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『君と手を繋いで 』
真柴・尚道2158)&セフィア・アウルゲート(2334)

 真柴尚道はただいまデート真っ最中である。そのお相手はセフィア・アウルゲート――……現在尚道が片想いをしている相手であった。
 と、これだけを言うとめでたく恋愛成就かと思われるが実は残念なことに、まだそこまでは行っていない。
 きっかけは尚道の自宅がある駅前マンションにて開かれたゴーヤ茶試飲会。買い物帰りに試飲会参加中のセフィアを見つけた尚道が、セフィアにくまのぬいぐるみをプレゼントしたのだ。そこでセフィアがお礼に……と言い出したのがこのデートなのである。
 急に決まったことなので普段着のままだが――後日待合せなどでなく即その場で出発しようという話になるあたり、なんともらしいと言うべきか――尚道の気分は上々。
 貰ったばかりのくまを抱きつつ歩くセフィアの姿は可愛いの一言に尽きる。
「あ…あれ、可愛い」
 人込みは苦手なセフィアのために大通りを避けて歩いているが、店が少ないワケではない。
 セフィアは目に入ってくるショーウィンドウの中から、時折、可愛いものを見つけては指差し呟き、にこっと笑う。
 セフィアとしては自分好みの小さいものを見つけて嬉しがっているのだけなのだが……尚道はそのたびに赤くなっては大袈裟に頷いたり、答える言葉は思わずしどろもどろになったりと忙しい。
 ……なかなかに初々しい光景である。
 時々周囲から注がれる視線――それは微笑ましい光景に対する好意的な視線である――に気付きもせず、二人が目指しているのは映画館だ。
 出てくる前に決めた予定では、まず映画館に行って、それから夜景を見に行くことになっている。どちらも平日ならば人も宗多くないだろうと言う配慮のうえの決定だ。
 映画情報を調べてくる余裕はなかったが、目的の映画館は十数の上映スクリーンがある大きな映画館である。行けばひとつやふたつ、見たいものを見つけることができるだろう。
「えーと……セフィアはどれが見たい?」
 予想通りに人のまばらなチケット売り場前で、二人は並んで上映中の映画を知らせるポスターを眺める。
「うーん……どれがいいでしょう?」
 悩んでいるふうに言いつつも、セフィアの視線はとある一点でぴたりと止まった。
「じゃ、これにするか」
 セフィアが目を留めたのは可愛らしいキャラクターが登場するアニメ映画だ。ちょこちょこと小さなキャラクターたちが動くそのアニメは、セフィアの好みにぴったりだろう。



「すごく、可愛かった」
 キュッとくまを抱く手に力を入れて、セフィアは余韻に浸るように呟いた。
 そんなセフィアの様子が嬉しくて、尚道は思わず声を漏らした。
「楽しかったか? なら良かった」
「……真柴くんは?」
 笑顔の尚道にきょとんと見上げる瞳が向いた。
 ぱっと赤くなった顔で、尚道はにっと明るく笑う。
「もちろんっ。楽しかったに決まってるだろ」
 ――セフィアと一緒なんだから。
 後ろ半分の言葉は飲み込んで、尚道は照れ隠しに時計を見た。今から移動して、ちょうど日没の頃に目的地といったところか。
「それじゃ――」
 セフィアの声が聞こえて視線を下げると、目が合う。と、せっかく戻り掛けた顔色が、またも真っ赤な茹蛸になる。
「次は夜景、ね」
 尚道の様子に気付いたのか気付かないのか。
 セフィアはいつもと変わらぬ調子でにっこりと笑った。


 そこには、予想外の光景が広がっていた。
「……ワリィ」
 謝罪の言葉が口を突いて出る。
 いくら夜とはいえ平日なのに……。
 夜の絶景ポイントはたくさんの人で賑わっていた――ちなみにそのほとんどがカップルなのは言うまでもない。
「どうしましょう?」
 困ったようにというよりは戸惑った様子のセフィアを見つめ、尚道はぐるりと周りに目をやった。
 どこか穴場ポイントでもあれば……。
 と、尚道の視界にそこそこ眺めのよさそうな――それでいて全然人のいない木々の影になっている場所を発見した。
 こう言うときは背が高いと便利だ。
「セフィア、こっちだ」
 人のいないポイントを見つけた尚道はその嬉しさの勢いでセフィアの手を取る。
「あ、あのっ。真柴くんっ」
 言われた声に、一瞬嫌がられているのかと思った。だがその様子を良く見れば、嫌がっていると言うよりは……どうやら尚道を心配しているらしい。
 うっかり生命力を吸いすぎたりしないか気にしているのだろう。そういえば、今日これまでのデート中も、セフィアは極力尚道に触れないようにしていた。
 だが尚道はセフィアの焦りなどおかまいなしに、しっかりと手を繋いで人の少ないトコロへと連れていく。
 さすがに大賑わいの絶景ポイントに比べると少しばかり眺めは劣るが、ここからの夜景も十二分に綺麗であった。
 落ちつける夜景ポイントに辿りついてひと心地つくと、セフィアは改めて尚道を見上げ、心配そうな顔をする。
 セフィアが何か言うまえに、尚道が先に答えを口にした。
「大丈夫、大丈夫。俺はすぐに体力回復する体質だからな」
 実際には力を使えば、と注釈がつくのだが、ここではあえて口にしない。
 にっと笑って続きの言葉を紡ぎ出す。
「だから、俺にはうっかり吸いすぎたらどうしようなんて考えなくて大丈夫だ」
 おどけるように明るく告げた尚道に、セフィアはおっとりと笑って繋いだ片手を握り直した。

 周りはちょっと煩いが、木々に隠れて人目はナシ。
 夜景は綺麗で雰囲気も上々。
 二人の時間は明るい夜の中をゆっくりと流れていった。

 
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東京怪談
2004年02月27日

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