▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『大騒ぎは終わらない! 』
不動・修羅2592


 平凡で呑気な雰囲気が漂う夕暮れ時……古い雑居ビルの一角にある草間興信所にほのかな茜色の光が差し込む。最近の依頼解決に尽力した連中の報酬をさっきまで検算していた草間は目を通した書類をうちわ代わりにしてくつろいでいた。ようやく今日という日が終わる……まぁ、どうせ明日には明日が来るのだが。とにかく早めの店じまいでもするかと立ち上がり、ゆっくりと身体を伸ばして大きなあくびする。
 そんな時だった。ノックもせずに何者かが入りこんできた。草間の気持ちのいい伸びはそこで中断される。不機嫌にさせられた彼はむっとした顔で開いた扉を睨みつける。しかし入ってきたのは妹よりも背の低い存在だった。しかも真っ黒な身体にコミカルな様相、そしてお尻からはしっぽのようなものがある……彼はある報告書をとっさにつかむ。それには『ギャグ悪魔退治』の詳細が書かれていた。それと来客を見比べ、そいつが何者であるかをはっきりさせた草間は悲鳴にも似た叫びを上げる。

 「ギャ、ギャグ悪魔だーーー! ここも面白くされてしまうーーー!」
 『た、助けてぇな! お願いやからお願いやからお願いやから!』
 「は、は、早くあいつらに電話しないと……あの連中にしか対処できないんだからな。えーーーっと、この時間なら……」

 草間が慌てるならまだしも、なぜか悪魔も大いに焦っていた。ソファーの周りをぐるぐる回る悪魔に対し、必死に電話のダイヤルを回す草間。だが何度それを触っても正確に回すことができない。苛立つ草間は悪魔を見てはまた焦り、手元を狂わせてしまう始末。もはや彼もギャグ空間の餌食になってしまっていた。
 そんな中、ひとりの青年が興信所に入ってきた。学ランにかばんというオーソドックスな姿の高校生の名は不動 修羅だった。草間は来訪者に気づかぬまま、ずっと同じ行為を続けている……そんな彼を落ちつかせようとしたのか、それともこれが彼の性格なのか、修羅は受話器を奪って草間の胸倉をつかんだ!

 「な……お、お前は修羅!」
 「なんだ、あんたは連中しか当てにしてないのか? 俺じゃあ……役不足なのか?」
 「何とかできる自信があるんだったら何とかしてくれ! 妹が帰ってきたらそれこそ大変なことになる!」

 家主の了承を得て、修羅は満足そうな笑みを浮かべながらギャグ悪魔と対峙する。悪魔は彼と目が合った瞬間にビクッと震えた……そう、こいつは修羅が呼び出した悪魔なのだ。彼が河原でこいつをボコボコにしていたら隙を見て逃げ出してしまい、たまたま草間興信所にやってきたとこういうわけだ。自分の責任は自分で果たす、そう言わんばかりに立ち塞がる修羅は大きく息を吐きながら武道の構えを見せる。

 「お仕置きの時間だ……こんバカ悪魔ぁ!」
 『ウヒィィィ! み、見つかったぁ……勘弁してぇ!!』

 さっそくミニサイズの悪魔を持ち上げた修羅は、彼も自らも回転しそのまま地面へと打ちつける。彼の身体には阿修羅が降ろされ、その回転はフィニッシュまで衰えることがなかった。地面に頭で穴を開けた悪魔は身動きが取れない状況で、今度は阿修羅からクロノスに変わるとすべての空間が遅くなり、ついにはその時間は止まってしまう。静止した空間の中で悪魔の足をつかんで床から引っこ抜いた修羅はそのままパンチの連打を繰り返す!

 「お前が逃げても……無駄の無駄の無駄なんだよぉぉ!」

 修羅がいくら殴りつけても悪魔の反応はない。もちろん草間からの反応もない。しかし、ある時を境に大きな悲鳴が上がった! そう、止まっていた時間が元に戻ろうとしていたのだ。その瞬間からギャグ悪魔は全身の激しい痛みを感じ始めた!

 『痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーーーっ!』
 「お前のせいで行けなかったんだ……お前が出てきたせいで、ちくしょう!」

 やり場のない怒りを悪魔に十二分にぶつける修羅の身体に降りてきたのはアモンだ。肉体に満ち溢れんばかりの力を宿した彼は、プロレスよろしくそのまま悪魔に怒涛の攻撃を繰り広げる。何度も何度もひ弱な身体に逆水平チョップを食らわせ、腹に強烈なドロップキックを見舞う! 非力な悪魔はそのまま壁に激突する……もはや彼はボロ雑巾だった。だが、修羅はそこへ気功波をぶちこみ、カッターのように鋭い手刀でさらに全身を鞭打つ。そして地面に倒れこんだ悪魔に対し、修羅は最後に草間が愛用しているいつもの事務机の上に昇り、そこから悪魔にダイブしボディープレスでフィニッシュした。

 「どうだぁ……参ったかぁ。マンガ家の家に行けなかった俺に心から詫びる気持ちになったかぁぁぁ!」
 『さっきからしゅんまへんって言うてるひゃん……ペラペラ。』

 最後の技で紙のようにぺらんぺらんになった悪魔の涙も平面に流れていた。修羅は荒くなった息をしばらく落ちつかせた後で草間に「邪魔したな」とだけ言い残し、悪魔を畳んで興信所から出ていった。唯一の観客だった草間はただ立ち尽くし、荒れ放題になった事務所を見てつぶやいた。

 「あいつじゃ……役不足だったかもな。」

 地面に穴、散乱する書類、少しヒビの入った壁……ちょっとだけ修羅に頼んだことを後悔した草間だった。

PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年05月28日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.