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『HONEY DAY 』
月見里・千里0165)&結城・二三矢(1247)

 どうして貴方の掌はこんなに温かい?
 一つのベッド。同じシーツの中。
 隣で眠る貴方の長い睫を見つめながら、繋いだ掌にそっと優しくキスをする。

 ずっとずっと、ずっとずっと一緒にいたいから。
 貴方に魔法をかけるの。
 貴方の眠っているその間に、私のいっぱいの愛が貴方の中に伝わるように。
 心のキスを繰り返し、
 貴方の胸にもたれて眠る。
 ……幸せ、だよ。



 コトコト鳴るのは、みそスープのお鍋。
 シュウシュウ言うのは、ケトル君。
 トントン、まな板の上でキャベツを刻んで、月見里・千里(やまなし・ちさと)はふと香ばしい香りに気がついた。
「なんだっけ……この匂い……」
 しばらく真新しいキッチンを、眺めて、千里は首を傾げてみる。
 ふと目の前に、もくもくもくもく、黒い煙が横切って。
「ああああああ!!!」
 コンログリルの中のお魚さんだ!
 あわてて取り出す。
 消し炭みたいに真っ黒にこげたアジだったもの、は見るも無残で、そのうえ。
「あっつーーーーい!!!」
 うっかりミトンも忘れて手を伸ばしたりしたから……。
 
 ダーン!ガランガンガララン!!

 おっきな音が、新しいおうちに響き渡った。
「……ふにゃ……ちー、どうしたの?」
 優しい旦那様がパジャマ姿で顔を出したのは、それからすぐのことだった。
 結城・ニ三矢(ゆうき・ふみや)青年は、千里が知ってるそれよりも少し大人びて見えた。
「うー、なんでもないよぉ?」
 涙目で振り向く奥様。
 床に転がる、真っ黒お魚。火傷した指をくわえながら、さいばしでそれを拾いあげてるその様子が、「なんでもない」なんて物語ってないけれど。
 彼女自身もちょっぴり大人びて見える。……勿論本人達は自らが変わったなんて気付いてないのだけど。
 それはちょっと先の未来なのだ。
 千里とニ三矢、二人があと数年後に手にする筈の、二人だけの生活を始めた頃の……風景。
「大丈夫? 火傷したの?」
 ニ三矢は千里に駆け寄ると、彼女のくわえてる右手の人差し指をそっと両手で包んだ。
「う、うん、でも大丈夫……。それよりお魚さんが……」
「ちーに怪我がないなら、それでいいよ」
 にっこり微笑むニ三矢。千里は頬を染めて、小さく、「ごめんね」って謝るのだった。

 主役のアジさんがいなくなっちゃったので、スクランブルエッグとサラダ、ご飯をやめてトーストとお味噌汁のモーニング。
「うーん、ちーは料理上手だから嬉しいな」
「ほんとー? ニ三矢にそう言ってもらえると嬉しいなっ」
 ミルクを手渡しながら微笑む千里。
 フリルつきのエプロンと、朝の空気がよく似合う、素敵な奥さんだ。
 ニ三矢はまだ着慣れないスーツ姿で、彼女を眩しそうに見つめた。
「それじゃ行ってくるね、ちー」
「いってらっしゃい、ニ三矢」
 玄関先の小さな別れ。
 夕方にはまた会えると思うのだけど、寂しくて寂しくてたまらないのはどうしてだろう。
「必ず早く帰ってきてね? ニ三矢」
 ちょっと寂しそうに千里が言うと、「もちろんだよ」ってニ三矢は千里を軽く抱きしめてくれた。
 それから、いってきますのキスをして。……1度じゃ済まないのは、二人とも寂しいから。
 そして、ニ三矢は、時計を気にしながら小走りで駅までの道を急ぐのだった。



 夕方。
 玄関のホンが鳴り響く。
 千里は元気いっぱい飛び出した。
「お帰りなさい!」
「ただいまっ! ちー!」
 ひし☆
 やっと会えた10時間後。片時も相手のことを忘れなかった長い時間を越えて。
 玄関先で抱き合った二人は、行って来ますよりも長いキスをして……。
 互いの体温を感じあい、深く深く口付ける。
「ん……ちー、……」
「ニ三矢……」
 体が熱くなってきて、憂う瞳で見つめあい、それから小さく苦笑して、二人は離れた。
「そうだ……あのね、お風呂も淹れたし、ご飯も出来てるよ。ニ三矢、どっちにする?」
 だって貴方が帰ってくる3時間も前から頑張ったのだから。新妻は家事だって全部愛情いっぱい☆ 愛する人の為なら怖いものなんかなくて。
「どっちにしようかな〜」
 スーツのネクタイを緩めながら、ニ三矢は目を細める。
 カバンを受け取り、隣を歩く千里。彼女をちら、と横目で見てから、突然ニ三矢は千里をぎゅ☆って抱きしめた。
「ちー、にしようかなっ♪」
「こ、こらぁ! ニ三矢ぁぁ」
 耳まで赤くなっちゃう千里である。
 なんとか、旦那様をお風呂に追いやり、キッチンに戻る新妻様。
 スープを温めなおし、サラダにコーンとパセリを加え、ドレッシングはもちろん手作り。
 ニ三矢がいる風呂場のシャワーの音を聞きながら、千里は機嫌よくボールに入れたドレッシングを泡たて器でかき混ぜる。
 ……ふと。
 湯気の少したちのぼる暖かな腕が、そっと千里を後ろから抱きしめた。
「ん?」
「ちー……いい匂い……」
「ニ三矢……」
 お風呂から上がったパジャマ姿のニ三矢が、千里の後ろに立っていたのだ。
 私が? それともお料理が?
 そう聞こうと思って振り向くと、ニ三矢の掌がそっと千里のエプロンの裾から侵入してきて、胸元に触れた。
「きゃっ……!」
「ちー、可愛い……」
 首筋に優しくキスをしながら、右手で千里の泡立て器を奪い、まな板の上に置く。そっと手首を握ったまま、左手は優しく彼女の胸元に触れていた。
「だめっ……まだお料理が……」
「ちょっとだけ……ちー、が可愛いからいけないんだ……」
 白い肌の上に舌を這わせ、びくっ、と反応する千里の反応を楽しむニ三矢。
「……も、もー……ダメだって……こんなとこで」
「誰も見てないし……」
 それはそうだけど。
 でもでも。まだ夕食前で……ここは台所で……。
 胸の先……敏感なところがくすぐられ、小さな悲鳴が飛び出してしまう。
 膝に力が入らなくなり、床に崩れ落ちそうな体。ニ三矢の腕がそれを支えて、かき抱く腕の一方が、ゆっくりと下がって……。
「……や……ん、ニ三矢ぁ……」
「ちー……愛して……る」

 ちょっと冷えたスープは、それなりに美味しく、そして、なんだか顔をあわせづらい二人の夕食だったり……。



「もー、だめなんだからねっ」
 お揃いのパジャマで、ふかふかのダブルベッド。
 並んで眠る二人。
「……ごめんね」
 そう言って優しく頬にキスするニ三矢に、千里はぷうと頬を膨らませてみたり。
 困らせる人は嫌い……。
 でも、やっぱり大好き。
 おやすみのキスをして、二人は手を繋いで、瞼をつむった。
 ずっとずっとずっと好き。ずっとずっとずっと一緒だよ。




 チチチ。
 
 小鳥の声が騒ぐ朝。
「うーん……」
 千里は、重い瞼をこすって目を覚ます。
 なんだかすごくよく眠った…………。 
 そして、大きな欠伸をひとつ。
「あれ?」
 何かに気付く。
 いつもの部屋。いつものベッド。……ひとりぼっちの。
 ……夢。
 なんだかすごく素敵な夢を見ていたのだ。
「……なんだっけ……」
 目を覚まして5秒で夢は忘却されるという。一度忘れたものを思い出すことは困難だ。
 それでも、いい夢だったというのは覚えてた。夢の中で私は幸せだった。
 とろけるような甘い夢だった。
 けれど、また出会えるような……また会えるような気がする。あの夢の景色に。
「……ってどんな夢なのか忘れちゃったのに」
 千里は苦笑して、小さく息を吐き、もう一度時計を見下ろした。
 ぼんやりしてる間に10分もすぎちゃってる!
 髪の毛が逆立つくらいびっくりして、彼女はベッドを飛び出し、あわてて洗面所に向かうのだった。


 +++おわり+++
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鈴 隼人 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年04月22日

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