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『Be falsely accused a kidnapper 』
御子柴・荘1085)&柚品・弧月(1582)

 月明かりに青く照らされた古びた白壁。
 高いそれに囲まれた敷地内には黒い瓦張りの母屋と古びた蔵が並んでいる。
 少々年代物で金持ちの家、もしくは古くから続いた家といった様子ではあるが他には何の変哲もない。
 …本日の標的である。
 正確にはその蔵の中の物、古い壷が標的なのだがこれが曰く付きで人を喰うと言う。
 …最も、曰く付きだから盗ませていただくわけだけど。
 穏便に譲っていただくと言う手もあるにはあったのだが家宝ゆえに外には出せぬと言われ、強硬手段に出たわけである。
 ここ数十年、壷がこの家に来てからは人目に触れぬ環境故か被害は出ていないようなのだが危険なものには違いなく、そんなもの大事にしまいこまないでさっさと除霊するなりなんなりして下さいとは思うのだが如何せん相手は何も知らない一般人。
 危険を説いたところで壷の何が危険かと問い返され、人を喰うといえば鼻で笑われる始末。
「…申し訳ございません。」
 合掌後、一礼。
 音もなく塀を越え、蔵を開け、忍び込むのに要した時間はほんの数分。
 …良し悪しはさておき、なんでも屋としていろいろやってきた成果かなんとも手馴れた所作であった。
「さて、お目当ての壷は…」
 そう呟いて、御子柴 荘は細いライトを片手に辺りを見回した。
「埃が凄いな…。」
 同じように光の漏れない細いライトを手にして口元を覆ったのは柚品 弧月…今回は人に害を成す品々を収拾・封印または破壊して無力化させることを仕事にしている彼絡みの仕事である。
「この様子じゃ壷の一つや二つなくなってもすぐには気が付かないかも知れませんね。」
 埃は厚く積もり、否応なしに床に二人の足跡を残している。
 出る前に隠滅しておかなくてはと考えつつ、荘は手近な木箱に手をかけた。

「…これじゃないですか?」
 触れてすぐに感じたのは黒い思念。
 重く圧し掛かるような重圧、胸の苦しくなるような感覚……人の死に直接触れたような。
「えーと天保二年…間違い無さそうですね。」
 弧月の言葉を受けて木箱の裏書を確かめた荘が頷く。
「では頂いていくとしますか。」
「意外とと小さくて助かりましたね。」
 そいって荘が木箱を取り上げ…その直後、ガシャーン、と大きな音が響いた。
 …何か大きなガラスの割れた音に聞こえた。
「!」
 互いに向けた視線が交錯し、二人は言葉を交わさぬまま同時に蔵を飛び出した。
 先ほどまで静まり返っていた邸内が騒然としている。
 何が起こったのかとあたりを伺っていると男性の声が。
「坊っちゃんが、坊ちゃんがいないぞっ!」
「さっきの黒塗りの車だっ、誰か警察をっ!」
 屋敷には煌々と明かりがついている、苛立つような気配が感じられる。
「…何か起こったみたいですね。」
「…ああ、出直した方が…」
 建物の影に身を隠し、二人は頷きあい…。
「お前たちそこで何をしている!?」
「!」
「いったん引きましょう!」

「…誘拐か。」
 追っ手を撒き、翌朝…。
 周辺の住民に聞き込みを行い情報を収集したところ、昨晩屋敷で誘拐事件が起こったと言う情報を得ることができた。
 浚われたのは今年小学一年生になる一人息子。
 犯人は二十歳前後の男性二人組み、で一人は中肉中背、もう一人は背が高くしっかりした体格だったとか。
「…完璧間違われてる。」
「…さてどうするか…さすがにこのままにはして置けないよな。」
 さりとてあまり屋敷にも近づけないし…とあたりをうろついていた二人は何か黒っぽいものが落ちているものに目を止めた。
 黒いプラスチック…ではない、鉄か?
 軽くウェーブのかかったフォルム、端が塀に擦れたらしくぎざぎざに傷ついている。
「なんだこれ…何かどこかで見たような…」
「…サイドミラー?」
「あぁ!」
 壁にぶつけてミラーを破損したのだろう、よくよくみれば壁にそれらしい跡がある。
「これでを読めばなにかわかるかもしれないな。」
 対象の物品から過去の事柄を読み取り認識する力、サイコメトリ…弧月の持つ特殊能力である。
「濡れ衣を着せられたままでは面白くないですからね、取り戻させてもらいましょう。」
 うなづいて、弧月はミラーのかけらに手を伸ばした。
 脳裏に飛び込んでくるのはまるで切り取られた映画の一場面。
 赤く青く光り明滅しながら流れ込んでくる画像は…。
「…ギョウザ。」
「はい?」
「…あぁ、いや、なんかギョウザが見えて…」
 …多分関係ないだろう。
 もっと集中して…深く、深く潜って…。
「………ラーメン。」
「………。」
「なんでだっ!」
 …思わずミラーを地面に叩き付けてしまったのも無理はなかろう。
「…餃子とラーメンっていうと中華料理屋かな…。」
「中華料理…ぁ、そういやさっき一瞬…」
 中華街の入り口のあたりに似たような景色を見たような…。
「頑張ってくださいよ、弧月さんのサイコメトリだけが頼りなんですから!」
「あぁ…。」
 続く中華料理シリーズにげんなりしつつ、弧月は再度ミラーのかけらに意識を集中させていった…。

 結局わかったのは犯人らしき男達の顔と彼らが昨晩食べたらしいメニュー(ちなみにラーメンと餃子、炒飯、韮玉だった。)、その店の看板ぐらいだったのだが幸い覚えがあった二人はそこに急行することにした。
 …今日も来るとは限らないが手がかりが少ない。
 ダメモトで…と思ってはいたのだがビンゴだった…。
「あれっ!」
 店の前に黒い車が止まっていたのだがその車の右のミラーがかけていたのである。
「間違いないっ!」
 数瞬の差で走り去っていく車…二人はそれを追って走った…そりゃもうひたすら。
「…………なんか、腹たってきた…」
「……なんで、俺達がこんな…」
 幸い見失うことはなかったのだが腹は痛いし足は痛いし…。
 町を抜けて港のアジトらしき打ちっぱなしの倉庫に辿り着いた時、それは理不尽な労働に怒りが頂点に達した瞬間でもあった。
「っらえー!」
 …荘は有無を言わさず錬気をぶち込んだ。
 コンクリの壁がガラガラと音を立て崩れ落ち、隙間からのぞくのは目を丸くする数人の男達…。
「間違いない、見つけたぞ誘拐犯どもっ!」
 そう叫んで荘は壁から家内に進入を果たした。
 男は三人、隅に目を丸くして震える子供がいる…おそらく被害者に違いない。
「………。」
「………。」
「な、何だお前らはっ!」
 しばらくの沈黙の後、リーダー格らしい男が口を開いた。
「そ、そうだっ、何しやがるっ!」
 勢いを得て叫びだす雑魚ども…こいつらのせいで…。
「お前らのせいで俺らは犯人扱いされて仕事も途中でほうりだす羽目に陥ったんだぞコラぁ!」
「うるさいっ、何なんだお前らはっ!」
「見つけたら見つけたで逃げられるし散々追っかけさせられるし足は痛いし腹は痛いし喉は渇くしっ!」
 ………キャラ変わってるぞおい。
 だいぶキレ気味である。
「そんなこた知るかー!」
 罵声とともに突き出された銃口を蹴り上げる。
「あたるかっ!」
 ぱんっと乾いた音が響いたが弾はあらぬところへ飛んでいく。
「取り押さえろこのガキっ!」
「誰がガキだっ!!」
 微妙に低レベルかもしれない舌戦は勢いを増し、三対一の格闘も激しくなっていく…。
「大丈夫か?」
 荘が暴れている隙に弧月は被害者の少年に駆け寄った。
「…あ、ありがとうございます…」
 幾分青褪めてはいるものの外傷はなく、猿轡を外してやると少年は小さく礼を言った。
 しかし視線は弧月を見てはおらず…崩れた壁と暴れる荘へと注がれている。
「…そりゃ怖いよな。」
 人間が素手でコンクリを割れば。
 厳密にいうと素手ではなく錬気なのだが普通の人間にわかるわけもなく…。
「…かっこいい!警察の人ですか?」
「は!?」
 …目がキラキラしてるよ。
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど…。」
 …そういえば俺達もあそこに盗みに入ったのだった。
 止むに止まれぬ事情があったのだが盗みは盗み…さてどうしたものか…。
「…通りすがりのおせっかいな何でも屋でーす。」
「早かったな。」
 笑いを含んだ声が聞こえて、弧月は苦笑しつつ顔を上げた。
 多少意気があがっているものの…散々走らされたのが大きいのだろうが…傷一つない荘の背後には積み重ねられた三人の男達。
「一応一件落着かな。」
「…まあな。」

 …二人は話し合った末、『偶然』居合わせて『義侠心から』助けることになったと言うことにした。
 サイコメトリで追ってきましたなんていったところで現代の警察がどこまで信じてくれるのかわからなかったし、盗みに入って犯人に間違われて濡れ衣晴らすために頑張りましたとはとても言えなかったからである。
 礼に何でも好きなものをと言われて例の壷を所望してこちらの件も一件落着。
 あれほど渋っていた家主は例え家宝の息子の命の恩人へならばと快く譲ってくれた。
「…なんだかやけに疲れましたね。」
「…簡単な仕事のはずだったんだけどな…。」
「帰り、ラーメンでも食べて帰りましょうか。」
「…俺しばらくラーメン見たくない。」

 …おつかれさま。
                                   END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
1085/御子柴・荘/男性/21歳/錬気士
1582/柚品・弧月/男性/22歳/大学生

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■         ライター通信          ■
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 まずはパソコンの不調により納品がぎりぎりになってしまったことをお詫び申し上げます(汗。
 今回お二人の関係は親友と言うことになっていたので口調や相手の呼び方を迷ったのですが、特に指定がなかったのでデフォルト通り口調は『礼儀正しく』呼び方は『二人称:〜さん』にさせていただきました。違ったらすみません(汗。イメージが壊れていないといいのですが…壊してしまった気もしますが(汗。
 少しでも楽しんでいただければ幸いです。それでは機会がありましたらまたどこかで…。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
結城 翔 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年02月18日

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