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『めかくしおに 』
七伏・つかさ2678

 いつでも影はついてくるの。
 決して離れることは出来ないし、遠く、遠くへ一人行くことも出来ない。

 でも。

 ――でもね?

 何故か、ボクの影は時折、ボクから離れてしまっている。


(……なんでかなあ?)


 聞いても誰も答えてくれない。
 ただ、頭を撫でて微笑んでくれるだけ。


                     +++


「んー今日は何して遊ぼうか♪」

 愛用のリュック「トット」を背負い、七伏・つかさは今日も元気良く鼻歌交じりに、とある野原の中を散歩していると。
 いつも一緒に居る筈の7つの影が4つしかなく……つかさは瞳を丸くした。

「あれれ? …ああ、そっか!」

 ぽん!と手を叩く。

 きっとこれは、かくれんぼに違いない。

(こんな…ボクらより高い草なんて初めてだもんね)

 背の高い草は、影の1つや2つ容易に隠せてしまいそうだし、こんなに今日は風も無く穏やかで。
 さわさわと、つかさと草木を撫でる様に吹く風に気分を良くして辺りを窺う。

 ――静かだけれど、何処か耳を澄ませばくすくすと笑い声が聞こえるようで。

 きっと探せやしないと思っているのだろうけど、そうはいかない。

「ボクのこと、甘く見てもらっちゃあ…困るんだよねぇ♪」

 つかさは、4つの影をじーーーっと見ながら、3つの隠れた影を考え始める。

 1つ目の影と2つ目の影は大人しくて、いつも一緒に居てくれる。
 5つ目と6つ目は時折、意地悪。
 つかさが答えられないことを平気で聞いてくるいじめっ子気質。

(でも、5つ目と6つ目は…いじめっ子だけどかくれんぼが苦手……と、なると?)

 出てこなかった影は3つ目に4つ目に7つ目だから……。

(この3つの影を探せばいいんだね? よーし!!)

 つかさの身体を覆い隠すような野原の中を、影と一緒につかさは元気に走り探す。
 自分の、3つの影を探して。



                     +++


「3つ目、4つ目、7つ目、何処ー? 居ないのー?」

 広がる野原の中、つかさは何処までも走る。

 くすくすと微笑う声と一緒に「此処だよ」と言う声も聞こえては来ているのに中々見つからない。

 此処には来たと言う石の目印を置いて、またつかさは走る。
 草に時折、足が縺れて転びそうになるけれど、それさえも楽しげに、つかさは越えて行く。

 小さな身体には、全てが遊び道具になる。

 散歩をしていて見つけた野原も、その中にある小さな石や野の花でさえ。
 共に在る、4つの影と一緒に遊ぶ材料になる。
 小さな花達を摘んだり、綺麗な石を見つけ、ポッケにしまったり……かくれんぼの最中でも色々なところへ目を向けてしまうのだ。

「んー、このお花よりこっちの方が綺麗かなあ? 2つ目はどう思う?」

 ゆらゆら考え込むように花を選ぶ影につかさは微笑を浮かべ他の影にも聞いて回る。
 
 そんな中、ふと…つかさの影の1つである――「7つ目」が、つかさへと動いた。
 あっちあっち、と指差すような影法師の姿に、「ん?」とつかさは首を傾げながら7つ目の影が指し示した方向を見た。

 すると。

 にぃ……と笑ってるような、おかしそうに身体を抱えた形をした影が1つ。
 隠れているようでも少しばかり、影の形がはみ出してしまっているのが見えた。

 多分、あれは隠れていた「4つ目」の影ではないかと思いながらも、つかさは力の限り大きな声で叫ぶ。

「あああっ。4つ目、見ーーーつけた!!」

 びくうっ。

 「4つ目」は、あまりに大きなつかさの声に身体を震わせながら、気まずそうにこちらを向き――頭を数回掻く仕草をした。
 まるでサイレントムービーに使う様な影だと、つかさ以外の人物が居たら考えてしまったかもしれない動作で。

「ねえねえ、他の影は何処に居るの? 3つ目と7つ目は?」

 つかさは「4つ目」へと話し掛ける。
 が。
 4つ目は首をただ、ふるふると静かに振るばかり。

「むぅ……? ま、いいや♪ じゃあ4つ目もボクと一緒に探すの手伝ってね?」

 にぱ、とつかさは笑うと5つになった影を従え、あと2つの影を探す。

 いつ終わるとも知れないかくれんぼ。
 陽が暮れるまでの影たちとの遊び。

 いつでも影はついてくるの。
 決して離れることは出来ないし、遠く、遠くへ一人行くことも出来ない。

 けどね?
 ボクの影だけは、いつもボクの意に反して遊びだす。

 ――見つけたら、誰が鬼?

 陽が暮れて、誰かが探しに来るまで。

 影と遊ぶ、かくれんぼは――まだ、終わらない。





・End・
PCシチュエーションノベル(シングル) -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月09日

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