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『愛のお仕置き部屋 』
イヴ・ソマリア1548)&天音神・孝(1990)


 薄暗くなった夕闇をほのかに照らす蛍光灯……そこは質素な応接室が常にお出迎えする草間興信所だった。事務机を背に今までの調査依頼を紐解いているのが主人の草間 武彦だ。彼は目の前にいる少女にある男性に関する素行を調べてもらっていた。言葉尻だけ聞くと年上の彼氏に浮気相手がいるかどうかとか、実は彼女がストーカー被害に遭っているとか想像しがちだが、実はそうではない。実際に調べてもらっているのは、草間が裏で行っている超常現象と呼ばれるものを処理したファイルの内容だった。そしてその少女もそれにファイリングされるべき存在なのだ。
 くるくるふわふわの髪にヘアバンド、そして大きなエメラルドの輝きを保つその瞳はその調査結果を聞いて……なぜかすっごく怒りに震えていた。その表情も露骨に怒っているし、聞こえるか聞こえないかの声で「あいつぅ〜、あいつぅ〜」と愚痴るのも聞こえる。まるで通信簿をもらいに来た母親が教師に子どものことをメチャメチャに言われ怒りに震えているようだった。内容を説明しただけで鬼のようになってしまった彼女を端から見ている草間は、クールを装いながらも内心はびくびくしていた。怒りが飛び火しないうちにさっさとお帰り願わねば……草間は心なしか早口で話を続けた。

 「とまぁ、天音神 孝の調査っていうのはだな。前のバレンタインの件に関しても言えることだが……天性の味オンチというか、ただの大食らいというか、とにかくうちでは食い物の依頼ときたら真っ先にお願いしてるね。あいつ、なんでもおいしいって言うからこっちも頼むのが楽でさ。ほら、この『食い物』に関する連絡リストでも一番の名前がピックアップされてるだろう。もう何食ってもおいしいっていう子どもはどこに行っても喜ばれるっていうやつだ。だからうちでは重宝し」
 「もういいわ、聞きたいことはそれで十分よ。お手数かけてごめんなさいね、草間さん。」
 「……そ、それくらいは構わんが、お願いだからトップアイドルが殺気を充満させて道を歩くのだけは勘弁してくれないかな。」
 「ご心配無用ですわ、このまま本人のところに行きますから。誰にもこの姿は見せませんもの。」
 「ま、天下のイヴ・ソマリアが目尻を上げて道を歩くわけにもいかんか。とりあえずあいつは殺すなよ。今のお前だとやりかねん。」

 殺すかもと聞いて「フフフ」と含み笑いを残して立ち去ろうとするイヴ。それを聞いた草間は慌ててソファーを持ち上げて少しだけ後ずさる……ところがあまりに勢いづいてしまったため、事務机とソファーとで指を思いっきり挟んでしまう! 彼は声にならない叫びを上げながら指を押さえ部屋中を駆け巡り、その痛さと格闘した。イヴはそんなことお構いなしで部屋を後にする。その扉は別の次元へと繋がっている……もわもわした怪しい霧のように蠢く空間の中に躊躇なく入ろうとする彼女は草間に一言だけ声をかけた。

 「あ、お大事に〜。」

 彼女はそのまま目的地へと旅立っていった。怒りはすでに頂点に達している……


 「ヤバい、なんか来る……」

 怒りのイヴから遠く離れた場所である自宅にいる孝はなぜか自分の首が真綿か何かで締められるような感触を味わっていた。せっかくあんこを入れたカップラーメンが完成したのに……今から至福の時を楽しもうという時に邪魔が入れば普段なら憤慨するところだが、どうも今回は印象が違う。何かが襲ってくるようなそんな感じがする。その身を襲う悪寒を食べ物で温めようとする彼は周囲を警戒しながら割り箸を両手で割り、最初の一口を味わおうとした。どんぶりを持ち、静かにあずきの絡んだ麺を持ち上げてふーふーし……

 「こういう時は飯を食うに限る。ということで、んば。あぢあぢあぢぢぢぢ、あぢぢぢぢぃぃぃ!!!!!」
 「あら〜、お食事中だったの、孝〜?」

 突如現れたイヴは孝の頭をどんぶりの中に押しつけながら挨拶した。激アツのラーメンで顔中に麺の形をした火傷を負う孝は挨拶どころではない。慌ててどんぶりから顔を引き上げ、それを丁寧にテーブルに置くと洗面台の蛇口まで一目散に逃げ出す。滝のように流れる水で顔を冷やす孝。彼は危うくラーメンとフュージョンしそうになってしまった。孝は主人よりもタチの悪い女性がやってきたことを知ると素直に驚き、素直に恐れる。

 「なななな、な、な、なんだよこんな時間に! あんたしかも異界調査担当のイヴじゃねーか、なんでこんなところに来るんだよ!」

 彼の指摘通り、確かに彼女は異界調査担当のイヴだった。イヴはいくつかの身体を持っている。愛しい彼氏を愛する少女、歌からドラマまでこなす超人気アイドル、そして異界から地球という惑星を調べるための調査員……それを彼女は分身能力ですべてを補っているのだ。今日やってきたのは主に変装で『朝比奈 舞』として異界調査を行うイヴだった。それでもどの分身が来ようともイヴ・ソマリアには間違いない。孝はしっかりと丁寧に顔を洗うとまたどんぶりの方へ向かう。せっかくの料理を無駄にはできない。その気持ちひとつで彼はどんぶりに向かった。
 しかしイヴがその中身を見た瞬間、消えかかっていたろうそくの炎が爆音を上げて燃え盛る!

 「孝っ! あなたなんてもの食べてるのよっ!!!」
 「ひっ、ひいいぃぃっっ、なんだよ! なんでいきなり来ていきなり怒っていきなり飯取り上げて……」
 「あなたね……この世界の犬でも食べないものを食べててどうするのよ! 調査員の先輩として親戚として、しいてはあなたのご主人様として情けないわよ! だいたい何よこれ……魔界でもこんなもの見たことないわよ!!」
 「だ、だってよ……食い物ってこんなものなんじゃないのか? 俺はそうとしか思わなかったから……それをそれとして召し上がってるだけで……」

 かなりの恐怖心が彼を襲ったらしく、孝はマトモに返事することすらできなかった。そんな怯えた声を聞いたイヴはハッとする。彼女は重大なことに気づいた。それはこの世界での自分と孝との決定的な立場の差だった。イヴはこの地球に来てからアイドルとして生活することで人間たちと接する機会が多かった。それに仕事柄、やたらと高級かつおいしいと評判の店へレポートに行くことも多く、時にはアドリブで味の説明を求められることもあった。味に関する感想が台本に書いてある時はそれを参考にしてその味を記憶し、いろいろと自分でも研究した。しかし孝は違う。この世界においては貧しい中で育ち、食い物目当てで草間興信所の依頼を受けては何の分別もなしに食べ、味の学習などそっちのけだった。だからこそ目の前のラーメンにあんこが乗っているのだ……草間の食べ物依頼リストでダントツのナンバーワンになる理由を彼女は今、身をもって知らされた。思わず孝の作った恐ろしい作品から目を背けそうになったイヴ。だがその瞬間、愛情を込めて作った魔界料理を食べさせて悶絶した彼氏の顔を思い出してしまった……あの時の自分の慌てっぷりを思い出していると、自分の中からどこからともなく声が聞こえてきた。

 『愛しい彼氏をあんなかわいそうな顔にしたのは、いったい誰?』
 『あの時、当たり前のようにしてあの料理を作ったのは、いったい誰?』
 『そして……ラーメンにあんこを入れているバカはどこから来たの?』

 そんな声を聞いているうちにイヴは、孝の味覚を矯正しなければと思うようになった。今のうちに正しい味を覚えこませなければならない。そう決心した。そして部屋の隅っこで『の』の字を書きながら怯えている孝の背後に次元の扉を作り、とにかくそこに入るよう命じる。

 「まぁ、このわたしにも監督責任っていう言葉もあるから……仕方ないわね、今日はいい食事が出てくるところに連れてってあげるわよ。味の調査っていうのも、今度から項目に含んでおくからそのつもりでね。その扉の向こうにちゃんとしたタキシードが置いてあるから早く着替えてくるのよ。」
 「わ、わかりましたぁ……」

 そう言いながらドアを開ける孝だったが、部屋の中を見た瞬間、すぐに扉を乱暴に閉じた。確かに部屋の中にはタキシードが置いてあった。イヴが魔力で作り上げたのだろう。しかし、その周囲がとても気になった。今の孝はもうタキシードを取りに行く気にもなれない……そんなものが周囲に張り巡らされていた。孝は情けない声で小さくつぶやく。

 「と、取りにいけませぇん……あんな部屋に入れませぇん……」
 「メソメソしないの! あの部屋はあなたのための着替えの部屋じゃなくって、あなたのお仕置き部屋なの! あの中でちゃんとタキシードに着替えて戻ってきなさい! あんこラーメンなんか食べてた罰よ!」

 「だってぇぇーーー!」
 「だってもさってもないでしょ!!」
 「だって、あの部屋には俺の変身した……変身した姿がいっぱいビデオとか写真とかで埋め尽くされてるんだもん……あそこで着替えなんで無理ですぅ!」
 「あらそう? オペラの映像はなかなかよかったわよ。かわいくって。」
 「あああああああああああああああああああ!!」
 「泣いてる暇があったら早く着替えるの! ほらっ!!」

 イヴがいやんいやんしている孝の背中を蹴り飛ばして部屋の中に入れると、そのまま魔法で扉に鍵をかけてしまう。しばらくの間、孝は悲鳴を上げっぱなしでわーきゃーわーきゃー騒いでいたが、次第におとなしくなり着替えを始めたようだ。しかしビデオによる動画は刺激が強かったらしく、パンチラシーンなどが映るたびに「やめてくれー!」と定期的に叫んでいた……
 彼が着替えを終えると、自動で扉が開いた。中からは目を真っ赤にした孝がちゃんと正装になっていた。一方のイヴもその大騒ぎのうちにちゃんと服を着替えていた。髪よりも薄い色のシンプルなデザインのドレスに身を包んだ彼女は準備が整ったところで孝に説明をする。

 「今からちゃんとした高級料亭とかに連れていってあげるから、おいしいということをちゃんと覚えるのよ。」
 「はいぃぃ……はいぃ……」
 「素直でよろしい。もし一度で覚えられなかったら……また『魔法少女☆フュージョンのお部屋』に叩きこんであげるから♪」
 「はがっ! おお、覚えます覚えます、絶対に覚えます!!」
 「はい、じゃあ行くわよ〜。タクシー呼んだから早く来なさ〜い。」

 こうしてイヴと孝の高級料理店巡りは始まった……孝は今までに受けた依頼の中で普通の人間がうまいと思ったものの味を懸命に思い出していた。


 最初の訪れたのは石造りの建物がライトアップされている感じのいいステーキハウス専門店だった。いくら味オンチの孝でもお肉ならある程度の区別はつけられるだろうとイヴは予想してここにやってきた。彼女はアイドルとしての特権を使って店主に個室を用意してもらう。そしてついでにある包みを出してあるお願いをした。

 「注文はぁ、このお店で一番人気のステーキと……これを同じように切って焼いてほしいんです。お代はちゃんと払いますから♪」
 「かしこまりました……ところでお持ち込みのこのお肉はいったいなんですか?」
 「味付けにわさびとからしとタバスコを塗りつけた牛肉の塊ですわ。ちょっとあの人を驚かしたくって……厨房の匂いとあなたの胸が悪くなるかもしれませんけどよろしいですか?」
 「は、はい、よろしいですよ。調理させていただきます。どういう風にお持ちすればよろしいですか……?」

 イヴはある程度の指示をした後、料理長は快く引き受け厨房の奥へと消える。そして自分も孝のいる部屋に向かい、注文の品が来るまで「おいしいものとは」という定義を言って聞かせる。

 「孝、たいてい普通の食べ物よりも飛び抜けて値段の高いものは人間にとって高嶺の花なのよ。要するにある程度はおいしいものってこと。コンビニにあるようなものは誰にでも買えるものは気軽に食べられるものであって、生活の手段に使うするからおいしいかどうかは二の次でいいものなの。食べることでエネルギー補給したいのはわかるけど、その辺のおいしいかどうかの部分だけはハッキリさせて、何と何を混ぜていいかくらいの判断はつけられるようにしてもらわないと……」
 「ふむふむ。」
 「またお仕置き部屋かも……」
 「ひいぃぃぃいぃーーーーーーっ!」

 お仕置き部屋に落とすのは簡単だが当初の目的を見失ってはならない……イヴは恐怖で我を忘れている孝の横で小さく舌を出して反省した。

 『さすがにやりすぎちゃったかしら?』

 そんなこんなしているうちに孝の目の前にアツアツの鉄板が差し出された。しかし、右と左で違う肉が香ばしい音を立てて並んでいる。明らかにおかしいとわかったのか、孝は無言でイヴを見る。

 「味というものを教えてあげるのが主旨なんだから最初はちゃんと教えてあげるわよ。そんなに怖がらなくてもいいじゃない。右がこのお店で人気のステーキね。左が無茶苦茶に味付けしたただの安いお肉。ここのマスターに無理をいって焼いてもらったの。さ、右と左を食べてちゃんとお勉強なさい。」
 「右……右がおいしいのだな。」

 孝はしっかり前掛けをしてナイフとフォークでおいしいお肉を切り分けそれを食べる。よく噛むことだけはこの世界で覚えたようで、いつまでもいつまでも肉の味を確かめる。心配そうにイヴが見つめる中、孝は静かに頷く。そして今度は左の食えたものではない肉を食べ始める……が、イヴは心の中で『こんなものの食べ比べなど孝にしかできない』と思って見ていた。しかし反応はあまり変わることなく……とにかくどちらを食べてもよく頷く孝だった。

 「こっちが……うまい方ね。なんだかシンプルだな、こっちのまずい方がいろいろな味がして面白いん」
 「バカね孝、そういう時は『味がシンプル』じゃなくって『素材のうまみを引き出してる』っていうのよ。あーあホント、いろんな意味で連れてきてよかったわ。そんな反応するなんて思ってなかったもの……」
 「ふんふん、それそのものの味を引き出してるっていうものがうまいのか。なんとなく納得したぞ。じゃあそっちを頂きま〜〜〜す。」

 どうやらその気になった孝は右のおいしいお肉を味わいながら食べ始める。それもゆっくりと名店の味を噛み締めながら。それを見たイヴはひとまず安心した。しかし、ひとつだけ気になることがあった。もし彼がイヴの静止を聞かずにそれをやったら、お仕置き部屋直行である。
 右のお肉をすべて食べ終わった孝はある意味期待通り、それを実行しようとする。そう、いろんな味のする左のお肉にも手をつけようとしたのだ! イヴが席を立って孝の手元にさっと手を伸ばす。

 「じゃあ、次のお店に行きましょ。」
 「ええっ、こっちは食べちゃダメなの?!」
 「……………あなた、何のトレーニングに来てるかわかってるんでしょうね? それをもう一口でも食べたら、自動的に……」
 「わ、わ、わ、わ、わ、わかりましたっ!」

 お仕置きを恐れて孝は席を立ち、イヴと一緒に店を出ていく……なんとか第一関門は突破だった。

 その後も『素材の味を引き出す』というフレーズを叩きこむべく、中華料理では北京ダックやふかひれのスープを味わい、回らないお寿司屋さんでは新鮮な海産物に舌鼓を打った。先輩の指導のもと、そこそこ味というものに目覚め始める孝。一方のイヴは彼とは別の注文をしたりして細々したものを少しずつつまんではいたが、どうも堅苦しい店ばかりを回っていたせいかそろそろ肩がこってきた。そこでふたりは最後に屋台のラーメン屋さんに向かうことにした。屋台のラーメンにうまいも何もない。普通にうまいはずだ。そんなにまずいものが出てくるはずがない。彼女は安心して味噌ラーメンを、孝はしょうゆラーメンを注文した。イヴはそこそこ物覚えのいい孝をとりあえずヨイショして、その才能の伸ばそうとするがんばる。

 「思ったよりも素質あるじゃない。安心したわ。これで今度から大丈夫ね。」
 「おう! これでイヴにもみっともない真似はさせないぜ!」
 「へい、お待ち! しょうゆと味噌ね!」

 店主から出されたラーメンを受け取り、孝がそれを豪快にすすり出す。それを見てからイヴが食べ始めた。彼女にとって今日のマトモな夕食はこれだった。落ちつきながら申し訳程度にちょっとずつ麺をすするイヴに対し、孝はもう半分以上を平らげていた。今日は孝に巨額な投資をして教育した甲斐があった……彼女の心の中はそんな満足感に包まれていく。

 「いや〜、こういう庶民的なもんが一番うまいな! しょうゆの味が引き出されてて本当にうまいっ!」
 「あ、そう言えばあなたのラーメン、さっきわたしが台無しにしたんだもんね。それでいい食べっぷりなのね……ふーん。ずずず。」

 急いで食べる孝を横目にマイペースを崩さないイヴ。静かに時間は流れた。しかし店主が突然大声で叫ぶと、孝の方に振りかえって謝り始めた。その顔は必死だった。

 「あ、お兄さんごめんよ! そのラーメン、ホントにしょうゆしか入ってなかったんだわ! まずかったろう、今からおいしいの作りなおすからちょっと待っててくれるかな?!」


 時間が……………止まった。


 イヴは麺を喉に詰まらせて激しく咳き込んだ。その隣にはそんなことに気づきもせず、汁をほとんど飲み干してしまった孝がいた。徐々に怒りの表情を浮かべながら、静かに首を横に向けるイヴ……そして自分のれんげで残されたわずかなスープを一口飲んでさらに目尻を上げた。孝はもう驚き、固まってしまった。

 「…………………………えっ、えっ、どういうこと? だって素材の味が」
 「しょうゆだけの味付けのラーメンを……あなたは……確か……うまいうまいって……本当にうまいって……」
 「いや、いやっ、やめてくれ、ホントにやめて、あれだけはやめてぇぇぇーーーーーぇぇぇ。」

 孝の足元に突然マンホールほどの穴が出現し、無情にもあのお仕置き部屋へと叩きこまれた。そしてその穴は静かに閉じていく……そこには彼が座っていた木造の質素な椅子だけが残されていた。店主がラーメンを作りなおし、再び孝の元へ出そうとしたがその姿はすでにない。困った顔をしながら店主はイヴに話した。

 「もしかして、怒って帰っちゃった?」
 「いいえ、お腹いっぱいだからもういいですって。わたしが食べますから、そこに置いておいて下さいな♪」
 「すまないねー、お代は1杯分でいいから。」

 店主の詫びを笑顔で許すイヴ。しかし、孝の失敗は許さなかった。右の耳で店主との会話を楽しむイブだったが、左の耳ではお仕置き部屋に落ちた孝の反応で楽しんでいた。どうやらこの矯正は一筋縄では行かないようだ……イヴは反省しながらしょうゆラーメンをすする。

 「やっぱり段階を踏んでやらないと行けないのかしら……何が『素材の味を活かしてる』よ。ただのしょうゆだけのラーメンに適応しちゃダメじゃないのよ……」

 怒りが頂点のイヴは満腹中枢が麻痺してしまったのか、ラーメンをぺろりと平らげてしまった。そしてそのまま家に帰ろうとする……そんな彼女の耳に情けない悲鳴が左から響いてきた。しかし、救いの手は差し伸べられない。夜風で頭を冷やしながら、イヴはその場を去っていく。

 「やだよ〜〜〜、こんな部屋にいるのやだよ〜〜〜! 次は失敗しないから助けてくれよぉ〜〜〜!!」

 彼が救われるのは、いったいいつのことやら……

PCシチュエーションノベル(ツイン) -
市川智彦 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月30日

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