫌いだろうと思い、こんな依頼を受けて頂いてみました。すみません(笑)。Gは私も嫌いです。

おまかせ、と言われちゃったので、もう私の思い通りにやってしまいましたが……縁樹さんのキャラクターイメージは壊れなかったでしょうか? それが不安不安不安サイレンみたいですね寒くてすみません。バストアップイラストを見ているとボーイッシュな感じがしましたので、ちょっとそれっぽい台詞にしたりしたんですが如何でしたでしょうか?

とりあえず、作者自身としては楽しんで書いた一作ですので、お客さまにも楽しんで頂けたら嬉しいですv

以上、最近シリアスよりもコメディの方が性に合ってるのかもしれないと気づき始めた緑奈緑でした。

★★★
PCシチュエーションノベル(シングル) -
佐伯七十郎 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月04日

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