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『親子の繋がり 』
門屋・将紀2371


 日本での一般家庭における子供という生き物は、《遊園地での料金半額》かつ《三食付きを含めた家事の恩恵》及び《一月一日のお年玉》等、大人が憧れるプラス面が様々あるが、《友達しか楽しみの無い学校》とか《深夜までの起床禁止》大人に憧れるマイナス面があるのもまた事実。なかなかに人生、頭から尻尾まで良い日差しに照らされる訳では無く。
 まだ八年という長さの門屋将紀にとってもそれは例外で無い。あの時だって、そして、この今流れる時間においても。
「おじちゃんのあほう!」
 ボロビルの一室、ソファの上、寝転がる。
 その状態から叫んだ先はレトロみたいに良い意味でない《古さ》を持った天井であるが、当然、無機物には声をかけない。言葉をぶつける対象は彼の叔父、かといって叔父は忍者じゃないゆえ天井裏に潜んでる訳じゃないから、頭に顔を思い浮かべての八つ当たりである。本人を前にして言ってもいいのだけど。
 ともかく彼に文句を吐かせた相手が、門屋将紀に押し付けた業務は、留守番。
 子供一人を置いて家を出る。包丁等、日常に潜む事故を考慮すれば褒められる保護者の行動では無いが、ともかく、将紀は押し付けられたのである。ふかふかのベッドで眠る幸せよりも、学校のグラウンドをただひたすらに走る事を選ぶ子供にとっては、苦痛でしかないこの時間。
 ボロビルの一室、ソファの上、寝転がる、暇。
 魔王の城に幽閉されたお姫様、という訳では無いが、叔父ちゃんの家(事務所)で留守番を申し付けられた子供は、とかく不機嫌である。ブスーっと頬をふくらましたりする。されど、良い子は留守番である。
 不意に質問を突風で運ぼう。荷物になるから置いてくるという実情を除き、留守番に負わせるべき職務とは? 言い方を逆転させれば何故留守番を申し付けるのか? 結局の所それは家への尋ね人の為。人が留守で困る来訪者は泥棒のみ、宅配便や新聞の集金何より大切な人の訪問。貧乏人が居留守を決め込むならともかく、来訪者の行動を、《ただの移動》で終わらせぬ為にも、人は、配備しとかなければ。
 そういう訳で午前10時、ちゃぶ台の上に置かれている昼食のカップラーメンを、もう食べてしまおうかと将紀が考えた頃、責務が、彼に発生する。呼び鈴が響いたのだ。
 万年閑古鳥、まぁ、最近は雀の子くらいは立ち寄るようになったが、それでもまだ《珍しい事に》人来る。将紀はドアの覗き穴までタッパが足りないので、チェーンをかけた侭扉開き、隙間から顔を出しながら、「どちらさまー?」

 果たしてそこには、
 、
 母が居た。

 ――なかなかに人生、頭から尻尾まで良い日差しに照らされる訳では無く。
 将紀の母は離婚している。それを不幸として設定するのはともかく、離婚の原因は、母の仕事だった。ジャーナリスト、渡り鳥のような生き様、当然、息子という宿木に止まるのは一瞬。離婚する前も、将紀の元に居られない母に苛立ちを隠せなかった父が理由で、離婚した後も。それが寂しくないと言えば、真実に反する、だが、
 父の危惧と母の生き様、将紀は母を選んだ。
 心底、お母ちゃんが好きだったのである。働くあの人が、笑うあの人が、夏の向日葵はきっと、母の為にある。明るく、陽気な、色々な意味で厄年とは思えない母親。
 だというのにどうしてだろう、こんなに明るい人の胸で、
 将紀が、泣いているのは。
「……お母ちゃあん」
 久しぶりのぬくもりだった、将紀が慌ててドア解き放つと同時、まーくん元気! なんて快活なセリフと供に頬を擦り付けられて、数刻、男の子は泣いた。
 予想してなかった反応であったが、原因に気づかぬ程、まーくんのママは愚かじゃない。随分とほったらかしにしてしまった。ほお擦りをやめて、抱擁に切り替える。
 数分くらいの所為、だったろうか。それからしてようやく将紀は顔をあげて、貴方の息子だと証明せんばかりの笑顔を向けて。
 果たして息子をほったらかしにして仕事で世界を飛び回り、だが、ジャパンの息子を思わぬ日は無かった母の対応は――
 まーくん、デートしましょ♪
 語尾に音符の記号が付くだろう、元気ノリのセリフでそう言った。留守番は空気という透明人間に任せて。
 馬鹿弟の事務所なんだから気にしない、お母ちゃんのセリフである。


◇◆◇


 二人の頭上に浮かび上がったタイムリミットはたった一日。二十四時間より少ない制限に措いて楽しむために、映画と食事、それからのショッピングに絞る。
 計画は迅速に――
「そーれ行け、わーれらの、スーテテコくーん」
 映画館ではお静かに。その法則が崩れる方程式は、休日とアニメと小学生だ。青年よりも若いエネルギーは、そこら中を走り回るは喧嘩をしだすわ泣き出すわの阿鼻叫喚。ある日曜日の父曰く、デパートの買い物より凄まじい、である。
 ただ今放映されているステテコ君は、何故か子供に受けが悪くて、人もまばらで盛り上がりもちと欠ける、ので、将紀の母親はゆったりと息子のはしゃぐ様子を眺めていた。視線の先、子供はスクリーン親は横顔、である。
 計画は迅速に――
 昼食は映画館を出た後、ファーストフード。もっとちゃんとした物を食べさせようと思っていた母だったが、子供のおもちゃ付きのハンバーガーに目を輝かせてるのを見て、他国に比べたらSサイズのハンバーガーにかぶりつく。
 肉がどうとかパンズがどうとか、そんな事は言い合わない。
 心が楽しければそれが最高の調味料とは、皆の言う所。食べかすを取ってあげながら、食べかすを取ってもらいながら。
 計画は迅速に――
 お洒落の国にだって行く事はある。けれどその時は仕事中、ショッピングに耽る訳にはいかない。だから、今する。
 ねぇまーくん、これ似合うかしら? と、まだ年端もいかない息子に見せる、洋服を試着した姿。子供に服の良し悪しははっきり言って解らないが、母は何を着ても似合うというのが感想だから、将紀は唯首を振り続ける。
「やっぱ僕のお母ちゃんはぺっぴんさんやなぁ」
 とか言うと、目の前の人は将紀の頭をはたき、まんざらでも無さそうに笑った。
 計画は迅速に――
 夕食はファミリーレストラン、若者がたむろする深夜と違って、この時間帯は体は名を現して、周囲は家族でにぎわってる。
 二人で同じ注文です。たいらげたのはハンバーグセット、今食べてるのはストロベリーパフェ。
「おいしーなお母ちゃん」
 当たり前の事をただ言うだけで、親子は楽しく笑いあう。昼食の時と同じよう、口元についた汚れをハンカチで拭いてあげる。猫のようにくすぐったそうな顔を浮かべる将紀。底のフレークにスプーンを伸ばして、甘くて、美味しくて、話せば、楽しくて、イコールで結ばれる行動と喜び。一日を楽しく過ごす計画は、恙無く終わりを迎えて、


◇◆◇


 だから、別れは寂しいのだろう。
 夕日も落ちた帰り道、将紀の叔父さんの、母親の弟の事務所へと向かう道。まだ触れ合っていたいと、せめて、手は繋ぐのだけど。さっきよりも笑顔は少なく。
 思いっきり楽しかったのだから、最後まで楽しく行こう。
 それが一番いい事は、八歳児にも解る世界の多くが選ぶ法則。だけど八歳児は、それが必ずしも容易くない事を知っている。
 暖かい日差しに恵まれ続ける事は稀で、時に、雨が降るのだろうと。
 ……だけど、だから、繋ぐのだろう。
 今は手を、そして、「……なあ、お母ちゃん」
 笑顔を向けて、本当に楽しかった今日の事を、全部自分の笑顔に込めて、
 明日に願いを、
「また、デートしようなっ!」
 人間が生きる理由なんて、たった一言で事足りる物でして。だから、母は、今繋いでる手をゆっくりと開いて、一番小さな指の一つを、
 息子の、小指と交える。
 左手と右手の不揃いの指切り。だけど、
 今笑うには、明日笑うには、充分な繋がりである。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年04月16日

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