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『鞍馬の空に咲く炎の華 』
W・11052457)&W・1108(2586)&W・1107(2475)

■始■

『というわけで、今回おまえ達にはその剣士の修行を手伝って貰いたい』
 草間武彦からの連絡が、W・1105に入ったのは3日程前のことだった。
なんでも、草間興信所にとある陰陽道の力を持つ剣士から、
修行をしたいので相手はいないだろうかと言う内容の依頼があったそうなのだが。
場所は、日本の古き良き時代が今もまだ残る、京都。
そして、その修行の期間は一ヶ月という事だった。
もちろん、断る理由もなく仕事を受けた、W・1105、W・1107、W・1108の三人だったのだが…。
「あの…よろしくおねがいします!頑張ります」
待ち合わせの場所にやって来たのは、まだ年若い女性だった。



 京都の鞍馬山。
その昔、牛若丸…源義経が天狗を相手に修行をしたと言われるその場所で修行は開始された。
本来なら人など入れる場所ではないそこで、テントを張っての生活が始まる。
「あのっ…それで、私は具体的に何をすればいいでしょう?」
 随分と華奢でひ弱そうな女性が、おどおどと三人を見上げながら言う。
微妙に逃げ腰になっているその女性を見下ろし、
「ボクに聞かれても困ります」
 W・1108はそう呟いて、隣にいるW・1107に話を振った。
「俺か?!いや、俺もどうすればいいかと聞かれてもな…」
 そう言いながら、W・1105に視線を向けた。
「要は戦えばいいんだろうが!じっとしてねえでとっととおっぱじめようぜ!!」
 ジャキッと、メガライフル”ホーネット”を構えて1105は立ち上がった。
「あのっ…えーと…すみません1105さん…」
「スカージと呼べ!」
 叫んだ1105に、女性はビクっと身体を震わせた。
「我々は通称で呼んでくれていいのですよ」
「――は、はい…!」
「要するに、あんたを修行させて剣の腕を上げればいいんだな?」
「はい!」
「了解した。ならば明日から我々がそれぞれあんたの相手をする」
 そして、勝つまでひたすら続けていく。最終的に全員に勝つ事が出来るまで。
1107の提案は、若い女性にとっては多少過酷かもしれないとも思えた。
しかし、期間が一ヶ月と定められている中で、最大限に何かをするならば…この手段が早いだろう。
「この俺、1107サーチは別としてこの1105”スカージ”と、
 1108”バイパー”は手加減を知らないからな…例え女子供でも」」
「草間氏の依頼です、殺しはしない」
「俺はわからねえけどなぁ?!」
「―――頑張ります!お願いします!!」
 尻尾を巻いて逃げ帰るかと思いきや、意外と女性は芯の強いところを見せたのだった。
まあそれくらいの精神力でなければ陰陽道などには通じていないのだろうが。
「ならば今日は修行に良さそうな場所を探すぜ…」
「なるべく山奥がいいですね」
 言いながら、歩き出す1108。
「修行開始は明日からだ」
「はい!明日からお願いします」
女性ははっきりとした口調で答え、頭を下げた。


■行■

□速

「遅い!」
 茂みからザッと音をたてて飛び出した1107”サーチ”。
右腕に装備されているマシンガン”ホイール”を、剣を構えて振り返った女性に向けて放つ。
咄嗟に手に持つ剣に力を篭めて結界を張った女性だったが…反応が遅れた事と、
根本的な力負けで後方に弾き飛ばされて地面に倒れこんだ。
「まだまだ!」
 立ち上がる暇を狙い、1107は二連装ガトリング”シェード”を女性に向けて突き出した。
地面に倒れた痛みを感じるような時間は与えてくれない。
身体を起こすと同時に足で地面を蹴り、女性はその反動を利用して…剣を繰り出した。
ガキン!と音とたてて1107のシールド”シェイル”がその剣を受け止める。
「まだまだ遅い!」
「くっ!!」
攻撃が通じなかった事を悟ると、女性はすぐに後方に飛び退いて剣を媒体とした即席の術を組みあげる。
そして式霊を剣に降ろし、再び1107に攻撃を仕掛けた。

□力

静かな鞍馬山の上空に、火花が散る。
「オラオラオラオラァ!!」
 降ろした式に乗り上空へと逃げた女性目掛けて、1105”スカージ”が肩に装備されている大型のキャノン砲、
”スパイダー”をぶっ放つ。続けざまに、メガライフル”ホーネット”を構えた。
ほんの少し前までは、重斬剣”レギオン”を使っての地上戦が行われていたのだが、
攻撃力の高い1105の力では、地上戦は不利だとして女性は上空に逃げたのだ。しかし…
「逃げてんじゃねぇ!!」
 背中につけているブースターを全開にして、女性を追いかけて空に飛び立つ。
長時間の飛行は不可能だが、女性を追いかけ…上空で攻撃を仕掛けるには充分な時間だった。
「ひゃははは!弱ぇ!!弱ぇんだよ!!」
 ”レギオン”を振り下ろし、それを両手で剣をささえて受け止める女性だったが、
やはり力では完全に負けて…そのまま上空から地面へと落下する。
直下にいた1108が女性を受け止めようと両腕を開いたのだが―――
「まだまだまだァ!!」
その上から、1105は”ホーネット”で仲間もろとも攻撃をしかけたのだった。

□隠

 女性は森の真っ只中で静かに目を閉じていた。全神経を集中させて、”気配”を探っている。
この森のどこかに隠れていて、自分を標的にしているであろうハンター…1108”バイパー”の気配を。
今までの修行の中でわかったのは、見た目にも好戦的で攻撃的である事がわかる1105と違い、
1108は静かな攻撃性と狂気を秘めているという事。
本当に恐いのは、この1108なのではないだろうか…という事。
静かに息を規則的に整えて、精神を統一する女性。鳥のさえずりが聞こえて、平凡な森の空気が流れ―――
「キミの首…いただきます」
 冷たい感触が首に伝わり、女性は目を見開いた。
1108が、シザーハンド”ヴェート”の切っ先を、女性の首に押し当てたのだ。
しかし、ここまで至近距離まで接近されていた気配など、一切感じる事は出来なかった。
「これが修行でなければ、キミはもう十回、ボクに首を取られている」
「――くそっ…!」
女性は少し荒い言葉を吐き捨てて、悔しそうに唇を噛んだ。




「もう残りは今日だけか」
 カレンダーのようなものを持ってきてはおらず、
気に切り傷を入れることで日にちを計算していた1107は…三十本の線を見てふと呟いた。
これまで長いようで短いようで、やはり長い時間修行に明け暮れていたのだが、
この一日でこの修行の時間を終えることになる。
しかし、女性はまだ…三人を倒せてはいない。
「サーチ!時間よ!」
「ああ」
 初めて会った時と比べ、ずいぶんと見た目の変わった女性に苦笑しながら1107は立ち上がった。
長かった髪の毛も1105との戦闘で邪魔だからと肩口まで切り落としているし、
1107の速さに反応する為に、瞬発力を鍛えていてどこか筋肉質になっている。
そして、1108とのやり取りから…常に周囲に神経を研ぎ澄ましているような凛とした表情。
 すでに充分、修行の効果があった事は目に見えてわかっていた。
「スカージ!バイパー!今日は全員まとめて相手してくれていいわ!」
「ひゃははは!言うじゃねぇか!!」
「今日で何個目の首をいただけるんでしょうかね」
「返り討ちにしてやるわよ!」
 笑みを浮かべながら叫ぶ女性。
一ヶ月、三人と過ごした事で、性格も随分と変わっていたようだった。
「よぉ!コイツはこう言ってるけどどうするよサーチ?
「そうだな…どうせ最後だ、それも悪くはねえだろう…バイパーはどうだ」
「…特に異存は無い」
 三人の話がまとまったところで、女性はニッと笑みを浮かべた。


□総

 全速力で、木々の間を駆け抜けていく女性は、
後方から迫ってきたメガライフル”ホーネット”を、振り向き様に結界を貼り弾き返す。
一瞬そちらに気をそらせた瞬間を狙い、鉄球”ファフニール”が足元を狙う。
なんの気配もなく、まさにそこに突然出現したように思えたその鉄球だったのだが、
女性は近くにある岩に咄嗟に飛び乗り、それをやり過ごした。
それと同時に、鉄球の上に飛び移り…勢いに乗せて、1108の身体の上に駆け上った。
「そこかぁ!!」
「待てスカージ!」
 1107の叫ぶ声も遅く、1105は1108…正確には、1108の上に飛び乗った女性に向けて、
キャノン砲”スパイダー”をぶちかました。
周囲の木々を薙ぎ払って1108に直撃する…前に、1107が飛行形態をとり1108を乗せて上空に逃げる。
すでに女性の姿は1108の上には無く、上空から見下ろすと…1105の背後にまわっていた。
そして、剣を使って何かの陣を描く。
そこから数体の低級霊が出現し、使役された状態で1105に襲い掛かった。
「ぐあぁッ!!くそっ!」
 叫び声をあげて振り向きざま、”レギオン”で女性に切りつける。
しかし、手にした剣でそれをしっかりと受け止めて、不敵に笑みを浮かべて…ふっと姿が消えた。
突然支えを失って、前につんのめる1105。
1107がどういう事だ!?と思った瞬間、背後から1105を攻撃したのと同じようなものが襲い掛かった。
「なんだ!?」
 1108と共に、バランスを崩し地面に向かって落下する。
直前、しっかりと体勢を整えて着地し上空を見上げると、龍の式霊を従えた女性の姿があった。
1105と戦っていたというのに、それを一瞬で移動したとは思えない。
ということは―――
「傀儡か!?」
 陰陽道に通じているなら、それぐらいは容易いだろう。
しかし今までそんな術を使っている様子は見たこともなく、使えると言う話も…
「面白いじゃねえか…」
 サーチは笑みを浮かべると、背面ミサイル”リース”を構える。
そして、女性に向けて攻撃を仕掛けた。
狙ったわけではないが、同時に1105のホーネットも弧をえがいて突き進む。
 ドォォォン!と、凄まじいまでの爆音が響き渡り、
鞍馬山の上空全体に広がるかのように、大輪の爆炎の花が咲き誇ったのだった。

 彼らの”最後の戦い”は、
辺りが橙色に染まり、やがて紫の雲が黒い空に星を瞬かせるまで続いたのだった。


■終■

 鞍馬山での一ヶ月の行を終えた三人は、
仕事の報酬を受け取りに草間興信所に出向いていた。
長期間の仕事という事もあり、報酬はなかなかのものになっていた上に、
そこで、草間から女性からの手紙を渡された。
”この度はどうもありがとうございました。
 お陰で私も以前と比べてたくましくなったような気がします。
 最後になりましたが、本当にありがとうございました。
 今回は三人に最後勝つ事はできませんでしたが、今度は負けませんから!”
「面白ぇ女だぜ!今度は本気でぶっ殺す!」
 ニッと笑みを浮かべながら、1105が叫ぶ。
「今度は…と言うことは手加減したのか?」
「珍しいですね。スカージが手加減するなんて」
「馬鹿かぁ!?ボケが!この俺が手加減するわけねぇだろ!」
 ぐしゃ!と手紙を握りつぶした1105だったが、すぐにその手紙を器用に開いてシワをのばす。
1107はその姿を見て、どうも苦笑を禁じえなかった。
よほど、あの一ヶ月が気に入ったのだな…と。
「まあ最後は確かにあの女、勝ちはしなかったが…」
「負けもしてねぇ!くそッ!!この俺がッ!」
「相打ちですからね…ほとんど」
「人間の女にしちゃあ骨があったじゃねえか!」
 三人は、興信所からの帰り道…口々に一ヶ月の”思い出”を語りながら歩く。
生きるか死ぬかの戦闘に赴く事ももちろん彼らにとってはやり甲斐のある仕事であるが、
今回のように…修行という目的での仕事も悪くは無い…そう思いながら。





[終]


※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
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東京怪談
2004年01月29日

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