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『アフロクエスト −そして伝説へ− 』
本郷・源1108


 アフロ櫛。
 千を超え、万を築き、やがては億兆に達するであろう髪型の星群の中、芸術足りえ、人間の根本で、そして神聖すら纏う事により一際眩しく輝きを放つ物、人、それをアフロと言う。そのアフロのアフロによるアフロの為の櫛が、伝説として語り継がれていた。それは創世主である世界樹の枝より製造されたとも言われ、あるいは世界を救う役目を終えた剣が、自らの刃先をアフロの友として生きようとした選択ゆえに落とされたともあり、単にこの道三百五十二年のエルフの職人がビンゴ大会の景品で作ったともされる。諸説あるがそのどれもが真実であるのが者供の意見。またその櫛の作用は、生まれた侭の素晴らしさを保ちつつ、それを何倍にも膨らませるという、龍を屠る槍よりも尊き神器とされていた。
 だが所詮伝説は伝説である。触れようとしても触れられぬのである。熊本の猫が言いそうである。それであってアフロ櫛の存在は、盲目と蔑まされようと、闇の中において感じられていたのだ。
 そして、それが正しかった事が判明する。瞬間少女は己の着物が乱れるのも気にせず、部屋をドアを通らず窓から飛び出し、走る、走る。息を深く吐く、すると自然に息は吸われる。力強い呼吸が成立し、そうして取り入れた酸素を意識的に筋肉へと送り込む。翼を生やしてる暇は無い、一直線で向かわねば、伝説のアフロ櫛を求めて、少女は、今、
 それがある場所へと――辿り着いたのだが、
「売り切れたじゃと」
 、
「売り切れたじゃとぉぉぉぉっ!?」
「一回言えば解るんだから、いちいちでかい声出さないで欲しいねぇ」
 一度目のセリフこそただ呆然とだが、二度目のセリフは余りのショックにより稲妻を心で背景にしたであろう少女を慰めもせず、何処吹く風でキセルをふかすは碧摩蓮。
 場所に彼女が居る事、つまりここ、愉快どころか妖怪な奴らも御用達の古道具屋、北は異界から南は編集部まで、津々浦々の珍品奇品が今にも呪いそうにずらりと並ぶ、アンティークショップレンである。この店が何処にあるか、はっきりしない。どうも千客万来と旗をたててる訳で無く、辿り着ける物しか辿り着けぬ、怪異に深く足を突っ込んだ人間。ある意味、ここに並ぶ品物に選ばれた人間でなければならないらしい。客が選ぶので無く品が選ぶ関係。
 つまり、今回の場合アフロがアフロを選んだのだ。それ程までに我が身にアフロの魂を刻んでるこの少女の名は、本郷源という。
 前述した通りかわいらしい着物を着た小柄の少女。だがその内はおでん屋だったり座敷童のお茶相手だったり、なにより、数少ないアフロの心を持つ少女なのだ。かつては地毛による紫のアフロにて、アフロンジャーなる戦隊として戦いに赴き、APを存分に奮った事もある。ああ、それだけに、それだけに、伝説のアフロ櫛を買い逃すとはなんたる失態かッ!
「わし以外にもアフロの心を持つ者がおったのか、つまり、わしの心がその者より弱かったというのか!」
 いや、原因があるとすれば移動力の差かもっと単純に運であると思うのだが。拳を床に叩きつけて、微妙に痛かったのでちょっとさすりながら、その場に屈する本郷源。それを見てやれやれと言うのは、店主の蓮。
「そんなに落ち込むなんて、それだけ欲しかったのかい?」
「当たり前じゃ! あれがあればAPは通常の三倍跳ね上がり、アフロンジャーにおいては、真のリーダーの象徴たるレッドアフロすらなる事が容易になるのじゃぞ! 確かにわしは雅なるアフロパープル、しかし、この世のあらゆるアフロを網羅してこその、アフロ道なのじゃー!」
 そう演歌を歌いそうな勢いで力説する源に、「でも買い逃した訳か」と追い討ちをかける蓮。拳を床に叩きつけて微妙に痛かったのでちょっとさすりながらその場屈する本郷源再び。
 哀れとは言えば哀れな様子に、仕方なしという感じで、蓮はこんな事を言い始めた。
「あんた、アフロの聖地って知ってるかい?」
 、
「聖地、じゃと」
 顔をあげて、目を丸くして。そんな源に蓮は続ける。
「まぁ伝説どころか御伽噺の類なんだがね、伝説と呼ばれたアフロ櫛もあったくらいだ。存在の否定は未知を求めない科学者だ」
「教えてくれぬか店主、アフロの聖地とは如何なる物か」
「……曰く、ねぇ」


◇◆◇


 愛がある。正義がある。そして、夢がある。
 その言葉を全て表すのは、『アフロがある』になるであろう。遥か彼方の神々達の円卓で、決定されたであろう事だから。
 そして、その聖地。
 そこには絶え間なくミラーボールからの光が注ぎ、博士達は今日も爆発し、蛙の軍曹であったり、黄色いジャージを着た格闘家が回し蹴り、アフロン加工のフライパン、週間アフロは210円。
 そして、そこには巨人が祭られている。地中に埋もれていた巨人である。伝説の中の伝説曰く、真のアフロの心を持つ者だけが、無限たるイオの力を身に着けて、その巨人を操る事が出来るそうな。搭乗者は出来ればオレンジのアフロが良いらしいが、紫色のアフロでも問題は無いらしい。
 争いも無く、奪い合う事も無い、皆がよりアフロらしく生きれる場所。
 そして、アフロ櫛も店に常備されて、アフロシャンプーと供に24時間販売されてるらしい。
 ああ、想像するだけで胸に花が咲くように。きっとそこに降り立てば、時を止める呪文を静かに唱える。我が安住の地に、我が敬愛するアフロに。


◇◆◇


 場面変わり、あやかし荘薔薇の間。ここは本郷源の生息地であるが、彼女は今、この住処を捨てる決心をした。目指すは、アフロの聖地なのだ。
「よし、準備完了じゃ!」
 満面の笑みを誰も居ない部屋で炸裂させると、源はリュックを背負い、手紙を机に、そして、ここに帰ってくる途中とある美容院アフロの同士によって仕上げてもらった、今世紀最大のアフロを豊かに揺らす。
 未来への旅の仕込みは、しっかり完了した。今、少女は伝説に挑む!
 それが鯉がナイアガラを登る程の困難だとしても、「承知の上」本郷源は走り出す。さぁ今扉を開けて、――がらり! 開かれた扉の向こうに見えたのは、
 押入れだった。
「恐るべしアフロ魂!」
 いや、今回は第一町人居ないですが。


◇◆◇


 前回と同じように三秒で旅を終わらせる訳にはいかない、なにせアフロの聖地に行くか行かないかの瀬戸際だ。七年間とはいえ、おそらくは人生において最大のターニングポイントである事を、本郷源は底から自覚していた。
 しかし皆目検討がつかぬのもまた事実。なにせ聖地と称されるくらいだから、それこそそこら中にある異界よりも、更に異世界の可能性は高い。白旗をあげれば逆に殲滅されるかもしれぬ程に、常識が違うかもしれない。
 いや、それもアフロの心で繋がればなんて事は無いか。杞憂な事だとしかと悟る。
 とにかく、本郷源はずんずんと進んだ。てくてくと歩き、がたごとと電車、ぴゅーと走りごくごくと水飲む。やがては遂に、夜になってしまった。
「仕方が無いのう、今日はどこぞで宿をとるとするか」
 そうして近場にあった民宿で眠りこける。母なるアフロが頭を包んでるせいか、冷たい視線で見られても、まるで母に抱かれてるようなぬくもりを。
 そして、朝。
 目覚ましを用いずとも、雀の声で目が覚める源。「ふむ、やはりAPは偉大じゃな」
 おかげで寝癖もつかずばっくりとすこぶるアフロである。さて、一日目こそ徒労に終わった聖地探し、暫くはこの判を押したかのような一日の繰り返しであろう。だが重ねるからこそ厚みはでる、やがて、少女は踏みしめる。
「待っておれ、アフロの聖地よ!」
 そう強く叫んで顔をあげれば、時計が、目に、入り、
 七時である。(そう言えば今日は日曜日)
 日曜日プラス朝の時間帯。イコール、
 ダンス戦隊アフロンジャー、七話ディレクターズカットバージョン放送日。
 さわやかな風景である民宿が、一瞬少女の叫びで大きく震えて。
 何事かと部屋の中に宿主が踏み込んだ時には、代金と、アフロを胸にと書かれた藁半紙だけが残されていた。特殊な事情により、アフロンジャーはなかなか普通の家では見れないのだ。こうして長い旅の予定だった源の行動は、一泊二日で終わるのであった。
「しかし何時の日かきっと、わしは伝説の巨人と相対するのじゃ! ……ってなんじゃとぉ!? 異界全体をアフロで包み込むとは。ふふ、やはりわしが出ねばならんようじゃ!」
 ――アフロはこれからも、熱く、燃え続ける。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年06月03日

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