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『力 ぶつかり合う決意 』
湖泉・遼介1856)&虚影に彷徨う蒼牙 禍鎚(1245)

1.強くなるために 〜遼介〜

 男なら誰でも、強くなりたいと願うだろう。
 強くありたいと。
(でも)
 願うだけで終わるような奴らは、決して強くはなれない。
 本当に強くなりたいならば――自分を、磨かなければ。
 俺はそんな信念を持っていた。だからもちろん、自分磨きに余念がない。
 エルザードから少し離れた樹海。その奥に存在する”知る人ぞ知る”滝の前で、俺は剣を振り修練を積んでいた。
 無心に――ではない。
(強くなりたい)
 ただその一心で。
「――その程度では……戦うことはできぬな……」
 しかし唐突に聞こえたそんな声に、俺はその手をとめた。体勢をただし、声のした方に視線を向ける。
 すると樹海の隙間から、1人の男が現れた。ゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。青い髪と瞳が、やけに印象的な男だった。
(”その程度”、だって……?)
 侮辱されたと感じた。――当然だ。
 俺は強くなるための努力は惜しまなかった。生まれつき力の強い種族に生まれたわけではない。俺がそういう奴らに対抗するためには、自分の技を磨くしかなかったからだ。
 それを「その程度」なんて言われて、黙っている俺ではない。
「それなら……あんたの技の腕前見せてみろよ!」
 告げるや否や、俺は剣を持ち直し男に襲い掛かった。



2.油断禁物 〜禍鎚〜

「――その程度では……戦うことはできぬな……」
 それは本心だった。
 滝の前で必死に剣を振るう男。その男はどう見ても”普通の”人間だった。普通の人間が戦おうとするならば、何かしらの付加がなければ勝つことなどできない。
(確定した負け試合を、やる意味もない)
 その時点ではまだ、俺にはその付加となるべきものが見えていなかった。
(だから口にした)
 では俺はどうかといえば、少なくとも俺は”普通の”人間ではなかった。センシ族という、生まれながらに頑強な肉体をもった種族だ。そして常人の何倍もの力を持ち合わせたサムライである。
 そんな俺に斬りかかってくる男は、”普通”に毛が生えたような人間。
 負けるはずがなかった。
(軽くあしらってやろう)
 そう、思った。
(だが――)
「……っ!」
 驚いたことに、男の剣さばきは常人のそれをはるかに超えていた。左手に持った鞘の使い方もうまいもので、右手の剣と攻守をうまく分担していた。
(思ったよりも)
 やる。
 実践で力が出るタイプらしい。
 それでもその力が、日々の鍛錬の結果であることは明らかだった。
 その剣筋を見切り、かわす。鋭くこぶしを突き上げる。それを鞘で流された。隙なく剣。その刀身を蹴り上げ軌道をずらすと、今度は逆の足で男の胴を狙った。男は後ろに飛び上がり、寸でのところでそれをかわす。
(油断は禁物、か)
 男は、それだけの相手であった。



3.ガチンコ勝負! 〜遼介〜

 巧みに俺の剣筋を読み、よける。受ける。いなす。そして素早いこぶしと足技。
(なるほどな……)
 こいつ、確かに強い!
 俺はそれを、肌で感じていた。
 それにどうやら、男は武器を使わないようだ。
 それなら……と、男の蹴りをかわすため後ろへ飛び上がったついでに、剣と鞘を捨てた。
「!」
「男ならっ、同条件でガチンコ勝負だろ?!」
 さいわい俺が体得している地球の武術・マーシャルアーツには、ナックルを使ったものもある。こぶしの勝負だって自信があった。
 剣の構えから、拳の構えへと変える。
 それを見た男は、にやりと笑った。
 それが――合図だった。



 ぶつかり合うは、肉体と肉体。けれどそこに響き渡る音は、鋼と鋼のそれだった。
 豪快に流れ落ちる滝の音をバックに、俺たちの身体は近づき遠ざかり、それをくり返していた。
 俺の持ち味は素早い立ち回り。それは敵が多ければ多いほど効果を発揮するもので、相手が1人ではあまりその良さを発揮できない。
 一方、初めは俺の持つまったく違った型の武術に戸惑っていたような男だったが、しだいにその型に慣れてきたのか、徐々に形勢が傾いてゆく。
「く……っ」
 そこに見えるのは――実戦経験の差か。
(ダメだ)
 このまま押し切られては負ける!
 そう感じた俺は、ここで一気に勝負に出ようと体勢を変えた。
 そして――



4.合鬼投げ 〜禍鎚〜

 滝の中で意識を失った男を、水の中から引っ張り上げて胸を押してやった。まるで漫画みたいに口からぴゅーと水が出てきたので、俺は思わず笑ってしまった。
 そして。
「――惜しかった、な……」
 もし男の意識があったなら、口には出さなかっただろう。
(あの、最後の瞬間)
 男は渾身の一撃を放とうとした。それがわかったから、俺はそれに対抗するために、武神力「合鬼投げ」をくり出したのだ。
 それは相手の力を利用して相手を投げつける高度な技。相手の力が強ければ強いほど、こちらの力も強くなる。
 その結果が――
「………………」
 びしょ濡れで横たわっている男を見下ろす。
(弱くは、なかった)
 後半は俺も本気で戦っていたが、独特の型に慣れるのに時間がかかった。しかしただ独特なだけならば、こう時間は掛からなかっただろう。
(だからこそ、惜しい)
 男に足りないものがなんであるのか、教える必要があった。
 ――もう一度、戦う時のために。



「――う……ん」
 やがて男は目を覚ますと、一瞬何故自分が濡れているのかわからないといった表情をしていたが。俺の腰から下も濡れていることに気づいて、状況を悟ったようだった。
「あ、ありがと……」
 至極嫌そうに、けれどしっかりと礼を述べた男。
(大丈夫そうだな)
 と、俺は立ち上がる。
 そうして男を見下ろしたまま。
「最初の言葉は、詫びよう」
「え……」
 ほんの少し、嬉しそうな顔をした男に。
「だが実践が足りぬ。強くなりたければ、戦場へ出ることだ」
 それが、男に足りないもの。
 それさえあれば――今後どう化けるか、俺にもわからない。
 だが。
「楽しみにしている」
 その言葉を最後に、俺は男に背を向けた。
 一歩、踏み出す。
「待て! 名前を――」
 言いかけた声は途切れた。俺は足だけをとめて、その続きを待つ。
「――いや……もし今度俺があんたに勝ったら、名前を教えてくれ!!」
 それは明らかな、決意の表れ。
 向こうからは表情が見えないことをわかっていて、俺は顔だけで笑った。
「……いいだろう」
 そうして再び、歩き出した。



5.それぞれの決意 〜2人〜

(またいつか、会う時には)
 今度こそあいつに認めてもらおう。
 遼介はそう決意し、更なる向上を目指す。
(またいつか、会う時には)
 経験を得た奴に負けぬよう、俺自身もっと強くなろう。
 禍鎚はそう決意し、更なる向上を目指す。
 2人の出逢いは、それぞれを高みへと押し上げた。
 そして再び、2人が出逢う時――
(俺たちは、何を手にするのだろう?)
 そんなことを、2人は漠然と考えていた。





(終)
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2004年02月28日

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