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『真冬のサイコロの旅・第3夜 』
冠城・琉人2209)&ベータリア・リオンレーヌ(2598)
●第2夜までのあらすじ
 某地方局ディレクター、ベータリア・リオンレーヌが放った刺客――女子プロレス軍団に就寝中の所を拉致されてしまった冠城琉人。
 琉人はそのまま『目指せ北海道! 真冬のサイコロの旅』という番組企画に、有無を言わさず参加させられてしまう。
 定められたゴールは北海道・札幌。一刻も早く企画を終わらせるべくサイコロを振る琉人。しかし第1の選択で金沢の目を出してしまい、初っ端から波瀾を感じさせる幕開けとなってしまった。
 続く金沢での第2の選択。『冠城さん謀反』事件が起こるも、出た目が絶対であるのがこの企画。よりにもよって、札幌への直行便がなくなった時間の福岡へ飛行機で移動することとなる。
 第3の選択は夕方の福岡空港前で決行。博多1泊を目論む琉人であったが、無常にも出た目は深夜バスで東京・新宿という最悪の結果に。キング・オブ・深夜バス『はかた号』さんのお出ましである。
 キングに揺られること約14時間半。『逆浦島現象』にも襲われ、すっかりやられてしまう琉人。その脅威は同行ディレクターであるベータリアの身体にもダメージを与えていた。
 こうして、最悪の状態で2日目の朝を迎えた琉人たち。果たして第4の選択はどうなるのか。そして、無事にゴールの札幌に到着することが出来るのか――。

●またしてもやってしまった
 2日目・午前11時前――新宿駅前。スタジオアルタがある方面だ。
「さて」
 デジカムを回し始めてすぐ、ベータリアが言葉を切り出した。
「髪型も元に戻ったみたいだね」
「おかげさまで」
 琉人がぺこりと頭を下げた。深夜バスの到着後、身体がべたつくと言うのでサウナへ寄って身だしなみを整えてきたのである。
 やはり一風呂浴びてさっぱりしたからだろう、琉人の顔にも生気がそれなりに戻ってきていた。いいことである。
 それはベータリアも同様で、いつの間にやら着ているTシャツが、自分の所属している女子プロレス団体で販売している物に変わっていた。
「え……っと。まだやるんですか?」
「当然」
 琉人の質問に、ベータリアがさらりと答えた。溜息を吐く琉人。やはり尋ねるだけ無駄だったか。
「じゃ、これを」
 手慣れた様子で、第4の選択が書かれたパネルを手渡すベータリア。琉人もそれを素直に受け取っているのだから、もう諦めの境地に足を踏み入れている様子だ。
「では第4の選択です。
 1・札幌直行便。飛行機で新千歳。
 2・北の大地までもう一息。東北新幹線『はやて』で八戸。
 3・気分だけでも北海道。上越新幹線『Maxたにがわ』でガーラ湯沢。
 4・気分転換に文学散歩。特急『踊り子』で修善寺。
 5・本場のさぬきうどんを堪能。東海道・山陽新幹線『のぞみ』と快速『マリンライナー』で高松。
 6……え? 九州逆戻り。東海道・山陽新幹線『のぞみ』で博多?」
 6の目に書かれた文字に面食らう琉人。
「今朝、博多から来たばっかりじゃないですか!」
「昨日約14時間半かかった行程が、『のぞみ』だと約5時間だから凄いねえ。さすがは新幹線」
 琉人が抗議するが、ベータリアがのらりくらりとそれをかわした。
「だいたい何で電車ばっかりなんですか? 飛行機使えばもっと速いでしょうに……」
 当初からの疑問を琉人が口にした。列車でちんたら移動せずとも、飛行機ならあっという間だ。四国や九州へ行くならなおさらのこと。それに対し、ベータリアはこれ以上ないくらい明確な答えを返した。
「予算がないから」
 地方局、あると思うな、人と金。
「ああ……なるほど。それだと仕方ないですね……」
 さすがにこれには琉人も納得せざるを得なかった。飛行機より列車、列車より深夜バス、予算のことを考えると、どうしても選択肢はそうなってしまうのだろう。
「納得してもらった所で……はいっ、サイコロ〜ッ!!」
 ポージングを取り、サイコロを差し出すベータリア。琉人はサイコロを手に取ると、すぐさま放り投げた。
 地面に落下し2度ほど跳ねたサイコロは、それから少し転がって――疑いたくなるような目で止まった。
「……嘘でしょう……」
 大きく天を仰ぐ琉人。ベータリアのデジカムが捉えたサイコロの目は6。博多へ逆戻りである。
「だから昨夜はそこに居たんですって……」
 琉人のつぶやきが、とても虚しく聞こえていた……。

●無意味な移動
 2日目・午後5時過ぎ――博多駅前。正午前発の『のぞみ』に乗り、琉人とベータリアは24時間前に居た土地へ舞い戻ってきていた。
「懐かしくも何ともないですね」
 到着早々、そんなことを言い放つ琉人。まあ昨日のこの時間には博多に居たのだから、当たり前といえば当たり前の話だけれども。
「じゃあこれを」
 第5の選択のパネルを手渡すベータリア。が、琉人はパネルを一目見るなり少し眉をひそめた。
「これ……昨日の使い回しですよね?」
「気のせいです」
「……大きくペケをつけておいて、そう言うのはどうなんでしょうね」
 琉人が小さな溜息を吐いた。何故なら『第3の選択』の『3』の部分に大きく『×』をつけ、その上に『5』と書いていたのだから。一目瞭然にも程がある。
「とにかく読んで」
「分かりましたよ。第5の選択ですね。
 1・空へ……って、『もう1度』の部分を二重線で消しただけじゃないですか。飛行機で東京・羽田。
 2・とにかく食い倒れ。山陽新幹線『のぞみ』で新大阪。
 3・九州新幹線暫定開業前にもっと九州。特急『つばめ』で西鹿児島。
 4・外国の一歩手前。フェリーで対馬。
 5・出ましたキング・オブ・深夜バス。深夜バス『はかた号』で東京・新宿。
 6・中洲でドンチャン。博多1泊」
 要するに第3の選択と全く同じである。
 サイコロを振る琉人。出た目は何と1、飛行機で東京・羽田だ。深夜バスや列車に比べれば、格段に移動時間は短い。
「でもまた戻るんですよね」
 うんざりした様子の琉人。ええ、また東京に戻るんです。
「次に博多へ来る時は瞬間移動かな?」
「あはは……」
 ベータリアの冗談に、琉人は力なく笑っただけだった。

●夜になるとあいつらが動き出す
 2日目・午後8時過ぎ――羽田空港前。
「さすがに乗り疲れてきましたね……」
 琉人が首をこきこきと鳴らしながらつぶやいた。出発から間もなく40時間、そのほとんどが移動である。動かない場所で横になって眠る時間もないのだから、疲労が蓄積しているに違いない。
「そう思いませんか?」
 同意を求めるようにベータリアへ話しかける琉人。
「へ?」
 しかしベータリアは、デジカムを琉人の方へ向けつつも何やら色々とポージングを取っていた。
「……いったい何を」
「あー、筋肉に程よい刺激を与えてる所」
 ポーズを変え、さらりと答えるベータリア。何でも移動移動で身体が動かせなくて、むずむずとしていたそうだ。
「聞いた私が馬鹿でした。サイコロ振りましょう」
 琉人がふう、と溜息を吐いた。そして第6の選択のパネルが手渡される。
「第6の選択です。
 1・北海道はもうすぐそこ。寝台特急『あけぼの』で青森。
 2・一応進路は北へ。夜行快速『ムーンライトえちご』で新潟。
 3・北は北でも北陸へ。夜行急行『能登』で金沢。また金沢ですか。
 4・一応ここも京都です。深夜バス『シルフィード号』で……舞鶴?
 5・四国で朝を。寝台特急『サンライズ瀬戸』で高松。
 6・大和の神々の聖地へ。寝台特急『サンライズ出雲』で出雲市」
 読み上げる琉人の声にも力がない。とりあえず横になれる目は1・5・6。4だと2夜連続で深夜バスとなってしまう。
「一番ましなのは1でしょうね」
 サイコロを手の中で転がしながら、琉人がつぶやいた。青森まで行けば、もう北海道上陸は目前だ。次の一手のためにも、ここは1を出したい所である。
 が――琉人の出した目は3。夜行急行『能登』で金沢となってしまった。
「『能登』って寝台あるんですか?」
「ありません」
 琉人の問いに、ベータリアがきっぱりと答えた。
「同じルートを走る寝台特急『北陸』だと寝台があるんだけど」
「何でそっちにしなかったんですかっ!」
「そりゃ、急行の方が安いから」
 確かに、同じルートを走るのなら安いにこしたことはない。ディレクターとしては当然の判断かもしれなかった。
「せめて横になりたかった……」
 しかし、がっくりと肩を落とす琉人の言葉は、人間として当然の欲求であっただろう。
 かくして旅は3日目へ突入するのだった。

●チャンスタイム!
 3日目・午前7時前――金沢駅西口前。
「おはようございます」
「……おはようございます」
 デジカムを構えたベータリアの挨拶に、琉人は不機嫌そうに返していた。
「機嫌悪いねえ」
「もうですね……シートのスプリングが悪いのか、背中が痛くて痛くて……。おまけにこまめに停車するんで、目が覚めるんですよ」
 愚痴る琉人。もうだいぶ限界の様子だった。そんな状態であっても、まだ企画は続く。
「えっとね、そろそろ限界が近付いているようなので、こうしてみました」
 と言って第7の選択のパネルを手渡すベータリア。
「あ」
 そのパネルを見て、琉人は軽く驚きの言葉を発した。
「2度目の金沢で第7の選択です。
 1、2、3、4・チャンスタイム! 小松空港から飛行機で新千歳直行!
 5・山登りも出来ます。特急『しらさぎ』で名古屋。
 6・それでも食い倒れ。特急『サンダーバード』で大阪」
 何と6つの目のうち4つまでがゴール札幌へ向いているのだ。ここで出せなきゃ、もはや運に見放されているとしか言い様がない。
「もうこれで終わらせましょう」
 念を込め、サイコロを放り投げる琉人。サイコロはコロコロコロコロと転がって――出た目は2。念が通じたのか、新千歳直行だ。
「やっ……たぁ!」
 琉人は両手のこぶしを高く突き上げた。出発から50時間にして、ようやくゴールの目を出せた訳で。喜びもひとしおであった。
「これでやっと北海道上陸だねえ」
 琉人の喜びの表情をデジカムでつぶさに捉えるベータリア。
「もうこれで企画終了ですよね?」
 琉人がベータリアに尋ねた。
「ゴールだね」
 ベータリアが琉人にさらりと答えた。
「じゃ、ちょっと電話をかけてくるから」
 ベータリアはそう言って、わざわざ公衆電話の方へと走っていった。携帯電話があるというのに。
 この約4時間後、琉人たちは新千歳空港へ向けて小松空港を飛び立つのである。

●北の大地にて
 3日目・午後0時半――新千歳空港。ついに琉人たちは北海道の地へ降り立った。北海道は未だ冬真っ盛りである。
「北海道はまだまだ寒いですね」
 空港の外へ出て、白い息を吐きながら北海道の感想を述べる琉人。ベータリアはその後姿をじっと映していた。
「あ。そこ、右に曲がって」
「右ですか? 車でも待たせてるんですか?」
 琉人は言われるままベータリアの指示に従った。そして角を右に曲がった琉人は驚きの光景を目にすることになる。
「うわぁっ!?」
 曲がった先には、何と一昨日琉人を拉致した女子プロレス軍団が待機していたのだ!
「ちょ、ちょっと、やめ……!!」
 女子プロレス軍団は一斉に琉人へ群がると、瞬く間に身体を抱え上げて何処かへ運んでゆこうとする。またしても拉致が決行されたのだ――。

●エンディング
 3日目・午後7時半――札幌・某所体育館。そこではちょうどとある女子プロレス団体による興業が行われている真っ最中であった。
 多くの観客が取り囲むリングの上には、タッグマッチだろうか4人の選手がリングアナによって紹介をされている所だ。
「青コーナー! ビューティ・ベータ、アーンド! キューティ冠城ペアーッ!!」
 大きな歓声が沸き上がり、ビューティ・ベータことベータリアが、四方に向けてリングコスチュームに包まれた筋骨隆々な肉体を、ポージングとともに披露する。
「私の身体を見て〜っ!!」
 絶叫するベータリア。そのそばではキューティ冠城こと女装させられた琉人が、もじもじとしていた。
 リングコスチュームの下はサポーターやらパッドやらで補正され、元々女顔な所にメイクまで施されているから、さほど違和感は感じられなかった。隣にベータリアが居るから、余計にそう感じるのかもしれないが。
「ほら恥ずかしがってないで、観客に挨拶しないと」
「……何でこうなるんですかっ!」
 観客への挨拶を促すベータリアに、食って掛かる琉人。がしっとベータリアの肩をつかんでいた。
「北海道に着いたら企画終了じゃなかったんですかっ?」
「だってゴールとは言ったけど、企画終了なんて誰が言ってた?」
 にんまりと笑うベータリア。そういえば企画終了だとは一言も口にしていなかったような。
「騙したんですね……」
「騙してないって。言ってなかっただけ」
「それを騙したって言うんですよ!!」
 琉人がベータリアの身体をがくがくと揺さぶった。けれども観客たちにはそんなことは分からない。
「おー、キューティ気合い入ってるねー」
「ビューティに『しっかりやれ』って言ってんじゃない?」
「こりゃ試合が期待出来るなあ」
 こんな会話を交わす始末。
「それでは試合開始に先立ちまして、花束の贈呈です!」
 リングアナがそう言うと、両方のペアに花束を渡すために女性がリングへ上がってくる。花束を受け取る琉人とベータリア。
 相手のペアも花束を受け取る。ところが花束を受け取ったと同時に、それで琉人たちを攻撃してきたのである!
「うわわわっ!?」
 手で頭をブロックする琉人。
「おおっと! いきなりの先制攻撃だぁっ!」
「うりゃーっ!!」
 リングアナが絶叫するのと同時に、ベータリアが目の前の相手へチョップを喰らわせる。そして慌てて鳴らされるゴング。
 かくして今回の『目指せ北海道! 真冬のサイコロの旅』は、乱戦で幕を閉じることとなったのだった。

【真冬のサイコロの旅・第3夜 了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年03月02日

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