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『§MassGame?No,Mathematics examination game!§ 』
W・11062407)&レビヤ・シャズル(2683)


「また面白い依頼を持ってきたもんだな…」
 草間武彦は、興信所の椅子に座ったまま、
苦笑いともただ笑っているともつかない表情で目の前の”お客”に目を向けた。
 レビヤ・シャズル。6歳。
銀色の髪の毛を長く伸ばし、小柄で可愛い印象の少女だ。
「草間さん、レビヤ一生のおねがい!」
「いや、別に俺はいいんだけど…そっちはどうなんだ?」
そっち…と言いながら草間が視線を向けた先には、
微妙に不服そうな表情をした戦闘用ゴーレムW・1106、通称バルガーが座っていた。
「俺は別に…」
「バルガーはいいって言ったもん!」
「言ったのか?」
「言ったの!!」
 草間はバルガーに言葉を投げかけているのだが、レビヤが割って入る。
眉をきっと吊り上げて睨みつけるその表情は、6歳とは言えなかなか恐いものがあった。
バルガーは否定も肯定もせずに黙ったままでそのレビヤの姿を見つめている。
草間は小さく息を吐くと、ゆっくりと椅子から立ち上がり。
「まあ…せっかくの依頼だ。断る理由もないしな…」
「それじゃあやってくれるの?」
「お受けしましょう」
 笑みを浮かべつつ答えた草間に、レビヤは嬉しそうに可愛く飛び跳ねて喜んだのだった。


§MassGame?No,Mathematics examination game!§


「それじゃあ今から両者に戦ってもらう…」
 邪魔が入らないようにと場所を変えて、近所の会議室で三人は顔を揃えていた。
会議用の長机を部屋の右と左に並べて、その真ん中に草間が立っている。
右の机にはレビヤ、左にはバルガー。
両者共椅子に座ったままで草間をはさんで向かい合った状態で見詰め合っていた。
「対戦の内容は…200点満点のペーパーテストだ」
 草間はそう言いながら、二人の机の上にそれぞれテスト用紙を配った。
裏返しにしていて、まだ問題を見る事は出来ないようにしている。
「科目は『数学』…制限時間は80分だ」
 腕時計にチラっと視線を向けてから、草間は両者の様子を伺う。
じっと黙ったままで様子をさぐっているレビヤに対し、
バルガーは不満そうな表情を浮かべているだけで特に相手の事が気になっている様子は無かった。
「尚、このテストの結果…レビヤの点数がバルガーより高かった場合、
バルガーはレビヤの使い魔になるという事を承認する事になるが…理解してるな?」
「――ああ…」
 机に頬杖をついて、バルガーはぶっきらぼうに答えた。
草間は頷いて、視線をレビヤに向ける。
「逆に、バルガーの点数がレビヤより高かった場合…
レビヤはバルガーを使い魔にする事を諦める事になるが…」
「わかってる!絶対に負けないから!」
 真剣な表情で力をこめて言うレビヤに、草間は少し肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
「それから、わかってると思うが両者共に特殊能力を使うのは不可だからな?
あくまで頭脳だけで勝負する事!もし不正が発覚した場合は失格とみなす!
あと、試験官及び採点はこの俺が受け持つって事で…まあ、宜しく…
ちなみにトイレ休憩は認めるが、時間は延長しないという事でいいかな?」
「いいから早く始めて!」
 レビヤはすでに草間は眼中になく、目の前のテスト用紙をじっと見つめていた。
やれやれと草間は息を吐き、時計に目を向ける。
時計の針がちょうどきりのいい時間を指し―――
「…はじめ!」
 掛け声と同時に、レビヤとバルガーはテスト用紙を裏返し…
真剣な表情で問題に目を通しはじめたのだった。

◇第1問:中学数学:次の問に答えよ。−5+3=(?)

…簡単なところから、問題は開始されていた。
レビヤもバルガーも難なくすらすらと答えを記入していく。

◇第35問:高校数学:次の式を整理せよ。i(2+3i)

 しかし、時間の経過とともに…レビヤの表情は険しくなり、
時折、難しい顔をして手を止める事が多くなってくる。
バルガーは相変わらず表情には何も出さないが、
こちらも最初と違い、ペンを持っている手の動きが鈍くなってきているようだった。

 草間は二人の机の真ん中の空間にパイプ椅子を置いて観察しながら、
自分は読みかけの仕事の資料に目を通しはじめたのだった。



「そこまで!」
 草間の声と同時に、二人は手を止める。時計の針はぴったり80分後を指していた。
ほっと息を吐くレビヤ、無表情で両足を投げ出して視線を窓の外に向けるバルガー。
両者共、途中で席を立つ事も暇を持て余すことも、
早々に終了して居眠りを開始する事もなく、時間いっぱいかかって解答していたらしい。
そんな二人の解答用紙を回収して、草間は簡単に目を通した。
「名前の記入もちゃんとしてるな…それじゃあ採点終了まで休憩しててくれ」
 赤いペンを胸元に刺し、草間は部屋から出て行く。別室にて採点してから戻ってくるのだろう。
残った二人は…なんともいえない空気の残る部屋で互いにじっと見つめあった。
「レビヤ完璧だったんだから!」
「へえ…そりゃ凄い」
「ほんとうよ?!嘘じゃないんだから!!」
 バン!と机を叩いて、レビヤは強い口調で言う。
どうやらバルガーの素っ気無い態度を”バカにしてる”と思ったらしい。
怒った表情のまま、じっとバルガーを睨み付けた。バルガーは「やれやれ」と言った表情で座りなおし。
「おまえはどうしてそうまでして俺を使い魔にしたいんだ…」
「だってバルガーはレビヤのものだもの!」
「だから、どうして…」
「好きなの!レビヤ、バルガーと一緒にいたいの!」
 子供ではあるが、真剣な眼をしてじっと見つめる少女。
バルガーはどう対応すればいいのかわからずに視線を彷徨わせた。
自分なんかと一緒にいたいという少女の気持ちがよくわからないバルガー。
それに、数学のテストの結果で互いの事を決めようと言う事も…
やはりいまいちよくわからないのだった。
「しかし、おまえは点数が俺に負ければ諦めるんだな…?」
「…約束だからしかたないもん…」
 不服そうにしながらも、素直に頷くレビヤ。
「でも!」
 しかし、すぐに顔を上げてじっとバルガーを見つめ。
「でもレビヤは絶対に負けないもん!」
 どこからその自信が来るのか、バルガーは少々不思議なくらいだった。
二人揃ってにらみ合うように見つめあっていると…部屋の戸が開く音がする。
 そして、解答用紙を持った草間が入って来た。
草間はなんとも言えない微妙な顔をして二人を見る。
そして黙ったままで、二人の机の上にそれぞれ解答用紙を置いた。
 急いでそれを手に取るレビヤ。バルガーは無言で手をのばす。
レビヤは自分のテストの点数を見た後、顔を上げてバルガーに視線を向けた。
表情一つ変えずにバルガーはじっと解答用紙を見つめている。
仕方なく、レビヤは草間に視線を向けた。
「あー…まあ、そう言う事で採点は終了したわけなんだか…」
「前置きはいいの!結果は?!」
「結果はレビヤ100点」
 完璧という割には、半数しか正解していなかったらしい。
悔しそうに解答用紙をぎゅっと握り、心配そうに草間の次の言葉を待った。
 満点かそれに近い点数であれば自分が負ける事は無いはずだと思っていたのだが、
半分しかないとなると…バルガーに勝つのは難しいところである。
薄っすらと涙すら浮かべて、レビヤは草間を見つめた。
「―――それから、バルガーなんだが…」
 草間は彼に視線を向ける。
バルガーは解答用紙を無造作に机の上に置いて、草間の言葉を待っていた。
草間はコホンと一回、咳払いをして。
「……バルガー100点」
 そう告げた。
レビヤもバルガーもそれぞれの視線が「え?」と言いたそうにして草間に向けられる。
「聞いた通りだ。レビヤもバルガーも同点」
「そ、そんなの…ほんとうに?!」
 レビヤは椅子から降りて、バルガーの解答用紙を取ると目を通す。
確かに…バルガーのテストの点数もしっかりと100点と書かれていた。
「そんなあ…どうすればいいの!?」
「同点の場合はどうするかって話はしてなかったからな…
俺もうかつだった。テスト開始前にその点について予め聞いておけばよかったんだが…」
 後頭部を掻きながら、草間は肩を竦めた。
レビヤは呆然とした表情で自分とバルガーそれぞれの解答用紙を交互に見比べる。
しかし何度見ても、当たり前の事であるが結果が変わるという事はなかった。
 バルガーはふっと笑みを浮かべる。
どこか満足そうな表情をして、レビヤに目を向けた。
「それじゃあ…俺は使い魔にはならないという事だな」
 その視線のまま彼女にそう言って立ち上がると、バルガーは草間に軽く礼をする。
そしてさっさと部屋から出て行こうと歩き出した。
「じゃあレビヤも諦めなくていいってことなんだもん!諦めないんだから!!」
 その後を追いかけながら、レビヤは大声で叫ぶ。
部屋のドアノブに手をかけた状態でバルガーは動きを止め、
自分の後ろに立つ、真剣な表情の少女を見下ろし…
「好きにしな…」
 笑みを浮かべながら短くそれだけ言うと、ドアを開いて外に出て行った。
レビヤもその後を追いかけて、草間を振り返りもせずに飛び出していく。
 椅子に座ったまま二人の姿を見送りながら…草間は小さく笑みを浮かべ煙草に火をつける。
「ま…頑張りな」
 今後、二人がどうなるのかはわからないが…
個人的にレビヤを応援してやりたい気分になったのだった。

「レビヤ、絶対にあきらめないんだからー!!」

 そんな草間の耳に、どこか遠くで叫ぶレビヤの声が聞こえて、
草間は思わず笑い声をあげたのだった。





■終■


※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
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東京怪談
2004年02月18日

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