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『真冬のサイコロの旅・第2夜 』
冠城・琉人2209)&ベータリア・リオンレーヌ(2598)
●第1夜のあらすじ
 真夜中、自宅ですやすやと眠っている所に女子プロレス軍団が来襲し、あっという間にパジャマ姿のまま拉致されてしまった冠城琉人。それは某地方局ディレクター、ベータリア・リオンレーヌが放った刺客であった……。
 拉致られ早朝の東京駅に連れてこられた琉人は、ベータリアからサイコロの形をしたキャラメルの箱と、1枚のパネルを渡され愕然とする。何とサイコロの出た目のパネルの指示に従い、行く先分からぬ旅へ出るというのだ。
 題して『目指せ北海道! 真冬のサイコロの旅』。どこかで聞いたことがあったとしても、それを言ってはいけない。君と僕の秘密だ。
 ゴールは北海道・札幌。さっそくサイコロ第1投を振った琉人だったが、出た目は3・上越新幹線『とき』と特急『はくたか』で金沢。初っ端から長時間移動と、今回の旅の波瀾を感じさせる幕開けであった。
 そして午前11時過ぎ、琉人とベータリアは金沢の地を踏んでいた。しかし、のんびりとしてはいられない。ゴール・札幌に着くまでは、ノンストップで移動しなければならないのだから。
 さて――『真冬のサイコロの旅』第2の選択はいかに?

●冠城さん謀反
「うーん、6はちょっと避けたいですねぇ……」
 手の中でサイコロをカタカタと振る琉人。視線はもう一方の手に持つパネルへ注がれている。
 琉人は意を決し、サイコロを頭上高く放り投げた。落下し、タイルの上を転がり続けるサイコロ。やがてサイコロは6の目を上にし――。
 カシンッ!
 何を思ったか、サイコロが止まった瞬間に琉人がスライディングでサイコロを蹴り飛ばしたのである。後に『冠城さん謀反』と呼ばれる行動だった。
 よっぽど6の目は嫌だったのだろう。だが、それを許すほどベータリアは甘くなかった。
「とうっ!」
 げし。
「はうっ!」
 真後ろからベータリアのロードロップキックをまともに喰らい、前へばたりと倒れてしまう琉人。そのままベータリアは琉人を押さえにかかる。デジカムはこの一部始終を余すことなく捉えていた。
 1・2・3。カンカンカン!
 立ち上がり両手を高々と挙げるベータリア――試合終了。
 かくして第2の選択は、小松空港より飛行機で福岡へ行くことが決まってしまったのだった。

●いざ福岡
 小松空港・正面玄関。琉人は物凄ーくムスッ……とした表情のまま、空港内へと入っていった。
「よっぽど福岡行きたくないんだ……」
 琉人を撮りながら、ベータリアが笑いながらぼそっとつぶやいた。いや、福岡行きもだろうけど、さっきのロードロップキックも影響してるんじゃあ……?
 琉人の不機嫌さは、福岡行きの飛行機の中でも続いていた。何せ一言も口をきかないのだから。
「あのね。あんなことしても、サイコロは絶対なんだから」
 先程の謀反について、説教をする隣の座席のベータリア。無論、テープは回りっ放しである。
「……分かってますよ」
 やっぱりムスッとしたまま答える琉人であった。

●ある意味期待通り
 1日目・午後5時過ぎ――福岡空港前。九州といえば暖かいイメージが強いだろうが、そんなことはない。日本海側の福岡は夕方ということもあり、雪こそないものの体感としては金沢と同じくらい寒かった。
「寒い……」
 ぼそりつぶやく琉人。暖かい空港内から出てきたから、余計にそう感じてしまうのかもしれなかった。
「空港から博多の中心部までは、思ったより近くてね」
 ベータリアが言うように、ここ福岡空港から天神までは地下鉄で約11分。結構交通アクセスがいいのである。
「さあさあ、夜も近付いてきたね」
「ですね。お腹も空いてきましたし……」
「じゃあこれを」
 お腹の辺りをさする琉人に、ベータリアは第3の選択のパネルを手渡した。念のために言うが、この時点で福岡から札幌への直行便はもうない。
「それでは第3の選択です。
 1・もう1度空へ。飛行機で東京・羽田。
 2・とにかく食い倒れ。山陽新幹線『のぞみ』で新大阪。
 3・九州新幹線暫定開業前にもっと九州。特急『つばめ』で西鹿児島。
 4・外国の一歩手前……は? フェリーで対馬? これ、行ったら今日中に脱出出来るんですか?」
「無理だねえ」
 琉人の疑問にさらっと答えるベータリア。向こうで1泊を余儀無くされる選択肢である。琉人は気を取り直し、残りの選択肢を読んでいった。
「5・出ましたキング・オブ・深夜バス。深夜バス『はかた号』で東京・新宿……って、これは絶対嫌ですね……。
 6・中洲でドンチャン。博多1泊。ああ……狙うならこれが一番ですかね」
 ようやく琉人の表情に笑みが戻ってきた。だか油断は出来ない。6以外、どれも一癖ある選択肢ばかりだ。特に5は論外。
「はぁいっ……サイコロ振って〜!」
 ぐぐっと胸部を強調するようにポージングを取りながら、指示を与えるベータリア。
「今度は6を……!」
 思いっきりサイコロを放る琉人。サイコロはトンットンットンッと跳ねるように転がってゆき――5の目を上にして止まった。
「あ……」
 琉人はその場で崩れ落ちるようにしゃがみ込み、両手で顔を押さえた。……やってしまった。
 キング・オブ・深夜バス『はかた号』が琉人たちを手招きしていた。

●キングの歓迎
 1日目・午後9時過ぎ――西鉄天神バスセンター。低い唸りとともに、『はかた号』がゆっくりと走り始めた。座席はこの時点で8割以上埋まっていた。博多駅交通センターでも乗客が居るだろうから、最終的にはほぼ満席になるに違いない。
「とうとう走り出しました……もう戻れません」
 生気が半分ほどになったような雰囲気の琉人。そりゃそうだろう、これからのルートを知ってしまえば。
 西鉄天神バスセンターを発車した『はかた号』は、福岡都市高速から九州自動車道に入り関門橋を抜け、中国自動車道・山陽自動車道・再び中国自動車道・名神高速道路・中央自動車道と経由し、高井戸ICから首都高速へ入り終点の京王新宿高速バスターミナルを目指すのだ。
 到着予定時刻は翌朝午前9時25分、およそ14時間半の長い旅である。
「何でこんなに暑いの?」
 デジカムを回しながら、半袖Tシャツ1枚のベータリアがぼやく。筋骨隆々とした肉体が、ぴたっと張り付いたTシャツの上からよーく分かる。
 当然ながらこの季節なのでバスの中は暖房が入っているが、それがまた心地よい暖かさではない。むあっとする、不快な感じなのだ。
「うわ、もう窓に水滴が……。湿気がぁ……」
 大きく溜息を吐く琉人。30人近い乗客が居るのだから、そのせいかもしれない。
 『はかた号』は一路東――東京へ走ってゆく。

●キングの仕打ち
 2日目・午前9時半――京王新宿高速バスターミナル。ベータリアは『はかた号』が到着するなり一足先に降り、琉人が降りてくる姿を捉えるべく、『はかた号』の乗降口の前でデジカムを構えて待っていた。
「お尻が痛い……」
 眉をひそめ、空いている手で尻をさするベータリア。いくら肉体を鍛えているからといって、14時間半座りっ放しというのはさすがにちと辛い。
 やがて琉人が帽子を手に、『はかた号』の乗降口へ姿を現した。
「ぶっ!」
 何故か吹き出すベータリア。琉人はそんなベータリアをじろっと睨み、『はかた号』から降り立った。
「お……おはよっ……おはようございます」
 笑いを堪えているのか、ベータリアの声は微妙に震えていた。
「……おはようございます」
 不機嫌な琉人の声。眠た気な目の下にはうっすらとくまが出来ている。けれどもそれは些細な問題だった。もっととんでもない光景が、そこにはあったのだから。
「ど……ふふっ、どうしたの、それ?」
 笑いながらベータリアが琉人の頭を指差した。何故だか、琉人の髪の毛がこれでもかと言うくらいに爆発していたからである。
「…………」
 答えない琉人。再度ベータリアが尋ねた。
「くっ……それ、どうしたの?」
「あのですねえ……」
 目元を手で押さえながら、琉人がようやく答えた。
「……眠れなかったんですよ」
「眠れないくらいで、その……くく……そんな髪型になるの?」
「頭の部分は妙に暑いのに、足元は隙間からか何なのか、スースーして寒いですし……。眠れなくて、何度も寝返りを打ってたんです」
 なるほど、この斬新な髪型は寝返りの成果であるようだ。
「ようやく眠たくなって目を閉じて、起きて時計見たらまだ10分も経ってなかったり。何でしょう、あれ……」
 『逆浦島現象』に襲われたことをぼやく琉人。ベータリアは納得するかのように、うんうんと頷いた。どうやら『逆浦島現象』は『はかた号』の乗客を無差別に襲い、バトルロイヤルを繰り広げていたらしい。
「あの、もう自宅に帰ってもいいですか?」
「ぷっ……く……ダ、ダメダメ。さーて、2日目も頑張っていきましょー!」
 琉人の嘆願を笑いながら却下するベータリア。琉人はがくっと肩を落とした。
「帰してくれませんかぁ……」
 それは琉人の心からの叫びであった。
 この後、琉人たちには第4の選択が待っていた。新たな行き先がどうなるかはサイコロの神のみが知っている――。

【真冬のサイコロの旅・第2夜 了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年02月20日

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