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『×Versus× 』
W・11052457)&ウェルク・シャズル(2707)

「こないだの依頼の件だが…場所が見つかったから週末に来るように」
 草間・武彦は、目の前にいる二人にそう告げ、簡単な地図を手渡した。
その”場所”というのは、都内にあるとある競技場。
普段ならば、アスリート達が腕を競ったり、アイドルがコンサートに使ったりする場なのだが…。
「よく抑えられましたね、草間さん」
 受け取った地図に目を通しながら、ウェルク・シャズルは呟く。
どう考えても、この競技場を使うとなると莫大な金銭が必要になるはずなのだが…。
「まあ色々なルート使ってな…格安で借りたんだ…
それに、その辺の支払いはそっちが持つって事だったから俺は別に」
「確かに…」
 ウェルクはふっと笑みを浮かべると、丁寧に地図をポケットに仕舞う。
そして、隣に立つ…戦闘用ゴーレム、W・1105を見上げた。
「そう言う事だからスカージ。週明けからあなたは私のしもべね」
「ああ?!誰に言ってんだてめぇ?!」
「あなた以外に誰かいるのかしら?」
 ふっと小馬鹿にしたような笑みを向けると、ウェルクはさっさと部屋を出て行く。
「待てよてめぇ!!」
 その後を、W・1105…通称、スカージは急いで追いかけたのだった。

×Versus×

草間武彦への依頼は、ウェルクからの一本の電話だった。
『私とスカージとの剣技での戦いの場を設けて欲しい。
 そして、その審判を担当して欲しい』
彼女はそれだけ告げて、電話を切った。
一体どういう目的でなにをしたいのかがさっぱりわからない草間だったのだが、
翌日、興信所の口座にしっかりとウェルクから前金が振り込まれており…
お世辞にも”儲けている”とは言えない興信所の財政だけに、草間は依頼を受けた。
 そして、色々と探し回ってやっと”戦いの場”を用意したのだが。
「あの二人が戦うとなると…うーん…まあ…危なくなったら止めればいいか…」
それが出来そうな人物をリストアップしながら、草間は予定表に印をつけたのだった。



 週末…都内某所の競技場は、関係者以外は立ち入り禁止とされた。
観客席には誰もおらず、ただ競技場の真ん中に…三人の姿があるだけだった。
もちろん、一人は草間武彦。そして残りの二人は…
「ウェルク・シャズル!この場にてスカージからの戦いを受けるか?」
「受けよう」
「スカージ!この場にてウェルクからの戦いを受けるか?」
「あたりめぇだ!!」
 両者はにらみ合ったままでそう宣言すると、手にしている『剣』を構えた。
「いいか?使っていいのは両者共”剣”のみだ。それ以外の武器や術は禁止とする!
もし使った場合、その時点でその者を敗者とみなす!」
 草間は予め決めておいたルールを読み上げる。
果たして二人は聞いているのかいないのかわからないのだが…。
「ウェルクが勝者の場合、スカージはウェルクの使い魔として従う、
スカージが勝者の場合、ウェルクは使い魔にする事を諦める…これがこの勝負における約束事だ!
両者共、それに異論は無いな?」
「無い」
「負けねぇ!!」
 素っ気無く応えるウェルク。すでにもう気持ちは戦いに入っている様子だった。
早いところはじめた方が良さそうだな、と草間は息をついて。
「生死に関わるほどの戦闘は禁止とする。あくまでこれは”勝負”である事。戦闘ではない。
勝敗は先に地面に両膝をついた方が負けという事にする!いいな!?」
 草間の声に、二人は黙ったままで頷きあった。
それを確認して…草間は数歩後方に下がる。
ある程度の距離を取ったところで、片手を高く振り上げ―――
「それでは………はじめ!!」
 叫び声と同時に、その腕を勢いよく振り下ろした。
その瞬間、一秒も経過しないうちにウェルクが先にスカージに仕掛ける。
体格の差がある事から、狙うのは足元。
 彼女が愛用している剣は、『魔剣エレボース・改』。
剣としての攻撃力はさほど無いのだが魔力を注ぎ込み、斬撃を繰り出すことが出来る。
「はっ!」
 掛け声と同時にウェルクはそのエレボース・改をスカージの足に突き出す。
斬撃の刃がスカージの足を切り裂く!…と、思いきや…。
「させるかッ!!」
 スカージは己の愛用の剣『レギオン』を盾変わりにして、ウェルクのその刃を弾き返した。
下から斜め上へと振り上げる勢いのまま、スカージはレギオンを振り下ろす。
ウェルクの頭上めがけて切っ先が迫ったのだが、身軽さを利用してウェルクは素早く避けた。
 互いに間合いを取って、相手の出方をうかがう。
なまじ相手の力量を知っているだけあって、不用意に仕掛けようとは思わない。
さらに言うなら、隙を見つけようと言うのも…なかなか難しい問題なのだ。
「安心しろ、私は殺したりはしない」
「お優しいねェ!!生憎、俺は手加減はできねェがなァ!!」
 互いに言葉を交わし合い、再びウェルクが仕掛ける。
さすがに、すぐに再び足元を狙いはしないだろうとスカージは読み、
上段からウェルクに向けてレギオンを振り下ろす。
 スカージの脇を狙っていたウェルクは、咄嗟に上からのレギオンをエレボース・改で受ける。
「くっ…!!」
 剣そのものの重さにスカージの加える力の重さが加わって、
小柄なウェルクは方膝を地面につけて両手でそれを支える。
あと少しで両膝が地面につくと言うところなのだが…ウェルクは必至で耐えていた。
 じりじりと、押しつぶすように力を加えていくスカージ。
これは早々に決着がつくかな…と、草間はその様子を見つめながら思った…の、だが…
「はあぁッ!!」
 どこからそんな力が出てくるのか、ウェルクは渾身の力をこめてレギオンを押し戻す。
わずかに怯んだスカージの隙をついて…エレボース・改の斬撃が再び繰り出された。
それを避けて、一歩後退するスカージ。
ウェルクは素早く立ち上がって、間髪入れずにスカージの足元と脇腹に剣を繰り出した。
「ぐっ…てめェ…!!」
 殺傷力が低く、それが致命傷になる事は無かったが、今度はスカージが方膝をつく形になる。
すかさずもう片方の膝を狙い、ウェルクは走りこんで斬り付けた。
 キィン!という高い金属音がして、ウェルクの身体が後方に弾き飛ばされる。
あやうく地面に倒れこみそうになるのをなんとか思い止まり、体制を立て直した。
その足元を目掛けて、レギオンが地面に平行に襲い来る。
どうやら、スカージはウェルクに攻撃される瞬間、素早くレギオンで防御し、
その後すぐに攻撃にまわった様子だった。
 高さと、間合いと、速さを考えても…ウェルクにレギオンを避ける時間は無い。
それならば!と、エレボース・改をレギオンの切っ先側に、地面に刺すようにして構えた。
そこを凪いで行くレギオン。
止める事が出来ずに、エレボース・改ごと瞬間的に宙に舞うウェルク。
スカージは思わずニッと笑みを浮かべたのだが…
「甘く見るな」
 宙に舞い上がり、地面に落ちるかと思われたウェルクだったのだが…
体を回転させてタン!と音をたてて地面に片足をつく。
その瞬間、剣を持っていた方の手を素早く動かして何かを投げるような仕種をする。
その反動でよろけて転倒しそうになるのを、くるっと側転する事でカバーした。
「てめッ…!!」
 スカージは相手の予想外の動きに、思わず声をあげる。
そして再びウェルクへと攻撃を仕掛けようと動き出したのだが―――
次の瞬間、ズン!!と、重い音が響いてスカージが前のめりに転倒する。
 一瞬、何が起こったのかわからず呆然とした草間だったのだが…
「そこまで!!そこまでだ!!!」
 慌てて二人の元に走り寄り、勝負の終了を告げた。
「な、ふざけるな草間ァ!?な、なんだ…俺は…」
「足元の注意を怠ったな」
 地面にうつぶせに倒れこんだまま、未だ自分の身体に起こった出来事を理解できずにいるスカージを、
ウェルクは笑みを浮かべながら見下ろす。
そして、ゆっくりと歩みを進め…スカージの足元へ移動し…エレボース・改の柄を拾い上げた。
「これを踏んだんだよ、スカージ」
「ンなッ…そんな、そんな馬鹿な!?それは勝負じゃねえぞ!?おい草間!!」
 慌てて体を起こし、草間に抗議をするスカージだったが。
「残念だが…彼女はわかっていてそれを投げたみたいだからな…勝負あったってところだ」
「馬鹿な!!という事は…俺は…」
 わなわなと体を震わせるスカージの正面に、ウェルクが剣を向けて立つ。
「我が剣に誓え。今日よりお前は我が支配下になる…従う者には今以上の強さを…抗う者には、死を」
 簡単ではあるが、主従関係を結ぶ儀式を行うウェルク。
スカージは納得がいかずに、なかなかそれに応えなかったのだが…
「…チッ…仕方ねェ!!」
 ぶっきらぼうにそう叫ぶと、レギオンの刃先をウェルクの差し出した剣にキン!と合わせた。
満足そうに微笑んでウェルクは剣を仕舞う。
「これで今日から私の使い魔だな…宜しく」
「ケッ…」
 無愛想にそっぽを向くスカージだが、
しかし草間にはどこか満更でもないように見えた。
「まあ、これで決着もついたことだし…残りの支払いは一週間以内に頼んだぞ」
 草間は腕を組んだままで、ウェルクに言う。
しかし、彼女はきょとんとした表情を浮かべて。
「何の事…支払ったはずですが?」
「は?」
「きちんと振り込んだはず…」
「いや、あれは前金だろ…?だから…」
「前金?なんですか、それは?」
 とぼけているのではなく、本気でわかっていないらしいウェルクの発言に、
草間は頭が真っ白になるような気分になった。
そりゃあ確かに確認しなかった自分も悪い…悪いのだろうが…
「待て!!あれだけの金額でこの依頼は無理だ!払ってくれるだろ!?」
「あいにく、持ち合わせが無いのですが…」
 済まなそうに言うウェルク。スカージはおかしそうに肩で笑っていた。
頭どころか全身が真っ白になるような気がして…草間はその場に頭を抱えて座り込んだのだった。
「まあ心配しなくても…今後、草間さんが必要とするなら我らを呼びつければ必ず行きます」
「ハハッ!俺はどうだかなァ…?!」
「スカージ。お前は私の命に従うんだ…お前も手伝うんだ」
「―――ケッ…」
 ウェルクはスカージを軽く睨みつけるように見上げて、そして草間を見つめる。
頭を抱える草間の前に、方膝をついて頭を下げて挨拶をする。
そして立ち上がり、もう一度深く礼をし…スカージを連れて、競技場を後にしたのだった。


その後、草間興信所にウェルクから残りのお金が振り込まれたかどうかは定かでは無い。





【終】



※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
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東京怪談
2004年02月19日

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