▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『†kurenai―紅―The flame of crimson† 』
ウェルク・シャズル2707)&W・1105(2457)


 暗闇に支配された街。
都内某所の、廃墟となっているビルの跡地に…紅い火花が散る。
昼間ですら誰も近づかないその場所で、火花と共に”誰か”の叫び声が響いていた。
「っざけるな―――ッ!!」
 明らかに男、と思われる者の、怒りの篭もった声。
それと同時にドンと言う音と共に閃光が迸る。
「まだ甘いっ!」
 その閃光の中、今度は女の凛と張りのある声が響き渡った。
そして、金属と金属がぶつかり合うような高い音。

夜の闇に再び…紅い火花が散った。


†kurenai―紅―The flame of crimson†


 ウェルク・シャズルは悩んでいた。
額から頬を伝わり、顎から流れ落ちそうになる汗をハンドタオルで拭い…
乱れていた呼吸を静かに落ち着けて整える。
 そして、少しはなれた場所で、崩れたコンクリートの壁にもたれている”使い魔”に目を向けた。
「スカージ…」
 無意識に小さく呟いたウェルクの声は、しかしそこに座るW・1105=スカージには聞こえない。
最初から呼ぶつもりで声をかけたわけでもなく、別に聞こえていなくても構いはしないのだが、
ウェルクはふっと目を伏せて視線を地面に落とした。
 ウェルクが、スカージを”使い魔”として、スカージがウェルクを”主人”として…
一応認め合うようになってからしばらくの時間が過ぎていた。
その間、自分の鍛錬の為にとウェルクはスカージと共に何度も何度も戦いを繰り返していた。
しかし本当は…別にも思惑がある。
スカージの中に眠っているであろう、”ある力”を引き出そうとしていたのだ。
その力はまだ見ぬ未知の能力で、本人ですら気付いていないもののはずだ。
彼の為にも、そして自分の為にも…ウェルクは早く、その”力”を解放させたかった。

―――のだが…。

「誰も私より器用に料理を作れなんて言ってない…」
 ウェルクはとある出来事を思い出してぼそりと呟いた。
それは数日前、やはり”能力”の解放を試みて激しい戦闘をやり終えた後のこと。
なんとはないきっかけで…スカージの”能力”の一つが、解放されたのだ。
それは、ウェルクの命名によると『料理の心得』。
 その外見からは思いもできないようなまでの繊細で、きめ細やかで…
しかもウェルクよりも見事に料理を作ることが出来る能力だったのだ。
確かに、彼女は元々あまりそんなに料理が得意ではく…そのスカージの能力は実に助かりはするのであるが…
「違う…私が望んでるのはそんな事じゃない…っ」
 左右に首を振って、ウェルクははあ…と大きな溜め息をついた。
「ああ?なんだァ?!シケたツラしてんなァ?オイ?」
地面に落としていたウェルクの視界に、スカージの足が入ったかと思うと…頭上から声が降ってくる。
ふっと苦笑いを浮かべ、顔を上げると自分を見下ろしている”使い魔”と目が合った。
「融通の利かない”使い魔”に頭を悩ませているだけだ」
「ハッ!よく言うぜ!てめぇが無能だからじゃねえのかよ!?
だいたい俺は本気の実力だったらてめぇみたいな奴なんかに負けてねぇんだよ!」
「言い訳か?見苦しい」
「なんだとッ?!」
 カッとして自らの武器に手をかけるスカージ。
しかし、それとほぼ同時に…ウェルクも愛剣”エレボース・改”を手に、
充分にスカージに致命傷与えるほど切りつけられる間合いまでつめていた。
「今おまえは一度死んだ」
「てめえッ…」
「いつも言ってるだろう…最初の一撃が肝心なのだと…おまえはまだ甘いのだよ…」
「だったら本気でやってやろうじゃねぇか!!」
 大声で怒鳴り、自らを奮い立たせるようにしてスカージは拳をウェルクに突き出した。
その衝撃でひゅっと風がウェルクの前髪を揺らす。
彼女はどこか嬉しそうに小さな笑みを浮かべると、スカージをゆっくりと見上げ―――
「いいだろう…」
「死んでも恨むんじゃねぇぞ!!」
「私には無縁の言葉だ」
 何かを企んでいるような顔つきでスカージを挑発するかのように言ったのだった。





 何かを企んでいるような…いや、実際、ウェルクは企んでいた。
今まで、ウェルクはスカージ自らで能力を解放するようにと思ってきた。
しかしそうも言っていられない。自力で出来ないのなら、無理矢理にでも引き出す…ウェルクはそう決めた。
 本気で戦いを挑み、スカージの力が最大限に出ているその瞬間。
「スカージ!!」
 ウェルクは闇夜にもよく通る声を張り上げた。
そして、一瞬その動きを止めたスカージの身体に右手を突き出す。
そこにはエレボース・改の柄が握られていて、真っ直ぐに身体を突き刺すようにしてそれを突き出した。
チェックメイト…と、本来ならばなるところだろうが…違っていた。
エレボース・改からはそこにあるはずの、魔力で作られた刃は無く…魔力の光を放っていた。
もちろんスカージに一切のダメージは、無い。
 我が身に起こっている出来事を彼が理解するより先に、ウェルクは一気に自身の魔力を注ぎ込んだ。
「うおおおぉぉお!!」
 地の底から響いてくるような叫び声がスカージの中から発せられる。
その声で、周囲の空気が震えているのを全身でウェルクは感じていた。
「さあ思い出せ…自らの中に眠っている在りし日の記憶を…」
「ぐっ…!」
「己の中に隠されているその力を、記憶を…」
 ウェルクは右手だけで注ぎ込んでいた魔力を、左手も添えて全身から送り込む。
許容量以上の魔力を注ぎ込まれているスカージが、内から来る”何か”の存在に堪えきれずに呻き声をあげる。
同じように、全ての力をひたすら送り込み続けているウェルクも…叫びだしたい気分だった。
 しかし、そんな余裕など…ない。
ウェルクは自分自身の魔力の回路を、スカージの中にある”魂”に繋いで…
魔力と、心と、声で…呼びかけた。
「紅の炎の奥に沈められた記憶を今ここに―――」
「うわあああああッ!!」
 これまでにないほどの叫び声をスカージがあげる。
その瞬間、ウェルクは大きな力に弾かれるようにして後方へと吹き飛ばされた。
地面に何度か転がるも、すぐに体勢を整えて顔を上げる。
そこで彼女が見たもの…
「これは…あの古の…」
 呟く彼女の目の前で、力を制御しきれなくなったスカージは…
目の前に具現化された”大霊剣”を構えていた。その目は、どこか虚ろで。
「危ないっ…!」
 危険を察知し、ウェルクが動いたのと…
スカージが”大霊剣”を使ったのはほぼ同時だった。

 暗闇に支配された街。
都内某所の、廃墟となっているビルの跡地に…紅い光がはしった。

やがてその紅い光が消え去り…

―――そこには何も残ってはいなかった。





「いきなり攻撃をしかけるとは無茶をする…」
「クッ…そもそもッ…てめぇが…!!」
「あの古の力以外にも”猛攻”と”頑丈”の能力も解放されたようだな…」
「聞けよ俺の話!!殺すぞ!!あ?なんだ、試してみるか!?やるか!?」
「黙っていろ!」
 腕を振り上げて食って掛かろうとするスカージを厳しい口調で怒鳴りつけたウェルクだったが、
「今は静かに休め…」
 すぐにその声を和らげ、まるでスカージを労うようにそのボディを数回撫でたのだった。
なんとも微妙な気分になりスカージは黙り込む。
彼が沈黙…休んだ事を確認して、ウェルクは視線を目の前の荒野に向けた。
 つい数十分前までは、廃墟になったビルや、オブジェ、木々があったその場所には…
今はもう何もなく…ただ、抉り取られたように大地に窪みが出来ているだけで、
遠くに輝く街の明かりが遮られることなくウェルクの目に飛び込んでくる。
「しかし予想以上の力だったな…」
 力を使い果たし、立つ事も出来ずに横になっているスカージを見下ろしながら言う。
あの時、引き出した”力”は、強大な力をおびた”魔術兵器”だった。
 古の大いなる霊剣で、それを持つ者の魔力を紅き光へと変えて対象物に放つ兵器。
その力は時として2000の魔術兵器を捕らえるほどだと言われている。
「危ないところだった…」
 引き出したばかりの”能力”だったせいで、スカージは”力”を使いこなせずに、
半ば暴走気味だったのだが…咄嗟にウェルクが魔力の流れを自らへと逆転させたことで大事には至らなかった。
もし彼女のその行動が無かったら、今頃…向こうに見える街も消えてしまっていたかもしれない。
 それをなんとか食い止められた事にほっとして、ウェルクは立ち上がった。

 そして、しばらくの間…何も無い荒野をただじっと見つめる。
何をしているのかと、スカージが気になり顔を其方に向けると、
徐に彼女はくるっと振り返り。

「決めたよ、スカージ」
「ああん?!なにをだよ…?!」
「おまえの最終兵器だ…”カルナージ・カーニバル”…深紅の世界に舞え、と言う意味だ…」
 いいだろう?と、どこか嬉しそうに微笑みを向けるウェルク。
あまり彼女が微笑みを自分に向けることなど今までになかったせいで、
スカージは一瞬、言葉に詰まる。
 その顔を直視する事も出来ずに、視線をわざとそらして…
いつものようにちいさく「ケッ…」と呟くだけで応えた。
 それだけでも、ウェルクは満足だったらしい。
さらにその微笑みを深めると、薄っすらと明け始めた東の空を見つめた。
どこか大きな事をやり遂げた満足そうなその少女の顔を、薄紅い太陽の光がゆっくりと照らしたのだった。





†終†



※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
安曇あずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年02月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.