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『『SOUVENIR ― 遥か遠き日々 〜今ハ見エヌ翼〜 ― 』 』
嘉神・しえる2617
 そこはどこだろうか?
 わからない。
 私は濃紺のドレスを着て、あなたは紫のドレスを着ている。
 二人並んで背を預けているのは私たちが手を繋いでもう片方の手を伸ばしても届かないほどの太い幹の大木。
 私と貴女は互いに届かない手を伸ばしあって、そして指先が触れ合うと、もっと懸命に手を伸ばしあって・・・伸ばしすぎて繋いでいた手が解けて、私たちは前のめりに転んでしまって、
 それでお互いに、
「「大丈夫?」」
 と、同時に確信しあって笑いあう。
 

 貴女は誰?
 貴女は私の何?
 そこはどこ?


 わからない。
 わからない。
 わからない事がものすごくもどかしい。
 お願いだから、誰か私に私の疑問に答えて・・・。


 私はその夢を見るたびにいつも布団の中に潜って、母親の子宮の中の胎児がそうするように体を丸めて、声を押し殺して泣くのだ。
 夢から覚めるという事は夢の中の貴女と引き裂かれるという事だから・・・。
 それは胸がとても苦しい事。現実。
 私は願う。
 その夢を見続けたまま永久の眠りに自分がつくことを・・・。


 寂しい。
 貴女は今この瞬間、私が存在するこの世界に存在するの?
 会いたい。
 逢いたい。
 会いたい。
 逢いたい。


 貴女はどこ?
 見つけて・・・。
 私を見つけて。
 
 
 貴女はどこ?
 見つけたい・・・。
 貴女を見つけたい・・・。


 抱きしめたい。
 貴女をこの手で抱きしめて、もう放したくない。


 抱きしめられたい。
 貴女の手に抱きしめられたい。
 放さないで、私を・・・お願い・・・・。


 そんな風に私に想わせる貴女。
 不思議だよね。
 だってさ、貴女は私の夢の中の人。
 夢って何?
 それは過去の記憶だったり、
 前に読んだ本の世界、見たテレビや映画の世界の記憶、
 そんなモノ・・・。
 そう、貴女は私が前にちらりと見た何かなのかもしれない。
 多分そうだ。
 だけどね、夢は記憶の映像でもあるのよ。そう、記憶の映像。
 それならいいと想う。
 記憶の映像だって。
 だってそうなら私は貴女と出逢えていたということ。
 こんなにも恋焦がれるような切なく儚い・・・胸が苦しくなるような想いを抱く貴女と確かに私は出逢えていたという事。
 この手は確かに貴女の手を握っていて・・・。


 逢いたい。
 会いたい。
 逢いたい。
 会いたいよ、貴女に・・・。


 その樹は大きな樹だ。
 咲く花は桜に似ている。
 その世界に吹くひどく透明で澄んだ香りを持つ風にひらひらと空間に舞う花びらは淡い薄紅。
 それはその樹にもたれて座る貴女と私を包み込んでくれる。
 愛おしそうに私たちを包み込むように。
 優しく。
 優しく。
 優しく。
 守るように。
 愛しむように。
 母親がその腕に子どもを抱くように。


 夢に出てくる貴女は、とても細やかで、華奢で、黒髪に縁取れた顔は透けるように白くって・・・なんだか見ているととても綺麗すぎて儚い人。
 貴女のその儚さをさらに感じさせるのはその瞳・・・。


 それはまるで真夏の夜に見る蛍火のような儚げな蛍光の瞳で、彼女を見る私はその瞳にとても胸が張り裂けそうな悲しみと危うさを感じてしまう。


 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 欲しい。
 何が欲しい?
 

 薄紅の花びらに包み込まれながら私をその蛍光の瞳で見て小さく微笑む貴女を守る力が。


 求めるのは貴女を支えてあげられる力。
 守ってあげられる力。
 世界に溶け込んで消えてしまいそうな儚い貴女を繋ぎとめられる力。


 私はそれを求める。
 両膝をつき、
 両腕は空に伸ばし、
 そこにいる神に祈る。
 ください神様。
 今度こそ、私に彼女を守る力を。
 今度こそ?
 今度こそって何?


 花びらは舞う。
 その疑問を消してしまおうとするかのように。
 私はそれに必死に拒絶するけど、だけど私のその意志は、
 薄紅の花霞みの向こうに消える。


 会いたい。
 逢いたい。
 会いたい。
 逢いたい。


 放さないで、私の手を。
 私は夢の中の貴女にそう懇願する。
 その手を放したら・・・
 そしたらもう私の手は・・・
 貴女の手を掴む事ができない。


 嫌だ。
 イヤだ。
 いやだ。


 私は薄紅の花を咲かせる樹の下で、風に舞った花びらに包み込まれながらその黒髪に縁取られた顔に綺麗で透明な笑みを浮かべながら、慌てる私をその儚い蛍火かのような色の瞳で見据える貴女に手を伸ばす。
 伸ばす。
 伸ばす。
 伸ばす。
 手を!!!
 指先が触れる。
 私はそれに目を見開く。
 嬉しいから。
 すごく嬉しいから。


 私は求める。
 貴女を求める。


 触れ合う指先。
 私の指先に移る貴女の体温。ねえ、私の温もりも貴女の指先に移っている?


 彼女が小さく微笑んで、私も微笑んで、


 私がいる場所から、


 桜に似た樹の下で微笑む貴女のいる場所は私がいる場所から遠く離れようとしたのだけど、


 しかし私の手を貴女はしっかりと握ってくれて、


 だから私は貴女のいる場所にいけて、


 私たちは薄紅の花びらに包まれながら抱き合った。


 そしてそこで夢は覚める・・・。
 私は瞼を開く。
 そこにあるのはあの夢の世界で見る樹の花によく似た淡い薄紅の花。
 瞳から零れた一滴の涙は流れるがままに。
「おう、ようやく起きたか?」
 夢の中の彼女がそうしていたように桜の樹にもたれながら私にそう笑いかけるのは兄貴。
 火のついていない煙草をくわえながら笑うその兄貴の顔は・・・
「どうした、そんな子どもみたいな顔をして? 怖い夢でも見たのか」
 からかうように言う。
 逆だよ。
 その逆。
 見た夢は心震えるような夢。
 どんなに憧れても、
 どんなに求めても、
 もう決して指の先すらも触れられない大切な・・・モノ・・・・・・・
「違うわよ、馬鹿兄貴」
 減らず口を言ってしまったのはどうして?
 夢の中にいる貴女によく似た兄貴。
 それは思春期の子どもかのような・・・そんなものかもしれない。
 私は私の上にかけられていた兄貴のジャケットを綺麗にたたんで、兄貴に返すと、
 夢の中の私たちがそうしていたように、
 兄貴の隣に並んで座って、
 そして兄貴の手を握って、
 兄貴の肩に顔を預けた。
「なんだよ、しえる。甘えて?」
「ん、たまにはいいじゃない。黙って肩を貸しなさいよ。今夜の花見の場所取りは誰がしたと思ってんのよ?」
「俺だろ」
「あれ、そうだっけ?」
「馬鹿。まあいいや。なんだか後が怖そうだけど、今日はしょうがないから貸してやるよ」


 頬に伝わる兄貴の温もりは、夢の中で私の指先に移った彼女の温もりと同じ優しい体温がした。



 **ライターより**
 こんにちは、嘉神しえるさま。
 ライターの草摩一護です。
 いつもありがとうございます。


 物語の内容に触れるのは今回は控えさせていただきますね。
 読後の感じを大切にしていただきたいので。^^


 代わりに今回の製作過程などを。
 指定された御劒京さんのイラストをじぃーっと眺めて、プレイングを読んで、それでもう一回イラストをじぃ〜と見て、それで頭に浮かんできた感覚が消えてしまわないうちに、これを書いて、そしてその感覚を描写したモノに書き足し調整をして書き上げたのです。
 
 普通のノベルはプロットを紙に書き込んで、小説をちゃんと頭の中で描いてからそれを文字にするのですが、
 こういう詩的な感じのモノは、その場の勢いで一気に描写しますね。
 感覚が一番大切なモノですから。^^
 そして実は普通にノベルを書くよりも、こういう詩的な感じのモノの方が好きだったりします。


 それでは本当に今回もありがとうございました。
 失礼します。



PCシチュエーションノベル(シングル) -
草摩一護 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月22日

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