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『GOLD SLUSH 』
草壁・小鳥2544)&初瀬・蒼華(2540)

 「やっぱりやっぱりっ、土肥と言ったらタカアシガニよねっ!」
 「…いや、タカアシガニが名物なのは戸田だから……」
 河津から土肥へと向かう途中の電車の中、蒼華は大袈裟に溜め息をつく。
 「え〜、そうなの?残念…」
 「…まぁ、土肥にも名物はあるからさ、いいんじゃない?戸田も近いし、タカアシガニ料理もあるとは思うよ」
 「そうねぇ…でも、名物に美味い物ナシ、って言うよね」
 「…。蒼華、食べたいのか食べたくないのか、どっちなの……」
 溜め息混じりに小鳥がそう尋ねると、蒼華は首を傾げて考える。
 「んー、食べたいと言えば食べたいけど、美味しくない名物料理よりも、美味しい普通の料理の方がいいかなって思うだけ」
 「…いや、まだ土肥の名物が美味しくないと決まった訳じゃないしね…?それよりも、どうせ土肥に行くんだから、土肥金山を覗いてみない?」
 「土肥金山?」
 「うん、勿論、今は金山としては稼働してないけどね。今は資料館とかあって一種のアミューズメントパークみたいになってるんだよ」
 「へぇ、面白そうね、行ってみよ!」
 蒼華は小鳥の説明を聞いて素直に笑ってみせる、その笑顔に小鳥も笑みで応えながらも、その口端が僅かにニヤリと歪んで見えるのは気の所為なのだろうか…。


 土肥金山は、土肥港より少し内側に入った辺りにある、一種のレジャー施設である。隆盛期には、佐渡の金山に次いで全国鉱山中第二位の金産出量を誇っていた土肥金山を、過去の資料に基づいて坑道を再現したり、砂金掘りの体験が出来たりする場所だ。二人は取り敢えず、『観光坑道』を見学する事にした。
 観光坑道は、総延長100km以上にも及ぶ坑道の一部を整備し、電動人形がその当時の作業の様子を再現している。坑道内は常に十九度程の気温に保たれ、内部の居心地そのものは悪くはないのだが。
 「………。蒼華……」
 「…うっく、………」
 小鳥がこっそりと溜め息をつく。隣の蒼華はと言えば、鼻を真っ赤にして啜り上げながらも、尚も手を伸ばして展示物に触れようとしていた。
 「…蒼華、この際だから、展示物に手を触れていいのかどうかと言う疑問は伏せとくけど…辛いんなら、それ以上、読み取らない方がいいんじゃない?」
 「…っく、そうはいかないよ〜…ここまで知ってしまったら、あの当時の人達の苦労を最後までちゃんと見届けてあげなきゃ……ううっ、……」
 蒼華は、どうせならとこの時代の背景を良く知りたいと思い、サイコメトリ能力で展示物に触れて記憶を読み取ったのはいいが、鎌倉時代から昭和四〇年に鉱脈枯渇で閉山されるまでの長きの間に数々起こった、過酷な作業状況や人の苦しみ、悲しみを余す所なく感じ入ってしまい、まさに同調してしまってこのように泣きべそをかいていると言う訳だ。
 「うっ……あーん、なんて事!そんな悲しいオハナシがあったなんて〜!!」
 「あ、蒼華……」
 何を読み取ったかは知らないが、蒼華が堰を切ったように泣き出した。
 「金って、見た目は華やかだけど、その裏側にはこんな悲劇もあったのね〜…!…ヒドイっ、もっと早くそれに気付いてたら、あの人もあんな思いを……」
 だから、何の話だと小鳥は聞いてみたい気もするが、ここで聞いては話が長くなるかも、それに、既に他の観光客が、号泣している蒼華を横目で見ながらヒソヒソ話をしているし、…と言う訳で。
 「…気の済むまで泣いた方が、すっきりするかもね、蒼華」
 等と、呟きつつも素知らぬ顔でそっぽを向いている辺り、この女性とは他人なんですオーラが全身に漲っていた。
 が、そうは問屋が卸さなかったらしい。
 「ことチャーン!ねぇ、聞いて〜!!」
 「うわ、あたしに話し掛けるんなら、せめて泣き止んでからにしてよ!」


 「…ヒドイわ、ことチャンったら…あたしを一人だけ見世物にするなんて…」
 「…見世物だなんて人聞きの悪い。と言うか、あたしが止めたのに尚もサイコメトリして泣き崩れてたのは誰よ」
 ま、いいじゃない。と話を流そうとする小鳥に、蒼華も諦めて溜め息をついた。
 「そ、それはそうと、ついでだから砂金館にも行ってみない?」
 「砂金館?」
 小首を傾げる蒼華に、小鳥が珍しいまでの満面の笑みで応える。
 「そう、砂金館。砂金採り体験が簡単に、六百円で出来るんだよ。しかも三十分採り放題!」
 どう?と笑顔で告げる小鳥の顔を、蒼華が眇めた目でじーっと見詰める。
 「…な、なに…蒼華……その目は……」
 「……。ことチャン、なんか目が、ドルのマークになってる……」
 「な、なにをイキナリ……」
 サイコメトリした訳じゃないでしょとか、なんで日本の金山でドルのマークなのとか、ツッコミどころは幾つかあったのだが、それに的確にツッコミを入れられなかった辺り、小鳥の下心は蒼華の指摘どおりだったのだろう。まるで、触れずに読み取ろうと言うかのように、蒼華がじーっと尚も小鳥の顔を見つめ続ける。暫くはその視線に対抗して、小鳥もじっと見詰め返してたが、やがて耐え切れなくてじぶんからフッと視線を逸らした。野生動物との攻防戦では、先に目を逸らした方が負けると言うが。
 「…ことチャン、砂金で儲けたら、あたしにも何か奢ってね♪」
 にっこりと、ある意味勝利の笑みを浮べて蒼華が言う。小鳥は小さく苦笑いを浮べ、こくりと頷いた。


 砂金採りは、パンニング皿(略してパン皿)と言う道具を使って砂の中に混ざっている金の欠け片を採るのである。勿論、昔とは状況が異なる故、自然に金が流れ出てくる訳ではない。係員が定期的に砂金の粒を混ぜていくのだ。
 パン皿を手にした小鳥は、まずは砂金採りの水槽の横に立つ。右肩に乗る妖精さんに目配せをすると、妖精さんも頷き返して、小鳥の肩から飛び立ち、水槽の上を数回往復した。やがて、水槽の一箇所の上に留まると、小鳥の方を向いてココ、と指差す。
 「…そこね、分かった」
 小声で呟いた小鳥が、そそくさとその場所に向かい、パン皿を砂の中へと埋める。一杯に掬った砂を零さないよう、ゆっくり左右に振って安定させると、比重の重い金は皿の底に沈むと言う仕組みだ。あとは、慎重に砂を洗い流すだけである。パン皿の底に付いた、三本の堤に砂金が引っ掛かるようにして、砂と分けていけば完了だ。小鳥達の外にも幾人かの客がいたが、その中でも小鳥の皿には明らかに金と思しき輝きを放つ小さな粒が、誰よりも大目に存在するのが見て取れた。
 …やった、と心の中で小鳥がガッツポーズを取る。その頭上で、妖精さんも手をパチパチと叩いて誉め称えた。そして次なるターゲットは、と妖精さんは再び水槽の上を往復するのである。
 そう、小鳥は、妖精さんの力を借りて、砂金が多く埋まっている場所を予言し、捜して貰っているのだ。あとは己の腕次第。何、砂金採りの最重要ポイントは、根気よく焦らず、余分な砂を洗い流して行く事だ。その点、今の小鳥の集中力は、目に見張るものがある。普段からもその集中力を発揮していれば、いろいろと状況は好転するかも、と自分でも内心思いつつ、だが、こう言う何か明確な目的が無ければ、自分は動かない事も重々承知のうえで。ともかく、今の小鳥の目的はただひとつ!
 「生活費の足しにするつもりでしょ、ことチャン」
 「…話し掛けないでよ、蒼華。気が散るじゃない」
 しっしっ、と手で追い払う真似をする小鳥に、蒼華が声も立てずに笑った。
 「…でも、ことチャンだけにイイ目は見させないわよ」
 そう呟いた蒼華は、まずは自分の片手を水槽の中に浸ける。適度な温度の水に口許を綻ばせつつも、蒼華は目を閉じて、そこに残る記憶を読み取り始めた。
 『…んー、……えっと……今日の晩飯何かなぁ、できれば肉がいいなぁ…って、そんな事ばっか想像しながら金を撒かないでよ〜…彼女、まだ怒ってるかな…って、喧嘩したのね、可哀想に…じゃなくて!……ええと、あの限定発売の化粧品欲しいなぁ、カレシにねだっちゃおうかな……うん、あたしもアレ、欲しかったのよね…ってちっがーう!…ああん、なんでみんな、こんな邪念ばっかりなの〜!?』
 それを邪念と言うならば、能力を使って一攫千金を目論む蒼華達はどうなのだ。
 「…蒼華、どうでもいいけど…独り言は自分の内側だけで喋った方がいいと思うよ、あたしは……」
 「えっ!?」
 きょとんとした目で蒼華が小鳥や、その周りにいる人達を見ると、皆、不思議そうな顔をして蒼華の方を見ている。蒼華がそれに気付いた事を知れば、小鳥以外は慌ててサッと視線を逸らして、砂金採りに没頭し始めた。
 「…もしかして、あたし、…口に出して言ってた……?」
 「もしかしなくても言ってたよ」
 イヤー!と蒼華が顔を赤くして突っ伏した。その頃、同じ室内にいた係員の数人が、顔を赤くしたり青くしていた事には気付かなかったようだ。
 ちなみに、制限時間内に三十粒以上の砂金を採った人は、砂金名人として認定され、登録されるそうだ。勿論、小鳥と蒼華の二人も揃って認定され、しかも当年度のランキングの上位にその名を連ねたのであった。


 温泉の宝庫、伊豆半島の一員として洩れる事なく、土肥も温泉の街である。筋肉痛や関節痛に効くと言うここの温泉は、パン皿を振るい過ぎて腕が疲れた二人には最適であろう。今宵の宿で女二人、露天風呂でゆっくり手足を伸ばして温かい湯に浸かった。
 「ん〜!…きーもちいいねぇ、ことチャンー」
 「…ん、そうだね……」
 「イイコトもいろいろあったしね?」
 「…ソレと同じぐらい、恥ずかしいコトもあったけどね」
 小鳥がそうツッコむと、言わないで〜!と蒼華が両手で顔を被った。
 「…まぁ、いいじゃないの。だって念願のカタアシガニも食べられたんですもの、水に流して?」
 「…ま、蒼華がそう言うなら、そんでもいいけどね…でも、タカアシガニも良かったけど、やっぱ蟹はズワイガニの方が美味しいと思うわ、あたしは」
 「え、そう?あたしは松葉ガニの方が好きだなぁ」
 「…蒼華、ズワイガニも松葉ガニも同じ種類だよ……」
 ついでに越前ガニもね、と付け足しておいて、小鳥が態とらしい溜め息をつき、肩を竦める。ぷぅっと頬を膨らませた蒼華が、手でお湯を掬って小鳥の方へと飛沫を跳ね上げた。
 「わっ、何をするの、蒼華!」
 「ええい、イジワルなことチャンに報復だー!」
 「あたしは間違ったコトは何も言ってないじゃないの!」
 二人は互いに湯を掛け合い、湯船には派手な飛沫が跳ね上がる。笑い声と悲鳴と水飛沫の音と、暫くは賑やかな音が、露天風呂から覗ける綺麗な月夜に響き渡っていた。


おわり。


☆ライターより
いつもありがとうございます!ライターの碧川です。
相変わらずのノロノロで本当に申し訳ありません(平身低頭)
静岡は、以前住んでいた事もあるので、その時の記憶を思い起こしつつ書いていましたが、その雰囲気が少しでも伝わればイイなぁと思っています。
私的には、静岡旅行シリーズ、楽しんで書かせて頂きました、ありがとうございます。PL様も楽しんで頂ければ幸いです。
では、またお会い出来る事をお祈りしつつ……。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
碧川桜 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年04月05日

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