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『薔薇の間天井裏の悲劇 』
丹下・虎蔵2393)&本郷・源(1108)

 一般家屋に於いての尤もポピュラーな害獣。それが鼠である。
 被害は色々である。貯蔵していた食物を食い荒らす、柱などを齧る、繁殖する、糞を巻き散らかす、古来では病気まで運んでくれた。
 それに対攻するべく、猫をかったりネコイラズを置いたりネズミ捕りを仕掛けたりと、人間も色々と知恵を絞ってきた。
 そしてあやかし荘でも、知恵による試みが設置されたのである。
 その名も丹下・虎蔵(たんげ・とらぞう)。
「生きた鼠捕りなのじゃ!」
「違……っ……いえ、おっしゃる通りです」
 ……微妙な所である。

 さて、実際に虎蔵が生きた鼠捕りかといえばそんなわけがない。若干6歳にしてそんな実るものとてなさそうな生業を事とするようでは結構お終いである。
 では何かといえば、
「だから鼠捕りじゃろう?」
「違……っ……いえ、おっしゃる通りです」
 まあ勿論違う。
 虎蔵は愛孫を守る為に爺馬鹿全開の老人が雇った4人の影のうちの一人。コードネームは『玄武』である。6歳にして雇われ人。サラリーマンである。
 様々な法に立派に抵触しているが、それは虎像の場合あまり問題にはならない。何故なら無理矢理就かされている任務という訳ではないからだ。いや鼠捕りは兎も角。
 淡い恋心が、恐らくノーギャラでも虎蔵を『玄武』なるものの位置に就かせるだろう。
 だから、
「だから鼠捕りじゃろう?」
「違……っ……いえ、おっしゃる通りです」
 そう言われて否定もできない。
 丹下虎蔵若干6歳。その年にして見事に立派に本郷・源(ほんごう・みなと)の愛の奴隷であった。

 虎蔵はふんふんと鼻歌交じりに天井裏と玄関とを行き来していた。
 虎蔵の前途は明るかった。主観的に。例え『派遣鼠駆除専門員』であろうとも、源の側に住まう事を許されたのである。いやその『派遣鼠駆除専門員』という役職さえ愛しい。立派な口実であり名目である。
 そして『派遣鼠駆除専門員』は源に頼られている。
 これを至福と呼ばずになんと呼ぶ!
 あやかし荘【薔薇の間】の天井裏は、正しく虎蔵の主観的には薔薇の間だった。花咲くような気分であり、居住場所である。
 勿論主観的にはであって、客観的には天井裏は天井裏である。その昔ハウス劇場で大金持ちのお嬢様から無一文に転落した健気な少女が追いやられたりした場所である。胸の片隅に小さな花が咲いていたとしても普通なら一寸涙を禁じえない場所なのだが。
 まあこの場合問題は主観であって、客観ではない。
 虎蔵は嬉々として、その天井裏に己の私物を持ち込んでいた。掃き拭きの掃除は完璧に終わらせた。そこへお茶の間御用達の卓袱台に茶箪笥、布団は勿論、冷蔵庫まで運びこんだ。
「……源様……わたくしの命に代えましてもお守りいたします……」
 決意も新たに置いたばかりの冷蔵庫を磨いているとどやどやと階下から音がする。
「参ったのじゃ!」
「嬉璃も来たのぢゃ!」
 愛らしい子供が二人。どやどやと天井裏へと駆け上ってくる。
「みみみみみみみみみ、源さまっ!」
「うむ。引越しも済んだようじゃな! ここで立派に鼠捕りの使命を果たすとよいのじゃ!」
 和服姿の可愛らしい幼女はしたっと手を上げて狼狽しまくる虎蔵を激励する。虎蔵は動揺を悟られまいと慌てて片膝をついたがその顔は真っ赤。天井裏が薄暗い為に表情を知られることはなかったが、明るい場所でなら嬉璃にいじめ倒されていたかもしれない。
 その嬉璃は、すっかり世帯じみた天井裏にふむふむと頷く。
「居心地は悪くなさそうぢゃ! 暗いしほこり臭いが」
「そうじゃな。これだけ環境が整っていればきっと鼠取りにも精が出るのじゃ」
 うむうむと頷きあいながら、お子さま二人は物珍しそうに天井裏を――正確には天井裏に運び込まれた虎蔵の私物を眺めている。
 そう、私物を。
 そしてこの二人が見るだけで満足などしてくれるわけがなく。
「おお? これはなんじゃ?」
「あああああ、そ、そこは下着いれです!」
「ほほう、これはまた面妖な……」
「あああああああああ、それは筋力強化に下賜頂いたブルーワーカー……!」
「ん、このひみつのめもりーとは一体なんなのじゃ?」
「あああああああああ、そ、それだけはっ! それは主人から頂いた……」
 正確には誘惑に負けて拝借してきた愛孫の隠し撮り写真集であるとは一寸いえない。
 敵は二人で、虎蔵は一人。そして片方は座敷童子で、もう片方は毛ほどの傷もつけられないというよりつけたくない幼女。実力なら何とかなっても、その実力を行使する事ができない相手である。
「おお! これはなんじゃ!」
「なかなか面妖なのぢゃ!」
「ああああああああ、お、お許し下さいっ!」
 抵抗出来ない虎蔵の目前で、彼の秘密はどんどんと暴かれていったのだった。
 合掌。

 幼女二人は茶菓子と茶まで要求してそれを見事に平らげて去っていった。
 その去った後たるや、それこそ鼠の被害のほうが何倍かマシというありさまとなっている。
 何とか死守したひみつのめもりーを抱き締めた寅蔵はそれでも硬く決意する。
「……源様……わたくしの命に代えましてもお守りいたします……」

 そして薔薇の間天井裏の一日目は暮れた。
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里子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月23日

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