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『LOVE VACATION 』
ケーナズ・ルクセンブルク1481)&イヴ・ソマリア(1548)


 とある音楽事務所の前に1台の車がさしかかった。
 それも、ただの車ではない、有名な跳ね馬のシンボルが燦然と輝くポルシェ、しかも911カレラ4カブリオレ。青いカラーの流線型のボディはやはりそこらの公道を走る車とは一線を隔しており、否応無しに人目を引く。
 その車は人目を引きつつも、事務所の地下にある駐車場へと流れるように入っていった。
 これが、そこらのスーパーなどの前で見ればかなりの違和感だったのだろうが、芸能プロダクションの前だとしっくり馴染んでいるような気がするのだから不思議だ。
 その車を見かけた人がその車を運転手が下りてくるのを見なかったのはある意味幸いだった。
 きっとその車のオーナーであるケーナズ・ルクセンブルクの姿を見ていたら、やはりそれくらいステータスのある車に乗っているのは車に負けないくらいの美形でないと様にならないと痛感することになるだろうからだ。
 ドイツ貴族の末裔であるケーナズの容姿は愛車に引けを取らない気品を当然のように備えている。ケーナズと愛車の姿は、まるで、そうでなければこの車を所有するに値しないと言わんばかりの、ある意味の威圧感を人に与えるからだ。
 表向きドイツ製薬会社に勤め、裏では諜報員などという職についているケーナズがなぜ芸能事務所に車を乗りつけたかというと、別にスカウトされたとかそんな事情では当然ない。
 ただ、表裏両方の仕事絡みでもなかった。
 そう、ケーナズがここに来たのは愛しい恋人のお迎えに参上しただけだった。


 近頃、表の仕事である巷を騒がせているウイルスの抗ウイルス剤開発に専念していたり、裏の仕事で仕事と称してケーナズ好みの少年と浮気紛いのアバンチュールを楽しんでみたり、悪友と飲み歩いてみたり―――と、あまりにも恋人を放って置いた自分に気付いた。
 恋人が寂しさを感じているだろうことに、毎日のように届いていたメールの数が減ってようやく気付くなど、ケーナズにとっては今までなかったことだ。
 実際恋人であるイヴ・ソマリア自身の芸能活動という仕事が忙しかったせいもあるのだが、それは言い訳にはならないだろう。
 そこで、ケーナズはまず彼女のマネージャーに探りを入れて彼女がこの週末オフであることを確認してこうして馳せ参じたのだ。
 本来、アイドルのマネージャーとしては自分のところの『稼ぎ頭』である商品に寄って来る悪い虫はとことん排除するのももちろん仕事のうちであったが、ケーナズほどのルックス、収入、家柄がマイナスになるはずもない。そのマネージャー故の打算がケーナズに対して非常に有利になっていることは間違いなかった。
 駐車場に着いたケーナズは、エレベーターに付近に車をつけて腕時計を見る。
―――そろそろか。
 マネージャーから仕入れた情報によると、午後からイヴは久しぶりのオフに入るという。
 目を閉じ耳を済まして精神を統一させる。
 そして、次の瞬間、エレベーターの真正面にケーナズは車を移動させて車を降りた。
 助手席側に丁度到着したエレベーターから降りてきたイヴに向かって、彼は大仰な程深くお辞儀をして、
「お迎えに上がりました、私のプリンセス」
と告げる。
 そのタイミングと芝居がかった態度にイヴは一瞬驚いた顔をしたが、次の瞬間には老若男女を魅了するその笑顔で、差し出されたケーナズの手を取りエスコートされるままに彼の愛車に乗り込んだ。


 無事恋人の略奪に成功したケーナズはそのまま成田空港へ直行、そしてそのままファーストクラスの国際線に乗り3時間―――夕方前には2人は、透き通った海と珊瑚礁に囲まれた南洋の楽園、グアムの地に降り立っていた。
 空港に着くなり手配していたリムジンでまず向かったのは多くの有名ブランドショップが入っている巨大ショッピングモールだった。
 そこで、ケーナズはまずオフ用の変装と称して極力地味に取り繕っていたイヴの為に南国リゾートに相応しく、更に彼女本来の美しさを引きたてる服を購入した。
 しかも、服だけでは当然飽き足らずそれこそ靴からアクセサリーに至るまで一式揃える。
 結局、各ブランドショップを梯子して歩き、最終的には2人では持ちきれない程になりそのまま待たせてあるリムジンに運ばせるほどの量を購入してからようやくホテルへ向かう。
 到着したホテルは当然、最高ランクのホテルだ。
 先程購入した荷物をポーターに任せて、チェックインし、導かれるままに向かった部屋はホテル自体が美しいビ−チに面しているため、タモン湾と恋人岬を一望できるオーシャンビューのすばらしいロイヤルスイート。
 目の前に広がる景観に、イヴの口から思わず小さな感嘆の声が漏れる。
 当然のようにテーブルの上にはウェルカムドリンクとパパイヤやマンゴー、日本ではあまりお目に掛かれないスターフルーツが置かれていた。
「本当に、信じられない人ね貴方って」
 そう言いつつも、イヴはこのサプライズを嫌がっている様子はない。
「もしもあたしがパスポートを持ち歩いていなかったらどうするつもりだったの?」
「そんなミスを私が犯すと思うかい?」
 その台詞にイヴは首を横に振った。
 彼に限ってそんなイージーミスを犯すはずがないことはイヴも承知していた。
 ケーナズはその反応にうっすらと微笑んで彼女を抱き寄せる。その柔らかくそれでしなやかな肢体をそのまま抱きしめた。
 久しぶりの口付けを交わした。
 柔らかなその唇に触れる―――ただそれだけでケーナズの胸に幸せが満ちる。
 それは決して、彼女以外では感じ得ることは出来ない。
 軽く触れるだけのキスをしてから、そのままケーナズは彼女を横抱きに抱える。
 イヴは逆らうことなくケーナズの首にぎゅっと腕を回した。
 そのまま向かった寝室には甘い香りが漂っている。
 それもそのはず、天蓋付きのキングサイズのベッドの上にはブーゲンビリアの赤い花びらが散りばめられている。
 そのベッドにゆっくりとイヴを下し、横たえると、
「ブーゲンビリアの花言葉は知っているかい?」
と、ケーナズはその花言葉のような口付けを花よりも甘い誘惑を放つ彼女の唇に与える。
 それがこれからの濃密な時間の始まりだった。


 唇に冷たい感触を感じたかと思うと、喉に冷たく甘いカクテルが流れ込んでくる。
「……ケーナズ?」
 目を覚ましたイヴに、口移しで一口与えたカクテルをケーナズがグラスごと渡してきた。
 シーツを身に纏ったまま上半身を起こしてそのカクテルを飲み干し、突然小さく声を立てて笑い、
「こんなお姫様待遇をして貰えるなら、たまには放って置かれるのも良いのかしらね」
と、悪戯っぽい目つきでケーナズの顔を覗き込んだイヴに、
「まさか」
とケーナズは肩を竦める。
 そして、
「まだまだ、バカンスはこれからだろう」
そう言ってケーナズはイヴの手を取り、その指先に口付けた。


 与え、そして与えられるその甘やかで満ち足りた時間こそが最高のバカンス―――最高のプレゼントだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
遠野藍子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年02月25日

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