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『舞い散る桜よりも美しく 』
西王寺・莱眞2441

 出会った女性には、全て優しく接する。老若問わずに。
 それは俺のモットーであるが、何も悪戯に行動を起こしているわけではない。
 きちんとした行動理念が存在するんだ。
 美しい、俺の記憶の中に…。

 それはまるで、『忘れないで…』と俺の心に刻み付けるかのように。
「………」
 何かに囚われた感覚が抜け落ちない。俺、西王寺 莱眞(さいおうじ らいま)はある夢を見て、静かに糸が切れるかのように、目が覚めた。
 物心付いた頃から、時折見る、同じ夢。
「……また、あの夢、か…」
 辺りは、暗い。夜明けはまだ、訪れる前のようだ。
「……ふぅ…」
 身を起こして溜息を吐く。髪を掻き上げると、手のひらに何かあるような気がして、その手を目の前に持ってくる。
「…桜の花びら…?」
 俺がそう呟くと、確かに目に焼き付けた『もの』は、空気に溶け込むように、消えた。
 今、薄いピンクの桜の花びらが、手の中にあったのだ。
「夢の、せいか…」
 目を閉じれば鮮明に思い出すことが出来る、夢の内容。
 むせ返るほどの芳香を放つ、桜花の中。俺の目の前に現れる一人の女性。緩やかな風に舞う、花びらと、それに習うかのように流れる彼女の美しく長い髪。その長い髪で顔はよく見えないが、彼女はいつも儚げで、瞳は哀しみに満ちていた。堪らず俺が彼女を抱きしめようと手を伸ばすと…まるで空気のように、彼女は俺の手をすり抜け、遠ざかっていく。舞散る桜がそれを助けるように。それがどうしても胸が締め付けられるほど苦しくて、俺は必死に彼女を追う。そして、もがきながらさらに手を伸ばすところで、…目が覚めてしまう。

『どうしてそんなに哀しい瞳をするの? 泣かないで…お願いだから笑って? 貴方の笑顔が、見たいよ…』

 俺は夢の中で、彼女に向かい悟すようにそう言うのだが、彼女の表情が変わったことは無かった。
 そして、今日も同じところで目が覚めた…。
 どうして、同じ夢ばかり、続けてみるのだろう。
 俺では、彼女を笑わせるのは、無理なのか…。
「………」
 どこか懐かしい、夢の中の、『君』。
 神話の世界から出てきたような、神秘的な衣服。流れる袖がまるで天女の羽衣の如く、美しい。…もしかすると、前世で出会っている女性なのだろうか。前世の記憶が、俺に何かを伝えようとしているのか…。
 …解らない。
 解らないが、どうしてこんなに切なくなるのだろう。
 巡り、逢えるのだろうか。あの女性に。それが前世の記憶であるならば、転生した彼女に、逢えるのだろうか。それとももう、巡り逢えているのだろうか…。
 いつ?
 何処で?
 考えても、解らないものは、解らない。
 もうこの考えも、幾度繰り返しただろうか。ずっと俺の胸の奥で秘めている、想い。
 そしてある日俺は、決意したのだ。
 あの女性が誰であるか解らない以上、出会った女性には全て優しく接しようと。少しでも微笑んでもらえるよう。
 俺が、哀しみから解放してあげられるように。
 女性の涙は宝石のように美しいものだが、出来れば多くを流して欲しくは無いものだ…。

『泣かないで…お願いだから笑って?』

 いつか、夢ではない現実で。
 『君』に言ってあげられる日がくるだろうか。俺が癒してあげることが出来るだろうか。
 現実でも、桜と一緒に現れるのだろうか。
 あの、溺れてしまいそうな花吹雪とともに。
 その時は、消えてしまう前に、この腕にその存在を抱きとめよう。桜と一緒に抱きしめよう。
 今度こそは、後悔をしないように。

「……桜…」
 新たな思いを心にまとめた時、また目の前に桜が舞ったような気がした。
 たったひとひら。
 あの女性のように、儚げで美しい、ひとひらが。
 俺がそれを追いかけ、手を伸ばした時には、その桜は消えていた。
「もう…夜明けか」
 気がつけば、辺りが薄暗くなってきている。
 夜明けが近づいているのだ。
 思いに耽ってしまうと、時間が経つのでさえ、忘れてしまう…。
 俺はそのまま起きてしまおうと、静かにベッドを離れた。

 離れた直後、再び桜の花びらが舞ったのを、俺は知らない。

『…忘れないで』


-了-


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西王寺・莱眞さま

ライターの桐岬です。ご依頼有難うございました。
桜な内容は私自身が物凄く大好きなので、とても楽しく書かせて頂きました。
莱眞さんはナルシスト(しかも無自覚)だと言うことで内容も
少しだけ酔い気味な、ポエマーを気取っていただいたのですが…。
それでいて、わざとらしくないような…。
如何でしたでしょうか?脚色も多々させていただきました…。
ご期待に応えられていれば、幸いです。
夢の中の女性が大変気になるところですが、この辺で書き止めと致します。
この度は有難うございました。
※誤字脱字がありましたら、申し訳ありません。

桐岬 美沖。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
朱園ハルヒ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月12日

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