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『インタビュー With ジャイアニズム 』
井上・麻樹2772

1.
某日。都内のホテルの一室に2人は向かい合った。
カチッと1人の男の指がテープレコーダーのボタンを押した。

「み・・三下忠雄インタビューアー・有名人怪談対談第3回。ゲスト・『ハイブロウ』主宰にして『Blutschande』のギタリスト 井上麻樹(いのうえまき)さん」

やや緊張気味に三下はレコーダーに向かい、原稿を起こすときに分かりやすいようにタイトルを吹き込んだ。

真面目やなぁ。
まぁ、あの編集長の下で働くんやったらこのぐらいの真面目さは必要かも知れんなぁ・・・。

麻樹はそんなことをボーっと考えていた。
「えーっと、ここから記事本題」
ゴホンと三下は咳払いをした。
「こんにちわ、井上さん。今日はよろしくお願いします」
「よろしゅうに〜♪」
堅苦しい挨拶の三下をよそに、麻樹は先ほどとは打って変わりにこやかに笑う。
年齢こそ三下のほうが1歳上だが、麻樹の方がその度胸のよさで三下を圧倒している。
「・・え、えっと・・怪奇な体験をしていることで有名な『Blutschande』ですが、井上さんはそういった怪奇現象をいつごろから・・・」
と、真面目にインタビューしようとしている三下を見ていた麻樹に、悪戯心が芽生え始めていた。

「ちょい待った」

ニコニコとした笑みのまま、麻樹の目はまたしても獲物を狙っていた・・・。


2.
「このまんま話し続けると喉が渇くし、飲み物頼んでもええかな?」
プチっと一時停止ボタンを押し、麻樹はそう提案した。
「そ、そうですね。気がつかなくてすいません・・。何がいいですか?」
慌てて三下が立ち上がり、室内電話の受話器を上げた。
ちょっと考えた後、麻樹は言った。

「じゃあ・・俺は珈琲。で、三下さんはチューハイな♪」

「な、何で僕がお酒なんですか!? それに、それじゃ取材費で落とせませんよ!?」
すかさず三下の突込みが入る。
が。
「何でて・・三下さん緊張してるさかい、そんなんやったら上手く口なんか動かんやろ思ってな。ダイジョーブ! 取材費で落ちるように俺がちゃあんと編集長に掛け合うさかい」
ニコニコと笑う麻樹に「な、なるほど・・」と三下は思わず納得してしまった。
「ほな決まりな♪」
そう言うが早いか麻樹は三下から受話器を奪い取るとルームサービスへとオーダーを手早く済ました。
「インタビューの続き、やろか?」
受話器を置いた晴れやかにしてにこやかな麻樹の笑顔に、三下は再び席に着くとレコーダーの一時停止を解除した。
「えー・・っと。そう。怪奇現象を見始めたのはいつごろからでしょうか?」
三下が再び緊張気味に麻樹に聞いた。

「ん〜・・気がついたら見えとったな。他の人も見えとる思ってたから、気にしてへんかったんよ♪」

ヒラヒラと手を振り、笑いながら答えた麻樹に三下は少々戸惑っていた。
こう・・・暗さが足りないというか・・。
もう少しオカルト雑誌としてはおどろおどろしさが欲しいというか・・・。
三下は少し考えた後、質問方向を変えることにした。
「では、今までで一番恐ろしいと思った体験は?」

「そら決まっとるって。レコーディング前やのに曲が書けてへんかった時。催促の電話ガンガンになるし、煮詰まっとるからさらさらでけへんしな」

またしてもニコニコ顔で麻樹はさらりと答える。
「・・いや、そうじゃなくて・・」
三下のメガネが困り顔にぴったりとマッチしている。
まるで困り顔のためにあるようなメガネと三下の顔である。
その顔が麻樹の心に火をつける。
麻樹の笑顔に一点の邪気も見えないが、もちろんワザとである・・・。


3.
  ピンポーン

「お!飲みモンが届いたみたいやな。ちーとばかし中断な?」
ポチッと一時停止ボタンを押し、麻樹は軽い足取りで入り口へと向かった。
「ルームサービスをお持ちしました。珈琲とチューハイです」
「おおきに〜」
ひょいっと飲み物を持ってきたホテルマンから飲み物を奪い、麻樹は三下の待つ部屋の中へと戻った。
「ぼ、僕がやります・・」
オロオロと麻樹の持つ飲み物をとろうとする三下を「まーまー」と押さえつけ、席の近くのテーブルへと置いた。
「三下さん、さっきから緊張しまくってて何話したらええかわかってへんみたいやし。ちーとばかしアルコール入れて落ち着きぃな」
「・・・そ、そうですかね?」
「そそ。鬼の編集長もおらへんことやし、仕事中に酒飲んだなんて俺言わへんし。な? だ〜れも酒飲んだやなんてわからへんやろ?」
悪魔の囁き・・・しかし、三下にそれを見抜くだけの力はない。
「そ、そうですよね。仕事中に僕がお酒飲んだなんて分からないですよね?」
麻樹は気づかれぬようにレコーダーの一時停止ボタンを解除した。

「三下忠雄! チューハイいただきます!」

コップを高く掲げ、三下はゴクゴクとチューハイを飲み干した。
「いい飲みっぷりやね〜♪ ・・あ〜。ここの珈琲、結構いけるなぁ」
一口珈琲を飲むと麻樹はわざとそう口にした。
「・・い、インタビューを再開し・・しまひょう・・」
「そやな。三下さんもノリがよくなってきたことやし・・・。よっしゃ、怪奇現象のとっときの体験談聞かせたるわ♪」
微妙にぐらぐらと左右に揺れてきた三下をみて、麻樹はいよいよ取材が大詰めに近づいていることを悟った。


4.
「アレはいつのことやったかな。俺達がファンから貰った招待状でとあるホテル宿泊したときのことやった・・・」
先ほどとは180度違う真面目な姿の麻樹に、三下は思わず引きつった。
「ちょ・・い、井上さん??」
「1泊2日の予定でホテルに招待されとった俺達はとあるツインの部屋を一室割り当てられた。・・そや。丁度この部屋みたいな・・」
麻樹の真剣な眼差しは少し下向きで、先ほど三下が求めていた『おどろおどろしさ』を思う存分に醸し出していた。
「俺達は翌日の日程にあわせ、はよ休むことにしたんや。・・やけど、ことはその日の夜に起こったちうわけや。深い眠りについた深夜、ひたひたと裸足の足音が近づいてきよったんが聞こえたんや。俺はその音で目が覚めたんや。そやけど、体が動かへん」
そこで一旦麻樹は息をついた。
よりシリアスに、その次の言葉をためらうように。
三下を見ると、顔色が悪い。
麻樹は続きを語り始めた。
「声を出そうとしたんやけど、声も出せん。そないしとったら・・・」
一段と声を低くし少し間をおくと、麻樹は三下の後ろを指差し叫んだ!!
「白い影が!! ほらそこや!!」

「うわああああああぁぁぁぁああああぁぁ!!!?!?!?」

裏返った悲鳴。
青くなった三下が見る見る赤くなって、ついに泡を吹いて倒れた。
麻樹は恐る恐る三下を覗き込んだ。
「・・三下サーン?」
哀れ三下。
アルコールと極度の緊張、そして怪奇体験談。
それらに耐え切れなくなり、三下は目を回してノビていた。
「ダメやな〜。ケツまで話聞かな」
はぁ〜っと麻樹は溜息をつくと、レコーダーに向かって続きを話しだした。
「実はな、隣で寝てるんと思った相方が実は眠れのうてシャワーあびとってん。で、白いバスローブ着て部屋の中うろうろしとったのを見た・・・ってだけやったんやけどな」
麻樹はおもむろに室内電話の受話器をとった。

「あ、フロント? 悪いんやけど、連れがちーとばかし具合悪うなってしもたので2時間くらい休ませて欲しいんやけど・・。あぁ、お会計は『月刊アトラス編集部』に頼みますわ。ほんならよろしゅう〜♪」

麻樹はそう言って受話器を置いた。
ルンルンと帰り支度をしつつ、麻樹は呟いた。
「三下さんと話した後は、なんやすっきりするなぁ〜」
帰路についた麻樹の足取りは軽かった。

その後、起きた三下が月刊アトラス編集部に辿りつくとホテルからの請求が回ってきていた。
レコーダーに残った音声が証拠となり、ホテルからの請求は取材費としては認められず三下が自腹を切った。
なお記事は後日、別の人間が再度麻樹に取材をして事無きを得たという・・・。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
三咲 都李 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月12日

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