ジャングルジムのてっぺんに、並んで座っていた。
「――ふぅん。それでストレス発散してたんだ」
蓮くんのその言い方がおかしくて、笑う。
「だって”子供”を捨てることだけは、絶対できないんだもん」
「そうだよね。ボクはさなクン、そのままでいいと思うなぁ。むしろ羨ましい」
「羨ましい?」
オウム返しにすると、蓮くんは苦笑して。
「ボクね、大人になりたくないんだ。ずっと子供のままでいたい。ピーターパンに、なりたいんだよ」
「蓮くん……」
「でもボクは、いずれは嫌でも大人になってしまう。身体の成長は、とめられないから。だからせめてさなクンみたいに、心だけはずっと子供のままでいれたらなって、思うよ」
「僕、ピーターパン?」
「少なくともボクには、夢をくれた」
「……あはは。あはははは」
それからしばらく、僕は笑い続けた。蓮くんも一緒になって笑ってくれる。
蓮くんと出会ってから、僕は笑ってばかりだ。
(――だってね?)
初めてだったんだ。
”僕”として、認められたのは。
ベーシストとしては認められてたけど、それは単に腕がよかったからだ。僕の人間性まで認められたわけじゃなかった。
大抵の人は32という歳の僕を好奇の、もしくは呆れた目で見ていた。そんな部分を好きと言ってくれたあいつも、結局最後にはその一部になった。
(けれど今)
何よりも嬉しい言葉をもらった。
(僕はピーターパンなんだ)
子供のままでいてもいい。
それにより”何か”を与えられる相手が、1人でもいるんだから。
(僕はこのままで、いいんだ)
笑いすぎたのか、涙が込み上げる。でもこれはさっきまでの涙とは違う。――嬉し涙だ。
そんな僕に何を言うこともなく、蓮くんは小さな声で何かの歌を口ずさむ。それは澄んだ星空に優しく響いた。
「I am not learning the past.
I don't think of the present.
Because we are full in thinking of the play tomorrow……」
「――それ、何の歌?」
すると蓮くんはクスクスと笑って。
「そのまんま、ピーターパンって歌だよ」
そう答えてから。
「You can hear my song?
If reaching …… I go to meeting to you.」
そこは歌ではなかった。
「うん。セリフなんだ」
また笑う。
「いい曲だね」
「いい曲だよ」
まるで昔からの友達みたいに、わかりあえた瞬間。
「――ね、蓮くん。今度僕のライヴに来ない? 愚痴じゃなくてちゃんとした音、聴いてほしいんだ」
(僕が僕で生き続けることを)
初めて許してくれたキミに。
すると蓮くんはまた瞳を輝かせて。
「もっちろん、行く行く!! またベース教えて欲しいし……」
「それだってもちろんだよ」
「わー楽しみだな♪ 今度いつあるの?」
「えっと、次は――」