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『アキバ攻防戦・最大の敵は…… 』
自動人形・七式1510)&吏綿徒・朱樹(3104)
 日本最大の電気街、秋葉原。
 この街には、各地からありとあらゆる種類の電化製品が集まってきていると言っても過言ではない。
 だが、その引力は、時として「招かれざるもの」をも、この地へと招き寄せていた。

 付近一帯に散らばる、巨大なチェスの駒状の物体。
 その形状から「ポーン」と呼ばれるそれらは、この街を占拠するために送り込まれた量産型の兵器であった。
 内部には多数の電磁兵器を搭載しており、量産型とは言え、その戦闘能力には侮るべからざるものがある。
 そのポーンが、二百体近くも、この街に侵攻してきたのだ。
 不幸にしてその場に居合わせた者たちの中に、この暴挙に立ち向かえるだけの力を持つ者などいるはずもなく、付近一帯はあっさりとポーンたちの占領下に入った。

 この突然の出来事に、人々は皆震え上がり、なるべくポーンたちを刺激しないようにしつつ、じっと助けを待った……と、普通ならば、そうなるところであったろう。
 ところが、今回は少々様子が違った。

 秋葉原は、日本最大の電気街であると同時に、日本最大のオタクの街でもある。
 当然、ポーンたちが押し寄せてきた時にも、秋葉原には多くのオタクが存在した。
 そして、その中には、「メカ」だの、「兵器」だの、そういったジャンルに並々ならぬ興味を示す者たちも、少なからず含まれていたのである。

 彼らにとって、まるでアニメか特撮の世界の産物のような「戦闘メカ」は、これ以上なく関心をそそるものであり、その侵攻地点に偶然居合わせたことは、不幸などでは断じてなく、むしろ千載一遇のチャンスであった。
「生でこんなすごいものが見られるなんて!」
「この電磁砲の発射口周りのデザインはいいね。実用性も高いし、見た目的にも素晴らしい!」
 口々にそんなことを言いつつ、嬉々としてポーンを観察しはじめるオタクたち。
 中には、デジタルカメラや携帯電話を取り出して写真を取りはじめる者までいる。
 これといった実害がないからか、ポーンたちも特に追い払おうとしたりはしない。
 それをいいことに、オタクたちはこの貴重な機会を一秒たりともムダにするまいと調べまくり、撮りまくり、そして語りまくった。




 七式と朱樹が秋葉原にたどり着いたのは、ちょうどオタクたちの撮影や批評が一段落した頃だった。
「思ったより、状況は悪いようですね」
 予想以上の民間人の多さに、七式が深刻そうな顔をする。
 こうも民間人があちこちにいては、流れ弾が当たらないように戦うのも容易ではない。
「そんなん言うても、やるしかないやろ」
 そう答えながら、朱樹は全く別のことを心配していた。
 オタクのことである。
 もともと機械いじりが大好きな朱樹は、何度もこの街に来たことがあり、その関係上、オタクについてもそれなりには知っている。
 その知識から判断する限りでは、彼らの多数が、七式に尋常ではない興味を示す可能性があるのだ。
 なにしろ、「美少女」型の「人型機械」で、その上これから彼女が行おうとしていることはポーンたちの駆除、つまり「戦闘」である。
 これだけオタクが食いつきそうな条件が揃っていて、何事も起こらないはずがない。
(問題が片付いたら、すぐにここを離れた方がええな)
 朱樹がそんなことを考えていると、七式が再び口を開いた。
「わたくしが敵を引きつけますので、朱樹様はその間に他の方々を避難させてください」
「ん。うちにまかしとき」
 その言葉に、朱樹は大きく頷いてみせる。
 それを確認してから、七式は全速力で駆け出していった。

 万一回避されても、他の人々に被害が出ないように。
 そして、仮に相手を仕留め損ない、反撃を受けたとしても、他の人々を巻き添えにせぬように。
 計算しつくされた角度から、七式が必殺の一撃を放つ。
 銃弾は狙い通りにポーンの装甲を貫通し、メインコンピュータを撃ち抜いた。
 さらに、異変に気づいて駆けつけた周辺のポーンたちをも、七式は同じようにして素早く沈黙させていく。

「さ、今のうちや! はよ避難して!!」
 脱出口が開けたタイミングを見計らって、朱樹が避難を呼びかける。
 それを合図に、取り残されていた市民が次々と避難を開始した。
(この分なら、どうにかなりそうやな)
 市民を盾にさえされなければ、七式とポーンには歴然とした性能の差がある。
 このまま順調に避難が完了すれば、ポーンの駆除が終わるのにさほどの時間はかからないだろう。

 しかし、ことは朱樹の期待したようには運ばなかった。
 何と、オタクたちがデジカメ片手に七式の後を追いはじめたのである。
「美少女型戦闘アンドロイドだっ!」
「生でこんなすごい戦いが見られるなんて!」
「萌えーっ!!」
「こっち向いてーっ!!」
 さすがに、これは朱樹にとっても予想外だった。
 いくら七式が「萌え」であっても、彼女を追って戦場に突っ込んでいくほどオタク連中も無謀ではあるまい、と踏んでいたのだが、その読みは見事に裏切られたのだ。
「どこ行くねん! そっちやない、こっちや!」
 慌てて叫ぶ朱樹だったが、避難してくれるのはオタク以外の人々だけで、オタク連中はいっこうに彼女の指示に従うそぶりを見せない。
 それどころか、七式が奥へ突き進むに連れて、追いかけるオタクの数はどんどん増えていく。
 さらに悪いことに、集まってくるポーンの数も次第に多くなってきているが、オタクが周囲に大勢いるせいか、七式はなかなか攻撃に移れないようだ。
「朱樹様! 早くその方たちを避難させて下さい!」
「そない言われても、うちの言うこと聞いてくれへんのやっ!」
 とりあえず七式にはそう答えたものの、この状況を放っておいてはいつか被害が出てしまう。
「はよ避難せい言うてんのがわからへんのか!?」
 思いきり怒鳴ってみても、従う従わない以前の問題として、もはや耳に入っている様子すらない。

 ことここに至って、朱樹の怒りは頂点に達した。
「ええかげんにせんかいっ! わいら、いつまでもなめたことしとったらどないなるかわかってんやろなぁ!?」
 その声に、オタクたちが一斉に視線を朱樹の方に……というより、朱樹の周囲に向ける。
 ふと見ると、朱樹の回りには、いつの間にかいくつかの狐火が浮かんでいた。
 どうやら、怒りのあまりついつい出してしまったらしい。
 だが、これが功を奏したのか、先ほどまでは全く聞く耳を持たなかったオタクたちが、今は皆朱樹の方に注目している。
「それは……まさか?」
「ひょっとして……?」
 そんな動揺したような声さえ、微かに聞こえてきている。
(もう一押しすれば、避難させられそうやな)
 その時、朱樹の脳裏に、一つのアイディアが閃いた。

「これが目に入らへんのか?」
 そう言いながら、普段は隠している尻尾を見えるようにしてみせる。
 彼らは、狐火を見て「まさか」「ひょっとして」と言った。
 ならば、某時代劇の印籠のように尻尾を見せることで、自分が「お狐様」であることを証明できれば、彼らも指示に従うようになるだろう。
 朱樹はそう考えたのだが……「まさか」「ひょっとして」に続く言葉は、残念ながら「お狐様」ではなかった。

「……しっぽ娘だ」
 ぽつりと、オタクの一人がそう呟く。
「へ?」
 予期せぬ反応に戸惑う朱樹。
 と、次の瞬間、オタクたちの目がぎらりと輝いた。
『しっぽ娘萌え〜っ!!』
 怒濤の如く殺到してくるオタク連中。
 その姿に本能的な恐怖を感じて、朱樹は一目散に逃げ出した。
(や、やってもうたっ!)
 七式のことにばかり気を取られていて、「しっぽ娘」も「萌え」の対象になり得るということを、朱樹はすっかり失念していたのである。

 ともあれ、こうしてオタクたちは戦場から引き離されたのだった。





「……あー……えらいめに遭うたわ」
 ぐったりした様子の朱樹が帰ってきたのは、それから何時間も後のことだった。
 もう一度誰もついてきていないことを確認してから、改めて安堵の息をつく朱樹。
「ご無事だったのですね。いつまで待ってもお戻りにならないので、心配しておりました」
 七式がそう言うと、朱樹は苦笑しながらこう答えた。
「本当はもっとはよう連絡したかったんやけど、あいつらまくのにえろう時間かかってもうてな」
 どうやら、あの後ずっとオタク連中に追い回されていたらしい。
 そのことについてはあまり思い出したくないのか、朱樹はすぐに話題を変えてきた。
「それはそうと、そっちのほうはどないなったん?」
「はい。朱樹様のおかげで、無事に目標を殲滅することができました」
「それやったら、まあ、結果オーライやな」
 報告を聞いて、朱樹はもう一度軽く笑った後、ぽつりとこう漏らした。
「けど……うちらは、当分あの近辺には近寄らん方がええな」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
西東慶三 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年04月28日

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