▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『ムカつくんだからしょうがない 』
不動・修羅2592


 人生というものには……まぁ、波というものがありまして。なかなか思い通りに事が進まないなんてことはざらにあるということで。道端に光るものがあるからラッキーと思ってさっそく拾おうとしたら後ろからバイクが迫ってきて、慌ててそれを避けようとしたら犬の粗相した場所を足で踏みつけ、さらにはお金だと思っていたそれが何の価値もないメダルだった時の悲しさといったらもう言葉には表せないほど空しいわけです。悲しいのです。切ないのです。今回のお話の主人公、不動 修羅も結局はそんな境遇の少年であります。


 最近の彼はついてない。自分が大好きだったコメディアンの突然の訃報でショックな毎日。それに加え、超のつくくらい有名なマンガ家が関係する草間からの依頼を受け損ね、彼は失意のどん底どころかズンドコにいた。もしかしたら依頼の応援に駆けつけられるかと思い、一縷の望みを託して草間興信所のドアを豪快に開く修羅。しかしそこにはサイン色紙や未発表のキャラクターフィギュアを持って嬉しそうにしている連中がうじゃうじゃと……そう、彼らは立派に事件を解決して戻ってきた後だった。さらに追い討ちをかけたのが、サインをもらったにも関わらずあんまり嬉しそうな顔をしていない連中が存在したことだった。

 『うん……ガッコで自慢しようかなと思ってるくらいかな。』
 『俺にはこれの価値がよくわからん。だから親友にでも渡すつもりだ。』

 正直、ムカついた。正味な話、ムカついた。でも、彼らを殴るわけにもいかない。連絡の電話に対応できなかった自分がすべて悪いのだ。修羅は肩をがっくりと落とし、カラスにまでバカにされながら夕暮れの道を歩く。そしてたどり着いた先は誰もいない空き地だった。だだっ広い敷地を粗末な杭で四方を囲っているだけの粗末で人通りのない場所の中心に立ち、全身の力を無理に抜いて息を吐く……そしてその身にギャグな悪魔を降霊した! さっそく身体の中からマヌケな声が響き渡る……

 『なんじゃ、わしなんか呼び出したかて何の力にもなれん……あっ、わかった! お前ぇ、今日から芸人になりたいんやなぁ?』
 「じゃかあしいぃっ! お前は俺の身体にいてはならん存在だ! とっとと出て来い!」

 理不尽にもほどがある。自分からギャグな悪魔を呼び出したにも関わらず、さっさと出て来いとおっしゃる修羅。降ろした存在を出すも出さないも自由にできるので、修羅の身体からポンッと腰あたりまでの身長の悪魔がにやけた面をして出てきた。怯えているのかおどけているのかよくわからない顔と、一応悪魔らしい黒いカラーリングの身体と尻尾がトレードマークだ。

 『そ、そんなことわしに言われてもやな〜、わしは神さんちゃうからな〜。』
 「黙ってろ! 俺は今、どうしようもなく気が立ってるんだ!!」
 『え、木が立ってる??』
 「文章でしかわからんネタをぉ、俺に振るなぁぁぁ! オラオラオラオラオラオラオラ!!」
 『ブケブヌチューーーッ!』

 もう尻尾をつかんで逃げられなくして、顔も身体もお構いなしに殴る殴る殴る。殴る殴る殴る。殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

 『で、でも親ビン、わ、わしは関係ないんちゃうかな、その怒りとはまったく、これまた、これっぽっちも。』
 「お前のそのギャグっぽい言い回しがまたムカつくんだよ!」

 今度は蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る……何の理由もなしに暴力を振るわれる悪魔もさすがに音を上げる。だが、悪魔もギャグ出身とだけあってなかなかの筋金入りだ。そう簡単にごめんなさいと言える性格ではない。哀れな悪魔は悲痛な叫びを上げながらも芸人魂一直線のセリフを連呼する。

 『痛いよ痛いよ〜〜〜。わし、ホンマにちゃうねんで。今度のマンガ家の事件かて、わしの友達でもなんでもない無関係な人間が』
 「お前は悪魔じゃねぇか! ドラララララララララララ!!」
 『ブゲゲゲゲゲゲ………だ、だからだから、パンチやキックでツッコミするの止めてくれへんかな、正味な話……』

 両手で殴りかかった修羅の手からするりと尻尾が抜け出る……ゆっくりと修羅の前から逃げ出そうとしている悪魔の動作を見た修羅が大声で叫ぶ。

 「逃げたら……サタン降ろすで。ギャグじゃ済まんぞ。」
 『そりゃ勘弁、それも勘弁、ホンマにわしが何をした? わし、今日はなんもしてないで?!』
 「……お前が普通にマトモに喋るだけでも、なんか無性にムカついて」
 『ま、ま、またんかい、こらっ! なんでわしが冗談言わんようになったらまた怒んねん、おかしいやないか!』
 「てめぇ、生意気にも俺にたてついたな! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!』

 悪魔の言い訳が始まると、修羅は何らかの言いがかりをつけて殴る……もはやサンドバック状態になってしまった哀れなギャグ悪魔は何度も何度も何度も何度も何度も殴られ、何度も何度も何度も何度も何度も蹴られ、なんと霊体がボコボコになってしまっていた。そのうち悪魔が本当に泣いて謝るものだから、修羅も興ざめしてしまったのか大声で「とっとと帰れ」と叫び、目の前から消えるように指示する……その時、激痛から逃れ天に昇る悪魔の姿が天使のようなポーズだったのがさらにムカついてもう一回降ろそうかと考えてしまった。修羅は誰もいない空き地でつぶやく。

 「まったく……俺のネタを台無しにしやがって……」

 すべてが空回りになった自分の行動を少しすっきりさせた修羅はポケットに張り倒した両手をポケットに突っ込んで、そのままゆっくりと家路へ向かった。

PCシチュエーションノベル(シングル) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年05月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.