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『追い掛けられゴッコ 』
彩峰・みどり3057)&橘・沙羅(2489)

 いつもの通学路、いつもの挨拶、いつも見掛ける犬や猫。毎日毎日飽きもせずに繰り返される沙羅とみどりの日常だが、オンナノコにとってそれがある意味で至上の悦びでもある。だから、何らかの事情でその日課の一つが崩れたりすると、それが何か不幸か不運の前触れであるかのように思えるのだ。

 今日も今日とて、仲良く二人で肩を並べ、学校からの帰り道を歩くみどりと沙羅。華やかな笑い声やそこに居るだけでぱっと周囲が明るくなるような、そんな雰囲気は彼女達ならではもの。だが、そんな中でみどりの声は、ほんの僅かにだが沈んでいるようだ。
 「…沙羅ちゃん、どうしよう…今日の私、いつもとちょっと違うの…」
 「え?どう言う事なの?」
 沙羅が尋ね返すと、みどりは不安げに茶色い瞳を揺らして言った。
 「うん…なんかね、いつもならお弁当の玉子焼きは一番最後にとっておくのに、今日に限って、何故か一番最初に食べちゃったの…」
 「ええ?それってそんなにおかしな事なの?だって沙羅はいつも最初に食べるよ?」
 「沙羅ちゃんはいいのよ。だっていつもなんだよね?でも私は、いつもは違うんだもん。今日はそう言う気分だった…って言うだけならいいけど、なんか厭な予感がするの…」
 みどりが、細く切なげな溜息を零す。
 「そう、今日の私は、いつもの私じゃないって感じ…だから、いつもと違う事が起こらなきゃいいなって思ってるの」
 「大丈夫よ、考え過ぎなだけよ!じゃあ、いつもと同じように、あの喫茶店に寄って何か食べてこうよ。そうしたら、きっと気分も晴れるわよ?」
 にっこり笑ってみどりを見詰める沙羅の瞳に、みどりも釣られて微笑み、そうね、と答えた。
 そんな二人がいつもの角を曲がって、知り合いが経営する喫茶店へと向かおうとしているその時だった。曲がり角で二人は、勢いよく飛び出してきた人物と、危うく正面衝突しそうになった。反射的に謝ろうとした二人だったが、口を突いて出たのは甲高い悲鳴だった。
 「きゃー!」
 「いやー!」
 みどりと沙羅の前に立ちはだかったのは、まさにこれ変態!絵に描いたような変態だったのだ!

 ◇暮らしのお役立ちプチ情報:変態の見分け方◇
一.目が血走り、イッちゃってる
二.審美眼だけは鋭い
三.サングラスとマスクは必須
四.この暖かい春の昼下がりに、トレンチコートなどを着込んでいる
五.勿論、コートの下はまっ(以下自主規制)

 ちなみに変態と言っても、昆虫・動植物がその形態を変える、その変態ではない。そりゃ今の場合、後者の方がよっぽど健全で害も無いと思うが、後ろ足が出始めたカエルになり掛けの、人間と同じ大きさのオタマジャクシがいたら、それはそれで恐い。
 で、変態。彼は羽織っただけのトレンチコートを自分の身体の前で合わせ、今にも全開にしそうな勢いのまま、グヘヘヘとお約束で下品な笑い声を漏らして一歩、驚きと恐怖で硬直している沙羅達の方に向かって足を踏み出した。それに合わせ、みどりと沙羅は一歩後退りをする。変態が一歩前進、沙羅達が一歩後退。また一歩、そして一歩。その歩調は次第に早くなり、やがてじりじりとした攻防戦の緊張に負けたみどり達が、一気に駆け出し、その場から逃げ出した。
 「早くっ、沙羅ちゃん逃げなきゃ!」
 きゃーッ!と悲鳴混じりに駆け出した二人だったが、その女子高生らしい悲鳴が更なる悲劇を生むとは。一心不乱に後ろも見ずに走り、二丁目程を一気に駆け抜けた二人は、もう大丈夫だろうと息を切らし、立ち止まった。
 「はぁ、はぁ…大丈夫……?」
 「うん、私は大丈夫…でも、何なの、あの人〜!?」
 「そんなの、沙羅にも分からないよ〜。…なんであの人、ズボン履いてなかったのに、靴下だけは履いてたのかな?」
 ちなみに、変態道としては、靴下は白のスクール靴下と太古の昔から決まっている(多分)
 「…沙羅ちゃん、それは今ツッコむところじゃないと思……」
 みどりの声が途中で途切れ、凍り付く。何事、と沙羅もみどりの視線の先を追い、同じように凍り付いた。
 「グヘヘヘヘヘ!」
 「いやぁッ、追い掛けてきたぁッ!?」
 コートの前をかき合わせたまま、物凄い勢いで変態(変態変態って書き続けるのもなんなので、以下H氏と称す)が、二人を追い掛けて来たのだ!ひらひらと靡くトレンチコートの裾、そこから覗く脛毛と脛が更に変態度をアップさせている。みどりと沙羅は、さっきまでの疲れなど吹き飛んだかのよう、またもダッシュでその場を離脱する。翻る制服のスカートが、更にH氏のキケンな●欲を増長させる羽目になるとは。(一部伏字でお送りしています)

 みどりと沙羅が次の曲がり角を目指して走る。あの角さえ曲がれば、何故か助かるような気がしたのだ。今から思えば、H氏を蹴倒してでも、その先へと走り、目的地だった喫茶店に逃げ込めば良かったのだが、そんな機転も利かないほど、二人は動揺しまくっていたのだ。
 走りに走り、みどり達が交差点の角を曲がる。と、そこには何故かH氏の脂ぎった顔が!
 「きゃ―――!!」
 どこをどうやって、みどり達の先回りをしたのかは分からない。変態には変態の、変態たる特殊能力があるのかもしれない。いずれにせよ、一瞬は緩みかけた気が一気に緊張の度合いを最高潮まで高め、思わずみどりは己の中に潜む力を、最大級で放出してしまったのだ。
 「いやー!来ないでぇッ!」
 「…ッぐへ、…へ……?…」
 周囲が、一瞬にして凍り付く。大気中の水分が凍り、ダイアモンドダストとなって二人の身体にも降り注いだ。恐怖の余り、無意識で絶対零度の力を解き放ってしまい、H氏は見事な氷の彫像と化してしまったのだ。いや、だがそれにしても美しくない。凍り付く瞬間、両手をコートから離しているので、そのままはらりと前が肌蹴る直前、間一髪で固まっているので、見たくない部分は見ずにすんだ。キレイなオネーサマなら、際どいそのポーズもセクシーの極みなのだろうが、何しろ変態では、このまま叩き割って粉々に砕いてしまおうかと思うぐらいの醜さ、情けなさであった。
 「あ…ね、大丈夫……?」
 沙羅が、心配そうにみどりを気遣う。みどりが、絶対零度の力を使うと、その後暫く正気を失う事を知っているからだ。だが、尋常でない緊張からか、みどりは気を失う事無く、ただ少しだけ疲れたような顔をして頷いた。
 「大丈夫よ、沙羅ちゃん…ちょっと驚いただけなの…」
 「ああ、良かったぁ…沙羅、一瞬どうなる事かと…」
 ほっとした沙羅が、にっこりと可愛らしい笑顔を向け、思わずみどりに抱きついた。みどりも安心からか、笑顔でそんな沙羅の身体を受け止める。そんな、女子高生が二人絡み合う(と変態道では表現するらしい)シーンは、H氏にとってはまたとない起爆剤で…安心したみどりと沙羅が、ふと、ミシミシと言う奇妙な音に気付いてそちらを見遣る。そんな二人の瞳が、同時にまた驚きで見開かれた。完全に凍り付いた筈のH氏だったが、表層の氷をミシミシとひび割れさせると、一気にバリッ!と打ち破り、絶対零度の世界から復活しやがったのだ。
 「えええっ、なんでッ!?」
 恐るべし、変態の気迫。だが、もう悲鳴を上げて逃げ回る事に疲れたみどり達は、この場で何とかしようと試みる。沙羅の、人の心を懐柔する力を持つ歌声、それでこの歪んだH氏の心を真っ直ぐにしようと、沙羅が美しい歌声を奏でた。その声が聞こえた、全然関係ない人々の心はそれで癒されていたが、ちょっとやそっとの歪みではないH氏にとっては、その歌声は和んで尚一層、変態道を極めようとの決意へと変化してしまったのである。
 グヘヘヘ、との笑い声も、グッヘッヘッとグレードアップ?する。それを見たみどりが、きっと眼差しを強くした。

 「沙羅ちゃん、私に任せて」
 「え、どうするの?」
 「きっとね、きっとこの人、私達が恐がって逃げ惑うから、嬉しがって追い掛けてるに違いないわ。だったら…」
 こうすれば!
 「おーっほっほっほっほっ!」
 みどりの、天才的な演技力が、可愛げな女子高生を一気に女王様へと変えた。その変貌振りに、みどりの演技力を知っている沙羅でさえ、びくっと身体を竦ませて一歩退いた。
 「あ、あの……」
 「いい加減にしなさい、この汚らしいブタ!私の足元に跪いて、靴の先をお舐め!」
 みどりが腕を振り上げて打ち下ろす真似をすると、まるでピシッと鞭が鳴る音がするような気までする。こっちが下手に出るから向こうが付け上がるんだ、と思ったみどりは、Sの女王様になる事でH氏を威圧しようと思ったのだが。
 ……こう言う類いの変態は、得てしてMなものだ。(←偏見)
 見事なみどりのS女王様ぶりに、H氏の目がとろんとなる。不気味度百二十%アップだ。みどり女王様の仰るとおり、その場に跪く。その様子は至上の悦びに打ち震えているようだ。女王様の革靴へと屈みこむ様子に、さすがの名女優も思わず素に戻ってしまった。
 「いやああぁっ、近付かないで!!」
 思わず、身を屈めたH氏の後頭部を、足でむんずと踏み付けてしまった。勢い余ってH氏は顔面から地面へと見事なダイブ。キャー!と悲鳴を上げつつも、みどりの足はそのままぐりぐりとH氏の後頭部に靴の踵をめり込ませ続けた。
 「も、もういいから…そんな事よりもはやく逃げましょ〜?」
 沙羅が、H氏を踏み付ける事に夢中なみどりの袖を引く。まだ少しS女王様の演技が残っていたらしいみどりは、はっと我に返って沙羅の方を見た。
 「あっ、あっ、私…うん、そうね。…でも、逃げたらまた追っ掛けてこないかな」
 「そうね、追いかけるのが嬉しい、みたいな所、あるものね…何とかして、諦めてくれないかな、沙羅達の事…」
 うーん…と二人はその場で立ったまま考え込む。その間にH氏は、変態ならではの打たれ強さでもって復活し、地面に両腕を突き、むくりとその身体を起こした。そんなH氏を、沙羅とみどりが見下ろす。きょとんとしたような無垢な目で、H氏を見詰めた。

 「あの……」
 「へ?」
 H氏は、さっきまで恐怖に打ち震えていた女子高生達が、急に自分に話し掛けてきたので驚いて目を瞬かせる。みどり達は、怯える訳でも蔑む訳でも叱咤する訳でもなく、純粋な疑問として、H氏の格好をまじまじと見詰めた。
 「あの、どうしてコートしか着てないんですか?」
 「と言うか、どうしてこんな暖かいのに、コート着てるんですか?」
 「どうして靴は黒いのに、白い靴下履いてるんですか?」
 「どうしてそんなに脂ぎってるんですか?」
 「そんなに暑くないのに、なんで汗だくなんですか〜?」
 中にはどうでもいいような質問も混ざっているが、いずれにしても、何の意図もない純粋な質問は、H氏自身にやたらと響いたようだ。改めて己の姿を見下ろしていると、そのあまりの情けなさに涙が出そうだった。ついでに、さっきまで自分がしてきた行為の数々まで思い起こされ、情けなさに拍車がかかって、そのまま地面にめり込む勢いで落ち込んだ。
 「す、…すみません〜〜〜!!」
 昆布みたいな幅広の涙を長く引き伸ばしながら、H氏は凄い勢いで走り去っていった。その素早さは、さすが元・変態と感心したくなるようなものだった。(←また偏見)

 「……行っちゃったね」
 「うん、行っちゃった。よかった〜、諦めてくれて〜」
 「沙羅ちゃんの言うとおりだったね。フツーに対応したら、我に返ってくれないかな、って」
 「だって、恐がってもダメ、脅してもダメ、多分許してって頼み込んでもダメだし、一緒になってはしゃいでもダメ。あっち行ってって言ったらもっと喜ぶだけだろうし…だったら、フツーに相手してあげれば、一番いいんじゃないかなって思ったの」
 「…変態さんは、当たり前の対応をされるのが、一番苦手なのね…」
 しみじみと、みどりが呟く。心のメモに、今日の教訓を書き込んだ。パン、と両手を打ち鳴らすと、にこり笑って更に笑い掛ける。
 「さ、変態さんもいなくなった事だし、沙羅ちゃん、喫茶店に戻ろうか!」
 「そうね、いつものメニューで、厄払いしましょ!」
 にっこり微笑み合って、みどりと沙羅はまた肩を並べて喫茶店への道を戻り始める。

 そんな2人の後ろ姿を曲がり角の影からじっと見詰める、H氏・改の存在には気付く訳も無く……。


おわり。
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東京怪談
2004年05月17日

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