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『『グルメハンターズ』 』
イヴ・ソマリア1548)&モーリス・ラジアル(2318)
 バレンタイデーまでに料理の腕を上げる……いや、人の口にあわせた料理を作れるようになる! そう決心して数日……
「消化不足だわ…」
 イヴは不満そうな顔でぶーたれた。
「あれも使えない、これも使えない…人の口にあう食材で料理を作るなんて……宣言しなければよかった」
 拗ねた子どもがするようにイヴはちぇっ、と足下の小石を蹴った。
 転がる小石をただ眺める。
 眺める。
 そしてイヴは唐突に「よし」と拳を握った。
「ここは一つ、活きのいい食材を使って、思いっきり魔界風の料理を作りましょう。うん」
 職人は自分の手に馴染んだ道具以外の道具を使うと、調子を崩すそうだ。きっと、おそらくはこのまま大人しい食材を扱い続けたら自分の料理の腕は下がりまくってしまうに違いない。ここはだからストレス&うっぷん解消のためにも、魔界に行って、狩りをし、捕まえた獲物で思いっきり美味しい魔界料理を作ってやろう。
 にこりと嬉しそうに笑うイヴ。
 そうと決まれば繕は急げ。スキップを踏むような軽やかな足取りで彼女は家路を急いだ。
「あー、狩りと言えば…そういえば彼ったら前に魔界でアルキメットドラゴンを狩った時の話をしてあげた時に、随分と興味深そうな顔をしていたわね。うん、ここはひとつ彼も誘ってやるか」
 楽しい事は大勢でやった方が面白い♪
 イヴはコートのポケットに突っ込んでいた携帯電話を取り出して、開くと、素早く登録してある携帯電話番号を呼び出し、通話ボタンを押した。

 そこは神が創りたもうた世界を再現したかのような箱庭。
 風に揺れる色とりどりの花を愛でながら歩く彼は、庭園の隅にあるハウスに入った。そのハウスは薔薇の館と呼ばれていた。
「ロサキネンシスがすべて咲きましたね」
 彼はすらりと美しい指でそっと女の柔肌に触れるようにロサキネンシスに触れた。その彼の瞳が細まったのは彼は植物でも難なく診る事のできる能力を持っているためか。
 彼は館の隅に置かれた棚から数種の薬品を取り出してそれを調合し、霧吹きに入れると、彼が診た花に吹きかけた。そして満足そうに目を細める。
 彼、モーリス・ラジアルは故にリンスター財閥の庭園の管理を任されているのだ。
 モーリスが花をチェックしていると、突然、携帯電話が鳴り響く。薔薇の館に流れるメロディーに、そこにある花たちが歌うような感じがした。
「イヴ嬢? はい、もしもし」
『ああ、モーリスさん。イヴです。わたし、これから魔界に帰って、狩りをしに行くんですけど、よかったらどうですか?』
「狩り? へー、それは楽しそうだ。ぜひ」
『了解。じゃあ、今から迎えに行きますんで』
 と、携帯電話が切れた次の瞬間に、ぶんと空間が揺れて、
 そして……、
「さあ、行きましょうか♪」
 モーリスの前に空間から浮き上がるようにして現れたイヴがにこりと微笑んだ。

 魔界の西に走るビロード山脈。
 高い山々に、密集した木々。
 イヴとモーリスはほとんどが大木のこの森で息苦しそうに歩いていた。
「あー、前の狩りでも感じたけど、やっぱり、わたし、体がなまってる」
 立ち止まるイヴ。肩にかかる髪を後ろに払いながら、小さくため息。
 モーリスは我関せずで、周りの森を眺めている。
 そしてひょいっと肩をすくめ、
「なるほど。噂には聞いていましたが、確かにこの世界は崩壊への道を歩んでいるようですね。この森すらも、木々は徐々に病みつつある。この森、病気にかかってますよ。今はまだその症状が出てませんが、やがて木は腐りだし、そして発生したカビが風に胞子を乗せてまた周りの森を汚染していきます。人間界にある森の病気と一緒です。この私ですら、もはや手の尽くしようがない」
 顔を横に振るモーリスにイヴはただ、そう、と暗く沈んだ声で答えた。
 その彼女を横目で眺めながらモーリスは肩をすくめると、
 バテていたイヴに手を差し伸べる。
「だからこの森には獲物がいないんですよ。次の場所へ行きましょう。そうだな。今度は海に。先ほど、ドラゴンの上から海を見下ろした時に大きなクラーケンを見ました。あれを狩りましょうよ」
 そう言って微笑むモーリスにイヴはくすりと笑う。
「あら、優しいのね。わたしに気があるのかしら?」
 モーリスは苦笑を浮かべながら肩をすくめた。
「あなたには恋人がいるでしょう。人のものには手を出さない主義なんですよ、私は。それにライバルは彼女だけ充分ですしね」
 イヴはくすっと笑った。

「さすがは今をときめく人気アイドル歌手イヴ・ソマリア。水着姿もばっちり似合いますね」
 モーリスは大仰に賞賛の拍手をした。
 一方でイヴは不満顔だ。
「嬉しくな〜い。どうしてわたしが餌なのよぉ〜?」
「おや、これは不思議な事を仰る。古来より、化け物の餌は美女と相場が決まっているでしょう? 本当なら裸で、船に乗ってもらいたいところを水着で乗ってもらうのですから、そこは我慢してください」
「だ〜か〜ら〜、ど・う・し・て・わ・た・し・が・え・さ・な・の? 美女が餌って、あなただってリライトで美女に変身できるじゃない」
 現に二人が仲良くなったきっかけであるミッションでは、モーリスはそれはもう完璧な男心をぐっと掴む女性に変身していた。
 だけどモーリスはしれっと言う。
「だって、私がどれだけリライトで美しい女性に変身しても、男心をくすぐる女性の仕草をしても、正真正銘の才色兼備で大和撫子であるイヴさん、あなたには敵いませんよ。雑誌のグラビアであなたの水着写真を見た事はありますが、こうやって実物を見ると、本当にあなたは美しい。水色の髪に縁取られた美貌も、黒の水着で隠された形のよい胸も、蜂のようにくびれた腰や、優雅な曲線を描く腰下だって本当に美しい。そう、私のリライトでもそんな美しい体には変身できません」
 モーリスの甘い微笑と、謳う声。
 イヴはすっかりと機嫌をよくしたようだ。
「やーねー、本当の事でもそうやって面向かって言われると照れるわ」
 ちなみにイヴは「いやいや、そんな事ありませんよ」と微笑むモーリスが心の中で舌を出しているのは知らない。そう、モーリスとはこういう人だ。
 そして狩りが始まった。狙う標的はクラーケン。
『そういえば、クラーケンって人間界でも伝説上の生き物とされているわよね』
 イヴのテレパシーに応えるようにモーリスは頷いた。
「ええ。【ノルウェー博物誌】に載っていますね」
 飛行するドラゴンの背に乗るモーリスは海に浮かぶ小船の上に乗って、水遊びをするイヴを眺めながら、口の片端を吊り上げた。
 何でも【ノルウェー博物誌】によれば深海に住むクラーケンは魚を集める不思議な匂いを放ったり、またその排泄物にも魚を集める効果があり、故に漁師に歓迎される人間には無害の存在と書かれていたが、ここ魔界でのクラーケンとはどうなのだろうか?
 モーリスはそれが知りたい。
 生来の性格と、その学者かのような好奇心とで、モーリスは研究用のモルモットを見るかのような目でだんだんと海面に浮かんでくる周囲2,5キロほどの影を見つめている。

 一方でイヴは急に大揺れしだした小船にしがみついた。
「きゃ、なによ、これは?」
 巨大な津波に襲われて、小船は呆気なく大破した。海に投げ捨てられたイヴは荒れ狂う波にどうすることもできない。
 もがこうとしても強い潮の流れと、冷たい海水に体の自由がきかないのだ。
「がはぁごっふ」
 みっともないほどにイヴは咳き込みながら、全力を持ってなんとか顔を海面から出すもすぐにその顔に波がかかり、彼女は海中へと追いやられてしまう。
(ちょっと、体の自由が・・・。って、どうして、モーリスさんは助けてくれないのよぉ!)
 魔界の海水は透明だ。荒れ狂う潮の流れにもみくちゃにされながらもイヴが見上げた空にいるモーリスはにこにことこちらを見物している。
(にゃろ。そーいう人だとは聞いてはいたけど・・・)
 イヴは呆れ果てた。

「ふむ。まだ、ピンチではないですよね。ならばよいでしょう」
 モーリスはそんなイヴの不満にもそんな意見を述べて、高みの見物。
「ほぉー」
 彼が声を漏らしたのは、完全に姿を見せたクラーケンが噂通りにクラゲかのような姿をしていたからか。巨大な魚という説もあるのだが、ここ魔界ではそれは当てはまらないらしい。
 魔界のクラーケンは果たして、モンスターか、それとも船乗りの仲間か?
 その答えは・・・
「おっと、」
 モーリスは手綱を引いて、ドラゴンを飛翔させた。
「モンスターの方だったようですね」
 触手の射程距離を離れたドラゴンの背でモーリスは涼やかな笑みを浮かべる。その彼の表情が凍りついたのは、クラーケンの触手に捕まえられたイヴと顔を合わせた瞬間だ。その瞬間に、モーリスの全身が粟立った。クラーケンから感じ取る戦慄よりも、イヴの緑色の瞳から発せられる鋭い視線の方が怖い。
「はは。噂通りに怖い人なのです、ね」
 モーリスは肩をすくめると、腰に帯びたロングブレードを鞘走らせた。
「少し物足りませんが、では、狩りを楽しむことにしましょうか」

「うわぁー」
 イヴは悲鳴をあげた。
 ぬるぬるとした触手を全身に巻きつけられたその感覚は最悪だ。
 全身に鳥肌を立てたイヴはモーリスに助けを求める。だけど彼はこの期に及んで、ただ傍観するだけだ。呆れ果てたイヴは、芝居をした。

 こら、いい加減に助けてよぉ。死んだら化けて出てやるわよ

 そしてようやくモーリスは動いた。
 音速のスピードで飛行するドラゴンを駆るモーリスは手にした剣で、イヴを捕らえるクラーケンの触手を斬る。
「きゃぁーーー」
 まっかさまに落ちるイヴ。
 そのイヴを、
「ナイスキャッチ・・・うげぇ」
 左腕でイヴを抱き抱えたモーリスは低い声を出した。彼女の全身についたどろどろねばみが不快だったのだ。
 そしてそれを聞いたイヴのこめかみに青筋が浮かぶ。
「ちょっと、モーリスさん。今のうげぇはなによ? 今のうげぇは?」
 ヒステリーを起こしたかのように詰問するイヴ。そもそももっと早く彼が自分を助けてくれたら、こんなねばねば状態にならずとも済んだのだ!
 しかしさすがはモーリス。即答する。
「いえ、抱き抱えたイヴさんの腰があまりにも細く、そしてその肌があまりにも柔らかく極上の感触だったので、欲情しそうになった自分を戒めるために舌を噛んだら、出てしまった声なのですよ」
 にこりと笑いながら、自分を後ろに座らせるモーリスにイヴは目を細める。
「ほんとかしら?」
「いや、ほんとほんと」
 モーリスは至極真剣な表情でこくこくと頷いた。なんか彼といると、人間不信に陥りそうになるのは果たして、大げさであろうか?
「それよりもあれはどうするんですか?」
 モーリスは触手を斬られ、餌を奪われて怒り狂うクラーケンを指差した。
「捕まえるわよ。もう献立は出来ているんだから」
「なるほど。で、どうやって?」
 そう小首を傾げたモーリスににこりとイヴは微笑んだ。それはもう本当にイイ笑みだ。
「クラーケンは活き作りが美味しいの。だから、ここから先はモーリスさんのお仕事よ。最適化能力で小さくして、ついでお持ち帰りようにアークで入れ物を作ってちょうだい♪」
 モーリスは肩をすくめながら、ため息を吐いた。
「やれやれ。人使いが荒い」
 まあ、それぐらいは当然でしょう♪ イヴはぶーたれながらも能力を発動させたモーリスに微笑んだ。

「でも、そのクラーケンの生き作りは誰が食べるんですか?」
 その言葉にはまさか、私に食べろだなんて言いませんよね? という、モーリスの意志がオブラードに包まれていたが、イヴはそれに気づいた様子もなく、金魚蜂かのような入れ物の中でぷかぷかと浮いている3匹のクラーケンをにこにこと眺めながら、
「ゴキブリのような生命力でおよそどんな物でも食べる事が出来る人がいるから、その人にいつも彼氏がお世話になってるお礼にって、出すからご心配なく」
「ああ、なるほど、それはいい。時にイヴさん、ご相談があるんですが、ぜひにその人がクラーケンを食べているところを見させてください」
 そう楽しそうに言ったモーリスにイヴはくすりと笑う。
「ほんとにモーリスさんって好きね」

 **ライターより**
 こんにちは、イヴ・ソマリアさま。
 こんにちは、モーリス・ラジアルさま。
 いつもお世話になっております。
 今回担当させていただいたライターの草摩一護です。
 こちらにも言葉を寄せさせてもらう事にしましたので、ご付き合いしてくださいませ。

 こちらも少々お待たせして、すみません。
 やはり、うん、待った甲斐があったと想っていただければ幸いです。

 指定されたノベルの続きのような感じでもある、このノベル。前回のライターさまの世界を壊していなければいいと想います。
 そして僕担当ノベルでは2回目のモーリスさんとの共演。いかがでしたでしょうか?
 プレイングに添えられたイヴさんのモーリスさんへの言葉が気に入りましたので、それを基にイメージを膨らませて、このような二人の感じにしました。
 ラストの二人の会話はどうだったですか?
 ラストの二人の会話にはそれぞれの性格が凝縮されているようで、本当に書いていて楽しかったです。

 それでは、本当に今回もありがとうございました。
 またよろしければ、書かせてください。
 失礼いたします。

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2004年01月26日

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