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『真冬のサイコロの旅・第1夜 』
冠城・琉人2209)&ベータリア・リオンレーヌ(2598)
●予告
 1月某日――世間から正月気分がそろそろ抜け切った頃。時刻は午前3時半を少し過ぎた所だった。
「……すぅ……」
 神父である青年、冠城琉人は自宅のベッドで穏やかな寝息を立てて眠りの世界に居た。いい夢でも見ているのだろうか、表情が少しほころんでいる。
 琉人がすやすやと眠っていると、突然隣の部屋にあった、ファックス付き電話機のベルが鳴り出した。
「ん〜……」
 音に反応したらしく、寝返りを打つ琉人。だが目を覚ました気配はない。そのうちにベルの音は止まり、低く唸るような作動音とともにファックス用紙が排出された。
 そこには次のように記されていた。『女子プロには気を付けろ。ゴングは間もなく』と。謎のメッセージであった。
 琉人はそんなファックスが届いていることなど知らずに、気持ちよさそうに眠っていた。この後、自らの身に起こることなどまるで知るよしもなく……。

●襲撃
 午前4時半過ぎ・そろそろ朝刊の配達が始まっている頃。琉人宅に怪し気な影が静かに忍び寄っていた。それも1つではない、複数だ。
 静かに、静かに琉人宅へ近付く影たち。それはたくましい肉体をリングウェアに包んだ女性たちだった。恐らく女子プロレスか何かの軍団ではないだろうか。
 軍団の最後尾には1人だけリングウェアではない赤髪の女性――そうはいっても肉体は筋骨隆々たくましく、真冬にも関わらずやや薄手な装いであったのだが――が居た。
 耳の長さからするとエルフなのだろうか。身体だけ見ると、とてもそうとは思えないけれども。
 その手には撮影用のデジカムが握られている。テープが回っていることを示すランプもちゃんと点灯していた。つまり今、この様子がしっかりと撮影されているということだ。
 やがて玄関前にやってきた女子プロ軍団。先頭の者が何故か鍵を取り出し、扉を開けてしまった。そして一斉に最後尾を振り返った。
「…………」
 デジカムを手にしている女性――某地方局のディレクターであるベータリア・リオンレーヌは無言で、空いている方の手を動かして女子プロ軍団に指示を与えた。『作戦決行』と。
 それを合図に、中へと雪崩れ込む女子プロ軍団。ベータリアも後を追い飛び込んだ。
「……えっ? あっ……!」
 奥から琉人の驚きと困惑、その他諸々の感情が入り混じった声が聞こえてきていた。
「うわぁっ!? な、何をっ……!!」
 そのうちに、奥から女子プロ軍団によって四方八方から抱え上げられた琉人の姿が現れた。『捕らえられた宇宙人』もびっくりといった状態である。
 満足げな表情を浮かべているベータリアのデジカムは、琉人が外へと連れ出されてゆく一部始終を、余すことなく収めていた。
 ちなみにこの様子、世間一般では『拉致』と呼ぶことは言うまでもない。

●企画発表
 午前5時半過ぎ・東京駅丸の内南口前。
「おはようございます!」
「お……はようございます……?」
 眠た気な目、惚けた表情の琉人に、元気よくベータリアが朝の挨拶をした。いつの間に着替えさせられたのか、すでにパジャマ姿ではなく、普段通りの神父服と帽子という装いになっていた。当然のことながら、デジカムは回っている。
「おや、まだお目覚めでない?」
「えーっとぉ……目は覚めてるんですけど……」
 頬をぽりぽりと掻きながら答える琉人。未だ自分の身に何が起こったのか、把握出来ていなかったのだ。
「あれ? ファックス見てない?」
「何です、それ?」
「『女子プロには気を付けろ。ゴングは間もなく』ってメッセージ、流したのに」
 ベータリアが言っているのは、拉致の1時間ほど前に琉人宅へ届いたファックスのことだ。そのメッセージ通り、ベータリアは配下の女子プロ軍団を率いて、琉人宅へ乗り込んでいったのである。
「見てないですね……」
「そんなことはさておき、はい! これ持って!」
 さらっと話題を変え、ベータリアはある物を琉人に手渡した。サイコロの形をしたキャラメルの箱と、1枚のパネルだ。
「え……っと、『目指せ北海道! 真冬のサイコロの旅』……何ですか、これ?」
 琉人はパネルに書かれていた文字を読み上げた。いったい何だろう、これは?
「それでは企画発表です!」
 意気揚々とベータリアが、今回の企画の説明を始めた。簡単に言うと、パネルのサイコロを振って出た目に書かれている目的地へ、指定された交通機関を使用して旅をするという内容である。
「ゴールは北海道の札幌! 着くまではノンストップで移動! ルールは以上!」
「はあ……」
 説明を聞き終え、琉人は上目使いで少し思案。やがてポンと手を叩いてこう言った。
「この間、他の方に教えていただいた奴に、何だか似てますね。つまりあれでしょうか、パ……」
「わーっ!!!」
 琉人が皆まで言う前に、ベータリアが叫んで言葉を遮った。それは言っちゃいけない。君と僕とのお約束だ。

●行き先決定
「とにかく企画スタートです!」
 ベータリアはそう言って、強引に企画をスタートさせた。
「じゃあ……まずは読めばいいんですか?」
 パネルを持ち琉人が確認すると、ベータリアがこくこくと頷いた。
「えー、では第1の選択です。
 1、一気に北上。東北新幹線『はやて』で八戸。
 2、とにかく北へ。上越新幹線『とき』で新潟。
 3、北は北でも北西へ。上越新幹線『とき』と特急『はくたか』で金沢。
 4、朝のお茶でも。東海道新幹線『こだま』で静岡。
 5、のんびりとお茶でも。東海道本線……普通列車で静岡ですか?
 6、腹ごしらえで食い倒れ。東海道新幹線『のぞみ』で新大阪」
 選択肢を読み上げる琉人。一刻でも早くゴールしたいのであれば、ここは1か2の目を出すべきだろう。3や6だと、ちょっと遠くなってしまう。
 意外と侮れないのは5だ。普通列車だと3時間はかかる。つまり、それだけ時間を無駄にするということである。
「最初は列車で統一してみたんだけど」
 ベータリアは何故かポージングを取りながら言った。それでもちゃんとデジカムが琉人へ向いているのは、さすがディレクターと言うべきか。
「ええっと、これ振るんでしたっけ?」
「思いっきり振る!」
 琉人がサイコロを手に尋ねると、ベータリアがきっぱりと答えた。
「何が出るかな……えいっ!!」
 サイコロをポーンと頭上へ投げる琉人。サイコロはくるくると回転しながら地面へ落下し、しばしコンクリートの地面を転がってゆく。ベータリアのデジカムがそれを追いかけてゆく。
 ようやくサイコロが止まり、上になった目は3――金沢だ。
「金沢ですかあ……雪ですねー」
 しげしげとパネルを見つめ、琉人がつぶやいた。北陸方面は先日大雪が降ったばかりである。
「あー、金沢なんだ……」
 少し困ったような表情を浮かべるベータリア。
「どうかしましたか?」
「これ、結構時間かかるんだけど」
「3時間くらいですか?」
「今からだと、だいたい5時間ちょっと」
「5……?」
 手で5を示し、聞き返す琉人。列車乗り継ぎの関係上、どうしてもそうなってしまうのだ。
 かくして2人は、金沢へ向けて旅立ったのである。待ち時間をたっぷりと含みながら。

●加賀百万石へようこそ
 1日目・午前11時過ぎ――金沢駅西口前。駅前にはまだ溶け切らぬ雪が、2人のことを出迎えていた。
「金沢に着きました。やっぱり雪国、寒いですね」
 ベータリアのデジカムの前に立ち、琉人は柔和な笑顔のまま手に息を吹き当てた。今日の金沢は雪こそ降っていないものの、日本海側によくある曇り空である。
「東口、工事中なんだね。何か、ガラスのドームみたいなの作ってるらしいよ」
 右手をフレームインさせながら説明をするベータリア。金沢駅は将来の北陸新幹線開通を見据え、東口側は工事の真っ最中だった。
 それでちょうどいい空き場所が見当たらなかったため、西口でこうして撮影しているという訳だ。
「金沢は遠かったぁ……」
 ぼそっとつぶやく琉人。ちなみに『のぞみ』で5時間だと、東京から博多へ行けて少しお釣りが来る程度の時間である。
「じゃあ、これを」
 すでに準備していたのか、ベータリアは新たなパネルを琉人に手渡した。受け取った琉人は、当たり前のように読み始めた。
「では第2の選択です。
 1、振り出しに戻る。特急『はくたか』と上越新幹線『とき』で東京。また5時間近くかかるんですね……。
 2、少しでもゴールへ近付く。特急『北越』で新潟。
 3、せっかくなので温泉でも。北陸本線普通列車で加賀温泉郷。これ、悪くなさそうですよね?
 4、きしめんとエビフライを食べに。特急『しらさぎ』で名古屋。……そういえば、お腹が空きませんか?
 5、やっぱり食い倒れ。特急『サンダーバード』で大阪。こっちもいいですね。
 6、一気に遠くへ。小松空港から飛行機で……えっ、福岡ですか?」
 軽い驚きを見せる琉人。さすが6枠、きつい目を持ってきている。ちなみに福岡へ行ってしまっては、新千歳空港への直行便は当然もうない。
「はい、サイコロ振って〜!」
 またポージングを取りながら、ベータリアは琉人へ指示を与えた。
「うーん、6はちょっと避けたいですねぇ……」
 手の中でサイコロをカタカタと振る琉人。果たして次の行き先はどうなるのか?
 それはサイコロの神のみが知る――。

【真冬のサイコロの旅・第1夜 了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年02月02日

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