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『【 truth of myself 】 』
飛鳥・桜華2439)&飛鳥・雷華(2450)

 どうして人は――自分に無いものに憧れるのだろう。
 それは求めても手に入らない、遠いところに存在するものだから?

 うん。きっとそう。

 誰でもない自分が持っているものよりも

 他人のものがほしくなってしまうのは――手に入らない、ものだから。


 コンクリートに直接座り込むと、だんだん足元から冷え込んできてしまうことはよくわかっている。けれどそんなことは特に気にしていないようだ。桜華は腰をおろすだけではなく、寝転がっていた。
 見上げた空には真っ白な雲。汚れることの無い心のように――まっすぐに、地上を見下ろすやわらかな視線。
 そんな雲を見つめて、桜華は昨晩のことをぼんやりと思い出していた。

 昨晩。
 闇に捕らわれ、邪なる存在となり、人間に危害を加えていた少女を滅した。その後、何食わぬ顔で家に戻ったのだが、そこでばったり顔をあわせた妹の雷華と、大喧嘩をしてしまったのだ。
「さくらっ! どうしたの!」
 はじめは自分が全身にあびてきた血を見て、心配するような様子を見せたのだが、すぐにその意味を察したのだろう。
「まさか……っ」
 すぐに食って掛かってくる雷華がなぜ、憤りを覚えているのか桜華には理解できなかった。
「さくら! あの子の事はボクが担当のはずだっ!」
「らいちゃんは無様に負けたじゃないですかぁ〜」
 本来ならば、闇に捕らわれた少女をどうにかしてほしいと、仕事を請け負ったのは雷華だった。
 しかし、雷華は手を出すことはできずに、あちこちに怪我を負って帰ってきたのだ。中には大きな傷もあった。
 妹にできなかったこと。だから、自分が後処理をした。ただそれだけ。合理的で、簡潔な答えがすでに出ているはずなのに、どうして妹は怒っているのだろうか。
 雷華のことだ。きっと情が沸いたのだろう。それで一瞬でも隙を見せたのではないだろうか。そういうところにつけこまれ、大怪我をするのは雷華の専売特許だ。
 自分は違う。

 害は少ないうちに狩る。
 魔となり、人に危害を加える存在なのだから、狩られるのが当たり前。
 それが現実の真理。
 それ以上のことも、それ以下のことも、桜華の辞書には存在しない。

 だが……いつだったか。
 もっと違う想いを心に描き、まっすぐに迷いなく前を見つめる妹を、羨ましいと思っている時期は。
「さくら、ボク、目に映る全てのモノを救いたいんだ」
 そう桜華に笑顔で告げて、十歳という幼さで飛鳥の家業に手を染めた雷華。
 止めることはしなかった。むしろそのときの彼女の瞳に映っていた輝きが、今でも忘れられないぐらいだ。
 助けたい、救いたい、守りたい。強い想いを抱え、傷つきながらもそれを貫こうとする雷華の強さや生き様。
 羨ましいと思わないはずがない。



 どうして人は――自分に無いものに憧れるのだろう。
 それは求めても手に入らない、遠いところに存在するものだから?



 桜華も例外ではなく、彼女の生き方に憧れた。羨ましかった。
 羨ましくて、自分も同じようにまっすぐな瞳で、あの輝きで生きていくことができたらと、何度思ったことか。
 けれど、自分にはそんなまねはできない。
 桜華は雷華とは違う人間なのだ。同じことは決してできない。



 誰でもない自分が持っているものよりも
 他人のものがほしくなってしまうのは――手に入らない、ものだから。



 だから――あきらめた。
 同じことではなく、自分が持っているものを生かせばいい。桜華だけが持っていて、雷華にはないものを。
 何もかもを合理的に考え、生きていくようになったのはいつ頃からだっただろうか。
 どんな角度から見ても、妹と重なる雲を大きな瞳で見つめながら、桜華がぽつりとつぶやく。
「……そんなの忘れましたですぅ〜」
 それは誰に言うわけでもなく、ただ空の彼方へと送った言葉。もしかしたら――あの雲に、つぶやいたのかもしれない。
 まだ、昨日のことが頭の中に焼きついて離れない。
 家に帰った後、怒り泣く雷華の顔も。
 そして、少女を――魔を滅した後、自分に食って掛かってきた少年の顔も。
 二人とも――同じように悔しさをかみ締めるような表情だった。あの状況で、少女のために、滅する以外の方法があったというのだろうか。
 桜華は彼女を滅し、これ以上何も手を血で染めないようにしてあげることが、最善のことだと思った。
 害は少ないうちに狩れ。
 それが一番合理的で、その他の方法など、どこにある。
 何が、その他の方法として、浮かんでくる。

 問いに答えるものはいない。

「なんで――道は交わらないんでしょうねぇ」
 想いは同じ。
 桜華も、雷華も、その胸に抱えている想いは同じだと言うのに――


 ――世界を救うなどとは言わない。目に映る悲しみを少なくしたい――


 どうしても二人の道は交わらない。
 だから、進む道は大きく違う。

 それが、結論なのだろうか。

 いや、そうなのだろう。
 どうやってもこの道が交わることは無いのだ。
 だったら、これが結論。

 それは変えることはできない、信念とも言えるのだろう。
 どんなに憧れても手に入らない――雷華の信念。
 それは遠いところに存在するものだから。
 自分の心の中には、芽生えることのない想いだから。

 だから自分は――桜華は。


「あ、授業が終わったみたいですぅ」


 桜華は彼女自身の真実を抱え、雷華とは違う道を――歩いていく。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
山崎あすな クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年04月14日

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