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『危険な遊戯 』
モーリス・ラジアル2318)&ケーナズ・ルクセンブルク(1481)
●喧騒を逃れて
 それは‥‥ちょっとした偶然から始まった。
 とある女性の退屈しのぎで出会った2人‥‥ケーナズ・ルクセンブルクと、モーリス・ラジアルは、趣味趣向が似通っていた事もあり、時折、茶を嗜む程度の仲になっている。
 もっとも、ケーナズはこれでも『芸能人の恋人』と言う肩書き付きで、モーリスの方も、狙い定めた少年がいる為、とりあえずは極々当たり前に、『悪い仲間』と言った関係だったのだが。
 冗談半分から、『今度、お互いをパートナーとして試してみよう』と言う話がまとまり、郊外のホテルを抑え、2人して遊びに行こうと言う話になった。
「ケーナズさん」
 待ち合わせの駐車場。目の前に停まっているケーナズの愛車を見て、モーリスの額に、青筋が浮かんでいた。
「ん? なんか問題があるのか?」
 相手の方は、何も気にした風情はない。と、そんな彼に、、モーリスはこう怒鳴りつける。
「ありますよっ! 何なんですかっ! この車はッ!」
「秋に発注して、ついこの間納車されたばかりの新車だ♪」
 どう見ても、街中や、高速道路をぶいぶいとかっとばすタイプのスポーツカーである。
「ケーナズさんっ! これから向かうのは、創業120年、山奥の木造老舗旅館なんですよっ! こんな派手な車で乗りつけたら、それこそ宣伝しているようなものじゃないですか!」
 アウトドア向きではない車種に、そう怒鳴りつけるモーリス。
「そう言うな。新しい車を手に入れたら、ドライブに行きたくなると言うものだろう?」
「だからって、日本旅館にポルシェで乗り付けるアホがどこにいるんですかっ!」
 気持ちはわからないではない。この男が、4WDのファミリーカーなど見向きもしない事も知っている。それでも、時と場合と場所を考えろと、そう続ける彼。
「車でなければ行けない場所なんだから、そんなにぎゃあぴい騒がなくてもいいじゃないか。それに、けっこう広いし」
「スポーツカーの居住性なんて、どうでもいいです」
 なだめるようにそう言ったケーナズの横に、そう言いながらも、しっかり乗り込んでくるモーリス。憮然とした顔でも、乗ってしまえばこちらのものと言う訳で。
「そんな事はないさ」
 すいっと身体を近づけてくる彼。すでにシートベルトを締め、身動きが取れなくなったモーリスの下肢に、服の上から触れる。
「ほら、こんな事だって出来るし‥‥」
「‥‥ぁ‥‥ッ‥‥」
 予想していなっかった行為に、彼の口から、艶のある声が零れ出た。
「悪くないだろう‥‥?」
「ちょ‥‥っと、ケーナズ‥‥さん‥‥っ‥‥」
 突き飛ばそうとしたモーリスの腕を押さえ、座席の後ろへ固定してしまったケーナズは、構わずその唇を奪い取る。
「んん‥‥っ‥‥」
 逃れようとしたモーリスを、その舌先で絡めとり、歯列をなぞる。と、ほどなくして観念したのか、抑えていた彼の腕から、力が抜けていった。
「ふ‥‥ぅ‥‥っ‥‥」
 そのまま、思う様口中を蹂躙し、お互い、その柔らかい感触を堪能してから、ようやくケーナズは身を離す。
「不意打ちとは卑怯じゃないですかー」
 肩の力を抜き、口元を押さえながら、そう言うモーリス。呆れているが、怒っている様子はない。と、彼は、そんなじと目の表情を消し、代わりに媚びる様なそれを浮かべながら、自らケーナズを抱き寄せていた。
「それに‥‥」
「なんだよ」
 声の調子を落とし、ひそひそ話をする時の口調で、モーリスは耳元に囁きかける。
「‥‥私を味わうのに、車の中だけだなんて、もったいないでしょう‥‥?」
「スリルは味わえると思うがね」
 もう一度軽いキスで、その甘い誘惑に答えながら、そう言うケーナズ。
「きちんとした運動できないですよ。私だって、‥‥を‥‥したりとか‥‥、少しは‥‥に‥‥サービスしたいですしね」
 そんな彼に、モーリスは彼にしか聞こえないほどの声で、煽っているとしか思えない、卑猥なせりふを吐いていた。
「ふふ‥‥。なら、この続きは旅館で‥‥かな?」
 その囁きの応え、期待に満ちた表情をしてみせるケーナズ。
「今すると、周囲にバレちゃますしね。そうしていただけるのなら」
「わかった。楽しみにしてるさ」
 身を離した彼は、今度こそ愛車を走りださせる。
(上手く丸め込まれた気がするけど‥‥。ま、いーか‥‥)
 そのまま、コンクリートジャングルを抜け出しながら、モーリスはそう心の中で呟くのだった。

●食事マナー
 数時間後。
「やっぱりこうなりましたか‥‥」
 予想はしていたんですよねー。と、ため息をつくモーリス。
「良いじゃないか。駆け落ちっぽくて」
 そんな彼に、ケーナズは気にするなと言った風情で、そう言った。
 今、彼らが居るのは、予約した宿ではない。そこから歩いて30分ほどの藪の中だ。モーリスの予想した通り、スポーツカーで乗りつけた2人は、地元の記者達に追い掛け回され、それから逃れるように、この場所へとたどり着いていた。
「どこまで行くつもりですか?」
「向こうが諦めるまで」
 いい加減辟易した表情のモーリスに、ケーナズはそう答えている。
 右を向いても左を向いても、大自然は偉大だコールしか聞こえてこないような光景ばかり。うんざりしても、仕方がないと言ったところだろう。
「えー。奴ら、しつこいですから、簡単には諦めてくれませんよ」
「そういうものか?」
 おまけに、芸能レポーターと言えば、諦めが悪い事で有名だ。
「ケーナズさーん! どこ行ったんですかー?」
「ほら、ね」
 直後、かなり歩いているにも関わらず、道路の方からそう聞こえてくるおっかけの姿に、モーリスは「言ったとおりでしょう?」と言った表情を見せている。
「仕方がない。もう少し奥へ行こう」
「えー。私、今日は実務装備してないんですけど」
 そのケーナズが指した場所を見て、彼は口を尖らせた。確かに諸所様々な庭園を管理している職業だが、実際に作業をこなせる衣装を常に携帯しているわけではない。いや、むしろスーツの場合が多い彼は、不服そうな顔をしている。
「そう言わないで。山の中を散策していると思えば」
「散歩のレベルじゃないですよ、こんなの」
 そう言うのは、もっと人里の近い道路で、行うもんですよ。と、そう言いながらも、モーリスはケーナズの後についていく。
 ところが。
「まぁそうだろうなー。それが目的だし」
 その同行者が、そう言いながら、歩みを止めた。突然止まられて、スピードを緩める事が出来なかったモーリスが、勢いその背中にぶつかってしまう。
「突然止まらないで下さいよ。なんなんですか? いったい」
「判らないか?」
 顔を上げたケーナズの口元に、モーリスがいつも目当ての少年をからかう時と同じ笑みが浮かんでいるのを見て、彼は表情を引きつらせる。
「って、まさか‥‥」
 そう言った刹那、彼はケーナズに足を引っ掛けられて、その場に転がされていた。
「ふふ。良い景色じゃないか‥‥なぁ?」
 立ち上がりかけたところを、組み敷かれる。「あ‥‥っ‥‥。ちょっと‥‥、ケーナズさ‥‥こんな所‥‥で‥‥っ‥‥」
 モーリスは文句を言いながらも、頬を朱に染め、堪える様に身を震わせていた。
「こんな所だから、燃えるんだよ」
「盛りのついた動物じゃないんですから、もう少しお行儀良く食べなきゃダメです‥‥て‥‥ば‥‥」
 途切れがちになる声。そんな彼のうなじあたりに唇を寄せて、ケーナズはこう囁く。
「だって、それが目的だろう? 今回は」
「んぁ‥‥っ‥‥」
 耳の裏辺りを、舌先でつつかれて、反射的にびくりと腰が引けてしまうモーリス。それを強引に押さえつけ、しゅるりとベルトを外してしまうケーナズ。
「ふふ‥‥。スーツ着たままって言うのも、悪くないな‥‥」
 額へキスをされながら、そんな事を言うケーナズ。
「や‥‥ッ‥‥、だいたい、外でするなら‥‥いつでも出来るでしょ‥‥。はぁ‥‥ぅ‥‥っ‥‥」
 それを聞いたモーリス、そう抗議する。しかしそれでも、与えられる刺激は、彼のその部分へと、意識を集中させてしまうもので。
「あ‥‥っ‥‥や‥‥そんな‥‥だめ‥‥」
 力の入らない腕で、ケーナズを押しのけようとする彼。
「そんな事言って、もうたまらない‥‥って顔してるぞ‥‥」
 それを知っているケーナズは、自身に伸ばされた腕を背中へと回し、背中を指でなぞりながら、行為へと没頭する。
「何バカな事‥‥を‥‥っ‥‥。ん‥‥っ‥‥」
 ケーナズの言葉を否定しきれないモーリス。耳にかかる彼の吐息が、その腕をケーナズへとしがみつかせていた。
「あぁ‥‥っ‥‥。ケーナズ‥‥さん‥‥っ‥‥」
 鋭敏な部分なで回され、そのまま自分をあけわたしてしまいそうになる。
「スリル&ワイルドって事で。いただきます☆」
 観念したらしいモーリス、ケーナズにそう囁かれたのを合図に、誘うように膝を割り開かせる。そんな彼に、身を離したケーナズが一言。
「やっとする気になった?」
 頷くモーリス。それでも、全ては脱がない。ジャケットだけは放り投げたが、その下はボタンを外しただけだ。チラリズムの美学と言う精神を刺激するような、エロティシズム溢れる美味しい姿となった彼の目の前で、ケーナズは自身の上着を脱ぎ捨て、邪魔なネクタイを、藪の中へと放り捨ててみせた。
「1回だけですよ。痛かったら、許しませんから」
 そう言いながら、モーリスは、しがみついて、その耳へ、頬へ、そして唇へと逆にキスをしてくる。そうして‥‥彼が、ケーナズの耳へ、口説き文句を囁きかけようとした、その時だった。
「「「ぎゃーーーー!!!」」」
 周囲に響き渡る、3人分の悲鳴。
「何だ? 今のは」
「さっきのおっかけですかね」
 中断されて、不機嫌そうな2人。聞かなかった事にして、イケナイ行為を続けようとすると、再び3人まとめて、助けを呼ぶ声。
「どうする?」
「放っておくわけにもいかないでしょう」
 ケーナズの言葉に、仕方なさそうに身を起こすモーリス。
「良いところで‥‥」
「まったくです」
 嫌がっていたわりには、一度関さえ切ってしまえば、ノリノリでやる気満々だったらしい。不服そうにそう言って、悲鳴の上がった方へと向かってみれば。
「あれは‥‥」
 記者たちを追い掛け回す、異形の姿。どうやら、特殊な能力てんこもりのモーリスと、PK能力持ちのケーナズの気配に食欲をそそられた下級妖魔が、とりあえず目の前の餌を食したと言ったところらしい。
「これは、責任取らせないといけないですね」
「ああ。とっとと、そこをどいてもらうぞ!」
 ケーナズが食らわしたPK能力が、その妖魔を金縛りにする。
「休暇に来たんですから、変に力を使わせないで下さい‥‥ね、と!」
 妖魔とて、本来は別のものだ。それを知っているモーリスは、相手が抵抗するのも構わず、強制的に元の姿へと戻そうとする。
「相手の力量を測れなかった、己の未熟さを呪うがいい!」
 瘴気の姿となった妖魔を、引き裂くケーナズ。
「あーあ、ベタベタ。弁償して下さいよ」
 体液をまともに被ってしまったモーリスが、上着を脱ぎ捨てながらそう言った。
「そうだなー。帰って風呂にでも入ったら、考えよう」
「1人で入って下さい。スーツ買ってくれるまで、恋人ごっこはお預けです」
 力を使えば、元に戻す事も出来るが、彼はそこまでする予定はないらしい。とことん、ケーナズに金を出させるつもりのようだ。
「やれやれ。すっかりへそを曲げてしまったな。これでは、元に戻すのも一苦労‥‥か」
 以外と手間のかかる友人の姿に、彼はそう呟くのだった。

●蜜会
 それからしばらくして。
「どうやら、あの記者達も、諦めたみたいだな‥‥」
 宿へと戻って来たケーナズはそう言った。それまで、垣根の外に鈴なりだった『お客』も、夕方になり用事を思い出したのか、影も形も見えない。
「そりゃあ、一般人が、あれだけの目に合ったんだから。しばらくは、家で震えてるんじゃないですか?」
 取材班の方は、今頃は襲ってきた妖魔と、自分達が本来目指すべきだった事象とを天秤にかけながら、毛布を被っている頃だろう。そう解説するモーリス。
「そうだと思いたいがな‥‥」
 玄関先で、そう呟くケーナズは、暮れなずむ刻限の、独特の光加減で演出され、一枚のポートレートの様な横顔を垣間見せていた。
「ん、どうしたんだ?」
「‥‥なんでもありません」
 見とれていたモーリス、ケーナズに問いかけられ、照れくさくなったように視線をそらす。
「強情は良くないなー。顔が緩んでるぞー」
「余計なお世話です。自覚があるんなら、もう少しフェロモンの放出でも、押さえたらいかがですか?」
 くいっとあごを持ち上げられて、モーリスはそう言った。
「そんな必要あるのか?
「大ありですよ。彼女が居るのにそれでは、余計な誤解を招きかねませんよ?」
 と、発端になった事は棚上げて、そう続ける。
そんな彼を、コレはこれで美味しいそうだ‥‥と言った表情で見下ろしたケーナズは、「そんな気ないし」と短く答えながら、その頬に軽くキスをする。
「さて、魅了も済んだところで、うっと惜しい連中もいなくなった事だし、今日のメインディッシュを‥‥」
 半ば乱れた装束のまま、玄関先の大黒柱に縫いとめようとするケーナズ。
「もうですか? 嫌ですよ、私は」
「何で」
 そこからするりと逃げ出されて、不満そうに口を尖らせる彼。
「それはこっちのセリフです。遊びに来たのに、こんな目に合わされて。これじゃあ、興が削がれます」
「すっかりご機嫌斜めだなー。それじゃ、せっかくのムードが台無しだぞ」
 どうやらモーリスは、まだ怒っているらしい。そのまま、部屋へと戻ろうとする彼に、ケーナズはそう言った。
「そうしたのは、あなたでしょ?」
「私は別に。お気に入りの車で、ドライブしに来ただけのつもり」
 その車種が大問題なのだ。あれがもし、普通のファミリーカーや、軽自動車だったのなら、騒ぎもここまでは大きくならなかっただろう。
 と、ケーナズは。
「今更済んだ事さ。違うか?」
「そりゃそうですけど‥‥」
 もっともな事を言って、モーリスを背中から抱きしめる。
「なら、いいじゃないか‥‥」
 後ろ手に扉を閉め、さらに鍵をかけると言う器用な真似をやらかしながら、ケーナズはモーリスのスーツに、手のひらを差し入れる‥‥。
「あ‥‥っ‥‥、や‥‥っ‥‥!」
 モーリスの背中が反り返った。
「気兼ねなんて、要らない」
 すでに、趣味趣向も好みのタイプもバレきった仲だ。快楽だけを求めるのに、何の恥じらいがあろう。
「もう‥‥少し‥‥気を使って‥‥て事で‥‥。ぁ‥‥っ‥‥、は‥‥っ‥‥」
 何しろ、つい先ほどまでは、やる気満々で突っ走っていた身体である。
「反応してるぞ。本当は‥‥イイんだろ‥‥?」
「ちが‥‥んぁう‥‥」
 服の上から触られているだけなのに、もう立っていられないほど、力が抜けてしまう。
「ほら、声出てるし」
「ケーナズ‥‥さんが‥‥、無理やり出させたんで‥‥しょうが‥‥っ‥‥」
 今や、ケーナズへ寄りかかっているのが精一杯の様子だ。非難するその眼差しにも、まるで迫力がない。
「出したくないのか?」
「せめて、全部済ませてからにして下さいよぉ‥‥」
 煽られて、吐息交じりのセリフを唇に乗せるモーリス。
「そいつはすまなかった。だが、機嫌は治ったろう?」
 手を離せば、へたり込んでしまう。荒い息をつきながらも、先ほどの不機嫌さ加減を吹き飛ばしたらしいモーリスに、ケーナズはそう言った。
「煽っといて、何を言うんですか。無理やりでも、襲う気満々に見えましたよー」
「ハズレ。それじゃ、今回の企画趣旨に反するし」
 モーリスの言葉に、彼はそう答えて首を横に振った。今回の旅行は、『許されざる恋の逃避行』がテーマ。いかにお互い不貞行為が目的とは言え、犯罪に手を染めるつもりはないと。
「かないませんね。あなたには」
「総攻ですから」
 そこだけは、わざと敬語を使い、慇懃無礼な仕草で、答えてみせるケーナズ。
「なら‥‥、条件が1つ‥‥」
 そんな彼の首筋に抱きつき、モーリスは低い声音で囁いていた。
「何なりと」
 しっかりと抱きとめて、ケーナズはまるで姫君を扱うかのように、彼を横抱きにする。
「きちんと、雰囲気作って下さい。私も、それなりの格好をしていきますから‥‥ね?」
 旅の垢を落として、洗い立てのバスローブを着て。その自慢のボディを、石鹸の香りで引き立てて。
「わかった。期待して待ってろ」
 答えたケーナズが、約束を証立てるキスをくれる。
「ん‥‥」
 それに答えながら、モーリスは小さく『待ってます』と、呟くのだった。
 そして、夜も更けた頃‥‥。
「お待たせしました」
 ホテルが用意したバスローブを着て、姿を見せるモーリス。
「似あうな」
 既に、ケーナズは用意を整えて、サイドテーブルにグラスをおいて、くつろいでいた。
「あなたこそ」
「着慣れているしな‥‥」
 まるで、どこかのマンションの宣伝めいている。その隣に極自然な仕草ですりより、モーリスはその身を預けた。
「でも、イイ男に見えますよ。すごくソソられる‥‥」
 耳元で囁かれる。そんな彼を捕まえて、ケーナズはまるで恋人にそうするかのような、しっとりとしたキスをくれた。
「ん‥‥」
 決して、舌を絡ませあうような、濃密なそれではない。唇の感触を確かめ合う‥‥それだけの口付け。
「これで、満足か?」
「ええ。ささ、まずは一献‥‥」
 それでも、心地よさを得たモーリスは、そう言ってよく冷えたワインを差し出した。
「毒なんて、入っていないだろうな」
「お望みなら、誘淫剤でも調合しましょうか?」
 ケーナズにそう言われ、モーリスは胸元に触れさせた。それくらいのものなら、すぐにでも出ますよ? と、ばかりに、内側の薬包みをちらつかせながら。
「それは君に含ませた方が良さそうだ」
 胸元から、その薬包みを取り上げ、ケーナズは開いた内懐に手を差し入れる。
「なら、あなたの口で飲ませて下さいよ‥‥」
 とろとろにして‥‥くれるんでしょう? と、熱っぽく囁きかけるモーリス。
「ああ、そうだな」
 低く返事をかえしたケーナズは、そう言って、もう一度キスをする。
「夢中になって、火傷しても知らないからな‥‥」
「ふふ、そう簡単には、オチませんよ‥‥」
 ケーナズの言葉に、モーリスは嫣然と微笑んで、わざと足を閉じてみせる。そして、代わりに自ら、胸元を開いて見せた。
「お望みどおり、牙城を崩して差し上げよう‥‥」
 鎖骨の辺りにむしゃぶりつくようにして、彼の誘いに乗るケーナズ。
「受けてたちます」
 それに答えるようにして、彼の背中に手を回すモーリスだった‥‥。

●帰り道
 翌朝の明け方。まだ薄暗い部屋で、バスローブだけを羽織った姿のまま寄り添う、ケーナズとモーリス。
「うー‥‥。喘ぎ過ぎて、のどが痛い‥‥」
「キミが、あんまり可愛い声だすからだよ」
 その手に持ったグラスに、ミニバーのウイスキーを注ぎながら、ケーナズはモーリスの反応を楽しんでいる。
「満足できました?」
「まぁ、それなりに」
 返って来たのは、友人としては、最上級の賛美のセリフだ。
「本家にはかないませんか‥‥」
「それは言わないお約束」
 少しうらやましげなモーリスを抱き寄せながら、ケーナズは、自身が口に含んだ酒を、彼の喉に直接流し込む。
「ふふ‥‥。たまになら、相手をしてもいいですよ」
「気が向いたら、そうさせて貰うさ」
 そう言って、グラスを鳴らす2人は、どう見てもカップルにしか見えない。
 そう。
 御機嫌取りに夢中になって、結界もPKバリアも張り忘れたモーリスとケーナズは、翌日のスポーツ誌に、でかでかと『噂の恋人、別の男と密会! 実はふたまたかけていた!』と言う見出しをつけられ、一躍時の人になった挙句、件の恋人に、こっぴどく怒られてしまったのだった。

●ライターより
 相関図に○フレが欲しい今日この頃です。
 いやー、なんだかエロ加減が全開です。まぁ、この2人の場合、あーんなことやこーんなことやってても、結局は友人以上の関係にはなりえない様な気がしますが。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
姫野里美 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年05月07日

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