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『本日は晴天なり! 』
朋矢・明莉2768)&加賀見・武(2776)


 テレビ画面に映る、天気予報には雲のマークが並んでいる。
チャンネルを何度も変えて色々とハシゴしてみたけれど、どこの天気予報も曇、曇り、くもり。
「そんなぁ…せっかくのドライブなのに…」
 朋矢・明莉は心底残念そうに呟いて、窓の外に目を向けた。
普段なら都会とは言えそれなりに夜空の星もいくつか瞬いていて、月の光さえ優しく人間世界を照らしている景色も、
今は灰色の重苦しい世界に支配されようとしている。
「絶対に曇りなんて嫌…」
 天気予報ではさらに深夜頃から崩れ始めるとの事。
しかし、なんとしてもいいお天気の元で、恋人の加賀見・武とのドライブへ行きたい明莉は、
徐に立ち上がると、クローゼットの中から白い布と油性のマジックを取り出して、アレを作り始めた。
そう…好天を願う万人の魔法のアイテムを。

==☆=本日は晴天なり!=☆==

「いい天気だなぁ…天気予報って言うのは外れるもんだけど、見事に外れてるな」
「うん、きっとあの子が頑張ってくれたんだよ♪」
「あの子…?頑張ったって?」
「ん、なんでもない!」
 武の運転する車の助手席で、明莉は嬉しそうに微笑んだ。
マジックアイテムの”てるてる坊主”は、今頃、明莉の家の窓の軒先で同じように微笑んで青空を見つめている事だろう。
思い出し笑いでもするような笑みを浮かべている彼女を、武は不思議そうに少し首を傾げつつ視線を前に向けた。
ちょうどそのとき、信号が赤から、青に変わる。
「それじゃあ、晴天に感謝しつつ…」
「出発進行ー!だね!」


●横浜:

「武サン、大丈夫?」
「……何が?」
「なんだか…こんな、高そうなところでお昼ご飯なんて…」
 横浜中華街に到着してから、あちこち歩いて土産物やら雑貨を見てまわった二人。
店頭に明莉に似合いそうなチャイナドレスが並んでいて、一瞬、着せてみたいと思った武ではあったのだが、
値段が予想より一つ0が多くて断念してみたり、明莉も武に何かプレゼントできないかなと見てはみたものの…
いいな、と思うものはやはりことごとく値段がお高いものだったりして…
結局、買ったものと言えば…ドラゴンの彫刻が施してあるおそろいのシルバーブレスと、中国緑茶の茶葉くらいである。
 そして時刻もちょうとお昼にさしかかり、昼食にしようと言うことで”牡丹園”と言う中華料理店に訪れたのだが。
明莉は見るからに高級そうな外観に少々ドキドキして武の後ろに隠れるようにして店内に入った。
 お昼と言うこともあり、1階席はなかなか混みあっていて忙しそうである。
店内には野球選手のサインやら芸能人のサインやらが貼ってあって、人気店なんだ…と明莉はますます小さくなる。
しかし武はと言うと、特に戸惑う様子も無く店員に案内されるままに2階席へと明莉を連れて行く。
 そんなにお金持って来てないよ〜どうしよ〜と、内心パニックになる明莉ではあったのだが…
「大丈夫だって。ほら、安いんだよ、ランチは」
 武に言われてメニューを見ると、ランチは600円や700円程度の値段だった。
ライスとスープ、デザートがついていておかずは自分の好みで指定するタイプになっている。
「安いけど味はいいんだ」
「そうなんだぁ…来た事あるの?」
「アトラスの仕事の取材でね。だから次は明莉を連れてこようと思ってたんだ」
 照れながら言う武の顔は、嬉しそうで少し頬が赤くなっていた。
なんだか明莉も嬉しくなって二人揃って妙にかしこまってしまう。
そうしているうちに、意外と早くランチが運ばれてきてテーブルの上に並べられた。
「それじゃあ…食べようか」
「うん…いただきます♪」
 メインとなるおかずも去ることながら、
明莉はデザートについてきた白く輝きフルーツが乗った見るからにおいしそうな杏仁豆腐に目が行ってしまうのだった。


●鎌倉:

 中華街を後にした二人は、次の目的地である鎌倉の鶴岡八幡宮へと到着する。
駐車場に車を止めて、まず一直線に、上宮受付へ進んで”お祓い”の受付をする。
二人とも揃って厄年ゆえに、せっかくだから一緒に厄払いをしてもらおうということで、本日のデートコースにここを選んだのだ。
予約していたわけではないのでそれなりに待ち時間は必要かな、と思ってはいたのだが意外と早く二人の番になり、
本殿へ向かうと、年配の宮司が厳かに二人を迎えた。
 御祓いを済ませると、その足でお守りを買いに向かう。
「お祓いもしたし、お守りも買ったし…今年はこれでもうダイジョーブだよね?」
「そうだなぁ…そうだといいんだけどな…」
 にこにこと微笑みながら、明莉はおみくじを引く。
せっかく神社に来たのだからおみくじはやらなきゃ!との明莉の提案でのおみくじ。
「あ、中吉かぁ…大吉じゃないのはザンネンだけど良かったね」
 明莉はそういって、同じようにおみくじを引いた武に視線を向ける…が。
「た、武サン!?」
 そこには、おみくじを手にしたまま真っ白になっている武の姿があったのだった。
ひょいとその手元を覗き込むと…あろう事か『凶』の文字。
「だ…大丈夫!ほら、大凶じゃなかったんだもん!ね?凶ひくのも難しいんだよ!ね?」
 明莉は必死で武をなぐさめつつ、固まったままのその背中を押して神社の気に凶のおみくじを結びつけると、
今度はずるずると引きずるようにして小町通へと向かうことにした。
 途中、神苑と呼ばれるボタン園に足を運ぶ。偶然にも、昼食で寄った料理店も牡丹園だった事もあってちょっと立ち寄ってみたのだ。
この季節、春牡丹が咲いているのではあるが、少々季節がずれているのか見ごろ、と言うわけではなさそうだったが。
 小町通りを少し歩いた所で、ちょっと休憩をと二人で御茶屋へと入る。
人の良さそうな店主がにこやかに二人にお冷を運んできた。
「武サンは何にする?」
「そうだな…じゃあ俺は適当にコーヒーで…」
「ええ?せっかくなんだからお抹茶にしようよ!」
「お嬢さん、抹茶好きかい?」
 武に抹茶を勧める明莉を、微笑ましげに見つめながら店主のおじさんが声をかける。
「はい!あたし、お抹茶には目が無くって」
「うちの抹茶は自家製で自慢の抹茶だ!なんといっても茶葉からこだわってな…」
 嬉しいのか、店主は身を乗り出すようにして明莉に抹茶に関するエトセトラを語り始める。
店員さんが注文した抹茶とコーヒーを運んできて、明莉が抹茶を飲んでからさらにその話題はヒートアップしていった。
 こうなるともう、武はひたすら蚊帳の外になってしまう。
せっかくのデートであるのに、それはあまりにも面白くない。
「明莉…ちょっと…」
「なあに?」
 武はこそっと明莉に何かを耳打ちする。ぱっと明莉の目は輝いて、「うん!行く!」と元気に頷いた。
「おじさん!美味しかったです!あたし達、お買い物に行くので失礼しますね」
「ああ!またいつでも寄ってってくれよ!」
 にこやかに手を振り合って、明莉と武は御茶屋を後にした。
「武サン♪お抹茶アイス早く食べに行こう♪」
「あ?ああ…その前にちょっと買い物しようや…?」
 恥ずかしそうに呟きつつ、武は通りを進む。うん!と明莉は頷いてお土産物を売っている店舗を色々と覗いてまわった。
 武は明莉の家へのお土産に、鳩サブレを。明莉は武の妹へロールケーキ。そして自分の家である小料理屋用に竹細工の花カゴを買って。
「お土産はこれでいいかな?武さん、アイス食べよう♪」
「あ、やっぱり覚えてたか…そうだなぁ…」
 苦笑交じりで武は呟くと、きょろきょろと視線を動かして店を探す。
しかし、明莉はしっかりと抹茶アイスの美味しい店はチェック済みで、武の手を引いてそちらへ突進していったのだった。


●平塚:

 日も暮れて来た頃、二人は平塚の湘南平へと到着する。
夜景が綺麗で展望台もあるデートスポットである事はもちろん、二人の目的はそれだけでは無かった。
「やっぱり、恋人達が多いね」
「…そりゃあ…まあ…俺たちだってそうなんだし…」
 車から降りて、目的地である『テレビ塔』へと向かう道すがら、明莉はそっと武の手を取ってみる。
ひたすら恥ずかしそうにしている武ではあるが、明莉が握った手を優しく握り返した。
 テレビ塔の下まで来ると、階段を上がった踊り場で人の話し声が聞こえて一度立ち止まる。
しばらく待っていると、同じような若いカップルが降りてきて、それと入れ違うようにして武と明莉は上へと上がっていった。
真っ暗な踊り場の金網越しに夜景が見える。武が持参していた懐中電灯をパッとつけると…
「きゃっ!虫!?」
 照らされた光の中に浮かび上がった物体を見て、明莉は思わず武の背後に隠れる。
しかし、よくよく見ると…一瞬、金網に無数に群がる虫のように見えたそれは…数多の鍵、錠前たちだった。
「これがあの噂の鍵なのね…!」
「明莉、ちょっとこれ持っててくれるか?俺たちのも…」
「うん♪」
 武は明莉に懐中電灯を預けると、ポケットから銀色の錠前を取り出す。
そこには、二人の名前と…明莉が書いた「ずっと一緒だね♪」という一言が添えられていた。
 ここ、湘南平のテレビ塔には…若い恋人達の間でいつからか流れたジンクスのようなものがある。
それは踊り場の金網に、こうやって錠前に名前や愛の言葉を書いて二人で鍵をかけると、その二人の幸せに絆は永遠のものになる…
真実か噂なのかはさておき、それを知った恋人達がここへ鍵をかけに来る姿はあとをたたず…
武が自分達の鍵をかけようとしても、なかなか空いたスペースが見つからないほどだった。
しかし、しばらく二人で探した先、左の通路奥にちょうどいい場所を見つけ、二人でそこに錠前を通してしっかりと鍵をかける。
「武サン…これであたし達、もっと幸せになれるよね?」
「ああ、きっとな」
 自分達の鍵を見つめながら、二人は握っていた手にぎゅっと力をこめて…


●箱根:

 二人の最終目的地である箱根の温泉旅館に到着したのは、予定より少し遅かった。
それでも女将さんをはじめ、仲居さんもしっかり待ってくれていて二人を出迎えて部屋へと案内する。
高級とまではいかないがきちんとした由緒もある温泉旅館で、部屋から見える小さな庭園も美しく、
何より…運ばれてきた料理は目を見張るものだった。
 二人は先に浴衣に着替えてから、少し遅めの夕食にする。
「今日はお疲れ様でした」
 にこっと微笑みながら、明莉はビール瓶を手に浴衣の袖を押さえながら武へと傾ける。
なんとも色っぽい仕草にドキリとし、顔を赤くしつつも…武はコップを手にしてそれを受ける。
「ずっと武さんが運転してたから疲れたよね?」
「いや、そうでもないぜ…運転してる間は楽しいし、おまえも居るし」
「あたしも武さんがいると楽しいし、嬉しい」
 恥ずかしそうに視線を落としながら明莉は言って、自分用についであるオレンジジュースに口をつける。
温かい料理が冷めないうちに、海鮮料理が乾かないうちに、と…二人は少し豪勢な夕食に手をつけて。
「それでね、中華街で会ったおじさんが…」
「うん…」
「あ!鎌倉で見たあのお店カワイかったよね!」
「うん…」
 弾んだ声で明莉は今日一日の事を武に話しかけていたのだが…
「今日はほんとう、楽しかったよね♪」
「ん…そうだな…楽しか………」
「…?武サン?」
 それまで返ってきていた声が途中で途切れ、視線を目の前の料理から武へ映した明莉は…
座椅子にもたれて、爆睡している武の顔を見て目を点にしたのだった。
「もー!!!寝ちゃうなんて酷いよ〜!!」
 明莉はぷうっと頬を膨らませて抗議の声をあげてはみたものの…やっぱり、長時間の運転は疲れてるんだな、と改めて思い。
「武サン、今日は本当に楽しかったよ…ありがとう」
 眠っている武に、満面の笑みを浮かべてそう告げたのだった。
明莉は立ち上がると、壁にかけてあったドテラを取って風邪をひかないようにと武にそっとかける。
そしてふと窓から見えた夜空を見て、瞬く星に微笑を向けた。
「天気が晴れて良かった…ありがとう…てるてる坊主クン」
 天気予報で告げられていた曇り空はいつの間にかどこかへ消え去り、
ただただ美しい星がまたたいている夜空が窓の外いっぱいに広がっていたのだった。

 結局、武はと言うと…そのまま温泉にも入らずに朝まで爆睡し続けてしまい、
目を覚ました時にはかなりジト〜っとした視線の明莉に見つめられて謝ったとか、謝らなかったとか…。





●おわり●


※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2004年05月20日

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