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『【cruel correct answer】 』
飛鳥・桜華2439)&不城・鋼(2239)

 そろそろ寝ようかと思ってベッドにもぐりこもうとしたとき、突然窓の外から物音が聞こえてきた。
 なんだろう。
 不思議に思って窓の外を覗いたら、そこに見える公園に人影が。
 どうやら小さな子供の人影のようだ。見覚えがある。多分、この近くに暮らす子のものだろう。
 どうしてこんなに遅くに、あんな幼い子が独りで? しかも、遊んでいるのか?
 疑問が浮かぶ。だからといって、その疑問が解消されるまでここで見ていても仕方がない。どっちにしても解消されない疑問なのだから、直接あの子に聞いたほうが早いだろう。
 家は……どこだったか。
 記憶を探りながら、すっかり寝る前でリラックスしていた服装に上着を羽織り、鋼は部屋から出るとすぐにある階段を下り、家を出たのだった。

 ◇  ◇  ◇

「面倒くさくなりそうね」
 夜風が冷たく頬に当たる。それほど高くはないマンションの屋上から、下に位置する公園を見つめていた桜華に声をかけてきたのは、皮肉屋で男勝りの銀狼「榊」。今は大刀として彼女の手のうちにある。
「そうですかぁ?」
 桜華は、彼女の言葉など気にする様子一つなく、漆黒の闇に似つかない明るくのんきな口調で答えた。足に擦り寄ってきていた宝石猫の「鈴」を、衣に変化させるとそれを羽織る。
「いつもと変わりなく、お仕事ですからぁ」
「しかし、男が今、そこに……」
「さくらちゃんには関係ないですぅ」
 幼さを感じさせる満面の笑みを見せて、桜華は彼女に言葉を返した。

 ◇  ◇  ◇

 こんな暗い中、外灯でさえもそんなにともっていない公園で、一体あの幼い子は何をしているのだろうか。
 不信感を募らせながらも、鋼は公園に着いた。しかし、家から見えたところにいたはずの子供は、移動してしまったようで、予想していた場所には見当たらなかった。
 そんなに広い公園ではないし、すぐに見つかるだろう。そう思って一歩踏み出した公園の中。先ほどまでは気がつかなかったが、公園を入ってすぐの右手の位置にいた、奇妙な人影が視界に入った。
 どうやら倒れているようだ。
 酔っ払って、公園の入り口にあるパイプにでも引っかかり、転んでしまったのだろうか。まぁ、そんなところだろう。気にすることもない。
 心の中で納得させて、倒れている者の横を通り過ぎようと思ったとき、嫌な臭いが鼻についた。
 これは……生臭さを感じる血の臭い……?
「なっ!」
 じっくり見てみると。
 鋼が酔っ払いだと思って疑わなかった男は、腹部から血を流し倒れていたのだ。しかも、その傷が何かおかしい。大きな牙を持つ何かに、食いちぎられたような痕。
「……一体、何が……」
 恐怖心はあまり沸いてこなかった。疑問ばかりが胸を支配して、鋼は男を見つめた。目は半分開いたまま、少しも動こうとしない。もう、死んでいるのだろう。
 ふと、見つめていた男の傷口から、地面を引きずるように血の跡がついていることに気がついた。鋼はそのまま、視線を血に沿って移動させる。
 すると、そこには、さらに信じられない光景が待っていた。
「……子供が……」
 砂場で遊ぶ少女。自分に背を向けている幼い子供は家の窓から見えた子供と同じ。そして、彼女へと続く血の跡。
 何より――彼女がその手に持っているものは……。
 砂なんかじゃない。
 死んでいる男の血を引きずっているのは、その手にもっているもののせいだ。間違いない。あれは――
「おい、何をして――っ!」
 鋼が少女に近寄り、声をかけようとした刹那。

 ぐぉんっ!

 空を裂き千切らんばかりの轟音を巻き起こし、何かが少女の頭上から、少女を目掛けて降ってきた。そして、振り払われた斧をも思わせる巨大な刀。大量の血と、彼女を構成していた様々な「部分」を飛び散らせながら、先ほどまでそこにいたはずの少女は形を失った。
「あ……飛鳥……」
 少女と入れ替わるように現れたのは、顔を知ったもの。その手には、少女を殺すために振るわれた大刀。全身に返り血を浴びて、ところどころが赤く染まっている――飛鳥桜華。
「お前、一体なぜ……」
 握った拳が震えるのを、止めることで精一杯だった。
「なぜ殺したんだっ! 理由も聞かず、有無も言わせず、どうしてあんなに幼い子供をっ!」
 一歩踏み出して彼女の胸倉を掴むと、鋼は彼女に食って掛かる。強い憤りを覚える彼に対して、普段の自分を崩す様子一つなく、桜華は言葉を返した。
「魔となり、人を襲うモノを殺してなにが悪いのですぅ?」
「何が悪いって、おまえっ――」
「害は害が少ない内に狩るんですぅ〜。それが現実の真理なんですぅ」
 むしろ、鋼の怒りが理解できずに、不思議そうな瞳で見つめてくる、無邪気な彼女。無邪気さゆえの冷血さ。
 害をなすものは、全てが悪。だから切り捨てる。
 それができる人間は少ない。必ずどこかで感情が入ってきて、その冷血さの邪魔をする。
 しかし彼女は違う。
 それができる人間なのだ。
 その人間が幼くたって、知り合いであったって、何であったって関係ない。

 世に害と思われるものを切り捨て、狩ってしまうことが現実の心理。

 それ以上も、それ以下も、彼女の辞書には存在しない。
「それでも、何か話を聞くことだって、できたはずだっ!」
 話ができるかどうかは疑問だが、声の一つもかけずに殺すなど、鋼には理解できなかった。
 すると、そんな鋼を桜華は嘲笑い、小馬鹿にするように

「闇を知らない人には理解できないと思いますぅ」

 そういい捨てると、その場を去ってしまった。
 後に残された鋼の心の中に沈むのは、無力感。目の前で人が二人も殺された。一人は現場にいたわけじゃない。だが、もう一人は本当に目の前で殺されたんだ。
 いや……もう、人とは言えない存在になっていたのだから、少女を殺めた彼女の選択は正しい。正しいが――

「俺は何も……できなかった」

 悔しくてたたきつけた拳の先で、後悔が消えることはない。
 だが今は、そうすることでしか、自分を吐き出す手段を知らなくて。
 自分が傷つくことなど一切気にせず、ただ無心に、拳を地面にたたきつけた。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
山崎あすな クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月29日

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