▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『鴉の温泉 』
ライ・ベーゼ1697

 冬、死の季節とすら例えられる事もある時期で、この極寒の間は春までの準備期間という感があるが、それでも待ち望む物だって居る。夏には夏の良さがあるように、冬には冬の楽しみがある物だ、こたつ、スキー、正月、そして――温泉。
 別に温泉はオールシーズン沸いているのだが、やはり暖かいお湯は冷えた身体でというのが望ましい。つま先一つで湯加減を測り、それからゆっくりと身を息を抜きながら沈めて行き、肩までかかるくらいに浸かる。極楽。そこに雪の一つでも舞い降れば、天上の幸福とはこういうものかというばかりである。んであるが、
「いくらなんでも降りまくりじゃねーかこの野郎ッ!」
 という調子で鴉のマルファスは叫んでいた。場所は足がとられる豪雪地帯、周囲は、闇夜でなくて白い幕であるのだが、最早黒すら塗りつぶす程の猛吹雪である。勿論今しがた叫んだばかりの声も、連れ合いの耳には届いていない。唯、防寒具で盛り上がった背中が見えるだけである。そこで鴉は耳元まで飛んで、叫んだ。
「話と違うじゃねーかっ!」
「……ッ!俺に言ってもしょうがないだろっ!」
 応答したのは草間武彦である、鴉の飼い主では無い、本来の飼い主は肉体労働は苦手だと常套文句で逃げ出したのだ。だから本来この鴉も着いて行く理由は無いのだが、
 目的地が、混浴温泉となれば話は別だった。
 幽霊旅館と称される当館をどうにかして欲しいという依頼内容、それだけではこの鴉も食いつかなかったが、混浴という文字を認めた瞬間同行すると喚きだした。不思議な力で首輪が絞められてものたまったのだから、凄まじいエロ根性である。だが、
「ああ、意識がかすみ始めたぜ……、目の前にムチムチでビキニの俺のばーちゃんが」「色々な意味でそんなばあさん居ないだろ」
 猛吹雪という死線の上にありながら軽い漫才を交わせたりする。
「あーしっくたじゃねーかミスったじゃねーか、てかこんな男に着いて行くっつのがーが間違いだぜっ!この悪魔ッ!」「それはお前だろ」「まぁ口答えするなんてッ!恐ろしい大人!こんちき」
 突然、どさぁ。「のわぁっ!?」
 何か固まりがドタマに直撃して、そこから崩れて自分を埋めた。周囲の状況から雪である事は明白。
 雪の山から首一つだけひょっこり出すマルファス。
「ぎゃーなんだってんだ!?俺の美声に反応して雪崩が巻き起こったかっ!?寒い、とても眠い、ぱとらーッ!」
「山じゃないんだから雪崩が起こる訳無いだろ」
 じゃあなんだって、と聞く前に答えが目に入った。
 温泉旅館の門発見、マルファスはこの屋根から落ちた雪に埋まった訳である。


◇◆◇


「怪奇とは関係ない?」
 草間は目を丸くして聞いた先には、バーコード頭の番頭が一人。彼は頭を下げた。
「しかし、幽霊旅館をどうにかして欲しいって依頼には」
「ですから客が一人も居ないのですよ。おかげさまで幽霊旅館等と呼ばれる始末で」
 それは今自分が経験してきた交通の便を考えれば当たり前のような、じゃなくて、
「あのなぁ、そういう事だったらもっと別の業者に頼めばいいだろ?」「紹介してくれるんですか?」「そうじゃなくてだなぁ」
 怪奇探偵という自分の二つ名を憎んでるとはいえ、実際の依頼もハードボイルドとは縁遠い事に、ため息をあぁと着いていた頃、――漆黒、それが彼の容姿を説明するに相応しい一言か。少しだけ、重力に対し逆立った黒髪に、光沢も今は生まれない黒いレザーのコート。ソフトパンク。なによりも色を表しているのは、その纏だけでなく生来の肌。影とさえ呼べそうなくらいの、いや、これも相応しい一言があるなら、
 鴉。
 彼は閑散とした脱衣所で、衣服も脱ぎ去ってタオルを腰に巻いた。その表情はすがすがしい笑みに飾られる。
 エロゆえに浮かんだ笑顔なのに、余りいやらしさは無いのは彼がかっこいいからか、まぁそれは、余談であって。ともかく彼は脳内で叫ぶ、男と女の裸の付き合い、いざ行かんっ!現代のユートピア!彼は温泉へと繋がる戸を開けた。混浴の露天風呂は、
 雪で埋まってた。
 物凄い勢いで彼が服も着ぬ侭バーコード頭に蹴りかましたのは言うでもないが、猛吹雪で露天に行く方もどうかと思うし、んでもって腹いせに調理上の飯をあらかた食い尽くすは仲居さんには手をかけるのは、てか、普通に彼は犯罪者、なので、
 罪には罰を、と。


◇◆◇


「いやーありがとうございましたっ!これで客も呼べてかつての賑わいも取り戻せますッ!」
「ちょっと待てこら」
「餌をやる時に噛まれないようにな、後、女を近づけると発情するから」
「ちょっと待ちやがりませこら」
「はい!早速明日にでもインターネットで広告を出します!《喋る鴉》が居る旅館となればマスコミだって」
「ほんの少しお待ちいただけないでしょうかこらぁっ!」
 とギャーギャー叫ぶマルファスは今、「一週間くらいの辛抱だ。お前は客寄せ、ここの旅館は結構質がいいんだから、鴉抜きでも来る奴が出来るだろ?」「ワンウィークッ!?冗談じゃねーじゃねーかっ!俺の黒きフリーダムな翼は」
 こんな鳥かごに閉まっておく物じゃねー、と。
「依頼抜きにして、興信所の慰安で来るかもな」
「その時は最大限のサービスで」
「って無視かよっ!?アウトオブ眼鳥!こら帰るんじゃねーてか落ちつけんなって、一週間っ!?一週間もここで湯上りの女神様を翼くわえて見てろなんてふざけんなぁぁぁっ!」
「あのう、女性客限定で《喋る鴉とお食事》サービスとか」
「OKバーコード、俺とお前はフレンズじゃねーか」
 一週間後、元の飼い主が迎えに来たが、すっかり気に入って離れようとしなかったと。(首絞めて強制連行したが
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年02月13日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.