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『『壱華のライフワーク 縁樹たちの未知との遭遇』 』
葉山・壱華1619)&如月・縁樹(1431)

「けっ! ざまーみやがれってんだ馬鹿人形! これに懲りたら二度と邪魔すんじゃねぇぞー」
「あーはははは!! 兄ちゃん最高! でもいくらなんでも燃やそうとしちゃ駄目だよー、縁樹ちゃんに怒られるし」
『あンの阿呆兄妹めー!!』
「まぁまぁ、彼らも悪気があった訳じゃ」
『絶対あった!!』
 今日も壱華とその兄、そして縁樹の相棒のしゃべる人形は仲が悪かった。いや、別に壱華は『馬鹿娘』とか一括して『阿呆兄妹』と呼ばれようがさして頭にはこない。っていうか、それで怒ったら飼い犬に手を噛まれて怒る飼い主? のような感じになってしまうし。
 いやいや、しゃべる人形の持ち主はこの彼女、アッシュグレイの髪と赤い瞳が魅力的な如月縁樹、長身でスレンダーな美人さんの相棒なんだけど、だけど壱華にとっては自分の玩具のような物だ。そういう風だから壱華としゃべる人形は仲が良いのか、悪いのかわからないのだと想う。少なくとも壱華は彼が嫌いじゃない。
 そんな三人を見てあはははと笑っている縁樹。実は壱華の兄としゃべる人形との間で熾烈な争いが行われる原因ともなっている縁樹はしかし、せっかくの美人さんなれど彼女のナイトを自負するしゃべる人形に陰で彼女に恋する男どもが排除されている影響で自分の色恋沙汰にはまったくもって鈍感なので、それを理解していないのだ。うう、哀れなりと壱華は想わないでもないがそれもまた傍から見ていれば面白いので良し。そう、壱華は楽しい事が大好きの元気一杯の童女なのだ。
 今日も元気いっぱいに騒いだ壱華は大変満足。
 夕方の空をカラスたちが飛んでいく。かぁー、と鳴いて。
「ほぇ。もうそんな時間か。んじゃ、カラスが鳴いたから帰ろぉーっと♪ じゃあねぇ」
 壱華は満面の笑みを浮かべて、笑っている縁樹の腕の中でぶつぶつと文句を呪詛のように吐き続けているしゃべる人形に別れの挨拶をすると、大好きな保護者がいる家に帰った。
「ただいまぁー」
「お帰り、壱華君」
 帰ると壱華の大好きな保護者は薬を調合していた。彼は【千種】という薬屋を営んでいるのだ。
「お仕事ぉ?」
「そうだよ。薬の調合をやっているとこ」
 もちろん、その薬の素になっているのはアレだ。
 それを横から覗き込んだ壱華は部屋の隅に置かれているアレのストックがもうそろそろ尽きかけているのに気がつく。
(うん、また狩りの頃合だね。さてと、今度はどれぐらい狩れるだろう? 楽しみ♪)
 ぐぅっと両手を握り締めて微笑む壱華に薬を調合していた手を止めて、保護者はにこりと微笑んだ。親とは子どもの笑みが何よりも大好きで、疲れが癒されるものだからだ。
 こうして壱華は愛情いっぱいに育てられて、すくすくと育っているのであった。


 そんな壱華だって大好きな保護者のためには何だってしてあげたい。そしてその中の一つがこの山だ。そこは壱華の保護者の家が所有する持ち山で、そしてものすごい広さを誇っていた。いや、驚くのは実はそこではない。
 その山を目の前にして驚く事……それは、
「ついたよ。ここだよ。ここから入っていくの♪」
 さぁっと手を伸ばして説明する壱華の赤い瞳に映るのは日本でありながら日本ではないような景観を持つ山の風景。そこはジャングル顔負け、富士の樹海も真っ青な山。そう、ようするに簡単に言えばマジ、ここ日本? という感じだ。洒落にならないほどにうっそうと木々や雑草が生い茂り、3歩先はもはや見えない。今、この山の中から聞こえてきた声はなんだろう?
 なんだかとてもわくわくとしてそうな楽しげな顔の壱華の横にいる同行者如月縁樹はだけどそのアッシュグレイの髪の下にある顔になんだかとても嫌そうな顔をしていた。
「どうしたの、縁樹ちゃん。そんな顔をして? いつもの縁樹ちゃんらしくない」
 壱華は小首を傾げた。
 縁樹は旅人。好奇心は旺盛でいつも旅した色んな場所の事やその冒険の話を面白おかしく聞かせてくれるのに、こんな面白い山を前にしてその縁樹がそんな表情を浮かべるのは壱華にとっては予想外であった。
「山に嫌な思い出でもあるの?」
 こくりと小首を傾げる壱華。
「あ、ううん。なんだか虫がいっぱい出そうだなー、って」
 不恰好な笑みを浮かべる縁樹に壱華はこくりと頷いた。
「うん、虫はいっぱい出るよ。えっとねー、まず街の中では見ないようなこーんな大きな蛾とか。あとはあたしの両腕では届かないぐらいの太いミミズもいたっけ」
 もちろん、縁樹の顔から血の気はなくなった。
『うわぁぁぁ、縁樹』
 ふらふらとその場に倒れそうになった縁樹にしゃべる人形が慌てる。
 壱華はぽりぽりと頭を掻いた。
「ほんとに雑草狩り、大丈夫?」
 なんだかとても不安になってしまう。本当に縁樹は大丈夫だろうか?
「あー、えっと大丈夫。それにちゃんと二人の勝負を見届けなきゃだしね」
 二人の勝負。そう、今日はただの雑草狩りではない。これは壱華のハンターとしてのプライドをかけた雑草狩りでもあるのだ。
 壱華としゃべる人形は互いににらみ合って視線がぶつかり合う場所に火花を散らさせた。
 そう、事の始まりは今日も元気に狩りに出かけようとしていた壱華にしゃべる人形が声をかけてきたのだ。
『あれ、馬鹿娘。どこに行くの?』
 って。
 それで壱華は縁樹としゃべる人形に山に雑草を狩りに行くのだと告げた。すると、
「雑草を刈りに行くの、山に?」
「うん、雑草を狩りに行くの、山の」
『ひとりで?』
「うん」
 こくりと頷いた壱華に縁樹としゃべる人形は顔を見合わせて、それでその後の反応はそれぞれだった。
「山の雑草をひとりで刈るなんて大変だね」
『あははははは。山の雑草を刈るなんてできっこないよ。ほんとに馬鹿娘だなー』
 まあ、縁樹の言葉は嬉しかった。
 だけど聞き逃せないのがしゃべる人形の言葉だ。
「今、なんて言った? あたしに山の雑草を狩ることができない?」
『そうだよ。山の雑草を刈る事なんてできっこないよ』
 現時点では【かる】…同じ発音の刈ると狩るに大きな違いというか…まあ、色んな大きなズレがあるのだが、それに気づく事もなくこれまで多くの雑草を狩ってきた壱華のハンターとしてのプライドは傷つけられ、しゃべる人形はただただ山の中に生える雑草なんか刈れるわけがない、やったてしょうがないだろう、いったいこいつは何を言っているのだ、と単純に笑っただけであった。そう、あくまで彼は世間一般の常識の雑草を刈ると思い込んでいるのだから。だけど前途でも述べたように事実は違う。壱華の【かる】とは【狩る】だ。彼女はこれまで多くの雑草を狩ってきて、そしてそれらは薬として【千種】に並んだ。それは単なるお手伝いではなく、もはや壱華のプライドをかけたライフワークなのだ。
 そうしてもちろん、故にこの次の二人の会話はこうなる。
「あたしがじゃあ、あんたの前で雑草を狩ったらどうしてくれる?」
『ふん。何でも言う事を聞いてあげるよ。そうだね、一日【千種】でタダでアルバイトしてもいいね』
「ん、今言った言葉忘れないでよ」
 睨み合う二人に縁樹は苦笑いを浮かべながら仲裁役を買って出ようとするが、
『縁樹は黙ってて』
「そうよ、縁樹ちゃんは黙って…」そこで壱華はぱちんとさも名案が浮かんだと言わんばかりに両手を打った。「うん、縁樹ちゃんももちろんあたしが勝った時には【千種】でアルバイトしてくれるのだよね♪」
「え、僕も?」
 自分の顔を指差す縁樹に壱華は満面の笑みで頷いた。縁樹と自分の看板娘が二人もいれば【千種】はだんぜん活気付く。
 だけどその案に…
『ちょっと待ったー』
 と、やっぱりしゃべる人形がいちゃもんをつけてきた。
『それはダメ。絶対にダメ。断固拒否。そんな事をしたら余計に変な虫が縁樹にくっつく…』
「え、はぁ? 虫!!! うそうそ、嫌だ。取って取って、虫」
『え、あ、いや、そういう意味じゃなくって…』
 ものすごく嫌そうな顔でパニくる縁樹にさて、どう説明しようか悩むしゃべる人形。壱華は縁樹のお尻にくっついていたてんとう虫を指でつまむと、えい、って茂みの方に投げた。
「はい、縁樹ちゃん。もう大丈夫だよ」
「うわぁー、ありがとう。うん、僕、その案に乗ってもいいよ」
『あっ…』
 しゃべる人形はさまざまな事で口を大きく開けてフラストレーションを溜めた。同じ女の子同士でもやっぱり大事な縁樹に自分以外の他人が触れるのは許せないし、それに縁樹ったらいくら虫を取ってくれた命の恩人だからってそんなにほいほいと申し出に乗って。もう。
 顔を大きく横にふりながら彼はばんざいをした。
『で、具体的にはどうやって勝負するのさ? 広さの範囲と制限時間を決めて、それで勝負をやる? その制限時間内にその範囲の雑草を刈れたら馬鹿娘の勝ちって。もしくは制限時間内にボクと馬鹿娘、どっちが多く雑草を刈れるか?』
 いくらなんでもこの山すべての雑草を刈らなきゃ壱華の負け、などという大人気ない事は言わない。いや、別に言ってもいいけど、それを言ったら縁樹に怒られそうだし。それが彼の精一杯の妥協案であった。
 しかしそれを聞いた壱華はとても不思議そうな顔をした。
「はあ? 何を言っているの??? 広さ、制限時間……制限時間はいいとして広さって…動ける距離を制限するの? そうすると散らばって逃げられた時に狩れる数が少なくなっちゃうよ???? いいの?????? まあ、だから後者が有効かな?」
 小首を傾げる壱華。それとは反対方向に小首を傾げるしゃべる人形。縁樹はにこにこと笑いながら二人を眺めている。
 と、まあ、多くの誤解を抱えたまま三人は山にやってきたのだ。
 ジャングル顔負け富士の樹海も真っ青がキャッチフレーズのこの山に。

 
「さあ、それじゃあ、どんどんはりきって行こう」
 壱華は元気一杯に生い茂る彼女の身長よりも背が高い雑草を分け入って入っていく。その彼女に遅れて縁樹も虫が出てこないように祈りながら恐々と続いた。
 そして縁樹がそこに見たモノは……
「きゃぁぁぁーーーーーー」
 悲鳴をあげる縁樹。
『・・・なに、これ?』
 放心するしゃべる人形。
 壱華は大きくため息を吐く。また説明をしなくっちゃいけないのか。どうしてここに雑草狩りに連れてくる者たちはただの何の変哲も無い雑草を見て、こうも騒ぎ立てるのだろう? 壱華には理解できなかった。
「だからざ・つ・そ・う。雑草だよ」
「ざざざざざ、雑草って、これが?」
 縁樹は信じられないという表情で雑草を見た。
 そう、そこにいるのは雑草とはとても言えるモノではないモノたちだ。
 それははっきり言ってゲームに出てくるような奇怪な植物であった。
『魔界の花?』
 花はそう、ポリエチルン製の花びらのようにツルツルしていて、そこらのおばちゃんの唇に塗りたくられている口紅のように毒々しい赤。しかも蕾なのかな? と、想われるそれにはタラコ唇のような緑がくっついている。しかもなんだ、あの毒キノコを思わせるような身体に浮かぶ赤の水玉模様は???? 
『え、えええええ縁樹、あれ、見て・・・』
「いや、見ない。僕は見ないよ、あんな虫よりもきしょいモノ」
 縁樹は手で涙が浮かんだ赤い瞳を覆った。しゃべる人形はだけどもうそれは間に合わない。しっかりと彼は見てしまっている。にたりとねちっこく笑うように歪められた緑のタラコ唇の内側に並んだ白い物体を。それはなんというかまるで・・・
「うん、あれ、歯だよ」
 さらりと言う壱華。
 葉ではなく歯だ。
『歯。はははは』
 しゃべる人形はまるでギャグ漫画のような引き攣った顔をした。
「あはははは。変な顔ぉー」
 その顔を指差してお腹を抱えて笑う壱華に・・・
『うわぁー、危ない、馬鹿娘。後ろぉー』
 後方からそのざ、ざ…雑草が襲い掛かってくる。
 どうやらそれの根っこは伸びるらしい。しかも地表近くについている葉っぱ(これもものすごくふざけた事に大きさは人の頭ぐらいある。本当に・・・)が足のように見えて、その、あの…ありえないけど走ってるように見えた。
 そんな奇怪な物体が自分に差し迫っている…しかも結構鋭い歯を剥き出しにして迫られているというのに壱華はものすごくリラックスしていて、
 そうものすごく落ち着いている。慣れている感じだ。
「てぇい」
 そして彼女はワルツを踊るようにくるりと半回転したかと想うと、その振り向き様に能力を発動させて右手手の平に発現させた炎の玉を茎(しかもこれがまたありえないぐらいに太いでいやがる)に投げつけた。
 見事にクリーンヒットしたその炎の玉は茎を焼いて、『ウギャヤ嗚呼ァァァーーーーーッ』雑草は断末魔の悲鳴をあげながら打ち倒れた。
「あわわわわわわ」
『あがががががが』
 縁樹とその相棒はもろに聞いてしまったその雑草の断末魔の悲鳴に腰を抜かして座り込んでしまった。
 きっとよくRPGや神話などで出てくる薬の素ともなる抜くと心が壊れる悲鳴をあげる植物とはこんな声をあげるのではなかろうか?
「さてと、それじゃあ、勝負を始めようか?」
「『しょ、勝負?』」
 仲間の敵討ちだと殺気立つ雑草たち(どうやら知能があるようだ。そして縁樹もその相棒もあえて聞こえていないふりをしているが、こいつら、しゃべっている)に囲まれながらがたがたと震える体を抱き合う縁樹とその相棒に壱華は満面の笑顔で頷く。
「うん。雑草狩り勝負♪ するんでしょ。一日アルバイトをかけて。こいつら、一輪でも多く狩った方が勝ちだよね♪♪♪」
「雑草?」
『狩り?』
「うん。雑草狩り」
 バンバンと言いながら炎の玉を投げつけて奇怪な植物をなぎ倒していく壱華の姿にここにいたってようやく縁樹とその相棒は自分達の言うざっそうかりと彼女の言うざっそうかりとの違いに気がついた。
「あははは。雑草刈りと、」
『雑草狩りね』
 かりとは刈りではなく、狩り。確かにこれは狩りだ。
 壱華はあどけない笑みを浮かべながら襲ってくる奇怪な植物を炎の玉でなぎ倒し、逃げようとする雑草にも炎の玉を悠然と投げつけては狩りを楽しんでいる。
 もはやその姿は熟練者。完全なるプロフェッショナルを感じさせた。
『ち、ちくしょう。お父ちゃんの仇ぃだー』
「甘い。あまあま。バニラアイスクリームよりも甘いよ」
 無差別に雑草だけを狩っていく壱華と、『やれー』『右からまわりこめー』『シチュエーション3ABの56だ』「だから甘いよ。その作戦はもう既に見切った」『ぐわぁー』『ちきしょぉー、覚えてろよぉーーーー。すぐにまた増殖して、今度こそ倒してやるぅーーー』「楽しみにしてるねー♪」
 足下に累々たる雑草たちの屍を転がしながら、壱華は一輪だけをあえて見逃してやった。それでまた次の収穫ができる。これぞ自然と共存する者の知恵だ。
『あははは。縁樹。また旅に出よう。本当に世界は広くって知らないこと一杯だね。も、もっと見聞を広めなくっちゃ』
「うん、そうだね」
 今日という日は縁樹とその相棒は広い世界をたくさん見てきた自分たちなれど、まだまだこの世には自分たちの知らない世界や植物もいるのだという事を思い知った一日となり、そして…
「ふっふっふ。それではお二人さんにはきっちりと体で払ってもらうか♪」
「『ひ、ひぃえー』」
 壱華にとっては実りのあるとても楽しい一日であった。
 そして後日、【千種】ではかわいらしい二人の看板娘、壱華と縁樹、それにぶつぶつと文句を言いながら働くしゃべる人形の姿を見られたそうな。ただ、門外不出の秘伝の植物の種を取り扱った薬を触れる時だけは縁樹としゃべる人形は無口・無表情であったという。しかもなんだかひどくトラウマを抱えているような・・・
「まだまだね、縁樹ちゃんもしゃべる人形も♪」
 そんな二人を見ながら壱華はうんうんと満面の笑顔で頷いた。


 **ライターより**

 こんにちは、はじめまして。葉山壱華さま。
 いつもありがとうございます、如月縁樹さま。
 このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。


 今回はこのような面白いプレイングをいただいてありがとうございました。^^
 これまでの雑草シリーズを手がけてきたライターさまたちの作品は本当にどれも面白く、楽しく拝見しました。ですので僕がこれを担当してもいいのだろうかという想いでいっぱいになってしまって、緊張しました。
 今回の物語、楽しんでいただけてましたら幸いです。^^
 普通に壱華さんと縁樹さんたちが雑草狩りを楽しむのもよいかなーと想ったのですが、せっかくの壱華さんの相関設定。それを利用しない手は無いという感じでこのようにしました。
 元気いっぱいのたのしくかわいい壱華さん、書けて楽しかったです。


 それでは今日はこの辺で失礼させていただきますね。
 本当にありがとうございました。
 失礼します。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年04月26日

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